度肝を抜く。つまりは相手の予想外の行動を取って、一時的にも精神的なイニシアチブを得る。言葉にするのは簡単だが、実行するには並外れた度胸と勝負勘がなければ成り立たない。
そして重要なのがタイミング。虚を突くには相手が思っても見なかった状況でカードを切るのも手だ。
例えば、ドラグーンユニットに四方八方から囲まれ、レジェンド本体からは大型ビームライフルで狙われ、回避も難しい絶体絶命なこの状況とか。
あえてこの機会。キラ☆は――
「大回転海老反りハイジャンプローリングバスターライフルっ!!」
ギャグに走った。
両腕を広げて縦横回転しながらバスターライフルをぶっ放す。やったことはそれだけだ。
海老反りでもハイジャンプでもない、しかも大回転とローリングで被ってる。ネタにしてもスベりまくっているとしか言い様がないそれに対し、ナベは回避行動を取りながら言い放つ。
「全方位攻撃のつもり? そんなものであたしとドラグーンが墜とせるとでも……」
どがんどがんぼがん。
「墜ちましたが」
「なんで当たるのよ!?」
あっさりと半数以上のドラグーンユニットを撃墜して見せたキラ☆。残りのユニットを回収し再チャージしたナベは、何の冗談かといきり立つが、キラ☆は飄々としたものだ。
「狙ってやったからに決まっているじゃないですか。それに……
「なにを……!?」
にやりと自信ありげに笑うキラ☆の様子に、ただならぬものを感じるナベ。
キラ☆はただ単にネタで全方位攻撃を行ったのではない。彼の狙いは――
ぞう、と空を薙ぐバスターライフルのビーム。それはドラグーンユニットを吹き飛ばすにとどまらず、戦場のあちらこちらをかき回すように奔った。
「ぬうっ!?」
「会長の援護にござるか!」
壮絶に撃ち合っていたオタクロとカブの間を裂くように。
「うひあああああああ!?」
「会長のバスターライフル!? まさか狙ってやったと!?」
逃げ惑うシラタキの行方を遮るかのように。
「くうっ! こっちを狙った!?」
「え? 何どこから!?」
攻勢に出ていたネギの勢いを削ぐかのように。
「こんなまぐれで墜ちるものかよ!」
「会長か!? なんて、でたらめ!」
壮絶に空中戦を繰り広げるカモを、射落とさんとするかにように。
それはとても援護とは言えない。大雑把な、下手をすれば味方に当たっていたかも知れない『横槍』だ。
だがそれは、
だから。
「ここからは全力全開だ。お相手願いましょうか、レディ?」
レジェンドより高い位置で機体を滞空させ、わざとらしく気取った物言いでナベを挑発するキラ☆。彼の行った
「上等っ!」
歯を剥いて吠え、彼女は残りのドラグーンを放出しキラ☆へと挑みかかる。
戦場を裂くようにビームが奔ったそのとき、オタクロとカブは双方ともに後退を選択した。
選択して。
「当てるっ!」
「この位置ならっ!」
ヒルドルブの30㎝砲。ヘビーアームズに追加されたビームカノンとグレネードカノン。同時に放たれたそれは、狙い違わず互いに命中する。
「くぅっ!」
ビームとグレネードはヒルドルブの車体に直撃し、それなりの損傷を与え。
「ぬおっ!」
30㎝の砲弾は、ヘビーアームズの右肩に備えられた大型ミサイルランチャーに直撃した。
内部で砲弾が炸裂し、残ったミサイルが誘爆。派手な爆発が、ヘビーアームズを飲み込む。
それでカブは止まらない。
「やったかなどとは言わん! 畳みかける!」
お約束など知ったことかとでも言うように、さらなる追撃を用意。次弾装填のためのタイムラグももどかしく、己の損傷にも構わずカブは砲身を向け照準を合わせる。
果たしてヘビーアームズは、右肩の装甲を失い全身が焼け焦げた状態で、爆煙の中から駆けだして来た。損傷はあれどもその戦力はさほど衰えていないと見たカブは容赦なくトリガーを引こうとし――
相手が残りのミサイルランチャーとクローラーユニットをパージするのを見た。
「軽量化のつもりか! だが遅い!」
躊躇わずトリガー。砲弾が放たれ……る寸前に、ヘビーアームズが
「なっ……!?」
砲弾を飛び越えるかのように上空へ跳躍したヘビーアームズは、そこから両腕のガトリングガンを放ちながらヒルドルブに向かって落下してくる。
「曲芸じみた真似をっ!」
ガトリングの弾丸が装甲を削る中、カブは機体を全速で後退させながら両肩のMTHELと両腕のマシンガンで反撃するが、落下中の目標には中々当てにくいものだ。結局大したダメージもなくヘビーアームズは着地。そして。
「残り全部、持って行かれるがよかろう!」
