荒涼たる大地。
冷え冷えとした風が吹きすさび、砂埃が舞うそこに、足を踏み入れる者がある。
3体のガンプラ。それは騎士を模したものだった。
【騎士ガンダム】、【騎士アレックス】、そして【騎士ユニコーン】。最早原形を留めぬほどに改造されたリアルタイプの機体を操るのは、それこそ騎士のような甲冑を纏った三人のダイバー。
そのリーダー格らしい一人が、正面を見つめて一筋汗を流す。
「……まさか本当に一人だとは、な」
彼らと相対するのは1体のガンプラ。ガンダム0083に出てきたGP02サイサリスを改造した深紅の機体は、威風堂々と構えている。
【ガンダムGP-羅刹天】。それを駆るのは、鬼をイメージしたアバターの偉丈夫。上位フォース【百鬼】のリーダー、【オーガ】。獄炎のオーガとも呼ばれるトップクラスのダイバーである。彼は降り立った3体を見て、にい、っと野太い笑みを浮かべた。
「中々
アリーナバトルは参加人数の調整が出来る。自分たちも、そして
ランクSである彼は、多くの参加フォースに対し自らバトルを申し込むことが出来ない。ゆえに挑戦者を待ち受ける形となっていた。自分がチャンプのまねごととはと、妙な心持ちであったが、挑んでくるのは中々歯ごたえのある連中ばかりだったので、今ではすっかり楽しんでいる。
カウントが始まる中、さあ早く
「対戦人数を制限していない上で己一人とは、よほどの自信があるとお見受けする。さすがは獄炎のオーガと言ったところか」
「ふん、まさかフェアじゃないとでも言うつもりか?」
「それこそまさかだ。我々が束になってもかなうかどうかも分からない相手に対し、フェアなど何だの言う方が侮辱となろう。我ら総員で、挑ませていただく」
いい面構え、そして覚悟だ。騎士のなりをしているが、正義感に凝り固まったような人間ではないらしい。
カウントが0を刻む。三体のガンプラは一斉に剣を引き抜き、胸の前で剣を立て騎士の礼を取る。
そしてリーダーが声高々に宣った。
「我ら【
「その名前は何とかならなかったのか」
オーガは思わず素でツッコミいれていた。
GBN内のビデオチャットで、戦いを終えたばかりのオーガは幾人かと会話を行っていた。
「中々美味い連中だった。この俺に一撃とは言え喰らわせてくるとはな」
くつくつと笑い、杯を呷る。GBN内の食料飲料はフレーバーと味こそついているものの、実際に栄養になったり酔ったりはしない。しかしこれは雰囲気というものだ。
オーガが語ったのは先ほどまで戦っていたフォースの感想。アレな名前ではあったがそれを裏切るかのような実力を持ち、最後の最後まで粘り強く戦った。その果てに敗れ去ったが、羅刹天に一撃入れるという快挙を成し遂げていた。オーガはその戦いに満足したようだ。
「それで、どうだいアリーナバトルは?」
画面越しに問うてくるのはチャンプ、クジョウ・キョウヤ。彼らを含んだ上位ランカーの一部は、運営からアリーナのテストプレイに協力を要請されていた。オーガなどはその気性から要請を断るかと思われていたが、意外にも彼は乗り気である。
「悪くはねぇ。通常のバトルに比べて乱入やくだらねえ事前工作なんかの心配がねえからな、目の前の戦いにだけ集中できる」
バトルマニアであるオーガにとって、乱入されるのや騙して悪いが系の罠などはむしろ望むところであるが、そういうのを仕掛けてくる多くは
それとは逆に、不満のようなものを覚える人物もいる。
「私としては、やはり制限されている状況というのは何ともやりにくいものに感じるね」
そう発言するのは、軍服を纏った白いフェレットというアバターの人物。
ランキング2位のフォース、【第七機甲師団】のリーダー、【ロンメル】。可愛らしい外観とは裏腹にハードな戦略家であり、自身もトップクラスの技量を持つダイバーである。
彼とそのフォースの持ち味は、広大なGBNと言う舞台を利用し練り上げられた戦術を駆使した戦い方だ。それ故に、色々と制限されるアリーナは彼らの実力を十二分に発揮できないという面があった。それでも高い勝率をたたき出しているのは流石と言えるが。
