スズタニ・スズカはおばあちゃん子である。
ほんわかした母親。生真面目そうに見えてどっか抜けてる父親。双方ともに大好きであったが、それ以上に赤ん坊の頃から祖母になついていた。嫁姑の間柄は良好(というか祖母の教え子が母だった)なので特に問題はなかったが、それにしてもなつきすぎだと祖母はよく苦笑していたものだ。
そんな祖母の膝の上で、よく時代劇を見ていた。別に無理矢理見せられていたわけではない。祖母がテレビを見ていると、膝の上によじ登って一緒に見たがっていたのだ。多分祖母と一緒にいたかっただけなのだろうが、それが原因で少女漫画より先に時代劇の役者を覚えるような幼女ができあがった。
そんな彼女に祖母も思うところがあったようで、とある日スズカをつれ、あるところに赴いた。
神結流の演舞会。市営の体育館で行われていたそれを、スズカに見せるためだった。胴着を纏い、凜々しい姿の女性たち(神結流の門下生は、なぜか女性が多い)が太刀を振るい、槍を巧みに操り、長刀を奔らせる。その光景を、スズカはキラキラした目で見つめた。
魅入られたと言っても良い。きれいで、かっこいい。素直に憧れを口にした彼女を見て、祖母は小さく頷く。
そして数年の間、時折演舞の動画や録画などを見ることが増えた。祖母の膝の上でやっ、とうっ、とか腕を振り回すスズカの姿を見て、母親はまあまあとほっこり見守る姿勢であったが、父親は微妙に不安げな様子だった。もしかしたらそれは、将来を予測していたからこそのことなのかも知れない。
ともかく、すくすくと洗脳事前教育されたスズカは、小学校に上がるのと同時に神結流の道場へと入門することとなる。
才能と、教育。それが適切に合わさると天才を生む。……と言うほどに大げさなものではないが、スズカには確かに素質があった。そして、あんなきれいで格好良いお姉さんみたいになりたい、という向上心もあった。結果、その成長は当時の師範を唸らせるくらいにはめざましいものとなる。
幸いにして、というか調子に乗りやすい質であるスズカが天狗にならなかったのは、
中学も卒業する頃には、道場内でも一目置かれるほどの技量となった。世が世なら剣客として名をはせたのかも知れない。その一方で、彼女は不満のようなものを覚えていた。
技量は向上した。そしてきれいでかっこいいお姉さんになる努力も惜しんではいない。むしろそっちの方は年頃の娘っ子と言うこともあってウエイト多めだ。それはともかく順調に成長していると言って良いだろう。では何が満足していないのか。
道場や演舞会くらいでしかその腕を振るう機会がないことに、物足りなさのようなものがあった。なにかこう、
警察や自衛隊などには言って技術を生かす、と言ったのもまた何か違う。強いて言えば格闘技大会のようなもので技を競い合いたいとかそういう方向性だ。俺より強いヤツに会いに行く系の。
そうはいっても、漫画や格闘ゲームじゃあるまいし、そんな機会が転がっているはずもない。いっそのこと自分で異種武道競技団体でも作り上げてしまうしかないか、などとアホな方向に考えが飛んだりしていたのだが。
高校の入学を控えたある日。
「おねえちゃん、マーブルがまたなんか新しい企画にチャレンジするっぽいよ?」
男性アイドル押しの妹が勧めた動画。それがスズカの運命を決めた。
かのグループはスズカ自身も注目はしていた。メンバーの幾人かが時代劇のドラマや映画に出演していたからだ。そして事務所のごり押しでありながらも、結構いい演技をしていたと記憶している。
ただ、動画で行うのは大概面白おかしい挑戦系だ。実際面白いのは面白い。だからと言って熱中するほどでもない。スズカ的には話題のネタにはなるくらいだ。だからそれほど
内容は『GBNへの挑戦』。マーブルのメンバーがガンプラを作り、GBNをプレイしてみようと言う内容だ。GBN事態はスズカもちょっとだけ耳にしている。ガンプラを作って遊ぶゲーム。その程度の知識しかない。最近流行りだしね~と、話題のネタ程度の気持ちで視聴してみる。
その動画の中で行われた会話が、彼女の意識を引いた。
「クロさんの選んだのって、刀持ってるんだね」
「うん、時代劇の経験とか、参考になるかなって」
「ああ! 殺陣とか活かせるかもじゃん! 『思った通りに動かせる』んならありかぁ!」
思った通りに動かせる。その言葉に、興味をそそられた。何の気なしに妹に問うてみる。
「ねえ、じーびーえぬって好きなようにチャンバラできたりするわけ?」
「できるっぽい。よくわかんないけど」
「ふ~ん……」
ゲームである。ゲームなのだ。だがその中では好きに刀を振るえる……かも知れない。そんな考えが脳裏をよぎる。
