『迷いの森』ってご存じかな?
原作ではかなり早い段階で姿をあらわすダンジョンだがいきなり潜り込んでしまってはけっこう苦戦する場所だ。
間違って入ると痛い目に遭う。
ただその先には『エンリカ』と呼ばれる隠れ里が存在する。
原作プレイ済みの俺からしたら踏み込んでみたい場所だ。 エンリカには腕の立つ隠れ天使達が沢山だが、敵に見えるような変なことしなければ問題ないだろう。
ただ迷い込んだフリをして観光をしよう。
そう考えて乗り込んだが…
いやー、めちゃくちゃ迷う。
流石、迷いの森だ。
道が全然わからない。
入り口からほぼまっすぐ進んでいけば辿り着く……って、考えても真っ直ぐば行かないものだ。
一応、食料とハーピーの羽があるから死まで追い込まれることはないと思うが、何日もこの森で迷ってるのも精神的に来る。 それにここのモン娘も弱くないから連戦は困りようだ。
そう考えながら歩いてると大きな木に果実が実っていた。
俺はビームライフルの出力を極限にまで下げると針のように細長いビームを上に撃ち放つ。
放たれたビームで果実の枝を切り落とし、俺の手元にストンと落ちて来た。
自然の恵みを手に取って大口を開けて食べようとした、その時だった。
「それを食べるのはやめたほうがいいよ…」
「!?」
俺は声の下方にビームライフルを向けて警戒する。
俺は目一杯警戒心を剥き出しにして銃口を向けることで牽制した。
「わたしはあなたを襲わないよ…」
「……」
もし襲うなら声をかけずに彼女が持ってるその弓で俺を射止めていたはずだ。
俺はそう考えると静かにビームライフルを下げた。
緊張感をほぐすため、少し会話を行う。
「肌が黒くないな……ダークエルフじゃない純白なエルフか?」
「そこは意識した事ないけど、わたしはダークエルフじゃない…」
「珍しいな。 ここにいるエルフは全部黒く墜ちたと思ってたけど」
「そんなことない、村に純白なら数名はいる…」
そう話しながらエルフの彼女は指を伸ばす。
「その果実、普通の木の実じゃないから食べない方が良い…」
「……ああ、そう言ってたな。 教えてくれてありがとう」
「構わない。 それよりもここは人が来るには厳しい場所だから無理な散策はやめたほうが良い…」
「そうか。 でも冒険者として気になったからな散策してたんだ」
「そう……あと、その木の実は渡して、必要なの…」
「え? あ、うん、まぁええよ。 ほら__」
ぴかーん
ゴロゴロゴロ…
「!?!?」
「こりゃ嵐が近そうだな。 こりゃどこかで雨宿りしないと」
少しでも悪天候に染まるとハーピーの羽は機能しない。
だから多分、今投げても動かないだろう。
だからどこか避難する場所を考えた。
「……そ、そんなところにいると、雷が危ないよ、あぶないんだから…」
「ならどうすんのさ? ハーピーの羽は動かない」
「……なら。わたしの家に案内する、だから付いて来__」
ぴかーん!!!
ゴロゴロゴロ!!!
「っ!!」
「……大丈夫か?」
エルフの少女は毛を逆立てた猫のように驚き飛び上がり、体を硬直させる。
「……か、雷、き、嫌い、怖い…」
物静かな性格をしてると思ったが、豪雷とその爆音にエルフの少女は頭を抑えてガタガタと震えている。
「かなり響くな、この音は」
「っ、な、なんであなたは怖く_____」
ピカーン!ゴロゴロ
「ひぅ!!」
エルフの少女は地面にしゃがみ込んでしまう。
俺は見ていられなくなったので彼女に近寄り、背中を優しくさする。
すると額に雨水が触れる。
とうとう本格的に雨が降って来た。
これはマジで危ない。
「…ッ、こ、こっち、早く来てッッ」
「お、おう」
いつのまにか気持ちを取り戻したエルフの少女は俺の手を引いて走り出す。
雷の音が鳴るたびに彼女は体を硬直させてコケそうになるが俺は咄嗟に支えてあげた、
それを繰り返しながら見えてきた村に招かれる。
そして奥の方にある家まで走るとエルフの少女は扉を開けて俺ごと家に連れ込んだ。
「なっ! また人間ですか!?」
「!?」
家の中に入れば現れたの……天使だ。
初めて見る神聖な生き物だが…
「って、どこまで引っ張んの!?」
俺は家の中に関わらずまだ手を引かれていた。
バタバタと床を踏み込みながらエルフの少女は個室の扉を開ける。
俺を部屋の中に招き入れて手を離した。
