「……くそっ、まさかあんな方法でイナズマ落としが攻略されるとは。すまない……」
「仕方ねえさ、元々は俺のステラ対策みたいだったが同じことだな。……だが……それでもギリギリ、ステラの方が高い。……円堂、どうしようもなくなった時、お前が望むなら……俺は、『撃つ』ぞ」
「絶対にダメだ!それに、そんなことしてたら荒射に頼りっきりになっちまう。俺たちは全員でサッカーしてるんだ、誰か一人だけを犠牲にするようなプレーはしたくない!」
まあ、お前ならそういうと思ってたぜ。だが、イナズマ落としが攻略された以上、有効なシュート技がないことも事実だ。原作ではこんな事態起こり得なかった故に、俺もどうしていいか分からない。唯一可能性があるとすれば染岡のドラゴンクラッシュ・ザ・リトルだが……俺は難しいと思う。やつら、動体視力も半端じゃあない、曲がったとしても追いつかれかねない。
「…………やっぱり、無駄な努力だったんすよ」
「何言ってんだ壁山!無駄な努力なんて、ひとっつもない!」
「でも、だって……あんなに練習したイナズマ落としが通用しないんす!……俺にフォワードも……かっこいいプレーも、無理っすよ、キャプテン……」
まずいな、これは。
壁山もそうだが、周りの栗松や少林、松野や風丸なんかも目を伏せている。不安というのは伝染する。
これは壁山が悪いわけじゃない。単に、対策をしてきた相手が一枚上手だっただけの話なんだ。どうにかして元気付けてやろうとしたところで……円堂が、壁山の頬を両手で押さえた。
壁山が困惑の声を上げる暇もなく、円堂が叫んだ。
「馬鹿野郎!!!まだ試合は前半が終わったばっかだろ!!!怖さに打ち勝ってあんなに練習してたお前のことを、かっこ悪いなんていう奴がいたら……笑う奴がいたら、俺がぶん殴ってやる!!!」
…………ま、流石だな。この一声だけで、不安な声は止まり、静かになっていた。狙ってやってるわけじゃない、これは円堂の本心だ。嘘偽りない、深い考えのない一言。
だが、だからこそ響くものがある。下を向いていた壁山は「キャプテン……」と前を向き直し、風丸たちも元の表情を取り戻していた。全くかなわねーな……こういうとこはよ。
「……そうだな。まだ試合は後半が残っている。荒射、お前がイナズマ落としを打つ役目を出来ないか?お前の跳躍なら、俺のように捕まらないだろう」
「厳しいな。俺は撃つ方の練習をしてないし……岩に乗るわけでもあるまいし、俺の跳躍に壁山の方が耐えられるか分からない。豪炎寺とは体重や体格も違う。何より……俺が雷のエネルギーを出すのが苦手なんだ。やっぱりお前たちじゃないと無理だ」
「そうか……いや、いい。なんとかしてみせるさ」
ハーフタイムもそろそろ終わる。さぁて、気を取り直したのはいいが、やはり有効打となるシュートがないことが致命的だ。
ステラは死ぬほどいてぇから撃ちたくない。撃ちたくないが……本当に、いよいよどうしようも無くなったらやらせてもらうぞ、円堂。
ーーーーーーーーーーーーーー
後半戦、お互いに有効な攻めもできないまま試合が進んでいったっす。
ただ、キャプテンは度重なるシュートを受けてボロボロ、ゴッドハンドも出すのはかなり厳しそうっす。一点……なんとか一点さえ入れられれば、キャプテンなら守り切ってくれるって信じてるっす。でも。
『お前に必要なのはちょっとだけの勇気だよ、壁山』
……………勇気だけじゃどうにもならないことだってあるっす、荒射さん。
踏み台になることを今更躊躇ったりはしないっす。でも、高いところは怖いし、もし怪我をしたらどうしようって思って……最後の勇気を出すのは難しいし、それだけじゃ勝ちには繋がらないっすよ。
「こいつ、もう俺の速度に……!」
「目が慣れて来たコケ!ボールはもらっていくコケよ……!」
「しまった……ッ、ダメだ打たせるな!少しでも円堂の負担を減らしてやるんだ!」
荒射さんに対応し始めた野生中の選手たちが、どんどんラインを上げていってゴールに攻め立てていくのがここからでもよく見えるっす。
敵陣にいるのは今、俺と豪炎寺さんに松野さんの最低限の要員。それ以外はほぼディフェンダーと言って構わないくらいのバックラインで、ストライカーの荒射さんまで守りに入って、なんとかゴールを抜かせないようにしている状態っす。
……本当は俺が、ゴール前で最後の踏ん張りを見せないといけないのに、その分風丸さんたちが頑張ってくれてるのか、ギリギリ0-0で止まってるっす。でも……延長戦にもつれ込んだら、間違いなく、いつかこの均衡は悪い方向で破られるっす。
「クイックドロウ……っ、なにぃ!?」
「スーパーアルマジロ!これなら取れまいウホ!」
風丸さんの俊足を生かしたドロウ技術が、身体を丸めて突進する野生中の技に突破されてキャプテンにシュートが向かう。でも、それでもキャプテンは必死でゴールを守ってくれているっす。
「ゴッド……ハンドォォォォォォッ!!!絶対に止める!!!」
「こいつ……さっきから何回技を使ってやがる!?もうそろそろ息切れしておかしくないのにウホ……!?」
5回目か6回目になるキャプテンのゴッドハンド。でも、もう強がったって無理っす!グローブをつけてたって、キーパーの疲労は隠せるものじゃないっす。肩で息をしてるし、熱血パンチだって撃つのは精一杯なはずなのに……!
