戦姫たちの提案により、カラオケ大会が開かれる。
実力者たちが揃う中、ジョンストンは優勝できるのか!?
※作者より
劇中に登場する曲の歌詞は、X-Japanの”紅”と水樹奈々の”エターナル・ブレイズ”をのぞき、すべてオリジナルです。
それと、”紅”、”エターナル・ブレイズ”の二曲とも、歌詞は使用しておりません。
パールベイ基地の各所に置かれた目安箱。そこに寄せられる陳情書には、実にいろいろな意見が書かれている。
訓練法の改善案、食事への不満、娯楽に関する意見。こういったことを出来る限り叶えるのも、指揮官の大切な仕事だ。
そういうわけで今、僕は執務室の椅子に腰かけ、机に散らばった多くの要望書を読もうとしている。
秘書のジョンストンは朝日に呼び出されて留守だ。いったい何の件だろう、怒られてないといいんだが……。
むやみに心配してもしょうがない、人の事よりまず自分の仕事。生ぬるい紅茶を一口すすって要望書の一枚を手にする。
”姉妹は同室という寮のルールはやっぱりなくすべき! ガオ!”
投稿者名は……匿名か。いったい誰だろう、サヴェージ? 姉のソーマレスは怒ると怖いからなぁ、同室だと気苦労が絶えないだろう。
でもこのルールは朝日が決めた鉄の掟だ。僕には変更できない。残念だが諦めてくれ、じゃあ次。
”私の見るところ、指揮官は能力不足です。かわりに強くて美人のキング・ジョージⅤ世が指揮を執るべきだと思います!”
またもや匿名、でもこれ間違いなくジョージ本人が書いてるよね? まったくこの子は……。却下! 次!
”時々でいいですから、弱い子でも秘書にしてください。あと出撃チャンスもください”
これは匿名投稿ではないけれど、名前のところのインクがにじんで読めない……。誰だ? Fで始まる戦姫……あっ、フューリアスか。
とりあえず次の哨戒任務をフューリアスに任せることにしよう。じゃあ次。
”親睦を深めるためのレクリエーションとして、カラオケ大会を開いてはいかがでしょうか?”
ふむ。興味深い。で、誰の提案だ? 名前は……。
所は変わって基地内の居酒屋、カウンター席。僕はウーロン茶の入ったコップを手に、カラオケ大会の提案者であるフッドの話を聞いている。
「この前ここで飲んでいた時、レパルスさんが言ったんです。軍隊に歌はつきもの、じゃあカラオケ大会をやったらぜったい面白い、って……」
「それ、単にレパルスが歌いたいだけじゃないの? 彼女はギターやってるみたいだから……」
「ふふ……そうかもしれません。でもカラオケ大会って素敵だと思いませんか?」
カウンターの内側でコップを磨いているレンジャーが口を開く。
「私もフッドさんに賛成です。是非やりましょう!」
これあれだな、僕の知らないところで根回し的に話が成立してるな。きっと多くの戦姫たちが望んでいるんだろう、だったら許可しなくちゃ。
「OK、わかったよ。じゃあ開催する方向で朝日に掛け合ってみるから……」
フッドの顔がほころぶ。
「本当ですか! やったぁ!」
レンジャーも実にいい笑顔でうなずく。
「さすが司令官、それでこそ私たちのリーダーです!」
なんか、うまいこと話に乗せられてしまったような……。まぁでも、たまにはこういうのもいいだろう。
朝日は快く許可を出し、かくしてカラオケ大会が開かれることになった。もっとも、軍務の都合上、開催日はずっと先になってしまったが。
それでもみんな大喜びで、気合いの入った戦姫たちはこっそり歌の練習を始めるほどの盛り上がりだ。
いちおう僕は、「仕事に支障が出るほどのめりこんではダメだぞ」と釘を刺しておいたが、果たして何人の子が言うことを聞いてくれるのやら……。
今も基地のどこかから歌声が聞こえる。中庭のあたりだろうか? 僕は練習風景をのぞいてみたくなり、こっそり忍びこむ。
♪胸に渦巻くトルネード 甘酸っぱいレモネード
こみ上げてくる情熱が 心のコップを満たしてく
溢れる気持ちが世界を塗り替え
ひとつの奇跡を呼び起こす
楽し気に歌っているその子の後ろに近づき、驚かせようとして声をかける。
「ハロー、ジョンストン」
「わーっ!? 指揮官!?」
振り向いたその顔は、なぜか真っ赤に染まっている。あら?
