呪霊の子   作:充椎十四

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 流石に四対一ともなれば悠仁らが優勢だ……が、真人の体内には未だストックがある。体内に保存していた改造人間らを兵力にすることも盾にすることも可能とする真人の術式「無為転変」は悠仁らとの数の差を埋める、いや、むしろ圧倒している。

 それでも悠仁らの優勢が崩れないのは、改造人間らが悠仁らと比べれば雑魚に過ぎないこと、参戦した二人のうちの範囲攻撃を得意とする一人――黒髪を二つ括りにした男が悠仁らに味方しているお陰だ。

 そして残る一人、東堂に勝るとも劣らぬ屈強な肉体の持ち主はどうやら二つ括りの男と兄弟の様子。互いの隙を補い合う姿はなるほど深い絆を感じさせる。

 

 悠仁はつい数十分前、この二つ括りの男と殺し合いをしたはず。なのにどうして味方してくれているのか、ブラザーとはどういうことか。疑問がもやもやと残るが、今は目の前の敵、真人を倒すことだけ考えるべきだろう。――悠仁が再起してから二人は真人との戦いから何故か一歩二歩下がり、片手間に改造人間の群れを殲滅しながら「そうだ、お前なら出来る!」やら「上手ですよ!」やらと悠仁たちに茶々を入れてくるのだが。

 意味不明で、邪魔だ。

 

 運動会の保護者と化した二人は横に置いておくとして、命を()るか刈られるかの戦いの最中、悠仁らが黒閃を随意に放つことが出来るようになったのとほぼ時を隔てず真人も自らの術式の本質にまた一歩近づく。

 複数の人間を合体させる「多重魂」、その発展型というべき「撥体(ばったい)」は爆発的な速度と質量でもって悠仁らを蹂躙せんと暴れ回る。

 

 ――真人の術式「無為転変」による技の一つ、「多重魂」とは二つ以上の魂を合成するというものだ。

 そして「多重魂」の発展型「撥体」は、反発し合う魂を合体させる際に発生する拒絶反応を利用したもの。いわば重曹に熱を加えれば化学反応が起き発泡する……といった理論で、つまりは爆発的に質量が増大する。

 

 その「撥体」により合成され、肥大化した改造人間はもはや人の形を成しておらず、その圧倒的質量で以て地下通路の天井を力任せに突き抜ける。

 コンクリや配管電線その他を破って地上に芽を出し、傘の開いたきのこ型に成長した改造人間製大舞台。半径は5メートルほどだろう。

 

 床が隆起するまま放り出されるようにして地上に出た悠仁と違い、保護者二人は軽やかに舞台へ着地。そしてグチグチと真人をなじりだした。

 

「貴様はコナン映画の犯人か? 街を爆破して良いのは漫画やアニメの中だけだ。この修繕にいくら掛かると思っている」

「人的損害も考えると被害総額は億どころか兆でも足りませんね……」

 

 二人の言葉からは「人の道」や「人の心」というものを感じられないが、「人の心がない」という批判は呪術師全般に言えることだ。彼ら二人が特別冷血ということではない。

 だからといって不快に感じないわけではない。

 

「もはや相性が悪いのなんのと言ってられん。エソウ、やるぞ」

「ええ、兄さん」

 

 ――さて、真人は。渋谷でことを為すと聞かされた時「渋谷でなんでやんの? あそこヤバいって言ってたじゃん」と文句をたれた。これまでしつこく「渋谷には行くな」と言っていたのに、と。

 夏油は言った。「呪術師と陣野の潰し合いを狙うのさ」、「陣野の連中には呪力がないからお前の敵ではないよ」、「でも何かあるといけないし、ストックは多い方が良いかもね」と。

 

 夏油に言われたからではない。真人はそんな素直な質ではない。だが、多めに人間をストックしていた。「なんかヤな感じがする」という自分のカンを信じて当初より千人近く余計に人を捏ね――それでもなお、現在体内に残るストックは百五十人と少し。苦虫を噛み潰した顔になるのも当然だ。

 ストックの中で相性の良い魂同士を「多重魂」し作ったのは幾魂異性体(きこんいせいたい)が六体。幾魂異性体はただの改造人間とは比べ物にならない圧倒的なパワーと硬度を持つが、その代わりに稼働時間は短い。火力の強さを優先し持続時間を捨てたのだ。

 

