叢雲が以前所属していた鎮守府から飲み会のお誘いが届いたのが数日前のこと。
叢雲が嬉しそうにしている反面、僕は心配だった。
シリアスと見せかけたネタ…。女の子同士なら問題ないですね、絶対!!
「ん、じゃあ行って来るわ。明日の朝には帰れると思うから…それまで留守番頼んだわよ?」
―――そう言って、最愛の艦娘…叢雲は僕に背を向け歩き出そうとした。
「…あんまりハメ外すなよ?」
「ふんっ、アンタじゃないんだから大丈夫よ」
叢雲が以前所属していた鎮守府から彼女宛に一通の便りがあったのはつい数日前のこと…。
その内容は久し振りに会って飲みませんか?という飲み会へのお誘い…。
久々の戦友との再会に期待を膨らませる叢雲とは裏腹に僕は何とも言えない不安を感じていた。
「…ごめん、心配になっちゃってさ」
「はあ、余計なお世話よ。なんでそんな辛気臭い顔で見送られなきゃいけないのかしら?」
いってらっしゃい、と素直に言えない僕が辛うじて絞り出した言葉に叢雲は素っ気なく答えた。
「…そっちこそ私が居ないからってハメ外すんじゃないわよ?アンタ、私が居ないとなんも出来ないんだから!」
「………」
「………」
生意気な態度で憎まれ口をたたく叢雲だったが、図星をつかれて何も言えないでいる僕に彼女は困った顔をすると…
「…ま、すぐに帰って来るから安心なさい?それと…あー、まぁ、その心配してくれて、その…ありがと」
…優しい声色でそっと呟き、小さく笑うのだった。そしてそのことに僕が触れる間もなく、彼女は照れ隠しのつもりなのか、そっぽを向いて走って行ってしまった。
「………大丈夫だよな」
叢雲を送り出してからしばらく経った後、独り自分を納得させるようにそう呟いた僕は彼女のお陰で少し和らいだ不安を胸に自分の仕事に取り掛かるのだった。
★
「…ん?叢雲から電話?」
…その晩のことだ。ちょうど今時分に叢雲も昔の仲間との再会に胸を弾ませ、楽しくお酒でも飲んでいるのだろうなと思っていた時、僕の携帯に着信があった。
…叢雲からの着信。俺はすぐに電話に出た。
「もしもし、どうし―――」
「もっしも~し!?こんばんは~!!元気にぃ~してますかぁ~??」
「…は?」
電話越しに聞こえてきたのは…叢雲の声ではなかった。聞き覚えのない陽気な女性の声だった。
「…え、あ、どちらさま?」
…一瞬間違い電話かとも思ったが、携帯電話のディスプレイには叢雲という文字が表示されている。
しかしどう考えても電話の相手は叢雲ではない…僕の知らない誰かだ。
「あっはは~!?どちらさまだって~!!この人面白いね~!!」
「……ちょっ………返し……」
陽気な女性の声に紛れて聞こえてくる微かな声…僕はその声に聞き覚えがあった。
その声は……
「…叢雲!?」
思わず叫んでいた。
「あっはははは~!!叢雲ォだってぇ~!?叢雲ちゃんの今の提督さん、本当に面白いねぇ~!!」
「ねぇ、もう…もういいでしょ?返してよぉ…」
携帯のスピーカーから聞こえてくる嘲笑うような声。そして今度はしっかりと聞こえた叢雲の……僕が今までに聞いたことのないくらいに弱々しくなった声。
「お、おい!一体何が……」
「えっへへ~!?じゃ~あ~、叢雲ちゃんの今の提督さんにぃ~ポーラ達がぁ~今何をしてるかぁ~教えてあげますぅ~」
何か良くないことに叢雲が巻き込まれていると嫌でも理解してしまった僕はたとえ何の意味もないとしても電話口で叫ばずにはいられなかった。
しかしそれを遮るように、陽気な声の主…ポーラは言う。
「今ぁ~、ポーラとぉ~そのゆかいな仲間たちはぁ~………」
「や、やめぇ!やめて、お願―――」
「裸になってぇ~女の子同士でぇ~遊んでますぅ~」
「………」
ポーラという女の言葉とそれを止めようと必死に哀願する叢雲の悲痛な声が、僕の脳に鮮明に焼き付いた瞬間だった。
「…え?」
「いつもはぁ~生意気な叢雲ちゃん~!!なんとぉ~実はぁ~!!人前で脱ぐのが好きなぁ~ドМちゃんでしたぁ~!?新しい提督さんはぁ~知ってましたかぁ~??」
「………」
「恥ずかしい写真もぉ~!たぁ~くさん撮っちゃいましたぁ~!!送っちゃいますねぇ~!?あ、他にもぉ―――」
「………」
…気味が悪いくらいに陽気なポーラの声が遠のいていく。
「………」
「………」
「………」
「………」
もはや理解さえ出来なくなった言葉を耳で聞き流しながら、ただ呆然とその場に立ち尽くして何時間経ったのか…。
「…司令官」
ふと最愛の艦娘の声が聞こえた気がした。
「ごめん、ごめんね…ごめんなさい」
普段の勝気な態度からは想像出来ないくらいに弱りきった彼女の涙声は僕の鼓膜を震わせ、思考停止していた脳を再び動かした。
しかし思うに…思考は停止させたままの方が良かったのかもしれない。
「あはっ♡司令官ごめんねぇ♡」
「叢雲はぁ♡ポーラさんたちに飲まされてぇ♡」
「調教されちゃってまーす♡」
「いっえーい!司令官、私の恥ずかしい姿見てぇ♡トラウマになってぇ♡」
「………」
僕は……最愛の艦娘が漏らす吐息交じりの妖艶な声に静かに耳を傾けた。
ずっと、ずっと耳を澄ませて聞き続けた。
嫌なのに…聞き続けた。
そして突然その声が聞こえなくなった。
「………」
通話は切れた。だが再び電話を掛けることはしない。
「………」
送られてきた写真を見る。叢雲の真横に座って勝ち誇った表情を見せつけているのがおそらくポーラという女だろう。
「なんだよぉ、叢雲~。嬉しそうじゃんかぁ」
おそらくポーラに強引に肩を組まされたであろう叢雲は、僕が写真をスワイプする度にその表情を緩ませ…最後は僕が見たこともないくらいにだらしない顔で笑っているのだった。
だから心配だったんだ。
叢雲…。
下戸なのにお酒飲むのは止めようね(戒め)
とりあえず…明日の朝には千鳥足で二日酔いの叢雲が鎮守府に帰ってくると思うので、僕はしじみの味噌汁を作って待っていようと思う。
次回、ザラ姉さま怒りの禁酒令!絶対に見てくれよな!!(大嘘)