「競技化を考えれば、こういったあり方は致し方ないと思う。それは十分に理解しているのだが」
「賛否両論あるのは当然さ、向き不向きがあるのもね。アリーナは一大改革だと思うが、だからと言ってそれに拘る必要はない。あくまでプレイスタイルの一つでしかないのだから」
アリーナの実装によってGBNの流れは大きく変わるだろう。しかしそれは今までのプレイスタイルを否定する事ではないとキョウヤは言う。GBNは自由であるべきだという彼のスタンスは変わらない。
「アタシとしては不正が行いにくいっていうのがありがたいわね。最低でもアリーナに関しては神経尖らせる必要はあまりないんじゃないかしら」
口を挟んでくるのはマギー。ボランティアのような形で初心者の世話を好んで行っている彼女からすると、不正か行いにくいアリーナは新規ダイバーたちの拠り所にもなるのではという期待がある。
「しかし敷居が高い部分があるのも否定は出来ないな。初心者からでも参加できるのであれば話は別だが、それをすると今度は初心者狩りの温床になる可能性もある。さじ加減が難しいところだ」
腕を組んで考えこむような仕草を見せるロンメル。予定されているアリーナの参加資格はフォースを組んでいること。つまりDランク以上でなければ登録できないのだが、これは低ランクを狙った不正行為を防ぐという目的もある。
例えばサブアカを使ってキャラを作り、アリーナで低ランクの者を狩るとするならば、まずランクをDまで上げ、フォースを作って登録しなければいけない。その上で待っているのは不意打ちも仕込みも出来ないステージだ。手間がかかり、メリットはそれほどないとなれば、それを行おうとする者はほぼいないだろう。そういった輩の多くが、手軽にポイントを稼ぐために低ランクの者を狙っているのだから。
だが同時にランクE以下のダイバーにとっては状況が変わらないと言うことである。かつて今より初心者狩りが横行していた頃、Dに至る前に挫折しGBNから離れていったダイバーも少なくはない。現在は有志による自衛などにより初心者狩りは下火になったが、今後はランクアップを餌にした不正行為が増えるかも知れない。そういったことに対して目を光らせる必要があると、ロンメルは語った。
「そう言われるとねえ。出来れば通常のプレイでも初心者に対するフォローを手厚くしてもらいたいとも思うわ。アタシたちだけじゃお世話するのも限られるし」
「自由度の高さがネックになっている部分もあるね。かといって長々とチュートリアルを行わせるのも、やる気を損なわせる要因となるか」
「運営も頭を悩ませているところだな。最初から自由度を高くしておいたことが、GBNの集客率を高めていたことも事実だ。一概に今の状況が悪い、とは言い切れないだろう」
皆の意見を聞きながら杯を傾けていたオーガは、ふん、と鼻を鳴らす。
「どんなに舞台を整えたところで、やらかすヤツはやらかすさ。俺も覚えがあることだ」
オーガ自身は不正を行ったことはない。だが彼のフォースメンバーである実の弟――【ドージ】が一時期初心者狩りを行っており、それが原因となってマスダイバーとなり一騒動起こったことがある。その騒動自体は解決し、ドージは関係者に謝罪して事は収まったが、そのようなことは誰でもやらかす可能性がある。やもすればアリーナであっても何らかの不正行為は発生するやもしれない。
「あのときのドージには心の弱さがあった。だがそれは
オーガの言葉にキョウヤは眉を顰めた。
「……
「あくまで可能性って話よ。お前も言っていたろう、
かつてのブレイクデカール事件は、GPDにこだわりGBNに反感を持った人間が起こしたことだ。そういった行動力と才覚を併せ持った人間が再び現れることもありうると、オーガはそのような危惧を感じている。
新たな問題の提議に、あり得ないことではないと皆が唸った。なにしろ一度起こったのだ。二度目三度目がないとは言い切れない。
「……指摘したら、【カツラギ】さん倒れちゃうんじゃないかしら」
GBNの運営責任者の名前を挙げるマギー。彼はアリーナの件でもほぼ休みなく働いていた。それ以前にエルドラのこととか色々抱え込んでいる懸案も多い。ここに来て新たに問題提議などされたら、冗談ではなく卒倒するかも知れない。
