俺は咲耶に弄ばれる。   作:バナハロ

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知らぬが仏。
何事も正面から想いをぶつけろ。


 ゴールデンウィーク、それは長期、と言うほどではないけど一週間も休みをもらえる素敵な日々だ。

 そんな日の中、俺は今日もバイト。夏葉も咲耶も稼ぎ時なわけで、お仕事に励んでいるので、俺もお仕事に励むしかない。……まぁ、咲耶とはこの後にここで待ち合わせして出掛けるんだが。

 ここ、というのはバイト先のカフェ。こういう所でバイトするのって、なんだかとても大人っぽくなった気分だよなぁ。俺はコーヒー苦いから飲めないけど、カフェオレは大好きなんだ。

 だから、休憩時間もここの飲み物を飲んでる。生クリームたっぷりな奴。

 そんな事を思っていると、お客様がご来店された。しかも、見覚えのある人だ。

 

「いらっしゃいませ。……あ、夏葉」

「ふふ。こんにちは、圭吾」

 

 仕事帰りなのだろうか? 少し、疲れているように見える。

 

「お疲れ。仕事帰り?」

「いいえ。少し出掛ける予定があって、ここで待ち合わせなの」

「へー」

 

 そんな話をしながら、夏葉はレジに立って財布を取り出す。

 

「コーヒーひとつ」

「カードで?」

「よくお分かりね」

「そりゃ、よく来てくれるからね。少々お待ち下さい」

 

 そう言いつつ、コーヒーの準備をする。カップに黒い液体を注ぎ、夏葉に差し出す。

 

「お待たせ致しました。どこ行くの?」

「ジムよ。ほら、近くにあるじゃない。プール備え付きの」

「え……この時期でプール?」

「いやプールには入らないけど、普通にジムよ。同じユニットの子が、ヒーローに憧れてて身体を鍛えたいんだって」

「へぇ〜、かわいいな。ヒーローって」

「まだ小学生だもの。じゃ、お仕事頑張ってね」

 

 そう言って、夏葉は席に戻った。ふーん……俺はヒーローに憧れるのは幼稚園で辞めちまったからなぁ。ヒーローよりもスポーツ選手に憧れてたし。

 ま、憧れるものは人それぞれだからね。そう思いながら仕事に改めて集中する。

 

「……」

 

 しかし……ジムか。お金かかるからあんま行けてないけど、久々に行こうかなぁ……。小学生の女の子も体を鍛えようとしてるのを見ると、俺も体質なんて言い訳しないで頑張ろうかな、なんて思えて来る。……つーか、小学生がジムとか入れたっけ? まぁ良いや。

 

「なぁ、圭ちゃん」

「?」

 

 後ろから声をかけられ、振り返ると、休憩時間中であるはずの先輩バイトさんが立っていた。

 

「何してるんですか?」

「いや、頼みがあってさ」

「今?」

「今。今度飯奢るからさ、俺のコスプレグッズ、今日だけ預かっててくんね?」

「……はい?」

 

 ちょっと言ってる意味が分からない。なんだよ、コスプレグッズって。

 

「なんで?」

「彼女に隠す為だよ。今日、うちに来るんだけど、大学の奴に預かってもらうの忘れててさ」

「隠す必要ないのでは?」

「バッカ、実はオタク趣味があります、なんてバレたら振られんだろ!」

 

 よく分かんないんだが……。なんで趣味がバレると振られるんだ? 俺は例え咲耶に変な趣味があっても、仲違いするつもりはないんだけど。

 ……もしかしたら、そういう事があるのかな? 

 

「まぁ良いですけど……」

「よっしゃ、サンキュー! お前のロッカーに紙袋に入れてしまっておいたから」

「なんで聞く前にしまってるんですか……」

「じゃ、よろしく!」

 

 ……はぁ。面倒な事、引き受けちゃったな。ま、良いか。

 てか、そろそろ俺上がりだ。だから「今」だったのかな。まぁどうでも良いけど。

 そんなことを考えてると、新たなお客様がご来店された。

 

「いらっしゃいませ」

 

 とりあえず、今は接客だな。上がったら、趣味がバレたら振られる理由でも調べてみよう。

 

 ×××

 

