俺は咲耶に弄ばれる。   作:バナハロ

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保護者の悩み(3)

 ボウリング、それは重たいボールを放り投げ、十本の目標を薙ぎ倒すゲーム。その倒した本数を競い、多く倒した人の勝ち。全部倒すとボーナス点が入り、全国大会とかになると、10発全部ストライクの人もいるそうだ。

 とはいえ、咲耶、恋鐘、夏葉、圭吾の四人はそんなガチ勢ではなく、エンジョイしにここへ来た。……はずなのだが、白瀬咲耶の内心は穏やかでは無かった。

 何故なら、自分の彼氏が原因である。あのバカたれは、何食わぬ顔で初対面の女性に歯が浮くようなセリフを言い、彼女の前であろうとお構いなしに好き勝手振る舞うあの男、本当に何とかならないだろうか? 

 

「……ふぅ」

 

 そんな事よりも、だ。今は、ボウリングに集中する必要がある。何故なら、夏葉よりも良い結果を残して、圭吾に尊敬されるためだ。そこで夏葉に負けるわけにはいかない。羨ましくなってしまうからだ。

 

「さて、じゃあやるか!」

「おー!」

 

 正直、圭吾と恋鐘が二人揃ってノリノリになっているのを見ても、少し羨ましく思ってしまう。自分は、二人のようにど笑顔で元気よく拳を突き出したりは、咄嗟にはできない。

 そんな中、まずは恋鐘の投球だ。準備する恋鐘に、夏葉が声をかける。

 

「恋鐘、実は私、あまりボウリングってやった事ないんだけど、どんな競技なの?」

「そうやったと? じゃ、うちんことよーく見といて!」

 

 それは、正直、咲耶にとっても意外だった。お嬢様、という風に聞いていたが、こういう庶民的な遊びには興味なかった、という事だろうか? 

 

「よーっし…… 行くばい!」

 

 そう言うと、恋鐘は腕を振り上げ、一気に投球し……ようとしたら、足元を滑らせ、大きくひっくり返った。両足が振り上げられ、スカートが捲れる。ボールは情けなく転がり、僅か2メートルほどでガーターレーンに落下した。

 一方の恋鐘は、そのまま背中から床に落下……かと思いきや、その真下に、自身が颯爽と移動した。

 

「ひゃあぁあああっ……あ?」

「ふふっ、まったく……困ったお嬢様だ。お転婆なところはいつまでも君の美点であり、少々、世話を焼きたくなる面でもあるね。君には、私が欠かせない」

「さ、咲耶〜! 助かったっさ〜!」

「これくらい、お安い御用さ」

 

 あり得ない瞬発力で恋鐘の窮地を救った咲耶は、微笑みながら歯と笑顔をきらりと輝かせる。

 その様子を見て、流石に夏葉は呆然としてしまった。あのイケメン、カッコ良い仕草ならなんでもできるのだろうか? 

 

「あ、あなたの彼女すごいわね……」

「……」

「圭吾?」

 

 反応が無かったので、思わず二度見してしまうと、圭吾は微妙に頬を膨らませていた。

 その視線の先にいるのは、咲耶と恋鐘。お姫様抱っこによるキャッチから下ろしている所だった。

 

「……」

「あらあら……」

 

 意外、というよりも、もしかしたら咲耶が気付いていなかっただけなのかもしれない。独占欲が強いのはお互い様のようだ。

 彼に自覚があるにしろ無いにしろ、嫉妬しているのはまず間違いない。

 徐々に見ていられなくなったのか、圭吾は立ち上がり、恋鐘達のもとに歩いていく。

 

「ダメじゃん、恋鐘。そんなんじゃ、夏葉にお手本なんて見せられねーよ」

「むっ、な、なんと⁉︎」

「ほら、あと一球残ってるから。倒してみろよ。倒せるものなら」

「む、むきーっ!」

 

 口を挟む圭吾の言い草は、それはもう子供みたいな口調だった。嫉妬で怒ってます、と側から見ている夏葉がすぐに分かってしまう程に。

 これは、咲耶にもバレバレなんじゃ? と思っていると、咲耶は珍しく厳しい口調で口を挟んだ。

 

「コラ、圭吾。そんな口の聞き方は良くないな。苦手な分野で他人を貶めるのは、圭吾が一番、よしとしない事だろう?」

 

