俺は咲耶に弄ばれる。   作:バナハロ

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保護者の悩み(6)

 旅行を終えた咲耶は、ワクワクした表情でお土産コーナーにいた。もうすぐ、帰宅して圭吾に会える。旅行が決してつまらなかったわけではないし、むしろ思いっきり楽しんで来れたわけだが、それでも圭吾に会いに行ける、というのは自分の気分を高揚させるには十分すぎることだ。

 それなりに離れ離れの耐性がついたと思っていたので、旅行中は圭吾の写真を見ないように頑張っていたが、その無理が祟って、今は少し判断力が鈍りつつあった。

 そんな状態で、今はお土産屋さんで、その圭吾へのお土産を選んでいるのだ。

 

「決まりましたかー?」

「ああ……摩美々。いや、それがまだ決まらないんだ」

 

 そう言う咲耶の表情は、珍しく思案に暮れている。圭吾からは、咲耶もよくお土産をもらっていた。咲耶は旅行など修学旅行や林間学校、或いは黒崎家の旅行に、たまに入れてもらっていたくらいだから、あまり圭吾にお土産を買う、という機会がなかった。

 

「お土産、か……中々、難しいものだね。こちらにしかないもので、尚且つ彼が喜んでくれそうなもの……考えるだけでも、なかなか難しい」

「ふーん……」

 

 摩美々はあまりお土産に悩んだことがないので、その咲耶の気持ちは分からないが、まぁ真剣に悩んでいる人の表情というのは分かるものだ。

 とはいえ、それをイタズラで茶化したくなるのが摩美々という人なのだが。

 

「じゃあさー、こんなのはどおー?」

「? どんなの?」

 

 言われて差し出されたのは、紫色の派手な下着だった。なんというか、如何にも「アダルト」といった雰囲気を漂わせている。

 

「ふむ……圭吾はつけてくれるだろうか……?」

「そう来るかー……」

 

 からかい目的だったのだが、まさかの受け取り方をされてしまった。

 

「そうじゃなくて、咲耶がつけたら? って意味だったんですけどー」

「私? ……いや、流石にまだそういう関係では無いんだが……私はいつでもウェルカムだけど」

「別に、わざわざ見せることないと思うけど。……例えば、屈んだ時に見える服の隙間からチラ見させるとかー?」

「……悪くないな……」

 

 主に、その際の圭吾の反応が悪くなさそう。最近、圭吾は自分を見て頬を赤らめたり、胸を高鳴らせる事が多かったので、思春期の道を順調に歩んでいる。

 

「うん……そうだね。ちょうど良いし、これを買ってつけてから彼の元に行ってみようかな」

「ふふっ、良いんじゃない?」

 

 普段の咲耶なら断っていた所だろうが、なんとなく承諾してしまっていた。まぁ、たまにはそんなのを持っていても良いか、と不思議と思ってしまっていた。やはり、寂しさは悪である。

 

「よし、買おう!」

「頑張ってねー」

 

 ニコニコ笑いながら、摩美々は咲耶に手を振った。

 

 ×××

 

 さて、バスに乗って283事務所前に到着した。今日はここで解散である。キチンとトイレでその少しアダルトな下着に着替えた咲耶は、一度荷物を寮に置いてから圭吾の元に向かうことにした。

 明日、仕事はお休みなので、今日は泊まりである。そういえば、目の具合は大丈夫だろうか? 

 

「む、咲耶、出掛くると?」

「ああ。ちょっと、ね……」

「ふふ。気ばつけんしゃい。きっと、圭吾も寂しがっとーけん、うんと構うちゃると良かやなか?」

「そうだね」

 

 そんな話をしていると、咲耶のスマホが震える。圭吾から連絡だ。

 

 圭吾『もう着いてる?』

 圭吾『俺、とりあえず池袋まで迎えに来たよ』

 圭吾『でもこの駅広いね』

 圭吾『あれ? このガチャポンコーナーさっきも来たような……』

 圭吾『迷子になった』

 圭吾『今までありがとう。サヨウナラ……』

 

 そこでチャットは途切れた。

 

「迷子になってるー⁉︎」

「い、急いで!」

「そうする!」

 

