俺は咲耶に弄ばれる。   作:バナハロ

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天然より強い人種はない。

 ジム、それは身体を鍛える施設。様々な特殊な特殊器具が室内に置かれ、それを使う事によって、自身が鍛えたい部位の筋肉を痛めつけ、30分以内にプロテインをグイッといく……のだが、まぁ俺はそれで成果が出た試しがない。

 しかし、他の二人はバッキバキに鍛えられる肉体を誇っている。アイドル、というのも体幹を使うようで、そのトレーニングを行っていたそうで、少し見ない間に咲耶もさらにスラっとした身体を手にしていた。

 これは俺も負けていられない……と、言いたい所だが、今日はそこではない。目的は、咲耶と夏葉の仲を……せめて、普通くらいに修復する事だ。

 その為、今は二人が更衣室から出て来るのを待っている。一旦、俺の家に寄って、俺と咲耶の分のジャージを持って来た。咲耶の分も俺の奴だ。

 

「ふぅ……」

 

 二人が来るまでの間、俺は一人でストレッチをする。主に、心のストレッチね。すごく神経使いそうだから。

 勿論、身体も同様だ。怪我したらバイトとか出れなくなって疲れるし、色々と意味ないからね。

 しかし、流石はゴールデンウィークだな。夕方の客は少ないや。みんな旅行でも行ってるのかな? わざわざ地元のジムに行く人なんてほとんどいないみたいで、客も俺達以外は見当たらない。

 ま、その分、のびのび使えて良いけどね。

 

「……」

 

 ……遅いな。女の子の準備は時間かかる、というのは聞いたことあるが、ジャージに着替えるのになんでそんなに時間かかってんの? まさか、更衣室で喧嘩してる? 

 少し不安になっていると、後ろの方からコソコソした声が聞こえてくる。

 

「……本気でその格好でやる気?」

「当然だろう? せっかく、圭吾が気を利かせて貸してくれたジャージだからね。使わない手はないよ」

「いや事務所の評判落ちそうだからやめて欲しいんだけど……」

「私は君と違って、人の親切を無下に扱えない人間なんだ」

 

 なんかまたよく分からんけど口喧嘩してんな……と思って後ろを見ると、咲耶と夏葉が立っていた。ただし、咲耶はサイズの合わないジャージで、胸のあたりが今にもはちきれんばかりに膨張していた。

 

「ふぁっ⁉︎」

「お待たせ、圭吾」

 

 ……え、咲耶のそれ……え? 何それ……。なんか、針で突っついたら吹っ飛びそうなの……。

 ちょっと待って、もう2〜3年は生見た事ないから知らなかったけど……咲耶の胸って、もう大人のそれじゃねえの? 

 いや、そんな事、どうでも良くて! 

 

「ま、待て待て待て咲耶、引き返せ!」

「? 何故? ……あ、どうかな。圭吾のジャージを着てみたんだけど、似合ってる?」

「似合ってねーよ!」

 

 不自然極まりないわ! いや、もうホントジャージ壊れちゃうって……! いや、まぁ一応、インナーも貸してあるから、壊れても平気だとは思うけど……。

 

「さ、まずは準備体操だね」

「いやいや、やっぱダメよあなたそれ。男の人には刺激が強過ぎ……」

 

 と、夏葉が言いかけた時だ。咲耶はストレッチのつもりで、軽く伸びをした。

 直後、バツンッという耳に響く音がする。破裂した後である事に、後になって気づいた。

 視界に映ったのは、吹っ飛んだ俺のジャージの下から露わになった、咲耶の黒い下着が隠した、たわわに膨らんだ胸だった。

 

「ーっ⁉︎」

「ちょっ……馬鹿……!」

 

 夏葉が大慌てで咲耶の胸に手を当てるのを見ながら、俺も慌てて目を隠す。色々と衝撃的なんだけど、まずこれを問いたださないと……! 

 

「咲耶、インナーは⁉︎」

「それを着たらジャージが着られなかったからね」

「じゃあジャージは諦めてインナーだけにしとけよ!」

「ほら見なさい、圭吾も同じこと言ってるじゃない!」

「ふふ、すまないね。想定外だったよ」

 

 そ、想定外って……てか、夏葉に注意されたのなら従っておきなさいよ! 

