俺は咲耶に弄ばれる。   作:バナハロ

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プロローグはこれ含めてあと3〜4話続きます。


男の成長は女より遅い。

 俺は小学五年生になり、咲耶は三年生になった。三年生といえば、クラス替えにも慣れて来る頃で「去年まで仲良かったあいつと同じクラスになれるかな」みたいなドキドキ感も無くなって来る時期だ。

 咲耶としては、この街に引っ越してきて三年、という意味でもあり、徐々にこの街の事も分かるようになって来た頃だろう。

 そんなはずなのだが……少し、意外な事が起きつつあった。それは……。

 

「……あっ」

「圭吾、一緒に帰ろう」

 

 校門で、ほぼ毎日、咲耶が俺の事を待っている事だ。や、別に良いんだけどね。俺も仲良い奴が校門から既に真逆の方向に帰るため、一人で帰宅するよりずっとマシだ。

 しかし、咲耶は友達とかいないのだろうか? 廊下ですれ違った時とかは友達と一緒にいるのも見かけるが、下校時はほとんどの可能性で、俺の事を待っている。

 

「あ、うん。帰ろっか」

 

 ま、お兄さんとして頼りにされてるって事だな。俺、お兄さんだし、咲耶には頼られるべきだ。

 だが、その「お兄さん」についてもいくつか問題がありまして……。

 

「……咲耶、背伸びたな……」

「そうかい?」

 

 俺の身長を早くも抜かしてるんですよね……。この子、いったい何食べて暮らしてるの? というか、俺の身長も最近、ほとんど伸びないんだけど。なんで? 

 

「……牛乳も毎日飲んでるし、運動もしてるはずなのに……何故だ……」

「ふふ、身長なんか気にすることないさ。圭吾はいつも頼りになるお兄さんだ」

「うん、まぁそうね」

 

 クラスのバカ男子どもに聞かせてやりたい。背の順先頭だからって悪いことなんか何一つないっつんだボケ。

 そのまま二人でのんびりと自宅に向かう。

 

「圭吾、今日はこの後、予定あるのかい?」

「ん、健介とコウちゃんと遊びに行く。公園集合で缶蹴りやるんだ」

「……そっか」

「来る?」

「いや、いいよ」

 

 ……そう言いつつも寂しそうにしてるんだよなぁ。やはり、学年の壁は高いみたいで、あんまり俺の同学年と遊びに行くっていうのについて来なくなった。

 とはいえ、俺も約束を破るわけにもいかない。

 

「夕焼けチャイム鳴ってあいつらが帰ったら公園に来いよ。二人でサッカーやろうぜ」

「……ふふ、チャイムが鳴った後に約束なんて、悪い子だね」

「親に許可もらってるんだから良いんだよ。でも、そこの公園だけだからな」

 

 ま、お兄さんだし、いつでも構ってやるって言ったからな。それに、咲耶と遊ぶのは楽しいし。……ホント腹立つ程、運動神経良いから挑み甲斐がある。

 というのも、咲耶は化け物でしてね。俺と一緒にサッカーとかバスケとかキャッチボールとかするんだけど、全部俺より上手……あ、いや咲耶とやる時に限って俺の調子が上がらないだけだが。

 そんな話をしているうちに家に到着した。

 

「じゃ、またあとでな」

「うん」

 

 適当に挨拶を交わして、各々の家に戻った。

 

 ×××

 

「咲耶!」

「うわあっ⁉︎」

 

 一時間も経過しないうちに、俺は咲耶の部屋に突入した。

 

「な、何? どうしたんだい?」

「あいつらつまんねーから帰って来た!」

 

 ホンット腹立つ。マジなんなのあのボケナスども! 

 腹立たしさを隠そうともしない俺は、ズケズケと部屋の中に入り、勉強している咲耶が座る椅子の奥にあるベッドに腰を下ろした。

 

「あいつらマジでクソだよ! ほんと頭おかしい! 自己中だ、あんな奴ら!」

「わ、わかった。わかったから落ち着いて。怪我してるじゃないか」

「落ち着いてるから! 俺はお兄さんだぞ!」

「うん、お兄さんだ。だから落ち着いて」

「そ、そうだ……俺はお兄さんだ……!」

 

 危ない危ない、ついうっかりお兄さんではなくなる所だった。……でもムカつく。殴り合いに発展させても良い程度には腹立ったわ。

 

「とにかく、少し待っていてくれ」

「? なんで?」

「怪我! 頬青くなってるし、両手足からも血が出てるじゃないか」

「これくらい大したことない!」

「涙目で何言ってるんだ」

「え、うそ」

 

 拭いてきたんだけどな。泣いてる所なんて絶対見られたくないし。

 咲耶は一度、家の何処かから絆創膏と消毒液を持ってくる。俺の隣に腰を下ろすと、ティッシュに消毒液を染み込ませて、俺の頬に近づけた。……本当に背が高いしカッコ良いなこいつ……。