全身の装甲板が開き、本体に仕込まれた全ミサイル、両腕のガトリング、背中の砲、そして胸部のブレストガトリングが一斉に打ち放たれる。
ヘビーアームズの必殺技、【フルオープンアタック】。本来であれば増加装備のミサイルランチャーも含めた全武装を一気に放つものだ。ランチャーがなくなった分火力は減退しているが、それでもその威力は通常のMS数体ほどに相当するものだ。
カブはMTHELとマシンガンにてミサイルを迎撃するが、一斉に放たれたそれを撃ち落とすのは間に合わず、何割かの直撃を受け爆煙に包まれる。だが。
さっきのヘビーアームズと同様に、爆煙の中から飛び出すヒルドルブ。ガトリングの一斉射撃を受け全身穴だらけ。両腕とサブアームの一本は失われ、装甲も何割か欠落し酷い有様だ。両腕と片方のサブアームを盾代わりにコクピットへの直撃を免れていたのだ。
「堪えたぞ! 全弾撃ち尽くしたのであれば、最早武器はあるまい!」
武器のない相手であれば、真正面から力押しで叩き潰せる。EWのヘビーアームズカスタムであれば、その判断は正しかった。
しかし残念ながら、オタクロが駆るのは
がぎん、と両腕のガトリングガンが腰から伸びたフレームごとパージされる。そしてヘビーアームズは、劇中のトロワのお株を奪うような動きで軽やかにジャンプする。
その右腕から、軽い金属音と共に何かが展開する。折りたたみ式のアーミーナイフ。ヘビーアームズ唯一の格闘戦用装備だ。そこでカブはやっと目の前の敵がHGを改装し色を塗り替えたものだと気づく。
「小細工を!」
一瞬戸惑ったが所詮はナイフ一本。MTHELもマシンガンも失われたが、まだ片方のサブアームは無事。そして主武装の30㎝砲も健在だ。間合いはこちらが有利。クローに換装したサブアームで捕らえ、極至近距離から30㎝を叩き込んでやると目論む――
前に、空中のヘビーアームズの左腕が、肩口から伸びたグレネードカノンの砲身を掴んだ。
「弾の切れた武器は、こう使う!」
そう言い放ってオタクロは、切り離したカノンを
「破れかぶれが効く物かよ!」
そんなものが当たってもダメージにすらならないとカブはカノンを無視。当たるに任せてクローをヘビーアームズに叩き込もうとした。
そこでオタクロは
外付け兵装であるビームカノンは、機体から直接エネルギーを供給されるタイプだ。つまり機体のエネルギーが残っている限り弾切れが存在せず、フルオープンアタックを使用した後もチャージがすめば撃つことが出来る。そしてグレネードカノンには弾こそ残っていないが、破壊されれば消失の一瞬、モザイクのような演出のエフェクトが発生する。
そのエフェクトは、カブの視界を一瞬遮った。
「これはっ!?」
衝撃。視界が晴れれば、車体の上面、MSボディの至近距離で、突きの姿勢のヘビーアームズ。懐に飛び込み確実にコクピットを潰すために、一連の細工をして見せたのだ。
「しま……」
「いただく」
ずん、とナイフが突き込まれ、ヒルドルブはその動きを止めた。ヘビーアームズがそこから離脱すると同時に、爆発。エフェクトを残して巨体はかき消えた。
危なげなく着地したヘビーアームズ。オタクロはにい、と獰猛な笑みを浮かべる。
「あんた中々強……おっと」
そこで何かに気づいたかのように態度を改め、コホンと咳払いして眼鏡を押し上げる。
「いかんいかん
オタクロVSカブ。オタクロWIN。
眼前を断ち割るかのように横切ったビームの線条。どこからか、狙われたのか。そういった疑問を覚えたのはネギ、スズ、共に同様であった。
そこから先の行動が明暗を分ける。
ネギは僅かな一瞬でレーダーに目を走らせ索敵し、同じ一瞬でスズは間合いを詰めた。
追撃を懸念したネギと、追撃はないと判断したスズの差である。そしてネギは突然のことに失念してしまった。
その事実を忘れ去っていなければ、あるいは
一瞬の空白の間に、相手は距離を詰めている。油断であったと舌打ちする代わりに、ネギはアックスをふるって距離を稼ごうとする。
振るったアックスは空を切るだろう。当然だ、当てることよりも相手を寄せ付けないためのものなのだから。第一に当てるつもりで振るっても避けられるし。
しかしその空振りで終わるはずの一撃は――
ぎきん、と言う音。その直後に
「……は?」
違和感に小さな声を上げれば、視界の端でどずんと地面に突き刺さるアックスが見えた。
「大当たりぃ~。やっぱ
太刀を振るった姿勢のブレイザー。そのコクピットでスズは蠱惑的に唇を舐めた。
「畜生ふざけんなよ!」
