俺は咲耶に弄ばれる。   作:バナハロ

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頭の良さは成績じゃない。

 中学三年、それはつまり初めての受験シーズンである。まぁ俺は確約貰えるから何の問題もないが。

 まぁ、そんなのはどうだって良い。それよりも重要な事がある。それは……。

 

「おおー! 咲耶が女の子に見える!」

「ご挨拶だね。でもありがとう、圭吾」

 

 俺の感動に対し、半ギレの笑みを浮かべて咲耶は言った。その咲耶の服装は、中学の制服だった。

 各駅停車が一駅ずつ噛み締めるように進んでいるのに対し、特急電車がノリノリで追い抜いていくように俺の身長を飛び越えた咲耶は、もう誰が見ても男の子だったはずだが、スカートを履けば普通に女の子に見えた。

 現在、入学式が終わった後。本当は朝から一緒に行きたかったのだが、新入生と一般生徒は登校時間が違うので、その時間を取る事ができなかったわけだ。

 仕方ないので、放課後に咲耶と合流したんだけど……なんつーか、普通に大人に見えるのは気の所為だと思いたい。

 

「……なんでそんな身長あるの?」

「私に聞かれても分からないな……」

 

 気まずそうに笑みを浮かべながら、咲耶は頬を掻いた。

 

「でも、人は見た目じゃないし、身長じゃないよ。圭吾は、私の知る限りでは一番、良い奴さ」

「え、そ、そう?」

「ああ、そうだよ」

 

 そ、そうなのか……? それって咲耶の交友関係が少な過ぎるからなんじゃ……いや、余計なこと言うとまた怒られるしやめておこう。咲耶も小学生の高学年に上がってから、たまに口に気をつけないと怒るようになってきたし。

 

「お、ここにいたのか」

「ああ、父さん」

「こんにちは」

「圭吾も一緒か」

「お久しぶりです」

 

 隣に住んでいながら、顔を見るのは久しぶりだ。でも、たまに顔を合わせた時はお菓子とかご馳走してくれるし、とても良い人だ。

 

「ちょうど良かった。写真撮ってくか」

「そうだね。せっかくだし」

「圭吾も映っていけ」

「え、良いの?」

「勿論だよ」

 

 との事で、一緒に写真を撮ることにした。二人で「入学式」と書かれた看板の前に立つ。

 

「……」

「……」

「撮るぞー」

「待った」

「え、なんだよ?」

「並んで撮りたくない。背の低さが目立つ」

「気にしなくて良いじゃないか?」

「俺は気にするの!」

 

 誰がどう見ても、俺が後輩で咲耶が先輩に見えるだろう。学年によって違う校章をつけていたとしても、だ。なんなら俺は弟に見えてしまうかもしれない。

 

「そんなわけで、咲耶。座れ」

「え、嫌だよ。何故、入学祝いの写真で座らないといけないんだ?」

「え、あ、じゃあ俺が座るか。そうすれば身長差も目立たなくね?」

「いや、どうだろう……それ以前に、人の注目を集めてしまうと思うが……」

 

 うーむ……せめて自転車でもあれば、こう……自然な感じで座れるのに……。

 

「なら、俺が良い案を提案してやろう」

 

 咲耶の父親が言う提案を聞いてみることにした。まぁ、顔を合わせた数は多くなくても、俺にタメ口を許してくれる仲だし、大丈夫でしょ。

 言われるがまま、体を動かした。咲耶と組み、腕を掛け、身体を預け、足を持ち上げる。

 

「よし、撮るぞ」

「おう!」

「お願い」

「はい、チーズ!」

 

 パシャっと撮られた時、俺は咲耶にお姫様抱っこをされていた。

 

「じゃねえだろおおおお!」

「あぶねっ!」

 

 ドロップキックをかましたが、父親は簡単に回避してくれやがる。

 

