俺は咲耶に弄ばれる。   作:バナハロ

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人の強さはフィジカルではなく中身。

 テニス、それはラケットでボールを打つ球技。テニスの起源は、聞いて驚け。なんと紀元前にも遡る。ピラミッドで有名なエジプトにおいて、宗教的な行為として球技が行われていた。……というか、スポーツって大体そうだよね。ボウリングも、紀元前から悪魔を払う儀式として行っていたって話だし。あ、いやでもサッカーは確か違った気がする。

 それから、フランス貴族の遊戯として16世紀以降に「ジュ・ド・ポーム」とかいう名前で呼ばれるようになったという。

 で、まぁなんやかんやあって、名前が「テニス」に変わったり、ルールが設けられたりして、今の形に落ち着いている。

 さて、そんなテニスも、今ではかなりのハイスピード競技。まず点数がハイスピードだよね。一発決まれば15点動くとか、出鱈目にも程がある。

 そんな話はさておき、だ。今日はその出鱈目なのに面白い球技で遊びに……じゃない、特訓しにきた。

 うちの近くで借りられるテニスコートでテニスし、咲耶にはわざわざ着替えを持ってきてもらって、この後はうちでシャワーを浴びてから着替えて飯を食って解散である。要するに、地元で遊んでた時の流れだ。

 

「よし、やるか!」

「まだ。ちゃんとストレッチしないとダメだよ?」

「あ、そ、そっか……」

 

 一緒に来た咲耶に怒られたので、準備体操をする。お互いにジャージを着て、ラケットを持ってきているので、格好だけは準備万端である。

 お互いに屈伸、伸脚、前後、アキレス腱……などなど、とあらゆる箇所を伸ばして、実際に練習開始。まぁ、二人ともテニスを本格的に習ったことがあるわけではないし、適当にラリーを始めるだけなんだけどね。

 

「行くぞー、咲耶」

「よし、こい!」

 

 さて、まずはアッと驚かせるか! 大学で習った新技だ。軽くボールを真上に放ると、そのまま俺は軽く膝を曲げ、一気にジャンプ。

 

「そこだ!」

「おっ……!」

 

 放ったのは、ジャンピングサーブだ! よし、成功。ちゃんとラケットはボールを捉え、咲耶の立っているコートに向かう。……スピード、クッソ遅いけど。

 おもしろいほど山形のボールが、フラフラとコートの方へ降りていった。一応、ワンバウンドすると、それを咲耶は打ち返してくる。まだ準備運動の一環だからか、強い打球ではなかった。

 それに対し、俺もボールを打ち返した。また、フラフラボールが咲耶の方へ向かう。

 

「相変わらずだね、返せるのにボールが可愛……弱い」

「う、うるせー!」

 

 可愛いとか言いかけるな! これでも必死だ! 

 咲耶から打ち返されるボールに走って追いつき、なんとか正確な場所に返すので精一杯……いや、精一杯っていうか、今日はちょっと調子悪いかんじ。

 しかも、咲耶から来るボールは夏葉ほどじゃないけど強い。だから、どうしても弱い球になってしまう。力むとラケット投げちゃうし。

 

「ふぅ、はぁっ……そら!」

「ふふ、少し上手くなってるかな? それっ」

「このっ! ……あ、ごめん」

 

 上から目線に腹が立って、ムキになったまま打ち返したボールは、大きく上に上がる。そのまま咲耶がいるコートに落下すると、バウンドして後方へ飛んでいく。

 コートの前方にいる咲耶は、それでも慌てない。内野フライでも取るのか、と言わんばかりに半身になりながらボールを見上げた後、落ち着いて後方へ走り、簡単に追いつくと平然と打ち返してきた。

 

「……」

 

 少し、腹が立った。なんであいつそんな打ち返せるの……。少し難しい球を返しやる。

 俺は手先だけは器用だからな。変化球とか、プロの人がやるような小技はマスターしてるのさ! 飛んできた打球に対し、俺は背中を向けると、股の下で打っ……! 