「どうしたの?」
「だ、誰だって驚くよ! こんなことされたらっ!」
「ごめん……」
「もう! もうっ!」
「いや、ほんとゴメン。で、カラオケ大会の練習?」
「え? あっ、まぁ、そんなところかな……」
「いい声だったよ。上手なんだね」
「本当!? えへへ……」
うーん、軽く褒めただけでこんなに強く反応するとは。もしかしてジョンストンはおだてに弱いんだろうか?
でも実際かなりうまかったしな。決してご機嫌取りでいい加減に褒めたわけじゃないぞ。うむ。
「それだけ上手だったらきっと優勝だよ」
「指揮官、ありがとう。でも私より凄い子はたくさんいるから、ちょっと自信なくって……」
「いや、そんなことないって。きっと勝てる」
「そうかなぁ……」
「勝負の前から怖がってちゃダメだよ。それに、歌は気持ちが大事だから。
歌唱力がちょっと低くても、そのぶんを気持ちで補えばいい」
「気持ち……」
「さっきのってラブ・ソングでしょ? もしジョンストンに好きな人がいるなら、その人への気持ちをたっぷり歌声に乗せればいい。
そしたら曲の魅力が百倍になって、絶対優勝さ」
ジョンストンを励ますため、僕はにっこりと笑う。彼女の顔の曇りが晴れ、いつもの元気な調子が戻ってくる。
「うん! とにかくやってみるよ、応援ありがとう」
「頑張ってね」
「任せて! 全力で戦ってくる!」
「あはは、でも無理しちゃダメだぞ? 仕事があるんだからね。ところで、ジョンストンの好きな人って……」
そこまで言いかけたところで基地内放送が流れ出す。朝日の声だ。
「指揮官くぅん、ちょっとオース・エネルギー室に来てもらえる? 機械の調子がおかしいの~」
やれやれ、またか。こないだ故障してからずっとこれなんだよな。
「ごめん、ジョンストン。そういうわけだから、もう行くね」
「はい!」
「また後で~」
はぁ、今日も大変な1日になりそうだ。
さて、時は流れて大会当日。運動場には臨時のステージが設けられ、観客席に戦姫たちが腰かけている。
もっとも僕はそこにはいないが。今の僕は審査員、したがって朝日と一緒に審査員席だ。
ステージにはジャッジ戦姫のハーミーズが立ち、マイク片手に活き活きと大会を仕切っている。
「それではー! パールベイ基地、カラオケ大会を始めますっ! みなさん、優勝めざして正々堂々、戦いましょう!」
会場がどよめく。
「いぇーい!」
「姫、がんばれっ!」
「天使たちバンザイ!」
盛り上がる会場の勢いに乗ってハーミーズが喋る。
「さっそく一番手の登場です! 音楽といえばこの方、アリシューザ!」
「楽団活動で鍛えた歌声、みんなに届けー!」
おぉ、いきなりの大物! プロ同然の子が初手とは、こりゃあ激しい争いになりそうだ。
「聞いてください、"タイニー・エンジェル"!
♪いま 天使の翼を広げ 君を迎えにいくよ
シャイニー・スマイル! タイニー・エンジェル!」
さすがに上手だな。でもパンチが弱いというか、どうも印象に残らん。うぅむ。
採点は……85にしておくか。僕は審査員用紙に記録し、ハーミーズが次の出演者を紹介するのを待つ。
「続いてのシンガーはこの方、ベルファスト!」
「みなさま、こんにちは。精いっぱい歌わせていただきます、よろしくお願いします」
そっと朝日が僕に言う。
「へぇ~、ベルちゃんが出場なんて、ちょっと意外じゃない?」
「確かに……。いったい何を歌うのかな」
「アヴェ・マリアとか?」
音楽が始まる。こ、これは……!
