俺は咲耶に弄ばれる。   作:バナハロ

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意地を張って守られるのは自分のプライド、意地を張らずに守られるのは人間関係。

 せっかくの夏休みだというのに、咲耶と半ば喧嘩のようになった。

 だが、それはそれとして、会えないと寂しいので次に会う日はしっかりと設定しておいた。

 今日は、夏葉も一緒に三人でジムに行く。何でも、夏に備えて身体を絞っておきたい、とのことで夏葉から誘われていたので、それに咲耶も同行することになった。

 

「普通に痩せてるんだし、気にする事なくね?」

「そういう問題ではないのよ。気を抜くとすぐに体型が崩れる季節だから、気合と同時に体も引き締めておかないといけないのよ」

「ふーん……」

 

 そういうもんなのかね? よく分からんけど。

 一番、家が遠い咲耶を駅前で待ちながら、そんな話をする。

 

「それに、私のユニットに一人、食べる事が大好きな子がいてね。……その子を見るたびに、私は気をつけないとって思うのよ」

「なるほどね。俺が、咲耶と一緒にいる度に『身長伸ばさないと』って思って、その日の夜に牛乳がぶ飲みしてお腹壊してたのと同じ?」

「あなたそんなことしてたの……?」

 

 中学の時にね? 今は流石にないよ。

 そうこうしている間に、電車が駅に来る音が聞こえてきた。

 

「来たんじゃない?」

「ぽいね」

「ぽいねって……連絡は?」

「ん? 連絡?」

「ほら、電車が駅に近づくと必ず連絡来るじゃない。『もうすぐ着く』って」

「あ、ああ。今日は来てないね」

「じゃあまだなのかしら……」

 

 なんて話している時だ。到着した電車から大量に人が降りてきたようで、改札の奥が混み合ってくる。その中に、咲耶の姿があった。

 

「来たよ」

「あら、そうなの?」

「ほらあれ」

「ホントだ」

 

 今回はジムに行く予定であったので、ちゃんと荷物を持って来ている。

 ピッ、と改札を通り過ぎ、俺達と合流した。

 

「お待たせしてしまったね。二人とも」

「まってないわよ、べつに……」

「いやーすげー待ったわー。禿げ上がるほど待ったわー」

「え?」

「……」

「……」

 

 自分の肩をトントンと叩きながら言うと、咲耶はジロリと俺の方を見る。それに対し、正直、少し怖かったのがバレないように、俺は目を逸らしつつも、眉間に寄せたシワは解除しなかった。

 そのまま沈黙が続く事しばらく、咲耶が夏葉に声を掛けた。

 

「……夏葉、行こうか」

「え、ええ。そうね。圭吾も」

「うん」

 

 そのまま、三人で歩き始める。咲耶が右、真ん中に夏葉、そして俺は左に並んで歩いた。

 その間、中々、会話が生まれないのに限界だったのか、夏葉が声をかけてきた。

 

「そ、そういえば、三人でジムに行くのも久しぶりね」

「そうだね。前は私はあんまり身体を動かさなかったから、今日は激しく動くつもりだよ」

「そうなの? 咲耶、スタイル良いし運動神経も中々だから、バリバリトレーニングしているところ、見てみたいわね」

「そんな事ないさ。夏葉の方が全然、上だよ」

「謙遜しなくて良いのよ。……圭吾はどう思うの?」

「大して鍛えなくてもスタイルが良い天性のゴリラの活躍より、俺は夏葉のストイックなトレーニングを参考にしたいな」

「……」

「……」

 

 直後、咲耶から殺気にも似た冷たいオーラが放たれると共に、夏葉が微妙に身を震わせる。

 睨まれてるのが分かったので、俺は目を逸らした。多分、目を合わせたらショック死する。

 またしばらく沈黙……だが、夏葉は負けじと俺に声をかけた。

 