 

「ヴッ……!」

 

 ……股間を打ってしまった……。何してんだ俺……。

 股間を押さえて悶絶する俺の隣を、ポーンポーン……と、ボールが虚しく転がっていった。

 

「何してるんだ、君は……」

 

 呆れ声が後ろから聞こえてくる。咲耶が心配して声をかけてきてくれた。

 

「……タマ打った……」

「リアクションに困る泣き言はやめてくれ」

 

 お前が言うか。

 

「立てるか?」

「立てる……」

「休憩にしようか」

「いや、大丈夫……」

 

 ここは根性見せるべきとこでしょ。それに、強打したわけじゃないから、なんとか耐えられる。

 

「続き!」

「じゃあやろうか」

「うん」

 

 よし、やるぞ……! と、気合を入れ直す。久々に咲耶と身体を動かせるんだ。へばっている時間が勿体ない。

 わざわざ俺の元に歩み寄ってくれた咲耶は、再び元の位置に戻る。……が、その途中、ふと思い出したようにくるりと踵を返した。

 

「そうだ、圭吾」

「何?」

「ジャンピングサーブ、カッコ良かったよ」

「ーっ……!」

 

 そう言って、にこりと大人っぽく微笑まれ、少し心臓が高鳴った。

 ……そ、そっか。良かった……カッコ良かったんだ……。よーしっ、俄然やる気が出てきた……! 

 咲耶がコートに戻り、俺は後ろに転がったボールを取りに行くと共に、サーブ位置につく。

 トントン、とボールを数回、地面につきながら、咲耶を眺めた。いつでもどうぞ? と言わんばかりにラケットを構える咲耶に対し、俺は再びボールを真上にあげた。さっきより高く。

 

「行くぞ……!」

 

 それと同時に、ラケットを振り上げながら跳び上がった。

 

「そらっ……!」

 

 怒号と共にラケットを振り下ろしたが、ヒュッという音と共に、ラケットは空を切る。

 当たると思ったものを空ぶったことに慌てた俺は、そのまま体勢を崩して自由落下。着地にも失敗し、尻餅の後、流れるように頭を地面に打った。最後に、トドメと言わんばかりに鼻の頭にテニスボールが落ちてくる。

 

「……」

「……」

 

 沈黙ばかりがその場を支配する。恥ずかしくて死にたい俺は言わずもがな、咲耶までもが黙り込んでいた。

 

「……休憩にしようか?」

「そうする……」

 

 今のは来たわ、精神的に。

 

 ×××

 

 さて、まぁ最初のスタートがトチってただけで、割とその後はサクサクと特訓が続いた。

 しばらく、ラリーを繰り返す。まぁ二人とも素人だから、緩やかな山形を少しずつ返して回数を積み重ねるのだが。

 簡単に言ってるけど、素人が10回繰り返すのは難しいものだ。咲耶はともかく、俺はどうにも足を引っ張ってしまう。夏葉が相手だと、打球は強くて速いしもっと足を引っ張る事だろう。

 

「ふぅ……疲れて来た……」

 

 思わず座り込んでしまう。かれこれ一時間、身体を動かしっぱなしだ。

 

「ふふ、もうギブアップかい?」

「は? まだまだだし!」

 

 茶化すように言われ、すぐに元気を捻り出した。大丈夫、まだ元気でやれる! 

 そう決めて、立ち上がった時だ。ふらりと足元がふらついてしまう。そんな俺の様子を見て、咲耶が言った。

 

「……やはり、少し休憩にしようか」

「まだいけるから! てか、休憩って何? 食えるの?」

「無理をしても意味ないよ。休むべき時はしっかり休み、万全に近い状態でチャレンジした方が良い。違うかい?」

「……」

 

 仕方ないな。休もう。コートの脇にあるベンチに向かうと、咲耶も移動を始めた。

 実際にベンチに腰を下ろすと、疲れがドッと溢れてくる。もう若くないのかな……いや、19歳が何言ってんだ! まだまだ……! 

 ……でも、俺もうすぐ二十歳か。若者って、何歳までのことを言うんだろう? 

 

「ねぇ、咲耶。俺っておじさんかな……」

「いやいや、まだ若いよ。私にとっては、お兄さんさ」

「だ、だよね!」

「おっと、違った。愛しいお姫様かな」

「愛しいって……は? お姫様?」

 

 キレて良いのかな? 

