陽昇大付属高校内、旧校舎。通称部室長屋。古い校舎を改装し、小規模の部活や同好会が拠点として使えるようにした建物である。
一つの教室を二つに区切り、結果かなりの数の部屋を備えることになったその建物に、ジントとホウジは足を踏み入れた。
「え~っと、一階の奥、か」
「日当たりは良くなさそうだが、はてさて」
手にした案内のチラシを見ながら二人は奥へと進み、ある部屋の前で足を止めた。
【模型研究会】。達筆な文字で書かれた看板が掲げられたその部屋のドアを、ジントは軽くノックし、「失礼します」と一声かけてがらりとスライドさせた。
「ふははそれロンじゃあ! 字一色で役満よぉ!」
「ちょっと待つでござる。なぜ拙者のところと会長の牌で合わせて5つの白があるでござるか」
「これぞ麻雀奥義轟盲牌なり!」
「嘘こけでござる適当にイカサマしたんでござろうが。ノーカンでござるノーカン」
なんかイケメンといかにもオタクな巨漢が熱く麻雀してた。
「……失礼しました~」
からからぴしゃん。ドアを閉じてから、ジントは良い笑顔で額の汗を拭う仕草をする。
「見なかったことにしようか」
「だな」
何事も無かったかのように立ち去ろうとする二人だったが。
がららららっ!
「待ってえええええちょっと待ってええええ! 違うのちょっと暇だから遊んでただけなのおおおお!」
「入部希望者でござろうそうでござろう!? 頼むから何事も無かったかのように立ち去るのはやめていただきたいのでござる!」
「いやああああああ離してすがりつかないでえええええ!」
「やめろお部屋に引きずり込んだ途端熱い麻雀漫画が始まるんだろ俺は詳しいんだ!」
……で、なんとか騒動が収まった後。
「では改めて……僕が本研究会の会長、【タガミ ヨウヘイ】だ」
イケメンの方がそう名乗り。
「拙者が副会長の【オダ クロウ】でござる。よしなに」
オタクっぽい人が眼鏡をきらんと光らせて言う。
「あっと、ナカモノ ジントっす」
「アイザワ ホウジです」
二人も名乗って頭を下げた。会長のヨウヘイは、二人に向かって言葉をかける。
「それで、二人ともこの同好会に入部希望と言うことで良いんだね?」
「その前に……ここ本当に模型研究会なんですよね?」
ジト目のジントが問い返す。ヨウヘイは心外だとでも言いたげな態度で応えた。
「当然だとも。この塗料や接着剤の溶剤臭漂うこの部屋のどこが模型研究会らしくないというのだね」
「そこの麻雀卓とかジムにおいてあるような筋トレ器具とか色々異物があるのですが」
「その辺は個性的なインテリアだとでも思っておけばよろしい。ともかくここは模型研究会で間違いないことは確かだ」
「まあ正直閑古鳥が鳴いていることは否定できないのでござるがな」
苦笑しながら肩をすくめるクロウ。そういえば、この部室には2人しかいない。ジントは恐る恐る問うた。
「えっと、もしかして今この同好会って
「ああ、その通りだ」
「このご時世に何でまた、と聞いても?」
疑いの目を向けたホウジが重ねて問う。世界規模で2千万のユーザーを有するGBN。その影響もあって大概の中高では模型関係の部活や同好会が存在し、相応に賑わっている。閑古鳥が鳴いているというのは今時珍しい。
ホウジの問いに、ヨウヘイはがっくりと肩を落として応えた。
「……三年前の【ブレイクデカール事件】、覚えてる?」
「マスダイバーがどうたらで、有志連合が立ち上がった奴ですね。ネットニュースにも載ってましたから知ってますけど」
特殊なチップを仕込んだデカールを貼ることによって、GBN内で強力な力を振るうことが可能となったガンプラ。それを操るマスダイバーと呼ばれる連中が引き起こした事件。当時結成された有志連合の尽力によって解決されたその事件は、ジントたちもそれなりに聞き及んでいた。
「……当時の諸先輩方が、ブレイクデカール使っちゃったらしくてね~」
どよんと暗い空気を漂わせて、ヨウヘイは力なく笑う。彼の説明をクロウが補った。
「おかげで内部分裂が生じて部員は散り散りばらばら。一気に部員も減った上、話が広まったおかげでイメージ悪くなりまくり、結果翌年から入部がするものが激減どころか皆無に近い状態になったのでござるよ。で、未だにその影響が色濃いというわけでござる」