「ま、まぁでも、何もしなくてもスタイルが良いってことはないから、咲耶も何かしら見えないところでトレーニングしてるのよ。圭吾だって、そういうとこあるでしょ?」

「そういうとこって?」

「例えば……ほら、こっちに引っ越してきたばかりの時は、何も出来ない子だったじゃない。ゴミ出しの日も間違える、水道光熱費も使い過ぎる、食費の管理も出来ない」

「そうだっけ?」

「そうよ。それが一ヶ月で出来るようになったのは、私が教えてあげた以外に、自分でも割と頑張ったからなんじゃないの?」

 

 まぁ、正直ガッツリ覚えているわけだが。本当に苦労したよ……。特に電気代はつけっぱなしにするのが癖になってたから、本当に大変だった。

 そういう意味では、夏葉には本当に感謝している。

 

「ま、まぁね……。ゴミ出しの日とか、地元と全然、違ったから焦ったよ。ま、それを短期間で記憶したのは、俺の頭の良さがこれでもかというほど出……」

「能ある鷹は爪を隠す、という言葉も知らない様子の坊やがよく言うね」

「……は?」

「……」

「……」

 

 今度は俺が睨み返すが、咲耶は目を逸らし、夏葉はまた黙り込む。何今の、喧嘩の叩き売りか? ん? 

 いや、まぁ俺はどんなに機嫌が悪くても女の子に手を出すほど落ちぶれてないけど。

 そのまましばらく沈黙が続くと、コンビニの前を通りかかった。それにより、咲耶がふと思い出したように言った。

 

「あ、飲み物を買い損ねてしまったな。買って行っても良い?」

「も、もちろんよ。私達は外で待ってるから」

「すぐに済ませてくるよ」

「準備悪いなー」

「……」

「……」

「い、急いで行ってきなさい!」

「そうだったね」

 

 小走りで咲耶はコンビニの中に入ってきた。

 そのまま、俺も夏葉も黙り込みながら、コンビニの前にあるポールの上に腰を下ろす。

 しばらく沈黙が続いたが、耐えかねたのか、夏葉が恐る恐る聞いてきた。

 

「……喧嘩でもした?」

「喧嘩をした」

「やっぱりね! もうそういうのは先に言いなさいよ!」

「ごめん……ホントごめん……」

 

 いや、本当に夏葉には申し訳ない……。でも、あったんだ。しかも、割と最近。あれ以来、連絡は取ってないし、電話もしていない。唯一、したのは、次会う日の打ち合わせだけ。

 そんな俺に、夏葉が鋭い目つきで聞いてきた。

 

「何があったのよ」

「あー……うん。迷惑かけてる身だから言うけど……実はこの前、二人で出かけたんだよ」

「あら、デート?」

「そう。その時に、咲耶が見知らぬ女の子を壁ドンしてるのを見て、俺もう頭に来ちゃって……」

「……」

 

 ……え、何その意外そうな顔。

 

「……嫉妬したって事かしら?」

「いや嫉妬はしてないよ。嫉妬ってあれでしょ? ヤンデレって奴」

「ヤンデレ?」

「あ、いやなんでもない」

 

 知らないんかい。と言っても、俺も詳しく知っているわけではない。聞いた話だと「嫉妬し過ぎて愛情が明後日の方向に行く奴」らしい。

 その明後日の方向ってのがどの辺を指しているのか知らないけど、俺は咲耶と真っ当に付き合ってるつもりだし、ヤンデレとかいう奴ではないはずだ。

 

「いや、ていうかその感情は嫉妬よ」

「なんで?」

「自分の好きな子が、他の子と仲良くしてて見ていられなくなったって事でしょ? それは独占欲が働いたって事なの」

「いやいや、俺は咲耶の魅力が一人でも多くの人に伝われば、と思ってるよ」

「じゃあなんでその時は怒ったの?」

「そ、それは……」

 

 それは……俺も考えてたけど、多分、その日の朝に手を繋ぐ事を拒絶されたからだ。俺とは手を繋ぎたくないって言うのに、他の人には壁ドンなんてふざけてるでしょ。

 それを言おうとした直後、コンビニの自動ドアの奥から、咲耶が歩いて来るのが見えた。

 夏葉もそれが見えたようで、俺の耳元に声をかける。

 

「とにかく、あんまり表立って悪口を言わないようにね? 仲直りしたいんなら、強い言葉を何度も使うのは控えた方が良いわ。一度、吐いた言葉は取り消せないんだから」

「わ、分かったよ……」

 

