こんな世界だから廃村やゴーストタウンは幾らでもある。
村がもん娘に襲われたり、疫病で人々が減ったりと、理由は様々だ。
あの三大淫魔も原因の一つだと思う。
干からびた人間も見た。
しかしそう言った類は旅をしていると嫌なほど見られる。 旅人からしたら廃村などは掘り出し物のボーナスチェスト扱いだ。 貰えるものは貰う。 そうは言っても大体は取られているが、それも旅の醍醐味なんだろうと納得しつつもしアイテムが残っていればラッキー程度で考えて手を出せばいい。
たまにミミックがいてビックリするけどマキブの敵ではない。
「けっほ、けっほ………おぇ…」
病状が悪化している。
旅中で風邪を拗らせたようだ。
悠長に廃村なんか説明してる場合じゃない。
「ぜぇ…ぜぇ……」
雨風が激しくなってきた。
ABCマントを雨がっぱ代わりにしているがこんなんで雨は凌げない。
村に戻ろうにもハーピーの羽は動かない。 戦いの空気を感じたり、災害で天候が荒い事が原因だろう。 戻る手段もなく、時間的にまもなく夜だ。 どこかで1日を過ごし、雨風を凌げる屋根か建物を探さないとならない。
だめだ、眩暈もしてきた。 しんどい。
「あれは…」
先ほどの説明のお手本とばかりに人気のない寂れた村がある。
廃村だ。
しかもアレは教会か?
それはりに大きいな。
びしょ濡れ覚悟で一気に進んだ。
雷の音が鳴る。
それに煽られながら建物に踏み込んで、空き瓶に足が取られてしまう。
「うおあ!?」
ABCマントを巻き込みながら地面を転がり、椅子に頭をぶつけて静止する。 ただでさえ熱に浮かされて頭がフラフラするのに物理的な痛みでさらに痛い。 最悪だ。
「うっ、寒い……」
火を焚きたいところだが建物の中でそれは大変危険だ。
我慢するしか無い。
どこか使われてないベッドを探す。
呼吸が酷くなってきた。
本格的に熱に浮かされている。
寒気がしているあたり本格的に風邪をひいてしまったようだ。
「風邪に合う薬あったか? 無いか…毒消し草で治る? いや、そんな訳ないよな。 くっそ、頭がボッーとする」
どうにかして街に戻れたら良いがハーピーの羽は動かないから自分の足で戻るしか方法がない。
だが時間的に夜だ。
もん娘がウロチョロしている。
しかもゴースト系が増える時間帯になると弱った体で冒険するのは大変危険だ。
この状態で捕まれば一気に魂を抜き取られてしまう。
「耐えれば……朝まで、耐えれ、ば…」
比較的安全なのは夜が明けるまで立て籠もる事だろう。 その間にもん娘から侵入される恐れがある。 扉に空き缶などで防犯をする必要がある。 しかし体に気力が湧かない。 少しだけ、休もう。
せめて5分だけでも休もう。
そしたら防犯を仕掛けよう。
そう考えて壁に寄りかかる。
「はぁ…はぁ……」
段々と状態が悪化する。
しかし原因は理解していた。
免疫力が薄まっている。
理由は簡単。
ビスケットばかり食べていた事だ。
肉や野菜を食べずに空腹を満たすだけのビスケットを食べていた。
体の中に栄養が足りなくて風邪をひいたのだろう。
自己管理を怠った結果だ。
「……」
視界がボヤけてきた。
この状態で満足に戦えない。
なんとかして休まなければ…
そのためには安全を確保しなければならない。
この部屋を安全な状態にしなければ。
しかし眠気に誘われようとしていた。
体が限界だ。
このまま意識を闇の中に投げたい睡眠欲で沢山だ。
それほどに体が重たい。 このまま休みたい。
だが安全を確保せずに次を目覚めた時、俺はどうなってるか?