 

「染みるよ」

「お、おう。ドンと来い! ……〜〜〜っ!」

「痛い?」

「痛くない!」

 

 全然、しみてない。むしろ気持ち良いくらいだからホントに。

 頬の次は足の消毒をしながら、咲耶は優しく聞いてきた。

 

「何があったんだい?」

「痛っ……!」

「ごめん、痛かったかな?」

「痛くないってば!」

 

 ダメだ。話を次に移さないと。や、全然痛くないけどつい反射的に出ちゃうから。

 

「あいつらと缶蹴りやってたんだよ」

「うん」

「……あ、缶蹴りやったことある?」

「ないけど、ルールは知っているよ」

「あ、じゃあ良いや。あれ、鬼が数えてる間、逃げる側は隠れるだろ?」

「ごめん、話の途中だけど染みるよ」

「お、おう! ……っ! で、俺が鬼だったんだけど、割と缶から離れても全然、蹴りに来ないし、ずっと隠れたままなんだよ」

 

 畜生、今思い返してもムカつく。

 

「一時間くらい探し回って、ようやく見つけた時、あいつら隠れたまま遊戯王やってやがってさ!」

「そ、そんな事が……」

「隠れてる最中に『滅びのバーストストリィィィィム』ッッ‼︎ とか大声で叫んでやがって隠れる気すらゼロだったんだよ! あんまり腹立ったから、髪の毛むしって背中に膝蹴り叩き込んでやった!」

 

 あのまま喧嘩したんだけど、相手は三人。通りがかった大人が止めてくれたけど、腹立ったから帰って来ちゃった。

 

「……つまり、君から手を出したのか」

「っ、そ、そうだよ。痛っ……!」

「……」

 

 あれ、なんか心なしか腕の消毒が少し雑になったような……。でも、どちらかというと、腕を支えるために握っている手の握力が強まってて、そっちのが痛い気が……。

 

「さ、咲耶……? 痛いんだけど……」

「バカなのかな、君は」

「急になんだよ⁉︎」

「三人も敵がいるのに、自分から手をあげてどうするんだ。悪いのは自分でなくても、向こうだって身を守るために反撃して来るし、そうなれば勝てるはずもないじゃないか」

「うぐっ……!」

「まったく……」

 

 呆れたような声を漏らしながら、咲耶は俺の頬や腕に絆創膏を貼ってくれる。

 

「そもそも、何事も暴力では解決しない。お兄さんなら心にゆとりを持って、まずは口で言わないとダメじゃないか」

「さ、最初は文句から言ったよ。けど『お前が全然、見つけねーから悪い』って如何にも言い訳くさいこと言われて……」

「それでも、手を出しちゃダメだ。手を出したら、その時点で君が悪いことになってしまう」

 

 ……ついカッとなって……。

 

「まったく……仕方のない子だね。本当は、喧嘩になって少し怖かったんだろう?」

「……別に、怖くなかったし」

「私は君をイジメたりしない。どんなにカッコ悪かったとしても、ずっと君の味方だ。だから、いつまでも意地を張っていないで素直になりなさい」

「……」

 

 いつの間にか、俺の肩に添えられた咲耶の手に力が入り、抱き寄せられる。俺の頭が咲耶の胸前に寄せられ、反対側の手で頭を撫でられる。

 ……クソ、もうこうして咲耶に慰められるのは何度目だ。喧嘩する度にこうして涙を拭かれてる気が……。

 

「……とはいえ、このままだと、君はいつまでも喧嘩して怪我を作ってきそうだ」

「え?」

「人の言うことを聞けない悪い子には、お仕置きが必要かな?」

 

 ……な、何その咲耶らしからぬ発言……なんて思った時には遅かった。咲耶の両手が、一気に移動して俺の脇の下に潜り込んでくる。

 

「わひょっ⁉︎」

「もう二度と喧嘩はしません、と誓わない限り続いてしまうよ?」

「わっひゃひゃひゃひゃっ‼︎ ご、ごめんなさい! ごめんなさい!」

「ごめんなさい、ではなく、もう二度と喧嘩はしません、だろう?」

「も、もう二度っ……二度と喧嘩はわっきゃっきゃっきゃっ!」

「なんだって?」

 

 っ、こ、このやろっ……! そもそもくすぐられててそんな長文を詠唱出来るか……! 

 

「な、何すんだコラー! お前こそお兄さんを敬……あれ?」

「すまないね。君と私では、リーチが違う」

「カッコ良いセリフを吐くなああああっひゃっひゃっひゃっひゃっ!」

 

 もおおおお! 身長差がなければ、こんな事にはああああああ! 