「なんでお姫様抱っこされなきゃいけねえんだよ⁉︎ 普通逆だろ!」

「いや、むしろそのままがベストだ! 俺は、おねショタも大好きだ!」

「おね……ショタ? 俺はオネショしたことねえよ!」

「父さん、圭吾に変な言葉を覚えさせたらビンタするよ」

「ご、ごめん……」

 

 え、なんだよ。おねショタって。

 

「咲耶、おねショタって何?」

「そろそろ帰ろう。父さん、今日は午前半休で午後は仕事だろう?」

「ねぇ、咲耶ってば! おねショタって何⁉︎」

「圭吾、帰ったら久しぶりにキャッチボールでもしないかい?」

「する! 帰ろう!」

 

 よっしゃ、楽しみが増えた! さっさと帰ろう! 

 

「その前にお昼だけ食べて帰ろう。ご馳走するよ」

「マジですか! やったぜ!」

 

 そんなわけで、まずはお昼を済ませに行った。

 

 ×××

 

 さて、飯を済ませて、俺と咲耶は約束通りキャッチボール……の前に、着替えだけ済ませることにした。制服のまま運動は流石にしんどいからね。

 先に着替えを終えた俺は、走って咲耶の部屋に向かう。部屋に入ると、咲耶は着替え中だったようで、下着一枚しかつけていない背中が見えた。

 

「咲耶、やろ……あっ」

「っ、け、圭吾⁉︎ なんっ……!」

「ごめんごめん。早かったか」

「反省はいいから、まず出ていってくれないか⁉︎」

「え? あ、うん。そっか。分かった」

 

 あれ、なんか思ったより大袈裟な反応だな……。まぁ、別に俺も見たいわけではないし、すぐに言われた通り引っ込んだ。

 ……にしても、なんつーか……小学生の時に何度か見た咲耶の裸とは随分、違ったな……。腰回りとか細くなってたし、それに背筋も薄らとだけど見えるし……なんか、大人の女の人って感じの背中がする。……ていうか、母ちゃんとか姉ちゃんみたいな背中になってきた。

 

「……」

 

 俺も父ちゃんみたいな身体になってきたかな。いや、脂肪がついたって意味でなく。

 洗面所を借りて、上半身の服を脱いだ。鏡越しに体を見るが……なんつーか、やっぱガキっぽいよなぁ。自分で見てるからわからないだけか? ……いや、でもガキっぽい。腹筋とか胸筋が足りないとかじゃなく、単純に……こう、子供っぽいよね。

 

「……ポーズが悪いのか?」

 

 そんなわけで、大人っぽいポーズをとる。まずはマッチョのポー……いや、筋肉多いわけでもないのに、マッチョになろうとしても大人には見えないな。ていうか、マッチョ=大人っていう思考がガキっぽい気がする。

 そんなわけで、別のポーズを取ることにした。大人と言えば、片足を台の上に置いて、その膝の上に肘を置いて固まるアレだ。

 今回は、洗濯カゴを借りてやってみた。

 

「……こんな感じ?」

 

 ……子供が無理して背伸びしてる感じあるな……。ていうか、洗面所だと流しの上に鏡があるから、下半身が見えないし。

 次どうしようかな。他に大人と言えば……あ、タバコのポーズ。タバコは大人の象徴でしょ。でも、俺も咲耶の父ちゃんもタバコを吸わない。なんか代わりになるもの……まぁなんでも良いか。

 その辺にある剃刀を手に取り、指に挟み、口に近づける。流石に咥える勇気はない。

 

「……」

 

 なんか違うな。そもそも、タバコ以外のものでタバコのポーズしても全然、意味なくね。

 剃刀だったら……そうだな。暗殺者のポーズとか? 剃刀で人を殺せるかは置いといて、構えてみよう。

 手元でクルクルと回しながら、逆手持ちでキャッチして構える。

 

「……」

 

 これはカッコ良いけど、なんか違うな……大人と言うより、スパイごっこをする大人のような……。

 ……ていうか、大人っぽいポーズってなんだ? まずそこから分かんないや。調べてみようかな、と思い、洗面所を出ると、咲耶が立っていた。

 それにより思わず、心臓が跳ね上がってしまう。

 