「むしろ人数が減ってチャンス! とか思ってたらこの有様。チャンスどころか廃部寸前というわけだよははははは」
べつにGBNをプレイするだけなら部活に入る必要は無い。だったらイメージ悪い同好会に所属する必要ないじゃん。事情を知ってる者たちはそんな感じで模型研究会を忌避したのだという。
この学校に直接の知り合いがいないジントとホウジは全く知らない話であった。
「そういうわけで新入部員は大歓迎な訳だよ。で、入部してくれるよね?」
「……う~ん、訳ありかあ」
「気にしないのかと言えば気にしない類いの人間ですけどね俺達」
気乗りしない感じのジントとホウジ。廃部寸前の弱小同好会に入ってメリットがあるのかどうかと迷っているのだろう。それを見て取ったクロウが、アピールを始める。
「この研究会に入れば、部室内の機器や製作ツールは使い放題。ジャンクパーツも好き放題に使ってくれて構わんでござるよ。まあ基本持ち寄りなんで余っている物や不要品を持ってきていただきたいのでござるが。それより何よりも!」
ずはっ、とクロウは部室の奥を指す。
「なんと【
「「マジすか!?」」
2人が揃って声を上げる。GPD、【GPデュエル】と呼ばれるそれは、
思わず部屋の奥に備えてあるテーブル状のそれに駆け寄り、2人は興奮した様子で言葉を交わす。
「すげえ実物始めてみた! 今おいてあるところなんか全国でも少ないだろこれ!」
「プレイできるって事は稼働状態にあるって事ですよね。なんでこんな物が……」
廃れたとは言えGPDの筐体は相当なコストがかかる。中古でも学生風情がおいそれと手の出せるものではないはずだが。
クロウはふふんと胸を張った。
「実は陽昇大の工学部はGPDの開発に一枚噛んでおったのでござるよ。その伝とコネで当時の顧問やOBがテストプレイの名目で持ち込ませたのでござる」
「まあ初期型のしかもテスト用だったものだ。僕たちが来る頃にはすっかりくたびれて埃被ってたんだけどね」
「へ? じゃあなんで動いてるんすか」
ジントの問いに、ヨウヘイとクロウはすごいドヤ顔してみせる。
「「
「「はあ!?」」
ジントとホウジが素っ頓狂な声を上げる。GPDの筐体と言えばオーバーテクノロジーじゃないかってくらい複雑怪奇な物のはずだ。それを高校生風情が自らの手で修理したなどと、にわかには信じられない。
ヨウヘイがふっ、と格好を付けて言う。
「こう見えて僕はこういった物のハードには詳しいのさ」
「そして拙者はシステムエンジニアとしてはちょっとした物なのでござる。まあハードもソフトもそんなに損傷してなかったから出来たことでござるが」
ただの変な人たちでは無かったらしい。胡散臭そうな目でジントたちは2人を見るが、ともかくGPDがプレイできるというのであれば文句はない。怪しいところはあれどもと、2人はあっさり手のひらを返して入部申込書にサインをした。
申込書を確認してヨウヘイは満足げに頷く。
「OK、不備はないね。これで何とか同好会としての体裁は保てそうだ。……それで、早速やってみる?」
ヨウヘイはくいっと親指で背後の筐体を指し示してみせる。クロウもにこやかに傍らのスチールラックを示した。
「使えるキットがいくつかあるから貸し出しも出来るでござるよ。適当に見繕って……」
「「いえ自前があります」」
ずは、とハードケースを取り出してみせる2人。ヨウヘイがふむと頷く。
「きっちりと保護しているか。……良い心がけだ」
バトル用のガンプラをどう扱っているかで、その人間の思い入れや本気度が分かるとヨウヘイは思っている。ジントたちの扱いは上等だと言えよう。
それぞれケースから取り出されたガンプラを見て、クロウはほう、と眼鏡を光らせる。
「かなり作り込んでいるようでござるな。相当手間がかかったのでは?」
「ふっふっふ~、受験の合間に息抜きと称してちまちま組み上げたのは伊達ではありませんぜ」
「数か月かかってこれ1体につぎ込みましたからね。その分出来は良いと自負してます」
受験戦争の最中に複数のキットを組む余裕は無かったのだろう心情的に。家族の視線も痛いだろうし。
ともかく取り出したキットをジントたちは筐体にセットする。
「本格的にやり合ったらぶっ壊れるって話だから、適度に流す程度にしとくか」