エルフの少女は部屋の扉を閉め、カーテンを閉め、窓の鍵を閉め、狩に使っていただろう弓を壁に立てかけ、また俺の手を引っ張るとベッドに引き寄せ、俺はバランスを崩して跪く。
エルフの少女は必死に掛け布団を回収すると俺の腕だけを布団の中に巻き込んで姿を隠した。
「……え、なにこの状況」
「……」
何も反応はない。
「……」
「えぇ…」
まったくもって訳の分からない状況。
ただ時計の針がカチカチとなる。
すると壁を打ち付ける暴風がガタガタと家を軋ませる。
特に窓ガラスはガシャガシャとやかましい。
そして再び、雷と爆音が鳴り響いた。
「ああああ"あ"!! っっ、ぅぅ…」
「おいおい!? 大丈夫か…だぁあっ!?」
これまでに無いほど怯え出したエルフの少女は苦しそうに悲鳴をあげる。
そんな彼女に対して俺は本格的に心配になるが、手首を強く掴まれると腕全体が布団の中に飲み込まれる。
顔はまだギリギリ布団の外だ。
「……なぁ、本当に、大丈夫かあんた?」
返事がない。
俺の声に反応できないほど震えていた。
俺はなぜこんな展開になったのか全くもって理解はできないでいた。
だがこんなにも怯えてる彼女を目の当たりにしたからこそ放って置けなくなったので、俺は勝手にベットに座り込む。
エルフの少女の近くまで座る。
「……」
ただ近くにいて手を握りしめるだけ。
いや本当に、なんでこんなことしてるのやら…
でも今はこうしてやるのが正しいのだろう。
そう考え、しばらく彼女の近くにいてあげた。
♢
悪天候の中、あんなにも怯えていたエルフの少女はいつのまにか眠り込んでいた。
すると家に訪問した時に目があった天使が部屋に入ってきた。
天使は当然警戒したが俺は口元に人差し指を立てて「しっー」と静かにして欲しいとジェスチャーをする。
俺の肘を枕にして眠り込んだエルフの少女を見た天使は何かに納得すると警戒を解いてくれた。
「この子は昔、雷に直撃したことがあるのよ」
「え?」
「エルフだから直撃に耐えたけど、爆音と雷に深いトラウマを持ってしまったのよ。 悪天候になる時を感知するとこの子は深く眠り込み、夢の奥に逃げ込むの。 そうやって悪天候が通り過ぎるのを待つのよ」
「なるほど。 しかしこの子は先ほどまで外にいました。 悪天候を感知できるならなんで家に引き籠もって無かったのですか?」
「多分、眠りにつくための木の実が足りなかったのね」
「木の実?」
「ええ、迷いの森には睡眠薬としての役割を果たす毒性の木の実があってね、それを急いで探していたのでしょう」
「……あ、もしかして、これ?」
「! ええ、それよ」
「そっか、これか」
どうやら俺が丁度持っていたようだ。
そして、このエルフの少女は俺にとって毒でしかないこの木の実を回収したあと悪天候が来ることを知らせて俺を迷いの森から去るように言ったのだろう。
なんだ、優しいな、この子。
「……で、なんで俺はこんな目に?」
「雷に怯えて無意識に連れてしまったのでしょう。 あと人肌を求めてると言ったら良いかしら?」
「?」
「その子、ずっと一人だったから。 その子にとって恐怖心を拭うには人肌が1番だった。 意思など関係なしにエルフが求めたのでしょう」
「それでもエルフは人間嫌いでは?」
「そうでもない。 好き嫌いの差が大きいだけでその子は気にならないエルフ。 だから本能が人肌を求めた。 とりあえずその状態だとしばらく解放されないようね」
「まぁ、そうなりますね。 引き剥がすことはできなさそうなのでしばらくお邪魔します」
「ええ、その子をよろしく」
それだけ言うと天使はこの部屋を出て行く。
俺とエルフの少女だけになった。
「まだまだ嵐の真っ最中だ。 まだ起きんなよ…」
今は嵐と無関係に眠りついてるこの子の頭を撫でながら俺もウトウトしてきた。
眠気と戦いながら、俺は優しく撫で続けていた。
♢
もうあれから一週間前だったかな。
俺は数日だけエンリカに滞在した。
そこで元兵士として戦っていた天使から戦闘における座学を受けた。
元天使兵はもう武器を握ることは考えていなかったが軽い授業なら構わないと考えて教えてくれたのだ。
なので素人の俺からしたらありがたい時間だった。
その代わりエンリカに天使がいることは内緒にして欲しいと言われたのでそこは了承した。
そんな感じにエンリカで短く過ごして…
また旅を始めた。
「次はどこに行こうか?」
「どこでも良いよ…」
旅仲間を一人で迎えて旅の再開である。
「なんなら美味しいもの食べに行くか? 例えばヤマタイとかさ」
