帝国との試合当日、部室で待機していると突如響いた大きな音。慌てて全員で部室の外に出ると、そこにはまるで戦車のような黒塗りの巨大な車。
そして、その扉からグラウンドに向けて敷かれた真っ赤なカーペットの上をゆっくりと、王者の風格を醸し出して歩いてくる帝国の選手達。
円堂はそんな帝国の選手たちに物怖じせず、ゴーグルにマントをつけた男に頭を下げて握手を求めていた。ありゃ間違いなく鬼道さんだな……いや近くで見るとすごいな。ドレッドヘアも相まって同い年には見えない。ほんとに中学生なのかお前。
「初めてのグラウンドなんでね。悪いが少しばかり、ウォーミングアップしても良いかい」
「えっ?……あぁ、それは勿論、どうぞ……?」
円堂が差し出した握手は帝国のキャプテン、鬼道に無視されたがそんなことどうでも良くなるほどのことが目の前で起こった。ウォーミングアップで見せつけられた帝国のプレーは、俺たちとはまさに次元が違う。
目で捉えられない程のスピードで行われるパス、それをこぼさないトラップに、脚から外さないコントロール、そして並の学校ならストライカーを貼れるほどの高い威力を誇るシュートを全員が決めていく。これは……予想以上だぜ……
「……ほんとに勝てるのかよ」
完全に気圧されてしまったな。こんなチームならウォーミングアップなんていらないだろう、これは明らかに俺たちの戦意を削ぐためのもので、ウォーミングアップなんて二の次だ。
大丈夫かマジで。円堂が叱咤激励するが、それもどこまで効果があるもんかね。
試合開始時、帝国のキャプテンである鬼道がコイントスを放棄したためにボールは雷門チームからのスタート。まあ自分たちが負ける、まして点を取られるなんて毛ほども思ってないんだろうよ。
あといつのまにかベンチには見慣れない子がいた。音無だ、ここで試合を見てマネージャーになってくれるんだな。そしてもう一人、将棋部の角間がいた。サッカーを実況してくれるらしい。……それ放送部の仕事なんじゃねーのって突っ込んだら負けなのかな。
ちなみに目金はいない。なんでって……人数揃ってるし……自分から入ってこなかったし……誘う理由もないし……。
『さあ!試合開始のホイッスルが鳴りました!いよいよ雷門バーサス帝国、どうなってしまうのでしょうか!』
ホイッスルが響くと同時に、俺は隣の染岡にボールを蹴り、フィールドを敵陣まで一気に駆け上がる。別に必殺技は今のところステラしか使えないが、普通のシュートが無意味なわけではない。まあ源田に通用するかは知らんけどな。
染岡は後ろのミッドフィルダーの半田にバックパス。半田、松野、染岡でパスを回して敵陣まで上がる……が、これはまずい。帝国の選手、寺門が走り込んできている。
「半田!下がれ!」
「もう遅い!キラースライドォッ!」
スライディングと共に足を連打するような凶悪なブロック技。パスを受け取ったばかりの半田が避けられるはずもなく、その鋭いスライディングを受けて吹き飛ばされボールを奪われる。
分かってはいたが基礎能力があまりに違いすぎる。寺門と佐久間、鬼道の三人だけでミッドフィルダーもディフェンダーも『ジャッジスルー』『分身フェイント』のようなドリブル技一つであっさりと追い抜かれている。瞬く間に円堂の守るゴールまで帝国はたどり着き、佐久間がシュートの体制に入る。止められるか、円堂……!
「喰らいな……!フリーズショット!!!」
「止めてみせる……!熱血パンチ!!!」
佐久間が足を振り上げると、フィールドに氷のエネルギーが張り詰める。それをボールに収束させ、叩き付けるシュート技…!対する円堂は熱意をその拳に込めて、氷の一撃を殴りつける。しかし、徐々にそれは押し込まれて……円堂の身体ごと、ゴールに突き刺さった。
「うわあぁああぁっ!!!」
「円堂ォッ!大丈夫か!」
「あわわわわ……きゃ、キャプテンがあんなにあっさりゴールされるなんて……」
分かってはいたが、やはり無理か……!帝国の中でもやはり佐久間と鬼道は別格だ。天才とされる鬼道に霞んでいるが、佐久間だって全く引けを取らない選手だぜ……!