 ブラジャー以外のお土産を持って、慌てて咲耶は走り出した。

 

 ×××

 

 池袋に到着し、圭吾と電話をしながら、咲耶は捜索する。

 

「えーっと、一○堂? の前を通って……?」

『うん……そこから、ずっと真っ直ぐ歩いて……階段に上がって……』

「え、今外にいるの?」

『え?』

「いや、さっき駅って……」

『俺も咲耶を探せばもっと早く会えるかなって』

「……」

 

 この彼の勉強は出来るバカさ加減が、徐々に頭を冷静にしていく。探される側が動いてしまったら、見つかるもんも見つからないだろうに……。

 

「今はどこにいる?」

『ヨ○バシの前』

「そこから動かないで。今から行くから」

『あ、うん……あ、俺もそっちに……』

「良いから」

 

 まったく、本当に世話が焼けるお兄さんだ。小さくため息を吐きつつも、そんなところも何処か愛おしく見えてしまう自分も、やはり普通ではない自覚が芽生えつつあった。

 とはいえ、なんであれ迎えに行かないといけない。今日は、なるべくお姉さんになったつもりで応じた方が良いだろう。

 彼らしくなくL○NEを連呼して来たあたり、思った以上に寂しがっているみたいだし、あんまり意地悪はしない方が良いのかもしれない。

 そんな事を思いながら、圭吾が待っている場所に到着した直後、ふと思ったことがある。

 

 ……そういえば、下着を変えるのを忘れていた。

 

 やばい、と少し焦る。こんな下着、見られるだけでからかってる事になってしまう……。

 ……まぁ、一応、服は着ているし、大丈夫だとは思いたいが……。いや、でも彼はこういう時に限って何かやらかしそうな気もするし、十分に油断はせず気をつけていこう。

 

「……あ、いた。おーい、圭……」

 

 そこで、ふと動きを止める。やっぱり、なんか派手な下着が落ち着かない。脱がない限りバレない、と分かっていても、少し緊張してしまう。

 やっぱり、ここはその辺で買ってでも下着を切り替えて方が……なんて思った時に限って、あの鈍ちん男は敏感になるのだ。

 

「……あ、咲耶ー!」

「っ」

 

 バレた、と思った時には遅い。走ってきた圭吾は、すぐに咲耶の腕に飛びついた。

 

「もう一生、会えないかと思った……!」

「まったく……一人でこんな所に来るからだよ?」

「ごめんごめん……」

「まったく、困ったお兄さんだな」

 

 そう言いながら、圭吾の頭を撫でる。済ました顔で笑みを浮かべるが、頭の中は微妙に落ち着いていない。そんな近距離に接近され、派手な下着がバレたらどうしようと思わんばかりだ。

 そんな咲耶の気も知らず、正面から満面の笑みを浮かべて言った。その目には、もう眼帯がない。

 

「おかえり、咲耶」

「ああ、ただいま」

 

 冷や汗をかきながら、笑みを浮かべて挨拶し返す。

 

「さぁ、帰ろうか」

「……なんか、顔少し赤い?」

「っ、ひ、日焼けしただけさ」

 

 ほんとこういうときばっかり鋭いの、腹立たしいにも程があった。

 

「圭吾こそ、少し背が伸びた?」

「親戚のおっちゃんみたいなこと言うなよ! ……ほんとに伸びたと思う?」

「もちろん」

 

 そんな風に誤魔化しつつ、手を繋いだまま帰宅し始めた。

 

「そういえば、眼帯取れたんだね?」

「咲耶に言われた通り、ちゃんと大人しくしてたからね」

「ふふ、そっか。偉いな」

 

 なら、海やお祭りにも行けるかもしれない。とりあえず、もう夕方だし、今日の所は圭吾の部屋に引き返したほうが良いだろう。

 

「じゃあ、今日は帰って今日以降の予定を立ててみようか?」

「だな!」

 

 決まり、二人でそのまま電車に乗った。

 

 ×××

 

 さて、圭吾の部屋に到着した。もう何度も来ているこの部屋だが、咲耶は微妙に緊張していた。襲われる、とか、襲いそう、とか、そんな話ではなく、単純に下着を見られたくないから。