機体を後退させ、肩のマシンガンで牽制を行う。グレイズアインの武装は基本大型アックスが二つと両肩のマシンガン。そして腕に仕込まれたパイルバンカーにクラッシャーを兼ねた足首と、近接戦に寄ったものだ。そしてネギはキットを改造したり武装を追加したりしていない。元々の機体の頑丈さに任せて前衛に回り、格闘戦を挑むのが彼のスタイルだ。しかしそれも、格闘戦で相手に上回れたら一気に不利となる。以前ジンと相対したときのように。そういった状況でも打開策を見いだす上級ランカーのような『強かさ』を彼は持っていなかった。
しかしそれでも諦めないくらいの意地と往生際の悪さくらいは持っている。
(こいつの腕はナノラミネート装甲を斬れるほどじゃない。関節を狙う太刀筋に注意さえすれば、時間くらいは稼げる!)
半ば勝利を諦め、目の前の敵を引きつけることに集中せんとする。相手の動きが変わったことを見て、スズはふむ、と鼻を鳴らした。
「むむ、用心されたかぁ。意外に消極的」
これがジンあたりならば、ダメージ覚悟で攻勢に出てくる。折角の刃が通じない装甲なのだ、やりようはあるだろうと不満のようなものを感じた。
しかしまあ戦術と言われればそれまでだ。目的を果たすため逃げ回ることは戦国時代の武将もやってる。勝つためには真っ向から戦うばかりが脳ではない。そのくらいの理解はある。
「まあそれに乗ってあげる義理もないんだけどね」
髪の毛パーツと背中のアーマーが跳ね上がり、スラスター群が咆吼する。一気に加速し懐に潜り込む。スズが執った手段は単純明快なものだった。
「速い! くそっ!」
疾風のような速度で迫るブレイザーに対して、ネギはマシンガンでしか反撃
ではどうするのか。
「なっ……ろお!」
ネギは自ら手首を切り飛ばされた右腕を、
「っ!?」
がいん、と言う堅い音に眉を顰め、スズは一端後退する。敵も然る者と言うことか。
「は、はは。どうよ!」
一か八かの賭に勝った。そういった気配を隠さずにドヤ顔してみせるネギ。調子づいた彼の様子を見ながら、スズは考える。
「……ふ~ん?」
先に一撃入れた右脚、そして今し方受けられた右腕の装甲。斬れてはいない。だが
やることは決まった。
「ふっ!」
呼気を吐き出すと同時に突貫。太刀を担ぎ、
再びの金属音。そこからゆらりと太刀筋が変わった。
そしてまたも金属音が響く。今度は右脚。
二連撃。それを成してからブレイザーは再び距離を取る。
「なんだ? 何の真似……」
眉を寄せたネギだったが、すぐさまに異常を察知した。今し方機体に斬りつけられた
「な……ま、まさか、
そう、スズが行ったのはそれだ。ナノラミネート装甲は頑強ではあるが、
つまり、
「あとはこっちの太刀が保つかどうかだよね~。ちきんれーす、ってヤツ?」
その言葉に怖気が奔る。こいつ、頭おかしい。
まったくもってその通りだ。
「お前、お前無茶苦茶だ! まともじゃない!」
思わずそう口にするネギ。スズはにっこりと笑って、こう宣った。
「知ってる? 頭おかしい方がおっきな事出来るんだよ?」
正気にて大業ならずと言いたいのだろうか。それ言ったヤツも大概アレでナニだったような気がするんですけど。
それはさておき、ネギは目の前の存在に畏怖した。ヤバい。この女うちのボスとは別系統でヤバい。ぶっちゃけ今すぐにもうしろ向いて逃げ出したい心境だ。が、それはしたくても出来ない。ここで自分が逃げ出せば味方が不利になるだろうし、後で絶対ナベになんか言われる。飲み屋辺りで絡まれる。それは是非とも避けたい。
そんなわけで。
「畜生死ぬわけじゃねえんだこの野郎馬鹿野郎どっからでもかかってこいやああああ!!」
両手を広げてやけくその叫び声を上げる。本人はもう半泣きだった。
そこから怒濤のラッシュが始まる。最早切り飛ばされても構うかとばかりにアックスを無茶苦茶に振るい、あるいは蹴りを放ち、手首を切り飛ばされた右腕で殴りかかってくる。 先ほどまでの消極的な戦い方が嘘だったかのような攻め。それをかいくぐりながら、スズは機嫌良さそうに声を上げた。
「なんだ、やればできんじゃん」
こう言うので良いんだよこう言うので。どっかの食いしん坊な個人輸入業者みたいな事を考えながら、回避し捌き受け流す。やけになったせいで動きが無茶苦茶になり、逆にそれが動きを読みにくくさせている。さっきまでよりもこっちの方が
最低でも同じ場所を斬りつけ続けてダメージを蓄積するという戦法は使いにくくなった。攻撃を躱すのはそれほど苦労しないが、打ち込むのが少々手間だ。このままでは攻略しにくいことこの上ない。
(この様子だと、そろそろかな?)
