「ってことで、今日から新しくサッカー部に入ってくれることになった豪炎寺に風丸、そんで、目金だ!みんな、よろしくな!」
いやどういうことだよ
あのあと怪我から一日で復帰した。流石アーラシュの身体だわ、めっちゃ頑丈。病室に飛び込んできた円堂達からは、豪炎寺がシュートを決めたこと。帝国が棄権して試合に勝ったこと、それによって廃部が免れたことを伝えられた。まあそこまでは原作通りだし、知ってたことだから何も問題はなかった。
だがこれは待ってくれ、本当に意味がわからない。豪炎寺がサッカー部に入るのはもう少し先の話だろ???風丸も正式にサッカー部に入るのは戦国伊賀島、目金についてはそもそも入ってくる要素があったか???えっ嘘だろなんでだ。
目を白黒させながら驚いていると、豪炎寺が小さく「お前には負けない」と呟いているのが聞こえた。
あっそういう感じですか?
いやでも、二度とステラは使わんぞ、ほんまに。病院でも大谷と円堂にブチ切れられたからな……特に大谷がまじで怖かった……般若みたいな顔してた。
「豪炎寺は妹さんのことで悩んでたらしいんだけど、荒射の見舞いで行った時に一緒に話してくれてな!フットボールフロンティア、優勝目指して頑張ってくれるってことになった!」
「改めて、豪炎寺修也だ。これでも木戸川清州ではエースストライカーだった。役に立てると思う」
俺のせいかよ!!!!!!
風丸は!?風丸はどういう心境の変化なんだマジで!?陸上部のほうが絶対いいって、こんな地面からペンギン出したり分身したりするサッカーよりよっぽどお前なら上を目指せるって考え直せ!!!
「いやぁ……ずっと考えててな。陸上は勿論好きだけど、お前らとやるサッカーも楽しくって。部活なんだし、やるからには助っ人じゃなくってちゃんと仲間としてグラウンドを走ってみたくてな。風丸一郎太、ディフェンダーだ。よろしくな」
「………め、目金は!?目金、サッカーどころか運動部初心者だろ、なんでわざわざ!」
「…………な、なんだっていいじゃないですかそんなこと!」
怪しさ100%だよ何企んでんだメガネェ!!!変なことしたら顔面にステラ打つからな覚えとけよ!?
あぁ……原作からどんどん遠のいていく……いや別に原作をなぞろうとは思ってないしいいんだけど、精神的なダメージが……!!!
ーーーーーー
「どうしたもんかね………」
新しく入ったメンバーをチームに加えてからの練習。俺は気分が優れないからと、一人で黙々とシュート練習していた。ステラ以外の必殺シュートの練習にもなるしな。
ちなみにスタメンには影野が抜けて豪炎寺が入ることになった。影野は「人のプレーを観察するのが得意なんだ。ベンチでも誰かが疲れた時の代わりにはなるし大丈夫」と納得していた。
多分、うちのメンバーで体力の少ない壁山や栗松と前半後半でしばらくは入れ替えかな。目金は勿論、しばらくはベンチ。まあ運動部初心者だし仕方ないな。俺もうかうかしてられねーや。
「………………あの……」
と、一人で考えながら十回目のシュートが終わり、振り返るとそこには目金。片手には新品のボールを持っていて、はて、俺に何かあるのだろうかと身構えてしまった。
「ん?なんだ目金か。どうしたんだ、俺になんか用か?」
「………いえ、その。用事というか……あの……し、シュートを」
「シュートを?」
「…………………シュートの、やり方を……教えてくれませんか。まっすぐ飛ばなくって……」
「えっ」
………言っちゃなんだが意外や意外。アニメ版だとまあまあサッカーに向き合う姿勢は見られたが、ゲーム版だとサッカーにはまるっきりだったもんな、目金。どっちでも帝国との試合では逃げ出してたし。
その目金がこんなふうに練習を頼んでくるのは本当に意外だった。とはいえ、頼まれて断る理由もない。俺は快く引き受けることにした。
「いいぜ、俺で良かったらな。じゃあ基本的なシュートから行くか。ちょっと蹴ってみてくれ」
「こ、こうやって打ってるんですけど……」
「あー成る程、ちょっと違うな。そら、こんなふうに足の横……インサイドを使って蹴るんだよ。やってみな」
「…………こう、ですかっ!」
「いいぜ、上手いぞ!ただもっと内側だな、ちょっと窮屈な姿勢かもしれねーが慣れだ慣れ。そら、キーパーやってやるから打ってきな!」
「はい!」
ーーーーーーーーー
日が暮れるまで、結局目金と付きっきりで練習した。途中から風丸と円堂も入ってきて、最終的には3人で円堂のキーパー練習みたいになってたがな。まあ楽しそうだったし、実りもある練習だったしいいか。
しかしほんとに意外だな、目金のやつ、すぐサボるかなと思ってたのに全然そんなそぶりは見せなかった。結構初心者にはキツい練習だったはずなんだが。
「ぜー……ぜー……か、風丸くんはなんで僕と同じ新入部員なのに平気なんですか……」
「そりゃ、俺は陸上で体力つけてたからな。サッカーの練習もまあキツいけど、全然平気だよ」
「うぅ………」
だろうな、やっぱ辛かったみてぇだ。俺も円堂もちょっと張り切りすぎちまったな。今日みたいな練習ばっかだと目金とか体力の少ないメンバーが身体壊しちまうし、あとで大谷たちに練習メニューを相談してみるか。
と、まあ。頑張ったやつにはご褒美が必要だよな。
「よっ、お疲れさん。初日なのにハードなもんにしちまって悪かったな。こいつは奢りだ、取っときな」
「……いいのか、荒射?くれるなら有り難くいただくよ」
「ぜぇ、ぜぇ……あ、ありがとうございます……」
自販機で買ってきたスーパーウォーターをそれぞれ風丸、目金に投げ渡してやる。220円ってちょっと高い飲料水だが、まあ今日くらいはいいだろ。
目金のやつはよほど喉が乾いていたのか、「ぷはー!」なんて言いながら半分を一気飲みした。疲れてたんだなあ……筋肉痛、気を付けろよ。免れないけど。
「明日はグラウンド使えないだろ?どこで練習するんだ」
「雨が降ってなけりゃ河川敷だな。まあ降ってたら……体育館も使えないし、一日休みかね」
「わかった、あとで染岡達にも伝えとくよ」
そのまま何事もなく、俺と目金、風丸は手を振って分かれた。
翌日雨が振って休みになったが……河川敷で、一人、橋の下でボールをマーカーに向けて延々と不格好に蹴っている目金を見つけた。
断られたらそのまま立ち去るつもりだったが、声をかけたら受け入れられたし手伝ったよ、勿論。根性のあるやつは、嫌いじゃないんだ。疑って悪かったな、目金。
でもなんで急にサッカーをやりたいと思ったのか、それだけはどうしても答えてくれなかった。ほんとになんでなんだろうな?