 

「スタミナがつかないのは生まれつきだろう? そんなに気にすることではないよ」

「いやそうなんだけど……でも、やっぱカッコ悪いよなぁ……」

 

 はーあ……男らしい男になろうと思ってた俺が、こんな軟弱な奴になるとはなぁ。まぁ、あんまり言うと、産んでくれた両親にケチつけてるみたいで申し訳ないから言わないけど。

 そんな俺に、咲耶が優しく手を添えて語りかけた。

 

「圭吾。私は圭吾が例えスポーツが上手くても、背が高くても、カッコ良いとは思わない。何事にも一生懸命な部分や、全力な部分を、とてもカッコ良いと思っているんだ。だから、そんなにショックを受ける事ないよ」

「……」

 

 そういうことを平然と言うようになったなぁ……。一年前までは、そんなベタ褒めして来なかったのに。

 

「あ、ありがとう……?」

 

 ……なんか、普通に照れ臭いんだけど……。一年前にも結構、咲耶は俺のことを褒めてくれてたけど、なんかこの前、再会した時以降と……こう、内容とか気持ちの入れ方とかが違う気がするんだよなぁ……。

 そんな俺の心中を知ってか知らずか、咲耶は相変わらず不敵で素敵な笑みを浮かべたまま声をかけてきた。

 

「さて、そろそろ始めようか」

「だな」

 

 そうだ。今は咲耶の変化よりも、自分の練習だ。付き合ってもらっているんだから、真剣にやらないと。

 

「と、その前に……上着を脱ごうかな。温まってきた」

 

 そう言って、咲耶が脱ぎ捨てたジャージの下から出てきたのは、真っ白な体操服だ。

 ……ていうか、なんだろう。なんか透けて見えるな……胸を覆うように見える、黒い三角形が二つ……なんだあれ。まさか……ブラジャーじゃないよね? 玲奈が「下着で黒はない」って言ってたし。

 

「じゃあ、次は私から打つよ」

「ん、おう」

 

 軽くボールを放ると、咲耶はサーブを放った。ジャンピングではなく、普通のサーブなのに、俺のジャンピングサーブより遥かに早い。

 何とか打ち返すと、咲耶は同じようにボールを返してくる。そのまましばらくラリーを続けた。若干、左右に逸れたりもするが、なんとか打ち返す。

 休憩した後だからか、良い感じにラリーは進んでいく。5、6、7……と、かつてない順調さだ。

 俺がたった今から打ち返す球を咲耶が打ち返し、俺が打ち返せば10回は達成だ。

 打ち返した球は、咲耶の左側に向かう。それに対し、咲耶は片手バックハンドで返した。

 その打ち方は、通常の打ち方とは違い、打ち合えると身体が大きく逸らされる。直後、強直されたのは当然、咲耶の胸。それも、白い体操服の下から透けて見える、黒い下着によって、かなり強調された胸だ。

 

「ーっ……⁉︎」

 

 あ、バカ俺……集中力を乱すな……! 胸を見るなって! 変態かよ俺は……! 

 打ち返さないと……胸を見てて集中できませんでした、なんてカッコ悪くて言い訳はなんねえぞ! 

 そう噛み締め、球を打ち返そうと、ボールに目を向けてラケットを振り下ろ……! 

 …………超揺れてたな。

 

「あっ」

「えっ」

 

 ……また空振りした……。あと一回だったのに……。胸に、気を取られて……。

 その場で崩れ落ちた直後、ふと嫌な予感がした。咲耶にまたからかわれる……! 胸を見てました、なんて言えるはずがないが、再会してからの咲耶はイヤらしいほど勘が良いし、なんとかバレないようにしないと……。

 

「あははっ、惜しかったね」

「……あれ?」

「どうした?」

 

 ……なんか思ったより……普通? な感じ……。てっきりもっとイジられると思ったんだけど……。

 

「さぁ、次やろう。今の感覚を忘れないうちにね」

「お、おう!」

 

 良かった……いじられなかった! よし、このままやるぞ。もう胸には気を取られないように……もう、気を……。

 

「……」

「?」

 

 ……かわいらしく小首を傾げやがって……。少しは自分の身体の大人っぽさを知ってくれ。

 

「……上着着てくれない?」

「え? いや暑いから……」

「……あ、じゃあ良いけど……」

「……」

 

 考え方を改めよう。これは、煩悩を打ち払う修行だ。そう思えば、俺も集中できる……集中……! 