俺たちが帝国の本気を思い知るのはここからだった。
この後雷門からのボールでリスタートとなるが、染岡をキラースライドが襲う。風丸にはジャッジスルーという、審判から判断の難しい角度でボールごと選手を蹴飛ばす凶悪ドリブル技やフリーズショット、百烈ショットと言った高火力のシュート技をブロックしようとして身体に叩きこまれる始末。
その全てがギリギリでファウルにならないよう手加減されているが、こんなプレーを受けてまともに立っていられるわけがない。残ったのはキーパーである円堂と、もともとのフィジカルがある俺や染岡、風丸だけ。しかも、その円堂だって強力なシュート技を何本も受け止めて傷だらけだ。これ以上打たせるのはまずい、まだゴッドハンドだって完成してないんだ。
気がつけばスコアは19-0。抗いようのない、無慈悲な点数差。
だが、帝国はこんなもので終わらない。ふらふらの円堂に向けて、さらなる技が叩き込まれようとしていた。
「デスゾーン、開始」
エネルギーをトライアングルに囲み、一切の無駄なくボールに込めて放つ殺意でも宿したかのような一撃。鬼道、佐久間、寺門の3人がかりで放たれたその一撃を正面から受け止めようとした円堂だが、ゴッドハンドも無しで止められるわけもない。熱血パンチなんか使えば手首を痛めて試合続行など不可能になるだろうよ。当然のように、スコアが20-0へ移行する。
フィールドの中には立っているのは俺と円堂だけ。円堂に再び百烈ショットが打ち込まれる、が。……風丸が走り込み、無理矢理にシュートをブロックする。
「……こんなの……こんなの、サッカーじゃない……!」
風丸……お前……試合前に無理するなって言っただろうが!お前は陸上部で、サッカーにこれ以上付き合う必要はねぇんだぞ!
円堂が倒れた風丸に駆け寄ると、佐久間のフリーズショットがガラ空きのゴールに叩き込まれようとして、円堂が戻る。…………が、だめだ。その体制は腕を痛める!いまお前に腕を怪我してもらうわけにはいかねーんだよ……!
「円堂ォォォォォォッ!」
気がつけば俺は走りだし、ゴール前の円堂を身体で庇っていた。……が、衝撃はやってこない。俺の前には、松野と影野が盾になるように立っていたから、だ。ボールを身体で受け止めた二人は地面に呻き声を上げて倒れた。ばかな、なんでお前ら……お前らだってサッカー部に俺が誘っただけだろうが!染岡達なら兎も角、お前らがここまで必死になる理由がどこにある!?
「…………飽きっぽい僕に、呆れもせずにブロックの練習を手伝ってくれたのは君じゃないか。サッカーに誘ったのも、キャプテンじゃなくて君だろ、荒射……」
「影が薄くて中学でも一人なのかなって……俺に声をかけて、サッカーに誘ってくれた。俺のことをちゃんと見ていてくれて、コートの中だけでも目立たせようとしてくれた……嬉しかったんだ」
「…………お前ら………」
………使わないつもりだった。だが、気が変わった。確かに俺がアーラシュなのは見た目だけだ。だがな。
見た目だけでもアーラシュだ。あの大英雄が、仲間にこんなことをされて黙っていられるか?いいや、黙ってない。彼なら絶対に、立ち上がる。影野と松野の気持ちを無駄にしてたまるものか、目に物見せてくれるぜ。
「………………染岡、半田、壁山。パスだけでいい、俺にボールを回してくれ。……円堂、いつか言っていたな、必殺技を見せてくれと」
「…………まさか、荒射!やってくれるのか!?」
「ああ、任せろ……!」
帝国学園。
貴様らに、流星を見せてやる。
お願い、死なないで源田!あんたが今ここで倒れたら、鬼道や佐久間との約束はどうなっちゃうの? 体力はまだ残ってる。ここを耐えれば、雷門に勝てるんだから!
次回、源田(の腕)が死す!デュエルスタンバイ!