 そのまま良いように咲耶にいじられ続けた。

 

 ×××

 

 くすぐりが終わった後も、せっかくなので一緒にいることにした。俺はキャッチボールでもしよう、と言ったんだけど、怪我人を無理させられない、との事で却下された。

 そんなわけで、咲耶の部屋で現在、人生ゲーム中である。

 

「よし来たっ、スポーツ選手になる! 年俸制で給料日ないけど、ドカンと良いの入ってくる奴じゃん!」

「ふふ、似合ってるじゃないか。圭吾なら良い選手になれるさ」

「いやー、まぁねぇ。これはもうホント、将来の道を決められちゃってるのかな? リアル人生ゲームかな?」

「ちなみに、どのスポーツ選手になりたいんだい?」

「野球とサッカーとテニスとバスケ!」

「圭吾は多才なんだね」

 

 まぁ、正直どれも咲耶の前だと良いプレーは見せられていないけど……てか、咲耶の前に限った話では……って、や、違うからだから。何かしらの調子が悪かったんだよ。

 ……いや、でも俺ほんとにスポーツというか、運動神経良くならないよね。この前やったスポーツテストも、未だに50メートル走8秒台後半だし……。

 

「俺、なんで運動神経良くならないのかな……」

「き、急にどうしたんだい……?」

「いや……何でもない」

 

 考えてみれば、必ず毎年、風邪ひいて2〜3日は学校休むし、スポーツテストもどんなに頑張っても平均並みだし、運動会のリレー選抜には選ばれたことないし……好きなもの程、上手になるわけじゃないってことなのか……。

 なんか勝手にナイーブになってると、その俺の頭に咲耶が手を置いた。

 

「ふふ、そんな事ないさ。確かに向いていないかもしれないけど、圭吾が一生懸命頑張っている姿は、とてもカッコ良いものだよ」

「……そう?」

「そう」

 

 ……そっか。なんか、咲耶にそう言ってもらえるのはアホほど嬉しいな……。

 

「じゃ、咲耶。次、お前の番だぞ」

「そうだね」

 

 とりあえず、今は人生ゲームの最中である。1〜10まであるルーレットを回す。

 人生ゲームは、まず最初に職業を選ぶ。その際、ビジネスマンコースか専門職コースに別れる。ビジネスマンはサラリーマン固定で、専門職はサラリーマンをゆうに超える報酬が出る職につけるのだ。ただし、出目によっては職につけずサラリーマン以下の収入である、フリーターという可能性も出て来てしまう。

 さて、では次は咲耶の番。まぁ、勝つつもりなら、こいつもサラリーマンコースは避けるだろう。

 実際、そこは避けて進んだ。同じく専門職コースに進んだ咲耶が止まったマスは……。

 

「へぇ、タレントか……」

「良いじゃん! ……タレントって何?」

「知らずに良いって言ったのかい?」

「だって、マイクの絵が描いてあるから……あれでしょ? アイドル的な」

「まぁ、間違っていないけど……要は、芸能人だね」

 

 なるほど……そういや、ニュースとかだと「お笑い芸人」のことを「お笑いタレント」って言うし、アイドルだけとは限らないのか。

 ……でも、なんかマイクの絵があるとアイドルの印象が強いや。

 

「私が、タレントか……あまり自信ないね」

「そう? 咲耶ならアイドル出来るでしょ」

「あはは……そうかな? ちなみに、私が芸能界に入ったら、何になっていると思う?」

「え? だからアイドル」

「え……そ、そうかい?」

「うん」

 

 なんだ? 自分の容姿の良さに気付いていないのか? 

 

「な、何故、そう思う?」

「だって、俺が知ってるジ○ニーズの誰よりもイケメンだし」

「……あ、そ、そっちのアイドル?」

「? なんで? ……あ、そっか。咲耶って女か」

 

 そういやすっかり忘れてた。

 

「なんだかんだ、クラスメートを合わせても俺と一番、仲良くしてくれるから忘れてた」

「……そうなのかい?」

「そうだよ。うちのクラスの男子は皆んな、遊戯王とポケモンに夢中でさー」

「そっか……私が1番、仲良いんだ」

 

 あ、なんか嬉しそう。こういうとこ、咲耶もまだまだ子供っぽいんだよな。

 

「ありがとう、圭吾。でも、私ばかりと仲良くしていてはいけないよ。遠足や運動会みたいなイベントでは、私と一緒にいられないんだから」

「分かってるよ」

 

 今日は喧嘩しちゃったけど、他にまだ友達はたくさんいるし大丈夫。ていうか、クラスメートはみんな友達みたいなもんでしょ。別に嫌いな人とかいないし。

 

「それより、俺の番だよな。続きやろうぜ」

 

 そう言って、ルーレットを回した。その日、俺は時間を忘れて咲耶と人生ゲームに励み、帰宅が遅くなってしまった上に、喧嘩の件が学校経由で母親にバレてメチャクチャ怒られ、結局、咲耶に慰められるハメになった。

 

 

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