 ええええ! と、思わず夏葉はツッコミを入れたくなってしまった。お前も鈍感系(そっち)かよ! と、いった具合に。

 そして、それは今の圭吾に対してはかなりの悪手である。納得できない様子の圭吾は、ぷいっとそっぽを向く。

 

「……ふんっ」

 

 あーあ……と、夏葉が心の中で声を漏らす中、咲耶は拗ねている圭吾を見て少し嬉しそうにしながら、恋鐘に声を掛けた。

 

「恋鐘、落ち着いて。まずはピンを倒さないと」

「う、う〜……そ、そうだけど……」

「足元に注意して、あんまり気合を入れ過ぎなければ倒せるよ。ほら、頑張って」

 

 言われて、とりあえず恋鐘は二投目を放った。繰り出されたボールは、頼りなく少しずつ真っ直ぐから横に逸れていく。

 結局、3本しか倒れなかった。

 

「うがー! な、なんで⁉︎」

「ふふ、まぁそういう時もあるさ。慣れていなければ尚更ね」

 

 悔しがる恋鐘の肩に咲耶は手を置きつつ、ボールを持ってレーンの準備が整うのを待った。次は、自分の投球だ。

 これには、夏葉も注目する。どのように投球すれば倒せるか、というのも気になるが、何よりライバルの投球だ。見ないわけにはいかない。

 ボールを持った咲耶は、真剣な表情でピンを見据える。側から見れば写真に残したくなるほど絵になる表情であったが、待機中のメンバーには背中を向けているので、その顔を拝むことは出来なかった。

 さて、まず一投目。まるで圭吾への想いの如くストレートに進んだ咲耶の球は、パッカァーンッと心地良い音を立ててピンを倒した。

 

「「おお〜!」」

 

 全く同じリアクションをするアホの子2人の横で、夏葉も感心したように頷いた。中々、やるようだ。

 残ったピンは二本。中々、来ないのでストライクとはいかなかったが、十分、スペアを狙える位置と数だ。

 続いて、二投目の準備に入る。

 その集中力は、背後から見ている夏葉にも伝わって来た。本気で、圭吾に褒められる権利も何もかもを譲るつもりはないようだ。

 再度、用意された2本のピンを見据え、咲耶はボールを手に取る。真剣な顔で、ゆっくりと顔を上げ、息を整える……。

 

「咲耶ー! 頑張ってー!」

「……っ……」

 

 あ、乱されたな、とすぐに察した。

 所詮は遊び、あんまり待たせてはいけないと思ったのか、乱されたまま咲耶はボールを放った。

 当然、うまくいかず、一本だけ残ってしまった。

 

「っ、し、しまった……!」

「あ〜……惜しかぁ〜!」

「どんまい、咲耶」

 

 乱した張本人である圭吾にしゃあしゃあと言われたものの、咲耶は「次は頑張るよ」と笑顔で返しつつ、夏葉を見た。

 9本とは言え、まぁまぁな成績。なら、次は自分の番だ。要するに、ボールを転がして多くのピンを倒せば良いだけだ。ならば、なんとか自分の運動神経を信じて放るしかない。

 

「よし、私の番ね……!」

「頑張れよ夏葉」

「ええ、任せなさい!」

 

 圭吾のエールを背に、夏葉は気合を入れてボールを手にした。コツは押さえた。あのレーンにある三角形を目安に放れば良い。

 一気に二投を終えて、ボールは合計で9本のピンを薙ぎ倒した。

 

「夏葉、すごかー!」

「え、本当にやったことないの⁉︎」

「ふふ、日頃から運動している人間にとっては、これくらい楽勝よ」

 

 そう言いつつ、夏葉はチラリと咲耶を見る。それに対し、咲耶も好戦的に睨み返した。今の所、イーブン……だが、ミスにより9本だった咲耶と、初プレイにより9本だった夏葉とでは、訳が違う。

 しかし、だからこそ二人ともお互いを「相手にとって不足なし」と心の底で微笑んだ。

 

「あ、次俺か」

「ふふ、うちにあれだけ言うたんやし、まさか一本も倒れん、なんてことはなかね?」

「は? 見とけよ。少なくとも、恋鐘よりは上手いから」

「言うたね? ちゃーんと見物させてもらうけん」

 

 そんな子供じみた言い合いを他所に、夏葉は咲耶の隣に腰を下ろす。

 

