もしも聖杯戦争にあの英雄が召喚されたら。

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ランスさんへの愛がついあふれてしまった。




英雄の召喚

 冬木市のとある夜

 

 間桐邸の地下にある魔術工房、または蟲蔵と呼ばれているそこには一人の少女がいた。

 

 少女の名は間桐桜。幼少期からおぞましい蟲達によって拷問の様な恥辱の限りを尽くされてきた少女である。

 

 彼女の傍には、まるでゴキブリの様な見た目の黒い蟲が蠢いていた。

 

 常人なら見るだけで嫌悪感が生まれるであろうそれらの蟲達はまるで意志でもあるかのように一つに集まると、いつの間にかそこには一人の老人が立っていた。

 

 老人の名は間桐臓硯。500年以上生きているとされるこの老人は間桐家の現当主であり、桜の祖父である。

 

「クク、桜よ。英霊召喚の儀に抜かりはないな?」

 

「はい。全てはお爺様の指示通りに」

 

「よかろう。そろそろ時間だ。では、始めろ桜」

 

「はい。お爺様」

 

 聖杯戦争。それは万能の願望機である聖杯を手に入れるための儀式。

 

 聖杯に選ばれし七人のマスターはその手に令呪と呼ばれる特殊な魔術刻印が刻まれる。

 

 マスターは英霊召喚の儀を行い、呼んだ英霊と共に最後の一組になるまで聖杯を求め殺し合う。

 

 殺し合いの果てに、最後に残った一組のみが聖杯を使い、自らが望んだ願いを叶えることが出来る。

 

 間桐桜の右手には令呪が浮かびあがっていた。すなわち彼女こそ、もうすぐ始まる第五次聖杯戦争の参加者である七人のマスターの一人である。

 

 桜本人には命を賭してまで叶えたい願いなんてものは無かった。少なくとも桜自身はそう思っている。

 

 それでも桜には聖杯戦争を勝ち残らなくてはならない理由があった。

 

 勝つ為には、今宵行う英霊召喚の儀はまさに分水嶺である。

 

「素に銀と鉄。礎に意志と契約と大公。降り立つ風には壁を__」

 

 詠唱が始まった。うす暗く狭く、瘴気が漂う地下の蟲蔵に少女の声が響く。

 

 桜は願う。強く、優しく、自分を守ってくれるような、そんな存在、そんな英霊が目の前に来てくれることを……。

 

 彼女のその願いは勿論本物であったが、本心ではどこか懐疑的であった。

 

 なぜなら彼女は知っていたからだ。彼女が願ったような存在は、今までの人生で誰一人としていなかったのだから。

 

「閉じよ。閉じよ。閉じよ。閉じよ。閉じよ。繰り返すつどに五度__」

 

 召喚されるサーヴァントは、マスターの性格や思想、生き方や容姿が似ることが多いとされている。

 

 ならば。

 

 姦淫に染まるこの醜い身体の自分には、いったいどんな英霊が召喚されるのだろうか。

 

「抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ--!」

 

 詠唱が終わる。

 

 まるで煙幕の様な煙の中に立っていたのは一人の青年であった。

 

 茶髪に染まった髪、整った顔、緑色の服と白銀の甲冑に身を包み、腰には西洋の剣のようなものが差さっている。

 

 恐らくは、英霊召喚の儀に呼ばれるような歴戦の戦士なのだろうことは見てとれた。

 

「んあ? どこだここは? まーた異世界か? シィルー! おらんのかー!?」

 

「バカな!? 有り得ぬ! このサーヴァント、実体があるじゃと?」

 

 お爺様は珍しく狼狽していた。私はサーヴァントといえども大声で騒ぐ男の人に委縮してしまい、その場を動けずにいた。

 

「チッ使えない奴隷め。ってなんじゃここはーー!! うわ虫ばっか気持ち悪い。しっしっ」

 

「あの……」

 

 だが、彼は私が召喚したサーヴァントであり、私は彼のマスターだ。勇気を出してお爺様より先に話しかけた。

 

「おっ可愛い子発見。君、名前は?」

 

「えっ? えっと間桐、桜です。私が今回の聖杯戦争の、あの、あなたのマスターです」

 

「サクラちゃんか覚えたぞ! ほうほうふむふむ!」

 

 何やら考える素振りをした男の人は、私の顔を見るとじろじろと全身を観察し出した。まるで値踏みをするように見られている。

 