このまま何もなければ死ぬようなことは無いと思うが、眠り込んでるところを精に飢えたもん娘に見つかれば有無言わずに襲われてしまうだろう。
目覚めても弱った体では抵抗も虚しい。
なすがまま食われてしまうだろ。
気に入られてそのまま飼われてしまうのであれば、しばらくは死ぬことは無いと思うがそれは冒険の終わりを物語る。
一つしかない命でその扱いは嫌だ。
でも、体が動かない…
ああ、このまま意識は堕ちてしまうか。
ガチャ
「!?」
扉の音が聞こえた。
目が覚める。
体を駆け巡る緊張感は筋肉を奮い立たせる。
「ぜぇ…ぜぇ……」
視界に入ったシルエットは人の形をしていた。
しかし旅人では無い。
旅で培った経験と感覚がもん娘だと警告する。
朦朧とする意識を無理やり覚醒させながら手元にビームライフルを召喚する。
「くるか、くるの…の、か! けっほ…けっほ…」
今の俺はどんな顔をしているだろうか?
手負いの獲物のように追い込まれた表情をしているだろうか? もしそうならその表情は極力抑えなければならない。
そうでなければ俺の心が負けそうだから。
「あら? だれかいるのですか?」
目の前に現れたのは小柄な娘だった。
しかし人間では無い、人の形をしたもん娘だ。
そのもん娘は黒いナースの服を着こなしていた。
背中からは翼が、お尻からは尻尾が生えている。
なによりこちらを覗く淡い深紫の瞳は情欲に惑わされそうだ。
そして、戦慄する。
淫魔特有の香りを漂わせていた。
「この状況で、嘘だろ……」
相手の戦闘能力は高くないと思うが、淫魔にそれは関係ない。 なぜなら今の俺は体力的にも、精神的にも危うい状況だ。 淫魔からしたらそれは最高の獲物となり得る。 更に淫魔特有の瘴気に触れたり、また吸い込んだりして意識が呑まれたら理性は一気に無くしてしまう。
終わってしまうだろう。
「っ、それ以上、来るなぁ! けっほ…っ、さもないと撃つぞ…! はぁ…はぁ…!」
まるで今の俺は敗走してる兵士のようだ。
映画やアニメでよく見るような展開。
だけどそんなこと考える余裕もなく、今はどうにかしてこの状況を凌ぎ切らなければならない。
追い払うか?
または倒すか?
できれば消耗はしたくないから前者がいい。
だが戦わざるを得ない状況ならこここら死闘を演じなければならない。
使うマキブによっては建物は崩れる恐れもあるこの部屋は無事では無いと思うだろう。
だが熱に浮かれたこの頭で考えるが定まらない。 なりふり構っていられないからだ。 それほどに俺は思考能力が低下していた。
ビームライフルが震えて銃口が定まらない。
ああ、でも、やるしか無いか…
しかし、その悩みは杞憂だった。
「た、大変じゃないですか! は、早く治療しないとその状態は危険ですよ!」
もん娘は俺の苦しいその状態を心配していた。
更にその声は本心からコチラを心配してくれてるように聞こえた。
敵意が無いのは理解できた…が。
「…ッ、ッ、くる、なっ…!」
俺は全力で近寄られることを否定する。
弱めに設定したビームで威嚇射撃を足元に撃ち放つ。
そのもん娘は少し驚いて歩みを止めてくれた。
「はぁ…はぁ…けっほ! ぐっ、ゲッホ…!」
段々と荒くなる呼吸。
彼女を弱々しく睨む。
力の入らない体はビームライフルをカタカタと震わせていた。
これ以上は来ないでくれと訴えた。
「私は医師です! そしてあなたに敵意はありません! その辛い状態を治せますから! どうか落ち着いてください!」
「そう思うならこの部屋から出てくれッ、頼むッ! 今はお前らもん娘が怖いッ!」
相手は敵意がなかろうとも油断できない。
外の世界はあまり気を許しすぎてはならない。
それが人間より強いもん娘と言うなら尚更だ。
人間なんかではどうしようもない。
だから彼女のご厚意に首を振って威嚇する。
怖くて仕方ないから。
だって、相手は強いもん娘だ…