「中々、やるね? 夏葉」

「あなたの方こそ。私の今の実力じゃ、集中力を乱されたあなたと同等って事だものね?」

「ふふ、面白い自己評価だね。でも、彼は渡さないよ」

「そっちこそ面白いじゃない」

 

 メラメラと闘志を燃やしながら、二人はそんなことを言いつつ、頭の中で計画を練る。

 この勝負、一見「スコアの多い方が勝ち」に見えるかもしれないが、おそらく違う。何故なら、あんまり高スコアを目指すと彼と差が開き過ぎて、逆に盛り下がることになってしまう。

 なら、どうやって圭吾から称賛の言葉を浴びるか? 簡単だ。

 先にストライク……或いはスペアを取った方の勝ちである。最初に全ピン倒したインパクトは大きい。つまり、それこそが彼から一番の賞賛を浴びる、唯一の……。

 

「よっしゃオラ! 見たかオイ!」

「ええ〜⁉︎ な、なんで⁉︎」

 

 喜びの声と、恋鐘の驚愕が耳に届き、二人揃って顔を上げると、圭吾がまさかのスペアを取っていた。

 

「「……」」

「咲耶、夏葉。見たか⁉︎」

「あ、うん……見たけど……」

「すごいのね……あんま上手くないとか言ってなかった……?」

「あっれぇ? そうだっけぇ?」

 

 調子こいているのか、口調までこいている。少しイラっとする程に。

 イェーイ、と恋鐘とハイタッチする圭吾を眺めながら、咲耶と夏葉は顔を見合わせ、頷き合った。やっぱり、お互いに高いスコアを取った方の勝ちだな、と。例え、どんなに圭吾と差がついても。

 

 ×××

 

「う、腕が……上がらない……」

「だ、だいじょうぶ……?」

 

 咲耶が、圭吾の左腕をマッサージする。本当に五投目で悲鳴を上げるとは思わなかった。

 結局、スコアは上から咲耶、夏葉、恋鐘、圭吾の順番。後半、転んだり足の上にボールを落としたりしていた圭吾は、五投のトータルで10本しか倒せず、ダントツ最下位である。

 

「短い天下だったわね……」

「もう…… 褒められて無理するけんばい……」

 

 夏葉と恋鐘も呆れ気味に呟くしかない。この子は本当にどうしようもない。会って一日も経過していない恋鐘も呆れるほどである。

 心にくる呟きをグサグサと刺されて、椅子の上でダウンしている圭吾は悔しそうに唸り声を上げるしかない。

 

「うぐぐっ……だ、だって……フィジカルよりもテクニックが必要になるスポーツなんて、中々ないから……良い腕の見せ所だと思ったんだよ……」

「だからってあなた、完全に飛ばし過ぎてたでしょ」

「うるせーやい……」

 

 力なくそう返す圭吾の肩を、咲耶は持ち上げた。

 

「この様子だと、この後は帰った方が良いかもね……恋鐘、悪いけど先に寮へ戻っててくれるかい? 私は彼をアパートまで送っていくから」

「しょんなかね……」

「咲耶、一人で運べる?」

「大丈夫」

「じゃあ、今日はここで解散ね」

 

 ゲーセンは諦めることにした夏葉は、空気を読んで解散することにした。不幸中の幸いと言うべきか、一応は彼女に背負われる彼氏の構図となったので、自分は退散した方が良いだろう。

 そんなわけで、二人で帰宅を始めた。

 駅に向かう途中、背負われている圭吾は、ふとボウリングの途中のことを思い出す。

 咲耶が、恋鐘を助けたシーンだ。あの時の事を思い出すと、いまだに少し心の中で不愉快感が増してしまう。

 

「? 圭吾?」

「……」

 

 ギュッと身体を掴まれたので、何かあったのかと思ったが、返事はなかった。

 

「どうかしたかい?」

「別に……」

 

 そう返事をしつつ、背中に額を押し付ける。一体、何に拗ねているのかを考えた咲耶は、すぐに合点がいったようで声を掛けた。

 

「ふふ、気にする事ないよ。圭吾」

「えっ、な、何が?」

「私は、上手に投球していたカッコ良い圭吾も、疲労でしっちゃかめっちゃかになってしまっていた可愛い圭吾も、どちらも大好きだからさ」

「……(怒)」

「あはは、おんぶしている間はあまり暴れないでくれないかな?」

 

 とにかく頭にきた圭吾が背中をバンバンと叩くが、咲耶は笑って受け流していた。

 

 

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