 おそらくは自分のマスターが、私みたいな地味な小娘であることに失望しているのだろう。

 

「偉大なる俺様の名はランス様だ! 肩書が多すぎて面倒だから、世界で一番ハンサムで頼れる男のランス様と覚えておけ!」

 

 ランス、直訳すれば槍のことだ。ならば彼はランサークラスのサーヴァントなのだろうか? いや名前がランスであるだけでクラスは別かもしれない。腰に差しているのはどう見ても剣だし、セイバーのサーヴァントの可能性もある。

 

 彼のステータスを見ようとしたが、私が未熟だからだろうか、まるで虫食いのようにそのほとんどを見ることは出来なかった。

 

「ランス……様」

 

 聞き覚えの無い名前だった。だが、10年前の聖杯戦争の際、間桐家が召喚したサーヴァントはアーサー王伝説に出てくる円卓の騎士の一人であるランスロット卿であったと聞いている。

 

 ランス様とランスロット卿、偶然とは思えない名前の一致だった。もしかしたら彼はランスロット卿に縁のある英霊なのかもしれない。

 

「とりあえずこんなしみったれた場所は偉大なる俺様には不釣り合いだ! とっとと出るぞサクラ!」

 

「え? きゃあ!?」

 

 お爺様のことは目に入っていないのか、ランス様は私のことを持ち上げ、いわゆるお姫様抱っこをすると地下室にある階段を駆け上がった。

 

「ま、待つのじゃ桜……!」

 

 こうして私は召喚したサーヴァントに抱かれながら、意図せず間桐家の地下室から出ることとなった。

 

 大人の男の人は私にとっては恐怖の対象であったはずなのに、彼の腕の中はまるで遠い昔に家族であった誰かに抱かれていた時の様な不思議な安心感があった。

 

「あ、あのランス様?」

 

「とりあえず腹が減ったな。サクラ何か飯はあるか?」

 

「え? は、はい晩御飯の残り物なら……」

 

 サーヴァントは元々は死者である為、その身体は霊体であると聞いていたが、食事が必要なのだろうか?

 

「むっ。俺様はグルメだからな。もしも不味かったらおしおきだぞ」

 

「えっ? そ、そんな……」

 

 この人は王様か何かだったのだろうか。あまりにも理不尽だった。最近先輩のおかげで料理の腕は少しづつ上がっているという自負はあるが、この人の舌を納得させられるかは未知数である。

 

「がははははー! おしおきー! おしおきー! サクラにエッチなおしおきー!」

 

「ええええ!? しかもエッチなおしおきなんですか!?」

 

 思わぬランス様の言葉を聞いて、屋敷の廊下に私の叫び声が響いた。

 

「なんだ。大きな声も出せるのではないか」

 

「え? あ、あのそれは……」

 

 確かに、彼の言うとおりだった。私はぼそぼそと呟くように喋ってしまうことが多く、よく同級生からもウジウジしていてウザいと言われるような子だったからだ。実際、彼を召喚してからもハッキリとした声を出せずにいた。

 

 もしかしたら、そんな私を見て冗談を言ったのかもしれない。

 

「まぁいい。それより飯だ飯ー」

 

 最初見た時は怖そうな男の人だと思ったけど、案外彼は優しい人なのかもしれない。

 

「分かりましたランス様」

 

 ランス様から降ろして貰い、リビングに案内した。彼はテーブルにふんぞり返って周りをきょろきょろと見ている。

 

 確かに、昔の人から見たら現代の様子は珍しいのかもしれない。

 

 私は台所に立って、夕食のカレーの残りを温めなおした。隣にはいつ間にかいたのか、お爺様が立っていて愉快そうに嗤っていた。

 

「お爺様、今後はどうするべきでしょうか?」

 

「桜よ。こたびの聖杯戦争、中々面白いことになるかもしれぬ」

 

 私の質問を無視したお爺様はさらに顔を歪めて嗤う。

 

「どういうこと、ですか?」

 

「あやつのサーヴァントとしてのステータス、この儂でも正確に測りきれるものでは無い。最初はどこぞの木端な亡霊でも引きよせてしまったかと思ったが、どういうわけか、あやつ実体がありおる。こんなことは通常ならまず起こり得ぬことよ」

 

 私はお爺様の話を聞く。召喚後のお爺様の狼狽具合は演技かもしれないが、ランス様が異常な存在であると言外に言っていた。

 