「最後の警告だッ、この部屋から出て行ってくれッ…」
ヴェスバーも召喚して腰に構える。
如何にも威力が高い兵器であることを見せつけて牽制した。
本当は撃ちたくない。
だが躊躇えば死ぬ未来も捨てきれない。
目の前にいるもん娘が下がってくれることを願った。
「っ、本当は実力行使は好きじゃありませんが致し方無いですね。 ……私の目を見てください!」
「!? …しまっ、ァ! ぁ、ぁぁ……」
判断力の無い状態だったから、彼女の言葉を真面目に受けてしまった俺は眼を見てしまった。
脚腰に力を無くなる。
精神的抵抗力は即座に奪われた。
恐怖心に絶望しながら前に倒れる。
受け止められた…
「ごめんなさい。 でも、大丈夫ですから安心してください…」
柔らかな抱擁に包まれながら彼女の言葉が耳に入る。
その声は魔性だ。
弱ってしまっているその身を委ねたくなるほどの優しさ。
脳を簡単に揺さぶった…
「ぁ」
もう、いいや…
諦めてしまった。
意識を手放す。
一気に闇の中に落ちていった…
ここで俺の冒険は終わってしまった…
♢
どうもこんにちは、フラッグです。
俺の冒険は終わってなかったようです。
「フラッグさん、具合の方はいかがですか?」
「かなり楽になってきた、ありがとう」
「はい、それは良かったです。 ですが念のためにお熱を図りますね」
さて、寂れた協会の中で倒れてから一日が経過した。
いま俺のことを診断してるのは『ナーキュバス』ってもん娘だ。
どこで手に入れたのか不明な黒いナース服と大きな注射器を武器にした医療系特化の淫魔のモン娘だ。
ゲームでは開幕『みんなドーピング』にお世話になりました。
もちろん別の方面でもお世話になりました。
なかなかエロチックでしたね。
「お熱測り終えました。 健康に近いです、良好ですよ」
「そうか、よかった」
「あとはちゃんと栄養ある物を食べて、免疫力を高めてください。 冒険者故に食生活も偏りますが、そこを言い訳にして疎かにするとまた倒れますよ?」
「反省してる。 ビスケットばかり食べていた俺がバカだった」
やはり栄養不足が原因で風邪に対する耐性が低かったようだ。
てか途中から風邪では済まされず、熱も出てきて本格的に危ない状態だったようだ。
でもまだその程度の症状で良かったらしい。
もし原因不明の全くわからない病気にかかっていたら、治療法などが無くて苦しんでいたのかもしれないからだ。
「雨も降り終えた。 ハーピーの羽も元気に動いてるから街に飛べそうだな。 ナビス、ありがとう。 これでまた冒険ができるよ」
「いえ! 元気になられて良かったです」
「さて、治してくれたのは嬉しいけどまず治療費ってどのくらいするかな?」
「そんな! お金なんてとんでもないですよ! これはただ私のお節介ですから、お気になさらず旅を続けてください!」
「え? でも…うーん、本当に良いの? むしろ無償で治してもらった話になると逆に何か裏がありそうで怖いんだが…」
「別に裏もありませんよ、信じてください…?」
「何故疑問系?」
「……ぅ、その、本来なら対価は求めますけど、それを聞く暇もなく勝手にこちらが治療しましたのでそれを請求するのはおかしいのでお気になさらないで下さい。 大丈夫ですから」
彼女はニコリと笑う。
思わず見惚れそうで少し困った。
「わかった。 ならナビスさんのお節介には感謝だけを残しておこう。 ありがとうございます、お陰で助かりました」
「いえいえ、それほどで___」
ぐぅ〜
「?」
「は、はぅぅ、その、恥ずかしいところを聞かれましたね…」
赤面しながら口元を押さえるナビス。
空腹による腹の音だが…
相手がサキュバスである事を考えていた。
「なんか……その、ごめんな?」
「もう!謝らないでください! ………ぅ、くっぅ…お、落ちいて……ふぅ…」
「……」