 

「……あなた、圭吾の反応が見たくてわざとやったでしょ(小声)」

「そんな事ないさ。ちゃんと周りに人がいない事は確認済みだけどね(小声)」

「わざとじゃない! やめてあげなさいよ……(小声)」

「ふふ、分かっているさ。……ただ、数年前までは裸を見られてもノーリアクションだったから、こういう反応をされると、少し嬉しくてね(小声)」

「……」

 

 ……何をひそひそ話してるのか知らないけど、早く着替えてくれないかなぁ……。

 

「ごめんね、圭吾。言われた通りインナーを着てくるから、少し待っててくれるかい?」

「はいはい」

 

 それだけ言うと、咲耶はそのまま更衣室に引き返した。まぁ目を背けてるから本当に行ったのかは知らないけど。

 

「大丈夫、行ったわよ」

 

 俺の心の中を読んだかのようなタイミングで夏葉から声が掛けられた。本当に更衣室に戻っていたので、とりあえずホッと胸を撫で下ろす。

 

「ふぅ……全くあいつは……」

「あなたも大変ね。あの子の彼氏なんて」

「そんな事ないよ。ああ見えて寂しがり屋だけどしっかりした奴だし」

「ちゃんとああいうとこは注意しなきゃダメよ? というか、あなたが甘やかしたからああなってるんじゃないでしょうね」

「いやいや、昔からああいうドジなとこがあったわけじゃないよ。あんな隙を作るなんて、らしくないな」

「は……? ドジ……?」

 

 え、まさかあいつだってジャージがあんな壊れ方するとは思わないでしょ。昔のあいつなら無理してジャージを着込むようなことはしないで、インナーだけ着て出て来てたと思うし。

 

「夏葉、あいつと同じ事務所なんでしょ? ユニット違うのかもしんないけど、見ててやってくれる?」

 

 もう仲良くなる前提で言ってるけど、仲良くなってもらわないと困るし大丈夫でしょ。

 夏葉もピンときてない顔で俺を見た後、狼狽えた様子で聞いてきた。

 

「え、あなた……まさか今の事故だと思ってる?」

「いや事故でしょ」

「……」

 

 え、なんで? 最近、あいつも胸が大きくなってはしゃいでんのか、俺に対してもやたらと胸をアピールしてくることがあるんだけど、そういう事を日常的にしていると、ふとした時、ホントにそういう事故が起こることもあるからなぁ。

 

「……あなた、苦労するわね……」

「え?」

「まぁ良いけど」

 

 なんだよ、気になるな。なんてやってるうちに、咲耶が戻って来た。……わっ、インナーが短くておへそ出てる。

 

「ーっ……じ、ジムの人にジャージ借りてきて!」

「どうして?」

「言うこと聞いてくれないと絶交!」

「え……」

 

 こうでも言わないと、あいつ無自覚だからな……。もちろん、そんな気は毛頭ないが……って、咲耶? お前いつの間に俺の目の前に……。

 

「ぜ、絶交なんて……嘘だよね……?」

「え? あ、いや……」

「や、やめてくれ……絶交なんて事になったら、私は……!」

「え……う、うん、分かったから落ち着いて! 別に俺は本気で言ったわけじゃ……!」

「……ぐすっ」

「わ、わー! 泣かないでー!」

 

 やべっ、絶交は言い過ぎだったか……! そういや小学生の頃にも、俺のクラスで「もうぜっこーだから!」っての流行った時に言ってみたら泣かれたっけ……。

 あ、ちょっ、夏葉。そんな目で見ないで。なんとかするから。分かってるから。

 

「咲耶、絶交なんてしないから泣かないで。咲耶と同じで、俺も咲耶がいないとダメだから」

「……ホント?」

「ホント。……てか、俺の言い方が悪かったから。今度、咲耶がして欲しい事、なんだってしてあげるから、だから泣くな」

「……約束だからね」

「はいはい」

 

 俺の肩の上に頭を置いて抱き締めてくる咲耶の頭に手を置いて撫でる。ふぅ……ホント、大人びてるのに俺よりよっぽど泣き虫なんだからなぁ……。

 

「ねぇ、私は何を見せられているの?」

「あ、ごめん夏葉。遅くなっちゃったけど、トレーニングしようか」

「ええ。ほんとに待ったわ」

「咲耶。とりあえず、その格好はアレだからジャージを借りてきて」

「分かった」

「あ、いややっぱ俺が借りて来るわ。その格好で人前に出すわけにはいかないわ」

 