「GPDで派手にやり合うのも心引かれるけどね」
「あ、それなら心配しなくてもいいでござるよ。コーティングとステージ内の粒子量を調整することによって射撃ダメージを抑えることが出来るでござるから、直接ガツンガツンぶつけ合わなければ早々破損することはござらん」
「え? そんなこと出来るんすか」
「エフェクトがしょぼくなるので実際のプレイではやらないことでござるがな。テスト筐体だからこそ出来る裏技的な物でござるよ」
筐体に接続された端末をいじりながら言うクロウ。GPD筐体に関してかなりの知識と技術を持っていると窺わせる言動だが、逸っている2人には関係ない。セッティングが完了すると同時に、ホログラムのコントローラーを操作して己の機体に命を吹き込む。
「EX-SガンダムR、行くぜ!」
「ZプラスC1ナイトオウル、出る」
カメラアイに灯を点し、2体はバトルステージに躍り出る。とはいえすぐさま戦いを始めるわけでは無く、色々と機体を動かして慣れようと試みていた。
「お、あれ。ちょっと動きがぎこちない?」
「……なるほど、GBNと違って
実際にプラモを動かす関係上、実際に稼働する部分しか動かない。例えば通常の1/144スケールであれば手首から先は固定され、指の関節は動かないようになっている。それがそのまま反映されるわけだ。ゆえにGBNでジントが行ったようにスマートガンを派手に振り回す、などというアクションは難しい。
それに。
「それだけじゃない、全体的に動きが硬い。……あれ、銃剣の展開も出来ないや」
「……もしかしてそのキット、金属パーツを多用していないかい? GPDのコーティングは
ヨウヘイが言う。基本GPDのシステムで動かせるのはプラスチックで構成された物体だ。ゆえに金属パーツを多用すると稼働に影響が生じてしまう。ジントのEX-SガンダムRは関節全てに金属パーツを用いたものだ。その動きが鈍るのは当然であった。
「そ、そういう物だったんすか。……ならこれはどうだ」
コントローラーを操作。それに応えEX-SガンダムRはGクルーザーモードへと姿を変える。
「これなら手足の動きは関係ねえ!」
「なるほど。こっちも変形を試して見るか」
次いでZプラスもその姿を変える。先輩2人は目を見張る。
「完全変形か! 旧HGを加工したんだな。良い出来だ」
「EX-Sガンダムもなかなかの物でござる。可変機構を簡略化して強度を保つ。オリジナルの変形機構に拘っていたらば中々出来ることではござらん」
視線の先で、2体が自在に宙を舞う。
「ラジコンみてーで面白れぇ! GBNとこんなに違うんだ」
「こっちはこっちで楽しいもんだ。根強いファンがいるのも分かる」
ぶんぶんと機体を回している2人は、完全にのめり込んでいる様子だ。それを微笑ましく見ながら、クロウは端末をいじっている。
「GBNの経験があるからと言って、初めてのプレイでここまで適応できるとは。キット共々データ取りがはかどるでござるよ」
「ふむ、バトルを始めるのか。どれだけやれるものか」
眦を鋭くするヨウヘイ。その視線の先で2体のガンプラは激しく戦い始めた。
「どっちみち格闘戦は無理なんだ。だったら火力で押し通す!」
スラスターを主軸にした機動を見せながら、備えられた火器を撃ちまくり弾幕を張るジントのEX-SガンダムR。
「そうそう当たってはやれんな!」
火力では勝負にならぬと見て取ったホウジは、得意の変形を繰り返す幻惑的な機動でZプラスC1ナイトオウルを奔らせ、翻弄せんとする。
「ちっ、ALICEが使えねえと目くら撃ちみてえなもんか!」
「こっちの予測軌道を潰しておいてよく言う! おまけに攻撃を全部受け流しておきながら!」
「Iフィールドとビームシールドなかったら全部直撃じゃねえか! そっちこそえげつねえな!」
「お互い様だ! まだインコムとか余力残しているくせに!」
それにしてもこの2人、ノリノリである。
ともかく処理の甘いCGみたいなエフェクトを咲かせつつ、2体のガンプラは激しく舞い踊る。それを操る2人の顔は、実に楽しそうな物であった。
うず。みてる先輩2人が何やら反応する。
「……やっぱりみてたらやりたくなりますな」
「まあ初心者がこれだけの物を見せつけてくれたらね」
いつやるの? 今でしょ。
イケメンとオタクが身を翻し、そして。