「みなさま! いきます! ”紅”だぁぁぁああああぁぁぁあああぁあぁあああああぁぁぁあああぁぁああぁぁあぁああ!」
例の悲し気な前奏は省略され、いきなりツーバス・ドラムが鳴り響き、エレキ・ギターの轟音がうなりを上げる。
ロック好きの戦姫たち、特にレパルスが「やったぁぁああぁあぁああぁぁ!」と大興奮する中、僕は呆然とつぶやく。
「思い出した……。以前に読んだベルファストのプロファイルに、こう書かれてた。”意外とヘヴィメタルが好み”だって」
朝日がうなずく。
「なるほど~。だからこの選曲なのね~」
普段の穏やかな様子とはまったく逆の、荒ぶるメタル・レディと化したベルはあっという間に歌い終えて話す。
「以上、ベルファスト、”紅”でした。みなさま、ありがとうございました」
いやぁ驚きだ、90点! こんだけ凄いのがきちゃうと、次に出る子はやり辛いだろうなぁ。
「では、三番手! ジョンストンの登場です!」
ステージ隅にある待機者用の席から、緊張した面持ちのジョンストンが立つ。彼女はトコトコとマイクへ歩き……途中でこける。
「わぁっ!」
さいわい大したケガはなく、すぐに立つが、アガりまくってるのがバレバレだ。ハーミーズがちょっと心配そうに言う。
「大丈夫ですか、ジョンストンさん?」
「こ、こんなの平気だよ! ぜんぜん問題ないから!」
「わかりました。でも無理はしないで下さいね」
「はい! それで、曲のタイトルなんですけど、えぇと……」
言いかけてジョンストンは固ってしまう。こりゃ頭が真っ白になってるな。励ましてあげなくちゃ!
「おーい、ジョンストン! イージー、イージー! 気楽にね! 平常心!」
ジョンストンが僕を見る。僕は以前のように微笑む、それが功を奏したらしく、彼女の緊張が解けていく。深呼吸して彼女は喋る。
「えぇと! 曲名は、”ワイルド・ラブ”! 頑張って歌うから、みんな、聞いてください!」
明るい音色のシンセサイザーがイントロを奏で、アップテンポな曲と共に歌声が流れだす。
「♪胸に渦巻くトルネード 甘酸っぱいレモネード
こみ上げてくる情熱が 心のコップを満たしてく
溢れる気持ちが世界を塗り替え
ひとつの奇跡を呼び起こす
ワイルド・ラブ 伝えたい
ワイルド・ラブ この気持ち
世界でいちばん あなたが好き
だからどうか いつも私を見ていて……ね!」
どうしてだろう、僕の胸に切ない気持ちがこみあげてくる。
アリシューザやベルファストと比べると、ジョンストンの歌唱力は正直すこし負けていると思う。なのに心が揺さぶられる。
僕は夢中になって聞き入り、やがて曲が終わってジョンストンが言う。
「以上、”ワイルド・ラブ”でした! みんな、ありがとう!」
言い終えた彼女は僕を向いてにっこり笑う。僕は不思議と恥ずかしい気持ちになり、顔が紅潮するのを感じる。
朝日が冷やかしてくる。
「あら? 指揮官くぅん、どうしたの? お熱?」
「え? いや、違、なんていうか……」
「あらあら。純情なのね~」
もう! なんだよ、人で遊んで!
にしても、歌ってるときのジョンストン、すごく可愛かったな……。
結論からいえば、優勝したのはシャルンホルストだった。
そりゃあそうだろう、あんな超絶歌唱力で”エターナル・ブレイズ”を歌ったら、誰も勝てるわけない。まるで水樹奈々ご本人が歌ったみたいだった。
比叡のような歌好きの子をもしのぐとは、シャルンホルストおそるべし。戦争が終わっても戦姫から歌姫に転身して食っていけるだろうな。
ところでジョンストンだが、優勝を逃したことが悔しかったのだろう、次の日に執務室でこう言った。
「ごめん、指揮官……。私、負けちゃった」
「そんな落ち込むことないよ、ジョンストンは凄く頑張った。もしシャルが出場してなければ君の優勝だったよ」
「う~ん……そうかなぁ? でも私、ところどころミスちゃって、そもそもこけちゃったし……」
「そんなの気にすることないよ。あのね、ここだけの話だけど。僕がいちばん高い点数をつけたのは君なんだ」
「えぇっ!?」
「だってめちゃくちゃ感動したからさ。少なくとも僕の中ではジョンストンが優勝、そう思ってる」
「……もぉ! 褒め過ぎだよぉ……」
あまりに照れたせいだろうか、ジョンストンはそっぽを向いてしまう。その様子が可愛らしくって、僕は思わず写真に撮りたいと思った。