 うん。最初からこうしておけばよかったわ。

 

 ×××

 

 準備が整い、ようやくトレーニングを開始して30分。とりあえず腹筋から……とのことで、アブドミナルクランチという器具を使う事にした。

 何かを背負って持ち上げる事で腹筋を刺激する器具で、椅子の上に座って、両肩の上に取っ手が二本ついたものを持ち上げる。

 重さは、椅子の横で重りを加えたり減らしたりして調節する。まぁ、やるしかないよね。

 そんなわけで、俺は早速、椅子の上に跨った。

 

「見とけよ。咲耶、夏葉。俺の本気を」

「怪我しないようにね?」

「そうよ。ジムで無理は絶対にしちゃダメよ?」

「大丈夫だって」

 

 よし、やるか。深呼吸し、一気に力を込めて持ち上げッ……! 

 

「っ〜……!」

「……」

「……」

 

 持ち上げッ……! 

 

「……」

「……」

 

 も、持ち上げッ……! 

 

「諦めなさい。怪我するわよ」

「いや、もう少しで出来るから」

「持ち上がらない事に、もう少しも何もないわよ」

「今のでちょうど肩凝りが取れたとこなんだよ」

「そもそもあなたね……」

「圭吾」

 

 何か言おうとした夏葉を押し退けて、咲耶が前に出てきた。さっきまで泣いてたとは思えないほど、余裕の笑みを浮かべ、座っている俺の隣に腰を下ろした。

 

「見た様子だと、圭吾は腕力だけで上げようとしているな。力を入れるべきは腹筋だよ。引っ張るんじゃなくて、背負い込むようにやってごらん?」

「あ、そっか」

 

 なるほど、背負い込むように……よい、しょっと……! 

 

「お……? お〜……?」

「うん、上がってる上がってる。少しだけど上がってるよ」

「ふぃ〜……」

 

 上がってる、と聞いて少し気が抜けたのか、俺はすぐに器具を元に戻してしまった。

 

「上がったよ。咲耶のお陰だ!」

「ふふ、そんな事ないさ。圭吾の力だよ」

 

 これが、俺の隠された力……いや、本来の力か。まぁそうね。昔からやれば出来る子って言われてたし、うん。

 そんな事を思いながら、咲耶とハイタッチすると、咲耶がふと夏葉の方を見た。

 

「……」

「……?」

「ふっ」

「っ……!」

 

 ? なんか分からんけど、咲耶がほくそ笑んだ? あ、そうだ。夏葉も見てたかな今? 

 

「夏葉、見てた?」

「え、ええ。勿論よ。すごかった」

「サンキュ」

「私、少し他の器具を見てきても良い?」

「良いよ。あ、てか俺もそっち見る!」

 

 全然、限界じゃないけど、今のでだいぶ腰がきてる。全然、限界じゃないけど。少し休憩したい。

 

「あ、咲耶これやりたい?」

「ううん。私は圭吾についていくよ」

「よし、じゃあ行こう」

 

 そう言って、夏葉の後に続いた。夏葉が選んだのは、ベンチプレス。もはや説明不要と思われる、バーベルを寝転がってガンガン上下させるアレだ。

 

「え……こんなの出来るの?」

「出来る出来ないじゃない、やるのよ」

 

 そう言うと、夏葉はまずはバーベルに重石をつける。

 

「何キロ?」

「50よ。私と同じ体重にしたの」

「ふーん……え、夏葉50キロしかないの?」

「正確には49ね」

 

 ……え、あれだけ筋トレしてて49? 大丈夫かその身体。筋肉って脂肪よりも重いから、デブよりもマッチョの方が体重は重いはずなんだけど……それ多分、女性の平均体重よりも少なくない? 

 なんて、なんとなく触れてはいけなさそうな事を思った時だ。夏葉は、ガンガンバーベルを上下に動かし始めた。もう、そういうアスリートに見えるレベルで。

 

「す、すごい……すごいな夏葉! ゴリラ⁉︎」

「うっかりバランスを崩してそこに放り投げちゃいそう」

「あ、いえ冗談です」

 

 今のは俺が悪い。しばらく動かした後、夏葉はバーベルを置いて身体を起こす。

 

「夏葉ヤベーな! メッチャカッコ良い!」

「そうかしら?」

「いや本当に。その細い腕からどうしたらそんなパワーが⁉︎ むきってやって!」

「それ女の子に言うセリフかしら……はいっ」

「うおお! ご、ゴリ……じゃなくて、ゴリラゴリラゴリラ!」

「学名にしてどうするのよ!」

 

 めっちゃ膨らんでるし硬ぇんだけど……。ツンツンと突きながら、ふと夏葉を見上げると、夏葉は咲耶の方を見ていた。

 

「……ふっ」

「っ……!」

 

 あれ? なんか今度は夏葉がほくそ笑んだ? 

