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かげのこ

ママとパパがいない。

 

何日も何日も待ったのにママとパパは帰ってこない。

 

 

 

わたしはずっと真っ暗なところにいる。

 

生まれてからずっとずーっと。

 

ママとパパのおはなしを聞いてるとここは地下室ってところみたい。

 

ママとパパはよく壁の穴から地下室と違うところによく行くけど、わたしは行ったことがない。

 

だって、ママとパパから「お外は危ないから、かりんはここでいい子にしててね」って言われてるから。

 

ほんとうはママとパパと一緒にいる時間が少なくて寂しい。

 

でも、ママとパパは毎日わたしに会いに来て抱っこしてくれるし、たまに美味しいご飯も持ってきてくれる。

 

それにパパが、寂しくないようにっておともだちをプレゼントしてくれたんだ。

 

スゴいんだよ。

 

ママとパパとは姿は違って四角くてちっちゃいけど、色んなことをおはなししてくれるんだ。

 

だからわたしは寂しくてもがんばれたんだ。

 

 

 

でも、ある日からママとパパはわたしに会いに来なくなった。

 

明日は絶対来ますようにって、おともだちが教えてくれたお願い事を毎日やってるのに、ママとパパは来ない。

 

もしかして、わたしのこと嫌いになっちゃったのかな。

 

わたしのこと忘れちゃったの?

 

あんなにわたしのこと抱っこしてくれたのに。

 

わたしの頭をなでなでしてくれたのに。

 

またママの優しい声が聞きたいよ。

 

またパパの大きなお手手を握りたいよ。

 

わたしはわたしの中のお水が全部なくなっちやうかもって思うくらいいっぱい泣いた。

 

でもママとパパは、あの壁の穴から優しい声とおっきい足音と一緒にわたしに会い来ることはなかった。

 

 

 

その日。

 

わたしはいい子じゃなくなった。

 

寂しくてもがんばって、たくさんお願い事して、たくさん泣いてもママとパパは来ない。

 

わたしはガマンできなかった。

 

あの壁の穴の向こうにママとパパがいるんだ。

 

お外は危ないかもだけど、ママとパパに会いたい。

 

わたしはいつもママがわたしにしてくれるように、おともだちをなでなでした。

 

「バイバイ。キミはいい子で待っててね。」

 

わたしはおともだちにそう言ってお洋服のお胸についてるおまもりを握って、壁の穴があるはずのところへと走った。

 

ほんとうはおともだちも連れて行きたかったけど、一緒に行くとおともだちも悪い子になっちゃう。

 

だから寂しいけど、わたしだけでママとパパに会いに行くんだ。

 

わたしは後ろでずっとおはなししているおともだちの声を聞こえないように耳を塞ぎながら、一生懸命、壁まで走った。

 

でも、あれ?

 

壁まで走ったけど、穴がない。

 

なんで?

 

ママとパパはいつもこのあたりから会いに来るはずなのに。

 

もしかして、ママとパパはほんとうに魔法使いで魔法でわたしに会いに来てるの?

 

それとも、ヒミツの合言葉を言わないと穴が開かないとか?

 

わたしはがんばって考えて合言葉を叫んだり、わたしも魔法が使えないか試したけど、穴は全然開かなかった。

 

他にもダンスしたりお歌歌ったりしてもうんともすんとも言わない。

 

やっぱり、もうママとパパに会えないのかな。

 

わたしは悲しくなって、壁に寄っかかって泣いた。

 

でもそのとき、寄っかかった壁が少し動いた気がしたの。

 

わたしは一か八かって思って、もっと力いっぱい壁を押した。

 

そしたらまた壁が回転するように押した方に動いた。

 

これだ!

 

これが壁の穴のヒミツなんだ!!

 

わたしはもっともっと力いっぱいに壁を押した。

 

そしたら壁ももっともっと押した方に動いて、壁に大きな穴が開いた。

 

やった!