キョウヤはため息をはいた。
「かといって言わない訳にもいかないんだよなあ。対策を考えていないとは思わないけれど、用心はしておくに越したことはないし」
「運営だけに任せておくのも、言っては何だが不安が残る。……ダイバーたちの、生の意見を聞かせてもらいたいところだ。アリーナに参加しているテスターに運営からアンケートなどもあると思うが、それで全ての本音をさらけ出せるものではないだろう」
「なら手分けして各所の掲示板を覗いてみるってのはどうよ。探すのは面倒だが、余所では口に出せないような意見も見られる。本音とは言わねえが、穿った話も聞けるんじゃねえか?」
言葉は交わされ続け、話はいつ終わるとも分からない。
彼らはそれぞれの形でGBNを愛している。あるいは対立したり、あるいは敵対したりしたこともあったが、その思いは変わらない。情熱を胸に、彼らは新たな変革と相対しようとしていた。
……というように裏では色々と大変なようであったが。
主人公たちはそんなこととは全く関わりないわけで。
「え? なにこの対戦の申し込み」
ウィンターテーブルとの戦いを終えた数日後。アリーナのウィンドウを開いてみたらば、なんかものすごい数の対戦申し込みが表示されていた。何を言っているのか分かるだろうけど納得いかねえ。キラ☆の正直な感想である。
「どういうことなの……」
現場猫の顔になって途方に暮れた様子のキラ☆。その横で色々とサイトを巡っていたオタクロが、ある動画を見つけ指し示す。
「もしかしたら、これが原因ではござらぬか?」
ウィンドウを皆でのぞき込んでみれば、そこに映し出されていたのは公式のアリーナバトルPVである。
どばばんと近日実装!新たな戦いのステージ!とかキャンプションが踊る背後で戦闘シーンが展開されている。
ホットショットとウィンターテーブルのバトルだった。
「聞いてないよ!?」
「あ~、アリーナの利用規約に、バトルの動画、映像等の著作権は運営と該当ダイバーにあり、通知のみで公式の宣伝等に使われることがありますご了承くださいとありますな」
割と適当に規約を意訳したオタクロ。その言葉に、キラ☆はピクンと反応した。
「通知? あ、そういえばこっちのメール見てなかったような気が……」
結成してからほとんど見てなかったフォース用のメールボックスを開くと、結構な数のメールが届いていた。多くはフレンド申請とか対戦の申し込みとかだが、その中に埋もれるように公式からの通知があった。
「……バトルの動画を使わせていただきますご了承ください、だって」
ものすごく簡単に意訳したキラ☆。気まずげに皆を見渡せば、野郎どもは、あ゛~、とでも言いたげな様子で天を仰いだり肩を落としたりしてる。スズはきょとんとしてるが。
「自分たちがこういうことに関わるなんて全くの想定外っすからねえ」
「俺としてはすっごい恥を世界にさらしてる感が……」
「流石に詳しいプロフィールなどはありませぬが、動画から我々のフォースが探り当てられたのでしょうなあ。特定班恐るべし」
実は自分たちがアリーナの初戦を飾っており、それが故にあちこちから注目されているなどとは夢にも思っていない。さらにバトル自体が適度に分かり易く見栄えがあると言う理由でPVに採用されたことなど予想できるはずもなかった。
まあそれはそれとして。
「それで、どうしましょこの対戦申し込みの山」
ウィンドウを指し示してジンが言う。お互いの都合が合えばボタン一つで対戦できるというのもアリーナの特徴であるが、流石に複数と同時に対戦できるようにはなっていない。それにこれだけの数を全部相手したら時間がいくらあっても足りないだろう。
気を取り直したキラ☆が、ふうむと考え込む。そして程なく答えを出した。
「適当に選んで何回か対戦しよう。多分しばらくは対戦申し込みが殺到すると思うけど、アリーナが実装される頃には収まる」
「その心は?」
「単純にPVのせいで僕らが目立ってるだけだからね。実力的にはまだランクC。アリーナの中じゃ下から数えた方が早い。実情が知れ渡ればすぐに皆興味をなくすさ」