 

 ×××

 

 結局、胸を見ない事に集中できただけで、テニスに集中はできなかった。お陰で、レンタル時間が終わるまで10回ラリーを続けることは叶いませんでした。俺って本当に……。

 

「ふふ、惜しかったね」

「そうね……」

 

 9回ってのは何度かあったんだけどな……。

 

「でも、試験は七月なんだろう? まだ時間はあるんだし、また練習しようよ」

「そうなんだけどさぁ……」

「それに、楽しかっただろう?」

 

 そう言いながら、咲耶は俺の肩に手を置いた。相変わらず、男らしい仕草だなぁ……そんなんだから、イケメンなんだよ。

 

「だから、そう肩を落とさないで」

「……うん。サンキュ」

「それよりも、次にいつ会うか決めないとね」

 

 ……あ、心なしか声が少し強くなった。本当に次、会う日を決める時は真剣になるんだよなぁ。甘えん坊スイッチが入る。

 

「俺は基本、夕方とかなら空いてるんだけど、咲耶は?」

「私は……そうだね。次は火曜の夕方かな」

「あーごめん。その日は22時までバイトだわ」

「じゃあ、22時半に待ち合わせだね」

「いやいやいや、さすがにその時間には集まれないでしょ。そもそも未成年は21時以降の徘徊、禁止だから」

「……どうしてもかい?」

「ど、どうしてもだよ!」

 

 そんな珍しく甘えた声出してもダメ! 俺が許可出す出さないの話じゃないから! 

 

「じゃあ……次の休みは、私は木曜の夕方だね」

「木曜は……あー五限まである。18時半に終わるけど」

「決まりだね」

 

 あからさまにホッとしている……。一週間、予定が合わなかったらどうなっちゃうんだろう、この子。なるべくなら試験前に遊ぶのは避けたいところなんだけど。

 

「咲耶は本当に甘えん坊だよなぁ……。俺より背も高いしカッコ良いのに」

「見た目は関係ないよ。圭吾だって小さくて可愛いのに、中身はカッコ良いだろう?」

「カッコ良……え、ち、小さいとか言うなよ!」

「ふふ、冗談さ」

 

 ……まぁ、確かに見た目はカンケー無いか。それなら、夏葉だって大学生活エンジョイし過ぎてバカになる代表みたいな見た目してるのに、中身はメチャクチャストイックだし。

 そうこうしているうちに、うちに到着した。これからシャワーを浴びた後、着替えて飯を食いに行って解散である。

 

「咲耶、先に浴びてきて良いよ」

「ありがとう」

「はい。これバスタオルと体洗うブラシね。ドライヤーとかは洗面所に備え付けてあるから」

 

 それだけ言いながら、俺も着替えの準備をする。座ってタンスを適当に引っ剥がして私服を選んでいる時だった。

 

「圭吾」

「わーっ!」

 

 び、ビックリした……な、何? チラリと後ろを見ると、風呂に入ったはずの咲耶が立っている。

 

「風呂入ったんじゃないの……?」

「その前に、言うことがあってね」

「お礼なんていらないよ。協力してもらってる立場だし」

 

 ってか、座ってる俺の後ろに咲耶が立ってると、余計に惨めになるな……。もはや威圧感を感じるまである。

 そんな風に思っていると、咲耶は俺の身体を抱き締め、耳元で囁いた。

 

「……胸がそんなに気になるなら、見に来ても構わないよ」

「は? ……あっ」

「じゃ、お風呂借りるね」

 

 それだけ言うと、咲耶は洗面所に引き返した。ポツンと取り残された俺は、そのままフリーズする。最初は思考さえもままならなかったが、徐々に頭の中が真っ赤になっていく。

 

「あああああああ!」

 

 む、胸が気になって集中できてないのバレてたあああああああ! 死にてえええええええッッ‼︎

 この日、俺はまともに咲耶と顔を合わせられなかった。

 

 




感想をくれる方や評価くれる方、いつもありがとうございます。口下手なんで返信出来てませんので、ここでお礼を言っておきます。
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