ナビスは空腹を押さえるよりも、理性を抑え込み、自分を保とうとしているように見えた。
やはり彼女は淫魔である『ソレ』は限り免れないのだろう…
「貧弱だから気を使わせてしまったか…」
「!」
俺は理解してることを示すように「ごめん」と声をかけた。
「い、いえ、大丈夫、です………はぁ…んんっ…ぐっ…」
淫魔として相当我慢してるようだ。
ちなみに俺が理解してる理由は一つしか思い至らない。
まず淫魔は男の精を食料にしてエネルギーを得る。 そして目の前には男の俺がいるからサキュバスとして精を頂こうと考えていたのだろう。
精を頂くにも、その対価として風邪を治してくれた治療費の代わりにでも考えていたのだろう。 だが免疫力低下してる俺からそんな事すると命危うい。 それは医師として避けたいから俺を狙わない。 いや、狙うことができないのだ。
本当なら淫魔の得意技を活かして睡眠中とかにこっそりとバレずにちょろまかしていたけどそうしなかった。
なんとも優しいサキュバスなんだろうか…
「安心して。 俺も君が何を欲してるのかを理解してる。 だから…その、なんだ。 今は少しだけ我慢してくれるとありがたい」
「え?……えっと…」
「これから外に出て食料を取ってくる。 そんで糧を得て、元気に精をつけたら……その、お、俺のことは好きにしてくれも構わないと言うか…ほら? もともと崩れ落ちそうな身だったがナビスによって救われてる。 だからあんたになら一度委ても良いと思ってる…」
「!」
病み上がりにもかかわらず俺はマキブを装備して外に出かけた。
土砂降りの雨で気にしてなかったけど、近くに雑草まみれの農園がある。
雑草まみれは仕方ないが、それでも少しくらいは野菜や果実があるだろう。
そう考えて飛び出せば、幾らか収穫できた。
もともとここは人が住んでいた村だった事もあり、農園の中には丈夫に育ってくれる種などが生きてたのだろう。
自然の恵みに感謝だ。
あと軽く体を動かしていれば自分が空腹であることもはっきりしてきた。
食欲も同時に本来の気力も取り戻しつつあるのだろう。 自分で言うけど、良い傾向だろう。
「採ってきた」
「!」
それから収穫した野菜や果実をテーブルに置く。
道具袋から調味料を取り出し、久しぶりに料理を作ることにした。
一般家庭を築いていただろう家から放置されてた鍋を借りると汚れを洗い落とし、携帯用の料理道具を取り出して調理を開始する。
野菜を一口サイズに切りながら、スープの味付けする。
作り上げたのは塩味のポトフ風だ。
今回は肉はないが野菜の味付けが活きている。
「お腹すいたから早速いただこう。 ナビスさんも食べないか?」
「あ、はい。 では…」
教会で待っていたナビスを招いて。
ポトフをいただくことにした。
「美味しいですね!」
「料理は久しぶりで心配だったけど、うまく作れてよかった」
火を使った料理なんていつ頃か覚えてない。
長旅にビスケットが便利であまり気にしなかった。
「自炊は素晴らしいですね。 あとちゃんと野菜を取るのですよ?」
「わかってるよナビスさん」
「ナビスで良いですよ」
軽くお喋りしながら次をおかわりする。
俺は相当お腹すいてたのだろう。
最近まで少食を続けてたせいで胃袋が小さくなっていたが、いざ食べ続ければ食欲は増すばかりだ。
もともと俺は沢山食べていたからこのくらい普通なのだろう。 忘れていたのかな…
「うーん、ですが。 フラッグさんはちゃんと野菜を取るのか心配ですね」
「おいおい、今回の事で身に染みたからちゃんと食べるよ」
「…よし、決めました! しばらく私がフラッグさんの食生活を見るために同行しますね!」
「ふぁ!? こっほ…どういう事なの!?」
少しむせながら俺は彼女の言葉を再確認する。
「そのままの意味ですよ。 私はフラッグさんの旅に同行する。 それだけです」
「ええと…ええ??」