「……今、見てた?」

「何を?」

「……いや、なんでもない」

 

 っぶねぇ……見られてたら終わってたな……。大人っぽいポーズを模索してる所なんて見られた暁には発狂する。

 

「それより、キャッチボールしようよ」

「あ、ああ、そうね。見とけよ、カーブとフォークも投げられるようになったからな」

「へぇ、すごいな」

 

 披露する相手が咲耶しかいないが。何せ、手先が器用だけど、虚弱体質というか、生まれつきフィジカルが育たない体質だから、俺がぶっ倒れて怪我したり脱水症状になるリスクを恐れた先生に「マネージャーしたら?」とまで薦められるようになった。

 まぁ、それなら部活なんて入らないで遊んでた方が良いよねって。あと、夕方は家で一人になってしまう咲耶と遊びたかったし、帰宅部になった。

 いつの間にか、咲耶に披露するために手先の技を磨くようになったわけだ。

 もちろん、勉強もしっかりしている。部活を退部したのに確約取れる程度には成績良いのよ、俺。

 

「てか、咲耶は部活決めたの?」

「ん、私は部活は考えていないよ」

「え、なんで? 咲耶ならどこの部も欲しがるんじゃないの?」

 

 実際、咲耶は俺より少し下の完璧超人だ。運動神経抜群、成績優秀、イケメン、優しいし生真面目で他人への配慮を忘れない、この世の完璧さの全てをとった少女だ。

 いや、まぁ俺も負けてないけど。俺だって成績優秀だし、運動は……まぁ、普通の人よりは出来るし、顔は……まぁ、他の人どころか家族にさえ言われたことはないけど、咲耶が言うにはイケメンだし……と、とにかく、俺ほどじゃないけど、咲耶はすごくスペックが高い。

 だから、どの部からも引く手数多のはずだ。

 

「入れば良いのに。入試の時、有利になるよ」

「大丈夫、実力で勝負するから」

「でも、やりたいスポーツとかないんか。俺はやりたくても出来なかったけど、咲耶はやれる事、たくさんあるでしょ」

「ふふ、お気遣いありがとう。でも、私は大丈夫さ。私がやりたいのは、圭吾と一緒に遊ぶ事だからね」

「……」

 

 うーん、それで良いのかな。いや、咲耶のやりたい事が本当にそれだと言うのなら良いのかもしんないけど。

 

「ホントにないの? やりたい事とか。部活とかに所属してスポーツやれるのなんて学生の間だけだよ」

「ないこともないけど……でも、私はその学生の間に、可能な限り圭吾との思い出を増やしたいな」

「……」

 

 ……そこまでストレートに言われると、それはそれで気恥ずかしいな……。いや、まぁ俺も似たようなものなんだけどね。

 しかし、それは責任重大だ。何せ、部活の期間を潰して俺と遊ぶことを選んでくれたのだ。俺はそれだけ、咲耶を楽しませる義務がある。

 となると……近所で遊ぶだけでは限界があるな。

 

「なぁ、咲耶」

「なんだい?」

「今からさ、出掛けない?」

「……え?」

 

 ×××

 

「……何故、こんな所に?」

「ん、良いじゃん。別に」

 

 俺も咲耶も、ゲームやカードに興味は無く、お小遣いをもらってもお互いの誕生日や、クリスマスにプレゼントする時くらいしか使わなかった。

 だから、こうして県内に出掛ける程度のお金は取ってあるのだった。

 現在、桂浜。うちから少し遠いけど、電車に乗って来ちゃいました。

 

「さて、海に入ろうか!」

「無茶を言わないでくれ。まだ春だよ?」

「足だけなら平気でしょ。タオル持ってきたし」

「用意が良いのは良い事だね」

 

 褒められた! 