 バイトの時間が終わり、とりあえず着替えを済ませた。ロッカーの中には本当に衣類の入った紙袋が入っていた。

 さて、中身は……見ても良いのかな? ま、いっか。俺にはバレても良いものなんだろうし……と、思って中を見ると、入っていたのはセーラー服だった。

 

「え」

 

 コスプレって……女装かよ! 予想外だわ。こんなの……いや、人の趣味にどうこうは言えないけど……でもこれを持って咲耶に会う勇気はないや。俺は自分の趣味が女装だと思われたくないし。

 でも、咲耶が来るまであと5〜6分。家に帰ってる暇は……。

 

「……仕方ない」

 

 なんとか誤魔化そう。大丈夫、この後の予定は咲耶とその辺を出歩くだけだから。手に何か持っていたって何の不自然な所もない。

 そう思って、更衣室を後にした。中の人とかに挨拶だけして店の奥を出ると、レジに並んだ。

 レジに立っていたのは、さっき俺にコスプレ道具を預けた人だった。

 

「お疲れさん。なんか飲んでいくん?」

「待ち合わせしてるもので」

「じゃ、俺の奢りだ。何飲む?」

「マジすか。ありがとうございます。抹茶オレで」

「はいよ」

 

 まぁ、そういう事なら許してやろう。ありがたく飲み物を無償で受け取り、席を探していると、夏葉が電話している姿が見えた。あれ、まだ待ち合わせの人来てないの? 

 電話が終わったら声をかけようと思って、一先ず歩いて席に近づいた。

 

「え、遅くなる? ……そう、仕方ないわ。仕事だものね。じゃあ今日はお開きにして、また次のお休みにしましょう? ……ええ、私もそうだけど、あそこ18時で閉館なの。……ええ。大丈夫よ。じゃ、またね」

 

 そう言って、電話を切ってため息をつく夏葉。今のを聞いた限りだと、予定がダメになったみたいだ。

 少し残念そうだ。まぁ気持ちは分かるよ。楽しみにしてた事がダメになった上に、時間も大きく浪費したわけだから。ここは一つ、友達として一肌脱いだほうが良いだろう。

 

「夏葉」

「? あ、圭吾。もう上がりかしら?」

「うん」

「お疲れ様」

「ありがと」

 

 挨拶を終えてから、改めて聞いてきた。

 

「夏葉、このあと暇なの?」

「え?」

「俺も、カノジョと待ち合わせしてるんだけど……暇なら、それまで一緒にいない?」

「……どうして?」

「え、どうしてって……」

 

 あ、そっか……カノジョがいるのに他の女の子を誘っちゃいけないんだっけ……でも、夏葉なんかつまらなさそうにしてるし……。

 

「あ、いや……立ち聞きしてたわけじゃないけど、なんか約束がダメになった気配を感じたから……」

「……くすっ」

 

 あれ、笑われた? てか、バレるよね、今の言い訳くさいセリフは……。でも、本当に立ち聞きするつもりはなくてだね……。

 もう素直に謝ったほうが良い気がしてきたので、頭を下げようとした時だ。その俺の頭に、手が乗せられる。

 

「ふふ、ありがとう。圭吾」

「お、おい。頭を撫でるなよ」

「でも、気持ちだけもらっておくわ。このくらいで、一々、一喜一憂しないわ。果穂が来れなくなったのなら、私はいつものメニューを回すだけよ」

「あ、そ、そう……?」

「そうよ」

 

 まぁ、大丈夫そうなら、良いのかな……? なんか、普通に元気そうだし、俺が気にかけるまでもなかったのかも。

 

「じゃあ、私もうジム行くから」

「うん。頑張って」

「ありがとう」

 

 そう言って、夏葉が通り過ぎようとした時だ。帰るなら、俺も道を譲ろうと思い、一歩下がると、手が後ろの机にぶつかった。それにより、思わず手から紙袋を落としてしまう。

 

「なんか落としたわよ?」

「あ、待っ……!」

 

 紙袋は性質上、外から見ても中は見えないが、上から見れば中に入っているものが分かってしまう。

 で、落としたものを拾うには必ず上から見るしかないわけで。

 

「? 何これ」

 

 何食わぬ顔で、夏葉はその中身のものを取り出した。セーラー服が出てきた。終わった。

 

「……」

「……あ、あのっ……それは、違……」

「……」

 

 無言で元に戻す夏葉。終わった。

 