「まだフラッグさんは病み上がりです。 また倒れられては困ります。 なのでもうしばらくはフラッグさんの容態は見させて頂きますね」
「ナビスって、もしかして前もそういう事してたの?」
「いえいえ、誰かと同行するのはあなたが初めてなんですよ。 それにフラッグさんは世界を旅してると聞きましたので一緒に着いて行きたいだけです。 もともと私も世界を旅したいと考えていましたから」
「ああ、そう言うこと…」
「なので、私が旅に同行することで風邪の治療費はチャラにしてあげますね」
「おいおい、勝手なお節介だから対価は要らないって言ったじゃないか。 サキュバスは嘘つきだな」
「ふふ、男に嘘をついたり、惑わせたりするのはサキュバスの役目ですよ?」
そう言って夜ご飯を片付ける。
その後、もう一晩この廃村で過ごそうと考えて俺が診断を受けていた個室まで戻る。
ナビスが「もう一度診察します」と言ったので服を脱ぐ。
心臓の音、舌を出して容態を確認する。
ナースだけど医師さんだな。
「ナビス、もし着いて来たいのなら拒もうとは思わない。 俺もそろそろ一人じゃやれること少なくて辛く感じて来たし。 でも俺の行く先は結構危険だぞ? 本当に大丈夫かい?」
「はい、大丈夫ですよ。 だってヤンチャな患者さんが一緒にいますので」
「まだ患者扱いですか、そうですか」
「ふふっ」
彼女は笑いながら診察を終える。
充分に健康だと告げられた。
「それに、フラッグさんならついて行っても大丈夫と思いましたので」
「なんで?」
「優しく感じたからですかね?」
「何を根拠に優しいと述べてるの? 料理に関しては感謝の気持ち表してるだけだぞ? ただのお人好しと思ったらそれは勘違いさ」
「いえ、サキュバスに身を委ねても良い発言をするフラッグだからこそですよ」
「!?」
「『精をつけたら好きにして良い』なんて、サキュバス相手に自殺行為のセリフに値します。 でもそれってサキュバスの私に心を許してくれてる証拠なんですよね? なら、大丈夫だと感じました」
「…そりゃ、返せる手段ってそのくらいじゃ無いのか? 俺が渡せる対価なんて…」
「しかし真剣に提案してくれました。 私が求める対価を返してあげようと考えてくれました。 それが私にとって嬉しかったからこの場所で待ちました。 すごく、嬉しかったから…」
「あ、ああ、そうなの…か」
「はい」
「…」
心の底から嬉しそうなその表情を見ると頬が熱く感じる。
まだ熱でもあるのか疑いたくなる気持ちになるが、なんとか心を落ち着かせた。
「それで…その、フラッグさん? どうします?」
「っ…」
子を育むための精子をわざわざ定期するのは男としてやや複雑ではあるが、彼女がそれを求めている。
そもそも弱り果てていた俺を襲えば我慢などせずに済んだはず。 しかし彼女は救命する事を選んでくれた。 目の前に好物がいたのにそれを耐えていた。 いまはそんな彼女を満たせてあげれるかもしれない。 なら…
「俺は発言に…責任を持つ、ぞ? て、抵抗はしない。 うん、し、しません」
「!! ……ふふ、ありがとう。 本当は抵抗されても仕方ないと思ってます」
そう言いながらナビスは診察の器具を置いた。
ゆっくりと近づいてくる。
「……っ」
「その、怖いですか?」
「…その……」
「ふふっ、大丈夫。 わたしを見て」
「!?……ぁ」
頬を支えられて彼女の顔に向かされる。
愛撫するように触れられた頬は痺れるようだ。
それだけで脳が麻痺してるように感じる。
コレが淫魔なのか。
恐怖心を抱えながらも納得しながら、彼女。真っ直ぐと見つめればそこに吸い込まれるような眼が写っている。
そして顔を引き寄せられるように唇が触れる。
一瞬にして脳内が桃色に染まった。
「はじめての味。 まだ誰にも犯されてない味ですね」
「はぁ…はぁ……」
呼吸が落ち着かない。
考える余力はどこに行った?