「こたびの聖杯戦争も戯れのつもりであったが、ちと惜しいやもしれぬ。とはいえ、どの道判断は時期尚早、本来なら慎二めの奴に使役させる手もあったが、まずはあやつが本当に英霊足り得るのか? それを見極めてからでも遅くは無い」

 

「そ、そんな……!」

 

 つまりお爺様は兄さんではなく、ひとまずは私がマスターとなり聖杯戦争に参加しろと言っているのだ。

 

 確かに召喚の儀の前に、英霊の格や性格によっては私がマスターになることは承知していた。

 

 だが、本来私は聖杯戦争なんか参加したくは無かった。自分の命が惜しい訳では無いが、人殺しが許容されるような争いには加担したくは無かったからだ。

 

 だから、いくつかの条件をのめば兄さんにマスターの権利を譲ることも構わないとお爺様から言われていた。

 

「そんなこと、後で兄さんが知ったらなんて言うか……」

 

「慎二の癇癪なんぞ儂の一言でどうにでもなるわ。それでも収まらんのならば、クク……桜よ。お前が奴の感情の受け皿になれば問題なかろう? その卑しい身体をつかえばなんの問題もないであろう? いつものように」

 

「っ…!?」

 

 お爺様の言葉を聞いて身体が硬直し、嫌な汗が流れる。

 

 まるで呪縛だ。間桐家という檻と、お爺様という鎖が常に私を締め付けているのだ。

 

 決してここからは逃げられず、逃げるという意志すら奪われた。この10年以上の月日で散々奪い尽くされた。

 

 呼吸が乱れ、手足が震えてきた。立っているのも難しくなりその場でうずくまる。そんな時に声が聞こえた。

 

「おーいサクラー! はやくせんかー!」

 

「あ、は……はーい! 今行きます!」

 

 放心していた精神はリビングから急かすランス様の声で多少は正常に戻ることが出来た。

 

 深呼吸をしてなんとか立ちあがる。お爺様は先ほどとは打って変わって、つまらぬそうな顔でこちらを見ていた。

 

「まぁよい。方針は先ほど伝えた通りだからの。せいぜいあやつを飼いならしながらその正体も探っておくんじゃぞ。儂は常に監視しておるからの」

 

 どこか事務的な声色でそう言い残して、お爺様はまるで黒い霧のように消え去った。

 

 この場での絶対者が居なくなったことで、硬直していた身体の自由が戻ってくる。

 

 私はまだ震えている手でカレーを皿によそうとリビングへ向かった。

 

「お、待ってたぞ。俺様を待たすとは極刑ものだが、中々美味そうな匂いだから食うまで待ってやるぞ」

 

「その、ランス様のお口に合うのかは分かりませんが、どうぞ召し上がって下さい」

 

 おずおずとカレーとスプーンを渡したが、それを受け取った彼はスグに食べ始めた。

 

 がつがつと音がなるような豪快な食べっぷりだ。そんなにお腹が減っていたのだろうか。

 

「これは美味いぞ! そして辛い! だが、キムチさんの作る鍋とはまた違った辛さだ! うむ、グッドだーー!! がははは!!」 

 

 よかった。見たところ喜んでくれているみたいだ。

 

「すみません、食べながらでいいので聞いてもらえませんか?」

 

「もぐもぐ、なんだ?」

 

「えっと、聖杯戦争のことなんですけど……」

 

「セーハイセンソウ? なんだそれは?」

 

「ええっ? あの……、ランス様はサーヴァントですよね? 私がマスターで、召喚したんですけど」

 

「サーヴァント? マスター? なんのことだかさっぱり分からんぞ?」

 

「分からないって、そんな、そんなの困ります……」

 

 その後、私は聖杯戦争のことや令呪のことをランス様にかいつまんで説明したが、彼は本当に何も知らない様子だった。召喚したサーヴァントは聖杯のバックアップにより必要な知識は与えられているはずとお爺様から教えられていたが、また私は騙されてしまったのだろうか。

 

 

 

 

「願いを叶える聖杯か、なんか胡散くさそうな話だな」

 

 彼の食事が終わる頃には私のつたない説明も終わっていた。

 

「それで、その……私と一緒に戦って頂けますか?」

 

「うーむ、めんどうくさいなぁ」

 

 彼はあまり乗り気ではなかったので、私は途方に暮れた。サーヴァント無しで聖杯戦争を勝ち残れるわけは無いし、もし彼にやる気になってもらえなければ、お爺様からどんな折檻を受けるのか分かったものではない。