 

これでママとパパに会える!!

 

会ったら何しようかなー!

 

抱っこしてもらって、なでなでしてもらって!

 

もうママとパパがわたしを嫌いになったり忘れたりしないように、いっぱいいっぱい大好きを伝えなきゃ!!

 

そう思うとウキウキが止まらない!

 

すぐにママとパパに会いたくて走って穴の中に入っていった。

 

その先は段差が何個も何個も続いていて、わたしはそこをとぶように駆け上がる。

 

一番上のあの穴が開く動く壁の隙間から光が見えた。

 

いつもママとパパがわたしに会いに来てくれるとき、部屋がちょっと明るくなるけど、その光よりもっともっと明るい。

 

この向こうにママとパパがいるんだ。

 

わたしはそう信じて、重たい重たい動く壁を押す。

 

今回のは凄く力が必要だったけど、ママとパパに会うためならがんばれた。

 

なんとかこの壁にも穴が開いた。

 

この先が多分、ママとパパが言ってた“お外”なんだ。

 

灯りが飛び込んできてとてもまぶしい。

 

穴からの風がわたしのかみのけをなびかせる。

 

少し怖いけど、初めてのお外はワクワクがとまらない。

 

わたしは小さな段差を飛び越え、お外へ駆け出していった。

 

 

 

お外はとってもとーっても広かった。

 

地下室よりももっともっと広い。

 

お外の壁はどこにあるんだろう?

 

隅っこはどこにあるのかな?

 

わたしはワクワクが止まらなかった。

 

なんでこんなにワクワクするところにママとパパは行っちゃだめなんて言ったんだろう。

 

ママとパパだけズルいな。

 

わたしは初めてのお外にワクワクしながら、ママとパパに会いに歩き始めた。

 

お外はちょっと眩しいけれど、おかげでいろんなものがよく見えた。

 

とっても大きい四角い箱に三角の帽子をかぶってるものがいっぱい並んでる!

 

そばにはお顔がついててまあるい足が4つついているのもいる!

 

たまに見える背が高くて頭が光ってるあれはなんだろう?

 

ほんとうにお外は初めて見えるところがあってワクワクする!

 

ママとパパに会って、地下室に戻ったら、今度はわたしがおともだちにいっぱいいっぱいお外のこと教えてあげよう!

 

あーあ、はやくママとパパに会いたいな。

 

ママとパパはどこにいるんだろう?

 

そう思ってたら前に誰かが歩いているのが見えた。

 

抱っこしてくれそうな大きな大きな体に、痛いくらいギュッと握ってくれそうな大きな大きなお手手。

 

間違いない!

 

パパだ!

 

「パパ!!」

 

わたしは叫びながら、パパに向かって走った。

 

わたしがお外にいると知ったらどんなこと言ってくれるんだろう?

 

ビックリするかな?

 

それとも約束破っちゃったから怒られるのかな?

 

でもパパもずっと帰って来なかったもん!

 

おあいこでいいよって許してくれるよね!

 

パパもわたしの声に気付いて振り向いた。

 

「パパー!!」

 

わたしは勢いよくパパに抱きついた。

 

それからずっと会えなくて寂しかったからもっとギューってしようとした。

 

でも、何か違う。

 

パパってこんな形だったっけ?

 

パパのにおいってこんなのだっけ?

 

パパって抱きついたときにこんなにフラフラしたっけ?

 

わたしはパパにうずめたお顔を離して、パパの顔を見た。

 

………!?

 

違う、パパじゃない!

 

わたしはパパから急いで離れた。

 

パパはもっと大きかった。

 

パパはもっと強かった。

 

誰なの?

 

パパだけど、パパじゃない。

 

「どうしたんだい?君?」

 

パパだけどパパじゃない人が、おしゃべりしてきた。

 

どうしよう。

 

何か言った方がいいかな。

 

「お母さんとお父さんは?」

 

おかあさんとおとうさん?