砲火を交わす2体。その間を割るようにビームと銃弾が撃ち込まれた。
「うおっとお! ……先輩!?」
視線を向ければ自分たちと同じようにホログラムのコンソールを展開しているヨウヘイとクロウ。
「人が楽しくプレイしてるのをみると妬ましくなるでござるからな。ゆえにちょっと乱入させてもらうでござるよ」
グリーンを基調とした配色の、【ガンダムヘビーアームズEWイーゲル装備重装型】。
「そういうことだ。折角だからみんなで楽しく遊ぼうじゃないか」
ほぼ純白に塗り上げられた、【フリーダム・ノイエ】。
いかにも強者といった様相の乱入者を前にして、GPD初心者たる2人は引かない、戦かない。
「「……上等っ!」」
獣のようにジントとホウジは笑む。そして先輩たる2人もまた。
「滾るでござるなあ! 派手に火花を散らしましょうぞ!」
「いいじゃないか。実に良い! さあ、かかってきたまえ!」
立体映像の世界を揺るがし、4体のガンプラは激しく斬り結ぶ。
「1年の経験差がなんぼのもんじゃああああ!!」
「その意気や良し! だが気迫だけで勝てる物ではござらぬ!」
「下剋上、成させていただく!」
「ほう? ならば僕を倒せば模型研究会会長の座、譲ってやろうじゃないか」
「「それは結構です」」
「なんでさ!? しかも真顔で!」
「そりゃ面倒押しつけようってのが透けて見えるからではござらんか?」
それにしてもこの4人、ノリノリである。
とんにもかくにも。水があったのかなんなのか、意気投合しまくったアホどものバトルは果てなく続く。
「「「「たーのしー!!」」」」
それは日が落ち明かりが煌々と灯るようになってからも終わる様子を見せない。
こうして、廃部寸前であった模型研究会に新たな新風が吹き込んだ。
それがいかなる物語を招くのか、未だ定かではない。
で、下校時間をオーバーしまくったアホ4人は、守衛さんと居残りの教師からめっさ怒られた。
おまけ
キャラ紹介
タガミ ヨウヘイ
陽昇大付属高校2年。模型研究会会長。
クールなイケメンに見えるが、割とノリと勢いで生きているジントたちの同類。やはり高性能なアホ。
廃部寸前の模型研究会でだらだらと過ごしていたが、ジントたちが入ってきたことによりやる気を見せる……?
性格はともかく見た目通りの切れ者で、GBNやGPDのハード……
外観のモデルは漫画デスノートの夜神 月。腹黒ではないがアホ。
使用ガンプラはフリーダム・ノイエ。
オダ クロウ
陽昇大付属高校2年。模型研究会副会長……と言っても物語開始時点で2人しかいないが。
いかにもオタクっぽい外観をした巨漢。やはりノリと勢いで生きる高性能なアホ。
キャラ作りで己を拙者と称しござるが語尾。しかし眼鏡の奥の瞳は存外鋭く、何やら隠し持った本性があるように思われる。
システムエンジニアとしては超高校級というかプロも顔負けで、その実力はヨウヘイの協力があったとは言えGPD筐体を修復できたほどの物。
外観のモデルは漫画賭博黙示録カイジから安藤 守。屑ではないがアホ。
使用ガンプラはガンダムヘビーアームズEWイーゲル装備重装型。
登場ガンプラ
フリーダム・ノイエ
ヨウヘイのガンプラ。HGフリーダムガンダムの改造キットで、腰のレールキャノンはKEP弾使用のショートバレルダインスレイブに、両手に備えるライフルはウイングゼロカスタムのツインバスターライフルに、それぞれ換装されている。
そもそもが扱いの難しい機体だが、ヨウヘイは難なく使いこなしているようだ。
ガンダムヘビーアームズEWイーゲル装備重装型
HGガンダムヘビーアームズをEW風に仕立てイーゲル装備を追加し、さらにガトリングガンを2丁にしてバックパックにビームカノンとグレネードカノンを追加したもの。(ガトリングガンは腰の両側から延びたアームで保持されており、ドラムマガジンは銃のフレームに備えられている)
アホみたいな重装備のおかげで動きが鈍い……と思いきや、脚部のクローラーによるローラーダッシュ機動で結構機敏に動く。
続きが出来たお。うん仲間増やすだけの話だったんですけどね……。
なんか変人増えてGPD周りに変な設定生えただけの話になりました。どおして……(現場猫感)
もう1話くらい書けたら連載にしようかと思っています。