 

「お願いします! 私を助けて下さい! 私なんでもします!」

 

 令呪を使って従わせることも思い至らず、私は必死に頭を下げた。

 

「ほぅ、なんでも」

 

「はい」 

 

「気が変わった。可愛い女の子の頼みは断らん。俺様は偉大な英雄だからな」

 

「あ、ありがとうございます……!」

 

「だが、その代わりに……」

 

「えっ? きゃあ!?」

 

 彼は私の背後に回ると抱きしめてきた。

 

「君の身体をもらうー! がはははははは!!」

 

「ああっランス様そんなっ!?」

 

 彼に乱暴な手つきで胸や足を触られる。私はどこか諦めに似た感情が湧いて出てきた。

 

 このこともお爺様から教えられていたことだった。

 

 召喚した英霊とそのマスターは魔力のパスを繋ぐ必要があり、粘膜での接触をする必要があった。

 

 つまりはどんな英霊が出ても性交渉をするように言いつけられていたのである。

 

 だからこれは分かっていたことであり、いつも通りのどうしようもないことの一つであった。

 

「お? 抵抗が無くなったぞ? さてはサクラ俺様に惚れたか?」

 

「ランス様、お願いがあります」

 

「ん?」

 

「せめて、ここではなく私の部屋でお願いします」

 

「うむ、なるほど恥ずかしいのか。よし分かった」

 

 こうして彼を連れて寝室へと向かう。

 

 心は不思議と落ち着いていた。いつも通りにすればいいだけの話だ。

 

 感情を押し殺し、まるで人形のように、さながら機械のように、ただ終わるまで我慢すればいい。

 

 私が我慢すれば、いずれは終わる。ただ、それだけの話だ。

 

 部屋では一糸まとわぬ姿となった私とランス様がいた。

 

 こうして私はこの晩、彼に抱かれた。

 

 

 

 

「お? 内気な様子なんで初めてかと思ったら、この感じ、サクラお前さては経験済みだな? 彼氏でもいたのか? 安心しろ俺様のテクニックで今までの男どもなんぞ全員忘れさせてやるぞ」

 

「………」

 

「む? 気持ちいいが、こー反応が薄くてはつまらん! とーーーー!」

 

 ランスのハイパー兵器が暴れまわる。ランスの自分本位な動きはテクニックなぞ皆無であったが、ひと際甲高い嬌声が部屋に響いた。

 

 そのことに驚いたのは嬌声を上げた本人である間桐桜であった。

 

 ランスが言っていたように、桜は生娘では無い。彼女自身あまり認めたくは無いが、彼女の身体は今まで多くの存在を受け入れてきた。

 

 いくらランスのハイパー兵器が凶悪でも、通常なら桜はそれすら耐えることが出来た。

 

 だが、ランスの持つ隠れたスキルがそれを許さなかった為、桜は声を出さずには居られなかった。

 

 そのスキル名は『性技の味方(ジャスティスランス)』と呼ばれる彼特有のスキルだ。

 

 効果の概要としては、主に三つある。

 

 1、このスキルを持つ者と性交渉を行った際、何故かドイツ国歌に似た音楽がどこからか聞こえる。

 

 2、このスキルを持つ者と性交渉を行った際、仮に合意でない場合でも悲壮感が薄くなる。

 

 3、このスキルを持つ者の体液を摂取した際、才能限界が上がる。

 

 そんなわけで、絶望と諦めが混じっていた桜もなんか普通に反応してしまった。

 

「ら、ランス様、まって、待って下さい何かおかしいです! 変な音楽が聞こえます!」

 

「ばかめー! 男がここで止まれるかーー!! 今日は朝までハッスルじゃーー!!」

 

「いーーーやーーー!!」

 

 

 

 こうしてマスターである桜はサーヴァントであるランスと主従関係を結び、聖杯戦争を戦っていくことになる。

 

 どちらが主でどちらが従者かは本来の立場とは逆であったとしても。

 

 桜の願いは聞き届けられた。

 

 誰よりも強いが、乱暴者で。

 

 女の子には優しいが、男には容赦しない。

 

 姦淫に染まっている。というか、ただのスケベなだけ。

 

 そして彼女を守ってくれるような、そんな存在、そんな英霊、いや英雄を召喚することが出来たのだから。




また愛があふれてしまったら続きは書くかもしれません。

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