『果たして、その他のメンバーのガンプラは!?』とか言う引きで動画が終わる。多分引き延ばすだけ引き延ばす類いの展開だ。しかしそのようなことはスズカの頭には入ってこなかった。
それから、スズカはGBNに関する情報を集め始めた。しかしながら、どうにもよく分からない。
元々GBNはガンプラが好きな人間、興味を持つ人間を対象としている。全くのド素人に対しては不親切な部分が多かった。つーかちんぷんかんぷんだ。安室としゃーが戦う話というレベルも怪しいスズカにとっては、受験にも等しい難易度であったと言える。
四苦八苦の末、とりあえずガンプラを使うオープンワールドのフルダイブゲームであると言うことは分かった。(この時点で半分意味が分かっていない)つまりガンプラがないとどうしようもないようだ。(実際はガンプラなしでもプレイできるが、多くのコンテンツは使えない)
ガンプラなど全く未知の世界である。とりあえず買って組み立ててみれば良いのだろうが、何をどう選んだら良いか全くさっぱり分からない。試しにちょっとジョー●ンとか覗いてみたのだが、山積みとなったガンプラの箱を見ただけで気力が萎えた。何も分からない状態であの中から選べとか拷問である。はてさてどうしたものだかと、悩みを抱えたまま高校に入学し、悩み続けていたわけだが。
「そういえばこの学校、模型関係の同好会とかなかったっけ?」
入学してすぐに仲良くなったモカが、そのようなことを言った。
「え? あったんだそんなの」
「確か入学の時にもらった案内の中にあったような。……ごめん、ボクもよく覚えてないや」
「別に悪くないからいいって。スズタニなんか気づきもしなかったし」
と、2人の会話を聞いていたマコトが、何かを思い出したようで口を挟んできた。
「そういえば、旧校舎に同好会なんかの部室が集められてるって話でしたね。多分そこじゃないでしょうか」
「ああ、そんなことを言われてたような気が」
そもそも部活動とか全く興味がなかったので記憶に残っていなかったのだが、模型――ガンプラの事が分かりそうな存在があるとなれば話は別だ。
考えるのも決断も、一瞬であった。
「……よし。ちょっとその同好会探して行ってみる」
ぐ、と拳を握りしめ、スズカはそう宣言した。
「なんだろう、そこはかとない不安を感じるんだけど」
「奇遇ですね、私もです」
止めるべきか、でも止める理由がないしなあと、友人2人は漠然とした不安を抱えながらも見守るしかなかった。
そうしてスズカは模型研究会の存在を割り出し部室へ赴き。
運命の扉を開けた。
で、現在であるが。
「うわあ、ちょっと。この告白、ハズ……」
自宅の居間で、スズカは食い入るように画面を見ていた。
映し出されているのは、Gガンダムの最終回。クライマックスで主人公のドモンが世紀の大告白をぶちかますシーンである。
そしてその直後のラブラブ天驚拳。思わず声を上げるスズカ。
「きんぐおぶはーとって、そういうこと!? まさかここまでネタ引っ張るなんて!」
おのれ今川やりおるわと、謎のノリでぐぐ、と拳を握る。その様子を見ていた妹は、後頭部にでっかい汗を流す。
(おねえちゃんがなんかどんどんおかしな方向に突き進んできているような気がする)
部活に入ってからこっち、姉は時々自覚せず呟いていた斬りたいな~とかいう危険な言動が減った。その代わりアニメを見て奇天烈なことを言い出すことが増えた。
危険性は下がっているようなそうでないような。ともかく大人しくなっているから良いのかなぁと、若干の不安が残りつつも無理矢理納得する妹さん。
だが彼女は知らない。落ち着いているように見えるスズカだが、それは単に方向性が変わっただけだと言うことを。本質的には何一つ変わっていないのだと言うことを。
心に修羅を飼い続ける少女。その存在は、GBNに嵐を呼ぶ……のかも知れないしそうでないのかも知れない。
おまけ
Q・もしスズカさんがあのような告白を受けたらどうしますか?
「無理無理無理無理! フラッシュモブのサプライズ告白より無理! あんなことされたら斬りまくって引きこもるよスズタニ!」
大惨事が確定。
閃光のハサウェイよりもクロスボーンシリーズをアニメ化して欲しい。
いやそれよりもセンチネルをだねと無理を言う男捻れ骨子です。
はい今回は外伝的なお話。スズタニさんがどうしてあのような女の子になったのかという説明的なものです。
なお大体彼女の目線なので、表現がマイルドになっていると思われます。実際は妹さんの感想からお察しください。
その妹さんのモデルはぽいぽい駆逐艦。趣味だよ。まあこれから先登場することがあるのかどうか分かりませんが。なんかご意見の一つでもあれば検討するかも知れません。
それじゃ今回はこの辺で。次回から新展開、か?(東スポ感)