彼女に全て吸い込まれたみたいだ。
「怖がらないでフラッグさん。 わたしが優しく導きますから」
そう言うとさっきよりも唇を貪りながら顔を触れると動かないように固定する。
これまで感じた事無いほど柔らかい口づけに全身の力が抜けてベッドの上に倒れてしまう。
彼女は覆い被さる。
クスクス笑いながら頬に手を伸ばす。 手のひらが触れるか触れないかのもどかしい距離感で愛撫される。 味わった事ない感覚に脳が小刻みに痺れて、呼吸も小刻みに荒くなっていた。 淫魔にとっては挨拶程度だろうが未知なる快楽に涙が自然と流れる。 それをペロリとひと舐めて彼女は馬乗りに体を起こす。 舌舐めずって涙の味を楽しむ。
「!、!!、!!!」
その姿は情欲を擽る。
呼吸が彼女を欲する。
これが恐怖心なのか分からない。
「ふふっ、フラッグさん、とても可愛いですよ…」
ナビスは蠱惑的な表情で笑う。
「俺は、食わ…れる、のか…?」
「はい。 でも大丈夫。 とっっても気持ちいいですから。 全てを委ねて」
「ぁ…ぁぁ! ナ、ナビス…!」
「かわいい、わたしの患者さん」
サキュバスに身を委ねるなど何を考えているのやら。
でも今は彼女に任せても良いと思えた。
彼女になら奪い尽くされても良いと思った。
それほどにもん娘との交わりは危険なんだと知って、後戻りはできない。
彼女とまぐわり合う。
一方的に吸い尽くされたが幸福だった。
彼女は何度も口づけをして味を刻む。
無意識に彼女を抱きしめて肉欲を満たそうと必死だから、彼女はクスクスと笑って何度も、何度も、相手が患者であることも忘れて…
病に犯されたみたいだ。
♢
見晴らしの良い大きな木の上で世界を眺める。
「やはりあの件で患者さんは多いです。 痛くて苦しくて可愛そうです…」
「ほんの数日とは言え、大戦争だったのは間違いない。 傷跡はとても大きい」
「私は体の傷は治しても心の傷まで治せません。 無力ですかね?」
「それは無い。 君は良く頑張ってる。 だからこうして南西までやってきて世界樹に登っているんだろう?」
「はい。 この世界樹にある世界樹の葉を回収して、恵のオアシスにある泉の水と調合して"世界樹のしずく"を作り上げるために、わたしはここまで来ました」
「ここまで来るのは容易く無い。 すごく大変だ。 しかしこの場所まで踏み込んで来た君を無力と侮辱してどうする? もしそんなこと言う情弱野郎がいたら俺がメタメタにしてやるよ」
「ダメですよ? 患者さんを増やさないで下さい」
「冗談だよ」
マキブを使って彼女からもん娘を守る。
俺が傷ついても、彼女が治してくれるから。
「フラッグ、大丈夫ですか?」
「平気だ。 本格的に疲れないうちに進もう」
これまで、俺は彼女と共に世界を旅して来た。
途中途中、病気の者を治すために村や町に寄り、彼女の力になってあげた。
そうやって旅をして来た今、とても大きな世界樹を登っていた。
そこから見下ろす世界は広いが、遠くでは二つの大国を傷つていた戦場がある。
その傷を少しでも取り除きたくて彼女はいつものように動いた。
本当は俺達にとって関係無い出来事。
けれど彼女の強い要望に応えるべく俺は力を貸すことにした。
そして、これからも彼女に力を貸すだろう。
まるで病のように。
こればかりはおそらく治療法が見つからない。
「あとフラッグ…」
「なんですか? 先生?」
「その先生ってのは止めれないですか?」
「楽しいから言ってるのですよ、先生」
「もう! 名前で呼んで下さい!」
「わかりました、ナビス先生」
「む〜!」
なんだかんだで良き関係を築き上げながら、俺は彼女のメスとして行く先を切り開くだけだ。
俺の名はフラッグ。
治療法の無い病を負った彼女の患者です。
end root【ナースサキュバス】
前章は戦闘面で大変お世話になった。
あとかわいい。