 幾魂異性体の見た目はどれも同じで、西洋甲冑の外側に人肉を貼り付けたような姿をしている。胸部から腹部にかけてと両腕は生々しい肌色、頭の付け根や下半身を覆う外皮は青痣を思わせる青紫色だ。常識的な一般人なら十人が十人これを悪趣味と言うだろう。

 

 真人はこの六体のうち五体を「前にも会ったことがあるらしい」奴らへ向かわせ、残る一体と己は虎杖悠仁と拍手男――東堂とやら――と向かい合う。

 本体が悠仁らの方に向かったのは「前にも会ったらしい」二人と戦っても面白みも成長も感じられないからだ。あの二人とは術式の相性が悪く、互いが互いに対して決定打に欠ける。相手のスタミナ切れを待つだけの消耗戦をして何が身につくというのか、何が得られるというのか?

 戦いらしい戦いをしている実感を得られる悠仁らに目がいくのは当然のことだろう。

 

 そう。真人は、幾魂異性体が五体もあればある程度の時間稼ぎができるものと思っていた。

 殴り合いで出る音とは思えない「ぐぼん」という異音。ぎょっとして後頭部に目を生やした真人が見たのは、「ぐぼッ!」と鈍い音を響かせて幾魂異性体の命の火が消えたその瞬間だ。

 

「は?」

 

 髪を二つ括りにした男が幾魂異性体を殴りつけた音のはず。殴ったなら殴ったなりの音がするはずなのに、あの硬さとあの拳の勢いからは想像もつかない軽い音がした。

 男が殴ったところが、型抜きされたクッキーのように、背中から十センチほど飛び出していた。

 

「ポコポコ言ってますね」

「殴り心地が軽いからだろう。もしや、これがところ天の助の殴り心地なのか?」

 

 男が何をしているのかはすぐに分かった。なんとあの男――いやツインテール野郎、拳の周囲に筒状の血刃をまとわせているのだ。妖怪ツインテールが殴りつけたところから型抜きされて飛び出る……ということのようだ。

 面で叩くのは硬くとも線で斬るなら柔いと考えたのだろう。

 

「くそじゃん!」

 

 いくら強化したところでクッキーやバウムクーヘンよろしく型抜きされては火力の利などないも同じだ。新たに五十体ほどの改造人間を向かわせ、東堂と虎杖をいたぶることに意識を向ける。

 

 だが、集中が右へ左へ乱されている真人と、目の前のことだけに集中していれば良い悠仁と東堂では、後者の方が有利だ。

 黒閃、そして黒閃。任意に位置の入れ替えをできる東堂と、任意に黒閃を放てるようになったらしい悠仁に殴られ続ける真人の姿はまさにサンドバッグ……だった。

 

 真人は窮鼠というほど弱くはない。むしろ強者の立場だが、強者同士の戦いで追い詰められて牙を剥いた。呪胎が脱皮するように――蛹が蝶へ羽化するように、この逆境の下、真人は進化の階段を登る。

 

「お前を殺して――俺は初めてこの世に生まれ堕ちる」

 

 産声を上げた真人の横っ腹を、音速がバシィンと打った。怪我はないが邪魔だし痛い。真人は頭を横に倒してその攻撃の主を見た。

 

 そこには赤い鞭を振るう妖怪ツインテールともう一人。彼らの足元にはぐずぐずに崩れて原型を留めない改造人間の成れの果てがこんもりと山になっている。

 真人は呆れや恨みや疲れが籠もった溜息を吐き出す。

 

「はあああああ〜……邪魔なんだよなぁああ〜お前ら。お前らさ、なんなのさっきからずっとずっとずーっと俺の邪魔してさ。うざいからどっか行ってくれよ、なァあ」

 

 進化と共に人に似た見た目を捨てた真人だが、今なお四肢があり、頭部もある。両手で頭を掻きむしり盛大にため息を吐いた。

 

「ていうかさあ……お前らホント誰?」

 

 興味がないもの、興味を失ったものについてはすぐ忘れる――覚える努力すらしない真人にとって、「前に会ったし名乗っている」などと言う彼ら二人の存在は強いストレスだ。

 会った覚えがない。名乗られた記憶もない。だが癖が強過ぎるこの二人を忘れるとは思えない。

 

「さっきも言ったが――貴様に名乗る名の持ち合わせはな」

 

 足元から飛び出した呪霊に飲み込まれて、ツインテールの言葉は途切れた。




妖怪ツインテールチョウソウ〜エビ味〜

◯◯◯ー◯・◯ー◯◯舞台おめでとうございます大阪でもやってくれ。
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