スズは頃合いだと見て取る。果たして猛攻を続けていたグレイズアインは、僅かにその勢いを落とし始めた。
「くっ、この……」
体力の限界……ではない。フルダイブ式のゲームであるGBNは実際に体を動かすわけではないので、むしろさほど体力を消耗しないものだ。消費しているのは精神力。戦い続けた上でスズに圧倒され、やけになったはいいものの後先考えない攻撃は全て避けられ捌かれる。その事実は結構精神に負担をかけていた。
結果それは集中力の低下を招く。例えばボタン一つで連続技が出せるゲームでも、それが通用しなかったり躱され続けたりすれば気力も萎えるというもの。それが勢いを減ずることにつながった。
スズには十分な隙だ。
「しぃっ!」
一閃。下からの斬り上げは、振り下ろされたアックスの柄を切り飛ばした。
「なっ、ろお!」
己の迂闊さを呪うより先に、ネギは蹴りを放った。足首より先が旋回し、ブレイザーを砕かんと迫るが、スズは機体をしゃがむように沈み込ませることによって回避する。
そして。
「やっとうだけじゃないんだよ、ねっ!」
しゃがみ込んだ体勢からの回し蹴り。所謂水面蹴りがグレイズアインの片足を刈り取る。
「うおおおっ!?」
文字通り足下をすくわれ、背中から地面に倒れ伏すグレイズアイン。衝撃がコクピットを揺らし、ネギは呻いた。が、すぐさま我を取り戻し、機体を立て直そうとする。
もちろん遅かった。
ごがしゃん、という衝撃が再びコクピットを揺るがす。飛び上がったブレイザーが、全重量を乗せた切っ先を胸部装甲に突き込んだのだ。
実際にコクピットに刃が届くわけではない。だがほぼ致命傷と判断したシステムはレッドアラートをがなり立てる。
「やっぱ頑丈だね。一発で仕留める気だったのに」
まだ撃破していないと判断したスズが、再び太刀を振り上げた。
「ま、まだっ!」
苦し紛れにネギがマシンガンを放つが、それはひょいひょいと軽く機体を傾けるだけで回避された。
「うん、ごめんね?」
悪気なく、慈悲もなく。
振り下ろされた切っ先は、今度こそとどめを刺した。
離脱したブレーザーの眼前で、爆発したグレイズアインは電子の塵と化す。太刀を回転させてから納刀したスズは、見上げるように周囲を索敵し始めた。
「さてさて、みんなはどうしてるかな?」
その心に、先ほどまで戦っていた敵は残っていない。
なんかまだ続くっ!
ゴールデンウィーク? 仕事だよ。(黒く澱んだ目)
まあ仕事なくても何の予定もないんですけどね。彼女もいないし。彼女もいないし。
いんだよガンプラありゃあ楽しいから捻れ骨子です。
はいバトル回……ですが、今回で終わらなかったよ。やっぱりバトルやり出すとページ増えるじゃないですかヤだー。自業自得ですが何か。
ともかくなんか続くことになってしまいました。このままだらだらとバトルが続くことにはならないと思います。そこまで引っ張れるもんでもありませんし。
多分次回で決着、だと思われ。だよな、多分。(自信なさげ)中編2とか3とか完結編とかないよな?(不安)
とにもかくにも今回はここまで。また次回もよろしくお願いします。