今はまだテスト中故に参加できるフォースは限られているが、実装されればそれこそ無数のフォースがアリーナになだれ込んでくるだろう。そうなれば自分たちの存在など埋もれてしまうと、キラ☆はそう睨んでいた。
「そんなモンすかね」
「この昨今、流行り廃りの移り変わりは激しいものさ。GBNだって例外じゃない。だからこその競技化にアリーナだろうからね」
運営もプレイヤーを飽きさせないために必死なのだ。自分たち程度にいつまでもPVの背景などさせておく事もなかろう。この状況は一過性のもの。アリーナの実装までのらりくらりと乗り切ればいい。そう断言する。
「幸いというか、戦いを申し込めるのは自分たちと同等以上。つまり僕らよりランクの高い相手はいない。一方的にボロ負けするような無様はないと思いたいね」
「負けてもいいです。この前みたいなオチ担当でさえなければ」
キラ☆の言葉に、にゅんと身を乗り出して割り込むH・A。よほどこの間の顛末が不満だったのだろう。なんか目に中にぐるぐると渦が巻いている。コワイ。
「あのPVのおかげで俺はへっぽこ野郎というイメージが定着していることでしょう。それを払拭しないことには口惜しくて夜しか寝られません」
「それは普通に寝ていると言うことでは」
「夜更かしは健康に悪いんですよ?」
「左様で」
いつものような言葉の応酬。まあ結局のところ沈静化するまで適度に挑戦を受け続けると言うことで良いのだろう。斬りまくれるんなら構わないけどとスズは気楽に構え、ふとあることを思いだした。
(アリーナ当選したときに感じた嫌な予感って、これだったのかな?)
むしろばっちこいというか願ったり叶ったりというか。活きのいい餌対戦相手が向こうからやってくるという現状は、スズにとっては望むところだ。他のメンバーにとってはそうでもないかも知れないが。
う~んなんか納得いかないとスズは首を傾げながら、早速展開されたアリーナ用のゲートを、メンバーに続いてくぐる。
もちろん、この程度がホットショットの前に立ちはだかった障害などではない。
彼らには、もっと面倒な厄介ごとが待ち構えていた。
おまけ
「くけえええええええええええ!!」
↑チャンプたちからアリーナに関する指摘を聞いた運営のカツラギさん。
「カツラギさんご乱心!?」
「ユンケルー! 誰かユンケル持ってきてー!」
こんな一幕があったとかなかったとか。
おまけの2
フォース 闘饗騎士倶楽部
リアルタイプに仕立て上げた騎士ガンダム系ガンプラを使うダイバーで構成されたフォース。フォースランクはA。
名前はアレだが実力派揃い。銃器の類いをほぼ使用せず、剣やランス系の武器でそろえているが、普通に剣で銃弾弾いたりビームぶった切ったりする頭おかしい変態達人ども。
まがりなりにもオーガ相手に一撃を入れたところからその実力が窺える。
よっしゃー課金した甲斐あってペーネロペー完成ーっ!
……この大量に余った頭と胴体どうしよ。EX-Sガンダムが来たら同じことする自信がある捻れ骨子です。
ちょっと忙しくて更新が遅れました。連休の方が平日より忙しいってどういうことなの。(白目)テレワーク?どこのSFの話だよ。
まあ職場の黒に近い灰色部分はさておいて、今回はこう言う裏側もあるよって話&原作キャラたち登場の巻~。なんかオーガさんがやたらと気を回しているように見えますが、彼バトルから離れたら結構普通の人だと思います。あと無印とRe:RISEの経験を経て、人間的にも成長してるんじゃないかと。素のキャラがああいう感じでもないでしょうしね。……と言い訳してみる。
そしてシリアスな伏線かも知れないと言ったな? アレは嘘だ。なんか事件が起こっても、主人公たちの知らないところで始まっていつの間にか終わってるんじゃないですかね。多分原作主人公とかチャンプとか運営とかチャンプとかが頑張るんでしょう。
とは言っても主人公たちは主人公たちでなんか起こりそうです。果たしてそれがなんなのか。次回以降の俺頑張れ。
そういうわけで今回はこの辺で。