「どこでも大丈夫だよ…」
「……この観光地に行きたいとか無い?」
「どこでも構わないよ…」
「少しはワガママとか言って俺を困らせても良いんだぞ? アレをしたいとか、コレをしたいとかさ。 仲間なんだから何か要望があってもバチは当たらない」
「ワガママ? 要望??」
「うん」
「……」
彼女はなにかを考える。
そしてフラフラと俺の近くに寄り添い…
ピタリと引っ付いた。
「わたしはこれでいいよ…」
「相変わらずのふわふわエルフで安心したよ」
「……好き」
頭一つ分小さな彼女はピタッと寄り添い、袖を掴んでギュッと抱きしめる。
俺はそんな彼女の頭を撫でながらも周りを警戒する。
まだもん娘がうろついてる道中だ。
気は緩めない。
「ねぇ…」
「どうした?」
「この冒険が終わったらどこかに家を作りたい…」
「…」
「一緒にね、静かに暮らそう…」
「……なんだ、ちゃんと要望あるじゃないか」
「ダメ?」
「良いよ。 でもそれはこの冒険で少しでも自然災害を克服してからだな」
彼女がこの旅ついて来たのは過酷な冒険を経験して心を強くすることだ。
雷の音なんかに負けない強い精神力を得たいと考えていた。
この事は前々から考えていたが、彼女はあの村からどうも踏み出せずにいた。
しかし旅人の俺と出会って仲間にして欲しいと言った。
俺は「いいよ」と了承する。
そして彼女はこの旅について来たのだ。
あと、雷が落ちたあの日の事を聞いた。
何故俺の手を布団の中に潜り込むまで引いたのか?
_自然があなたなら大丈夫だと言ったから。
意味はよくわからないけど彼女は俺を運命の人とかそんな感じに見出したらしい。
ブラハムを思い出すな…
それでも今はまさにその運命の人だったのか旅をしている。
「エリッサ、今の君は雷の音とかに負けない君かな?」
「いや、まだ不十分だよ…」
トラウマは簡単には治らない。
それはわかっていた。
「そうか、ならまだ旅を続けようか?」
「そうする…」
「わかった。 ならちゃんと付いて来いよ」
でも彼女は弱くない。
自分よりも大きなもん娘相手でも立ち向かえる精神を持っている。
いつかトラウマも克服してくれるだろう。
ダメならダメで仕方ない。
それでも俺はただ彼女を見守るだけだ。
「ワガママちゃんとあった…」
「ほぉ?」
「フラッグ、少しだけ下向いて…」
「?」
俺は素直に下に俯く。
エリッサは素早く目の前に回り込んだ。
両手でこちらの頭を固定すると一気に引き寄せ…
「んちゅ…」
「!?」
「ん、んん、…ちゅぱっ」
重なり合った唇は離れる。
エリッサの瞳はゆっくりと見開かれた。
ブルー色に染まる綺麗な瞳がこちらを覗き込んでいた。
口付けを解放すると少しだけ頬を緩ませて、柔らかに笑みんだ。
「ご馳走さま…」
「…それでも随分と遠慮気味なワガママだな?」
「ならもう一回…」
「あ! 待ったエリッサ、敵がいる」
俺はエリッサを軽く突き放すと武器を構えた。
すると『ピュッ』と空を切る細いモノが横を通り過ぎた。
遠くにいたもん娘の眉間に刺さるとゆっくりと倒れた。
「コレでいい…」
「……え?」
「だからフラッグの続きをもらうね…」
「え? ちょ!?…んんっ!?」
「ん、んくっ、ちゅぷ、ちゅ…」
そうすると次は先ほどよりも情熱に啜われてしまう。
やばい、頭がボヤけそう…
てかそれよりも弓を射ったエリッサの瞳は冷徹な色をしていた。
綺麗に青色なんだけど、どこか怖かった。
このふわふわエルフは物静かな分、自然災害に負けないほどの恐ろしさを持っているようだ。
「んん……ちゅ……ふふ、美味しい…」
「ぅ…そ、そうですか……ぅぁ…」
脳みそがふわふわする。
危ない、よろけそう…
エルフは淫乱とか言うけど強ち間違いじゃないかもな。
この子はエルフだし夜になればそれなりに貪欲に染まったりもする。
だからこのキスはまだ断片に過ぎない…
そもそも原作通りにエリッサはお口が器用だからキス一つで狂わされる。
バトルファッカーだけあるのか意識が持って行かれるレベルで口付けが上手だ。
口付けが終えると俺はその度にフラついてエリッサに支えられる。
そのやりとりばかりだ。
「行こう、フラッグ。 続きは宿で沢山しよ?」
「…」
俺は既に彼女に射止められていたらしい。
俺の名はフラッグ。
ふわふわなエルフの人肌に触れている。
end root【バトルファーカーのエリッサ】