「……まぁ、人の趣味は人それぞれだものね」

「おいやめろ! 違うから! それは……!」

 

 あ、てかマズイ。これ先輩バイトさんに見られてるんじゃ……! と思って後ろを見ると、咲耶が立っていた。これには、俺だけでなく夏葉もフリーズである。

 

「ふふ、夏葉。人の男にセクシャルハラスメントかい?」

 

 おーい、どんな勘違いしてんだ⁉︎ そんな言い方したら、夏葉だって……。

 

「人聞きの悪い事言わないでくれるかしら?」

(おとこ)の娘にセーラー服を渡していたのは、何処の誰かな?」

 

 あれ? 今なんかニュアンスが変だった気が……。

 

「私は拾ってあげたのよ」

「言い訳は裁判所で聞かせてもらうよ」

「通報する気? 恥かくのはあなたの方よ」

「見え透いた虚勢だね」

 

 な、なんでそんなに仲悪いの⁉︎ てか知り合い⁉︎ てか、女の子が怒ると怖っ! 二人とも俺より背が高いから尚更……てか、こいつらに挟まれていたくないな……。

 あーもうっ、知り合い同士の喧嘩なんて見ていられない。

 多分、咲耶はこのお店に最悪のタイミングで来たのだろう。夏葉がセーラー服を俺にプレゼントしているように見えたのかな? 

 夏葉は夏葉で、ただでさえ約束ドタキャンされた直後なのに、急に当たられて気分が悪くなってる。

 そんなわけで、俺が取る手段は一つだ。

 

「ちょっ、二人とも落ち着いて」

「あなたは引っ込んでて」

「大丈夫、圭吾は私が守るから」

「いやそういうんじゃなくてマジで」

「こっちもマジよ。少しは顔だけの子に礼儀を教えてあげる必要があるわ」

「それはこっちのセリフかな。そっちがその気なら……」

「咲耶」

 

 口を挟むと、咲耶は肩をビクッと震わせる。あ、ちょっと怖い声出た? ごめん。

 なんであれ、この場を切り抜けるには、この手が一番だ。

 

「このセーラー服、俺が夏葉に持ってきてもらったの」

「「え?」」

 

 夏葉、黙ってて。誤魔化すから。

 

「や、ほら。咲耶って昔から学生服、ブレザーばっかだったから、セーラー服を着てるとこも見てみたくて……それで、持って来てもらうよう頼んだんだ」

「……そうなのかい?」

 

 チラっと咲耶は夏葉を見上げる。……咲耶、夏葉よりも背が高いな……お前ホント何者? 

 一方の夏葉は、俺の方を見た。うん、お願い。今日は散々かもしれないけど、ホント合わせて。

 

「……ええ、そうよ」

「……」

 

 正直、これでも厳しいかな……? とは思う。何せ、夏葉の家の最寄駅と、この店の最寄駅は一致していない。その上、事務所は東京にあるし、今の理屈では「夏葉は仕事の後にわざわざ俺のバイト先まで大回りしてくだらない要望に応えてくれた」って事になる。どんな聖人だよ。

 案の定、咲耶は疑いの眼差しを向ける。変な嘘つかなきゃ良かったかな……でも、それだと先輩バイトさんが後で怒りそうだし……。

 が、やがて観念したように咲耶はため息をついた。

 

「……ふん、分かったよ……」

 

 あ……これ俺が嘘ついてるのに気付いてるな……。場を収めるために、何とか自分を落ち着かせてる。あとでちゃんと説明するから、怒らないでね。

 とはいえ、これで一件落着かな。夏葉はもうジムに行くみたいで、俺に軽く手を振った後……咲耶の方を見た。

 

「……」

「……」

「「……ふんっ」」

 

 なんでそんなに仲悪いの……? うーん、ここは一つ仲良くなってもらいたいなぁ。過去に何があったかなんて知らないけど、二人とも知り合ったのは早くて今年の3〜4月のはず。

 ここは一度……親睦を深めよう。じゃないと……今後こういうことがあったときに俺が死ぬ。

 

「よし、夏葉」

「? 何?」

「俺と咲耶も、一緒に行って良い?」

「「……は?」」

 

 二人から間抜けな声が漏れた。二人に挟まれて行動するのは(身長差的に)癪だけど、やむを得ない。仲良くしてもらおう。

 

 

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