 

「まぁ、水かけっこは置いといてさ、一先ず見て回らないかい? これほど綺麗な海を……あの辺で見られたら、心が洗われそうじゃないか?」

 

 そう言う咲耶の指差す方向には、海津見神社がある。確かに、上から見たらこの綺麗な世界が一望できそうだ。

 

「良いね。行こうか」

「うん」

 

 そのまま、二人で桂浜を歩く。

 

「知ってるか? 桂浜って坂本龍馬がいたんだぜ」

「へぇ、そうなのかい?」

「そうなんだよ。桂浜の龍って言われてて……なんだっけ。確か坂本龍馬が、地元で最も好きだった場所で……」

「詳しいね」

「ま、まぁな! 成績優秀だから!」

 

 他にも色々、聞いたことある話はあるけど……出てこないわ。こういう大事な時に出て来ないのホントなんとかしたい。

 そんな話をしながら、咲耶と階段を上がる。……咲耶の奴、ほんとに背が高いな。気にしない、とか言われたけど、やっぱ俺は気になるわ。

 少しイラッとしたので、走って先に階段を上がる。

 

「? どうかしたかい?」

「ちょっと待ってて!」

 

 声をかけて来る咲耶を止めて、数段登った辺りで振り返った。下の方で不思議そうに立ち止まっている咲耶。ああいう顔してると、イケメンというより可愛い部類なのかも……じゃなくて! 

 ほんと久しぶりに見る咲耶の頭頂部を眺めながら、俺は不敵に微笑みながら言ってやった。

 

「チビ!」

 

 直後、猛然と駆け出して来る咲耶。え、何その微笑、知らないけど怖い! 

 慌てて俺も上に逃げ出したが、体格から運動神経まで、何もかもが違う。咲耶から聞こえて来る足音は徐々に近づいて来るばかりだ。

 このままじゃマズイ、と思ったのも束の間、俺は盛大に階段の角に躓き、前方に倒れ込んだ。ゴヌッ、と頭を階段にぶつけ、痛みが全身に響き渡る。

 

「いっだああああ! 頭凹んだああああああ!」

 

 マジでいてええええ! 久しぶりに走ってて転んだ! ていうか、階段で転ぶとヤバい、頭、膝、腹に至るまで見事に角が突き刺さる! 

 思わず涙目になっていると、そんな俺の背後に忍び寄る巨大な影。嫌な予感がして振り返ると、咲耶がにっこり微笑んでいた。

 

「……あ、さ、咲耶……」

「まったく、急に走るからそうなるんだよ。痛い所はない?」

「え? あ、うん……」

 

 なんだ、てっきり怒られるかと思ったのに……優しく、手を差し伸べてきた。ありがたく、その手を借りて立ち上がる。直後、ズキっと強打した膝に痛みが走った。

 

「っ……!」

「痛むのかい?」

「た、大したことないから!」

「ふふ、無理しなくて良い。背負ってあげよう」

「え、いやいいよ。俺、重いし」

「そんな事ないさ。怖がらせてしまったお詫びだよ。私が追いかけなければ、君はそんな怪我を負わなかった」

 

 ……うーん、まぁ正直痛いし、助けてくれるって言うなら……。

 

「……じゃあ、お願いします……」

「お任せあれ、将軍」

「!」

 

 あ、あー……そっか。俺は将軍だったのね。そういう遊びね。なら、それに付き合おうじゃないの。

 お言葉に甘えて、俺は咲耶の背中に乗っかった。グィーンと咲耶は俺を背中に背負ったまま、軽々と立ち上がる。ほんとすごいなこいつ。

 

「よーし、出発進こ……」

「所で将軍、まだ暴言については何も解決していなかったね?」

「え?」

 

 急に声のトーンが下がったような……と、思った時だった。唐突に咲耶は走り出した。割と不安定な山道を。

 

「ああああ! と、止まってええええ!」

「ごめんなさいは?」

「ご、ごめんなさいごめんなさいごめんなさい! ていうか、なんで人を背負ったままそんな早く走れんの⁉︎ 馬か!」

「絶対に止まらない。スタミナが切れるまで」

「あ、嘘ですすみませんでしたああああああ!」

 

 本当に止まらなかった。俺の心臓は止まりかけた。

 

 

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