 正直、ゴリラは言いすぎた。それに、大して鍛えていないって事もない。割と一生懸命、勉強も運動も努力していることを知っている。

 それを抜きにしても、夏葉だって今の俺と咲耶の間にはいたくないだろうし、ここはオトナの対応でいこう。

 そう決めてコンビニから出てきた咲耶に、とりあえず謝罪を、と思った時だ。

 

「あー、咲耶。さっきは……」

「お待たせ。待たせてしまったお詫びに、夏葉の飲み物を買ってきたよ」

「あ、ありがとう……?」

 

 俺をガン無視して咲耶はカバンから飲み物を取り出して、夏葉に手渡した。このクソノッポ……! 

 俺が歯軋りしてるのが見えたのか、夏葉は気まずそうな笑みを浮かべたまま聞いた。

 

「け、圭吾の分は?」

「さ、急ごう。今の買い物で5分も使ってしまったからね」

 

 ほう、そうですか無視ですか。そっちがそういう態度で来るんなら……! 

 

「お前を待ってる時間は7分だったから、トータルで12分使ってるんだけどな。どっかの誰かのために」

「……勝手に待ち合わせ時間より早くきたのはそっちだろう?」

「良いからジムに行きましょう! 身体を動かさないと! 時間がもったいない!」

 

 夏葉に手を繋がれて、俺と咲耶は引き摺られる形でジムに向かった。

 

 ×××

 

 料金を支払い、更衣室に入る。咲耶と夏葉が着替えている間も、俺は身体を動かすことにした。腹たって仕方ないから、とにかく暴れていたかった。

 今、使ってるのはエアロバイク。音楽を聴きながら、両足を全力で動かしている。

 

「……」

 

 にしても、咲耶の奴め……本当に腹が立つ。そもそも、あいつが悪いんだろ。なんか知らんけど、よそよそしくなったと思ったら「触らないで」とか言い出すし、その後は知らない女の子にナンパしてるし……。

 や、正直、服を選んでる時の嘘は、言い過ぎたと思わないでもないんだけど。

 でも、とにかくムカつく。絶対にこっちから謝んねーからな! 

 

「ああああもうっ!」

 

 言いながらしばらく両足を動かしていると、ふとメーターを見る。かれこれ5分ほど漕ぎ続けているのに、心拍数の上昇が前よりも控えめである。

 もしかして……俺にも体力が少し付いてきたってことか……? それとも、怒りのパワーが俺に力と安定をくれたってことか……? 

 なんにしても、チャンスだ。このまま俺は一気に漕ぎ続ける……! 

 

「あ、あの……圭吾……」

「ちょっ、うるさい。今良いとこだから」

「……は?」

「バカ……」

 

 誰だよ、気合い入れてる最中に口挟んでくる奴は! 

 とにかく、今は無視して両足を燃やし続けた。

 そのまましばらくエアロバイクで自分の中の何かを燃やし続けていると、流石に限界が近付いて、一先ず休むことにした。

 ……というか、咲耶達遅いな……。何してんの? と思ってあたりを見回すと、俺の後ろに夏葉が待機しているのが見えた。

 

「ちょっと」

「あ、夏葉。咲耶は?」

 

 無言で夏葉の指差す先では、咲耶が木人人形を相手に完璧なコンビネーションを叩き込んでいるのが見えた。

 ……え、何してんのあいつ。怖い……。てか、なんか苛立ってね? 

 

「何してんのあいつ」

「せっかく更衣室でお話しして謝る気になったのに、どっかの誰かが『うるさい』なんて切り捨てたお陰よ」

「え……」

 

 もしかして……さっき声かけてきたのって……。

 

「もしかして俺……」

「次、タイミング逃したらもう知らないわよ」

 

 ……後で謝らないといけないんだけど……。

 

「ッ……ッ……ッ……!」

 

 無言で、まるで俺を見立てて木人人形をボコボコにしているあの様子を見たら、ちょっと声かけるのは後にしようかなってなっても仕方ないよね……。

 

 

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