 と、思ったのも束の間、後ろから咲耶が俺の肩に手を置いた。とっても強い力で。

 

「圭吾もやってみないかい?」

「え?」

「私は、カッコ良い圭吾の姿も見たいな」

「……」

 

 カッコ良い、俺の姿……。

 

「し、仕方ないな……。そろそろ本気のアレを披露する時かな?」

「よし、やろう!」

 

 そんな話をしながら、俺も夏葉と代わってベンチプレスに寝転がった。

 

 ×××

 

 その後、俺が予想していた以上に、全員でジムを楽しめた。なんかちょいちょい、咲耶と夏葉がアイコンタクトなのか、時折、二人の間に何かが交わされていた気がする。

 でもまぁ、仲良くなったってことかな、と捉える事にした。だってほら、アイコンタクトだとしたら、仲良くないとできない事でしょ。

 今はジムの外に設置されているベンチで二人が出てくるのを待っている。

 この後、行けるなら飯でも行こうかな……なんて考えていると、二人が更衣室から出て来……。

 

「「圭吾!」」

「な、何⁉︎」

 

 びっくりした! ドアは静かに開け閉めしなさい! なんてお母さんじみたセリフが口から飛び出す前に、二人はズカズカと歩み寄ってくる。

 巨人二人によるあまりの迫力に、俺はひよってしまうが、そんな俺の心中など知る由もない二人は、俺の両肩に手を置いた。

 

「「この人と私、どっちがあなたを楽しませてた⁉︎」」

「急に何の話⁉︎」

 

 怖いよ! 特に目が! な、なんだよ急に……更衣室で何を話してたのさ……。

 

「私の方よね? 私の方がたくさん、あなたの感動を広げられたわよね⁉︎ イケメンが取り柄の人よりカッコよかったわよね⁉︎」

「私の方だろう? 様々な脳筋の自慢に近い活動をさせてあげられたし、圭吾の肉体も今日で飛躍的に向上したはずだ」

「ちょっ、ふ、二人とも落ち着いてって!」

 

 何処で競い合ってんだよ! あんたら飼い始めたばかりの犬に、各々で餌を買って来た姉妹か! 

 

「え……二人とも、仲良くなったんじゃないの?」

「「はい?」」

「や、ほら……みんなで汗を流したわけだし……大体、みんなで身体を動かせば仲良くなれるでしょ?」

「「……」」

 

 あれ? 違った? と、眉間にシワを寄せていると、二人はほぼ同時に背中を向けた。

 

「……どうすんのよ。てか、何言ってんのあの子? (小声)」

「いや……どうもこうも、圭吾は今回、一緒に身体を動かす事で私と夏葉の仲を良くするつもりだったんだろう(小声)」

「はぁ? それどころか、悪くなったわよね。私達。あの子の評価を巡って(小声)」

「圭吾に、自分が争いの火種の中心にいた自覚があると思うか? そもそも不仲の原因が自分である事も理解していない(小声)」

 

 何話してんのか知んないけど……まぁヒソヒソ話できるだけの距離まで近付いてるのなら、仲良くなったんでしょやっぱ。

 

「ねえ、何話してん」

「「うるさい」」

「……」

 

 ……息までぴったりになって……。

 

「……となると、やるべきことは一つね(小声)」

「そうだね。私達はこれから先……(小声)」

「「圭吾の前だけでは仲良しになる(小声)」」

 

 なんか話はまとまったみたいで、揃ってこっちを向いた。その笑顔は、何故かゾッとしてしまうほどに気味の悪い作られた笑みだ。

 

「お待たせ、圭吾!」

「さ、行こうか!」

「気持ち悪っ」

「「……あ?」」

「ぴぃ!」

 

 嘘でした、怖いでした! 

 その日、一緒に三人で晩飯食っている最中まで、二人は気持ち悪かった。

 

 

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