振り返ると、全員が走っていたっす。松野さんや風丸さん、少林さん、豪炎寺さん。荒射さんも、半田さんも、サッカーを始めて間も無い目金さんも。
悔しいっす。本当なら俺がディフェンダーで頑張らなきゃ行けないのに……!
「と、取った……!取りましたっ、荒射さん!」
「よくやった目金!」
びっくりすることに、相手のイノシシみたいな体躯をした選手から目金さんがボールをかすめ取って行ったっす。相手のミスを拾う形だけど、目金さんなりの精一杯のプレー。
俺は……本当に、踏み台になるだけでいいんすか?
『山みたいだよな、壁山。悪口じゃなくてさ、ディフェンダーとしてめちゃくちゃ頼もしいっていうか』
『実際、抜くのには一苦労するぞ。ヒートタックルを受け止める奴なんて初めてだ』
……走馬灯みたいに、練習の風景が頭の中をよぎったっす。あのとき、豪炎寺さんのヒートタックルを無我夢中で受け止めて、「あっちー!?あついっす!?」なんて叫んだのは覚えてる。ちょっと炎が怖くなったのは内緒っす……。
俺は……踏み台になるだけの、かっこ悪い男でいいんすか?
「兄ちゃーーーん!!!頑張れーー!!!かっこいい必殺技、早く見せてくれよーーー!」
「…………サク……」
『かっこいいのは豪炎寺さんだけっす!俺、ただの踏み台っす!』
『踏み台なんてカッコ悪いよなあ』
……あのあと、声をかけてきた土門さんの言葉には納得してたっす。でもチームの為だからって、割り切って踏み台になろうと思って。
情けないっす。
みんな、力を振り絞ってサッカーしてるのに……俺だけが、踏み台でいい、なんて妥協して。
前を見る。
染岡さんが出来たように……俺ならやれるって、自信を持って……!!!
「荒射さん!!!ボールを、くださいっす……!!!」
…………一秒の躊躇いもなく、俺の元へボールを蹴り出した荒射さんの姿を最後に。俺は豪炎寺さんと、全力で敵陣まで踏み込んでいったっす。
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「…………信じてるぜ壁山……!」
イナズマ落としは成功しない、なんて考えは、壁山の声で頭から消えていた。あいつの目は死んでねえ、前を見てるやつの目だ。
なにか考えがあるんだろう、きっと決めてくれると信じて、躊躇いなくボールを渡した。
「無駄だコケ!その技は通用しないコケよ!」
……二人がイナズマ落としの姿勢を取り、そしてディフェンダーのゴリラと下がってあるカメレオンが再びイナズマ落とし破りのフォーメーションを組む。あの跳躍は確かに脅威だ、それこそ……なにか、特別な方法をしてより高く飛ばなければ奪われるぞ。
かっこいいところ、見せてくれよ、壁山……!!!
「……俺は、俺は……!踏み台になるだけじゃ、ないっす!!!豪炎寺さァァァァんっ!?」
「っ、これは……いや、これなら!」
ーー壁山の背後に、『壁』のような岩が聳え立つ。いや、正確にはエネルギーを岩のように強く固めて隆起させる必殺技……!エネルギーの岩に阻まれて、カメレオンはまだ高く飛び上がることができていない。
当然ボールにまでは届くわけもなく、「馬鹿なァ!?」と声を上げている。
「この、エネルギーの足場が有れば……跳べる!!!」
「『ザ・ウォール』っす!豪炎寺さん……もう豪炎寺さんのところまでは行かせないっす!だから!」
「まかせろ……壁山!これが、これが俺たちの……!!!」
ーーエネルギーの岩を足場にして、豪炎寺が炎を纏って『回転』した。
あの技……ファイアトルネードは、ある程度の高度とパワーと引き換えに溜め時間やしっかりとした足場が無ければ打てない技だ。しかし、壁山のエネルギーのおかげで大地を踏みしめるのと変わらない勢いで舞い上がる。
通常のファイアトルネードではない、雷を纏った、壁山を越えて撃つだけ更に高度の増した……イナズマ落としよりも、俺のステラよりも高い位置からの、ドロップシュート!
「「雷炎落としィィィィィィィィィィッ!!!」」
ーー打ち出されたボールに見事反応してみせた野生中のゴールキーパー。だが、ワイルドクローなる技はボールの纏う炎と雷に破壊され、ゴールネットへと突き刺さる。
………………同時に試合終了のホイッスルの甲高い音が鳴り響いた。
最高にかっこよかったぜ、壁山。