 なるべく横になるのは避ける事にして、二人で部屋の中で、お茶を飲みながら話をする。

 

「海は……どうしようか? 泊まりで行く?」

「あーそれなんだけどさ、両親から里帰りのためのチケット送られて来たんだよね。飛行機の。一応、咲耶の分もあるよ」

「そうだったのか。じゃあ、地元の海で泳ぐ事にしようか」

「良いね」

 

 計画性が重要な大学生活を経た結果か、サクサクと計画は進められていく。

 さて、そろそろ自然な頃合いだろうか? そう思った咲耶は、机の上のお茶に手を伸ばし……ひっくり返してしまった。

 

「っ、し、しまった……」

「わっ、だ、大丈夫?」

「ああ……すまない、平気だよ」

 

 机の上に溢れたお茶を拭くために、咲耶はタンスの中からタオルを取り出した。

 

「これ、借りても良いかな?」

「うん。や、俺拭くから良いよ」

「私がこぼしてしまったんだから、私に拭かせてくれ」

「そう?」

 

 言いながら、タオルで机の上を拭きつつ、コップも綺麗にする。それを流しに置くと、タオルを洗うために洗面所に入った。

 直後、上半身の服を脱いだ。さて、この隙に下着の入れ替えである。帰った直後だと怪しまれるし、かと言っていつまでものんびりはできない。

 偶然を装い、迅速に事を済ませれば……! 

 

「……」

 

 ふと鏡を見てしまった。紫色の布地に、大人っぽく飾られたフリフリのレース……今、改めて見ると、やはり少し派手だ。

 だが、それでも……正直、似合っている気がしないでもなかったと思ってしまったのが、最大の失敗である。

 ズボンを脱いで、下着のみの姿となる。鏡でその自分を眺めると、悪くない気がしないでもない。

 

「……」

 

 頬が赤くなる。心臓が早く動く。ここは、圭吾の部屋の、一人暮らし用だからか、鍵がついていない洗面所。そんな場所で、こんな派手な下着姿でいる背徳感が……。

 

「咲耶ー?」

「ひゃあいっ⁉︎」

 

 声が跳ね上がった。口から心臓が飛び出るかと思った。一気に意識も性欲も性癖も正常に引き戻された。

 普段、出さない声に、思わず圭吾から戸惑った質問が飛んでくる。

 

「え、どうした?」

「な、なんでもない! なんでもないから! それより、何か用?」

「ああ、服とかにも散ってたら、そのタオル使って拭いてねって」

「分かった」

 

 とりあえず、洗面所に入ってこなかった事にホッと胸を撫で下ろす。まぁ、要件が済んだ時点で、一先ずは気を抜いても良いのだろう。何せ、流石に連続してここに来ることはないだろう。

 机の上にお茶を溢してしまい、それを拭いたタオルを洗うだけ。その過程に、わざわざもう一度、声をかけてくる理由はないはずだ。

 そんなわけで、とりあえず正気に戻った咲耶は、さっさと下着を取り替え……。

 

「あ、そうだ、咲耶。ついでにそのタオル洗濯機に突っ込んでおいて……」

「なんでリターンして来るんだ⁉︎」

 

 まさかのフェイント、しかも今回はドアを開けてきた。当然、アダルティーな下着をつけた咲耶と圭吾はしっかりと目が合う。

 

「え……な、なんで……?」

「や、違……これは……!」

 

 カアアッと顔が赤くなる咲耶。そして、圭吾も同じだ。なんでこいつ脱いでるの? そしてそのえっちな下着は何? と言わんばかりに頬を赤らめている。

 

「……」

「……」

「……あ、あの、服やっぱ濡れてたなら……タオル、使って良いから……」

「あ、うん……あ、ありがとう……?」

 

 とりあえず、服が濡れていた、という風に解釈してくれていたようだ。そのまま扉は閉ざされて行き、パタン……という音が鳴る前に、声が再度、かけられた。

 

「…………あ、あと……もう少し、落ち着いた色の下着の方が……その、似合うと思う…………」

「……〜〜〜っっ!」

 

 普通に身体を密着させたり着替えを目撃されるより恥ずかしい思いをした。一先ず、もう今後、二度と変な気を起こさないと誓った。

 

 

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