 

なんのことだろう?

 

パパは?

 

パパはどこに行ったの!?

 

「ねえ。お兄さんの言ってることわかる?

えっと君は、“月村かりん”ちゃん。」

 

……!

 

その瞬間、わたしは後ろを向いて急いで走って逃げた。

 

すごく怖かったから。

 

なんでわたしのお名前知ってるの!?

 

パパだと思ったけど、パパじゃなかった。

 

でも、わたしのお名前知ってるからやっぱりパパ?

 

ホンモノのパパはどこにいるの!?

 

「いてっ!」

 

なにかにぶつかった。

 

急いでたし、涙で全然前が見えなかったからよくわからなかった。

 

でも、ちょっとやわらかい気がした。

 

涙をふいて目を開けたら、何かヒラヒラしたのが見えた。

 

見たことある。

 

これは確か、ママのお洋服のスカートだったはず!

 

じゃあ、いまぶつかったのって!

 

わたしは期待して顔をあげた。

 

でも、だめだった。

 

「えっと、大丈夫?

なんで子供が外に……!?」

 

ママじゃない。

 

ママはもっと優しい声だし、もっときれいなお顔しているんだ。

 

「月村かりん……月村さんのお子さんかしら。」

 

この人もわたしのお名前知ってる!?

 

わたしはまた怖くなって、ママだけどママじゃない人から逃げた。

 

なんでパパだけどパパじゃない人も、ママだけどママじゃない人も、わたしのお名前知ってるの?

 

ホンモノのママとパパはどこにいるの?

 

怖い……

 

怖い怖い。

 

こわいよ。

 

地下室に戻りたい。

 

おともだちのところに戻りたい。

 

約束破ったからバチがあたったんだ。

 

もうお外なんかやだ。

 

ママ……。

 

パパ……。

 

どこなの?

 

もう約束破らないから。

 

スキキライしないから。

 

おともだちと仲良くするから。

 

もっともっと大好きになるから。

 

お願い。

 

ママ、パパ。

 

会いに来て。

 

「ママ!!パパ!!」

 

わたしはおまもりをギュッと握って願いを込めて、お外全部に聞こえるようにがんばってがんばって叫んだ。

 

でも、何秒待っても、何分まっても、どのくらい待っても、ママとパパはわたしに会いに来てはくれなかった。

 

「ぅ。ぅう。

うわ〜〜〜〜〜〜ん!!」

 

わたしは泣いた。

 

ママとパパが会いに来てくれないから泣いた。

 

お外がとっても怖くて泣いた。

 

悪い子になっちゃって泣いた。

 

地下室に戻りたいのに、どうやって戻ればいいのかわからなくてまた泣いた。

 

「ママ…………。

パパ………。」

 

お胸がギュッと苦しくてどうすればいいのかわからない。

 

「うわ〜〜〜〜〜〜〜ん!!」

 

泣くのをやめたはずなのに、また寂しくて涙がどんどん出てくる。

 

わたし、このままどうなるんだろう。

 

もうずっとママとパパに会えないのかな。

 

おともだちのおはなしも聞けないのかな。

 

イヤだよ。

 

そんなの絶対にやだ。

 

でも、どうしたらいいのかわからない。

 

わかんないよ!!

 

「うわ〜〜〜〜ぁぐっ!!」

 

わたしがまた泣きだしそうになったとき、誰かがいきなりわたしのお口を後ろから塞いだ。

 

わたしはビックリして泣くのをやめてた。

 

くるしい……。

 

誰なの?

 

わたしが振り向こうとしたら、後ろの人は無理矢理わたしを連れて大きい四角いの間の狭いところに入った。

 

「ぴいぴいぴいぴい赤ちゃんのように泣いて。

何やってんだ?お前?」

 

「……だれ?」

 

わたしのお口を塞いだ人はママみたいだけど、ママよりも小さかった。

 

どっちかというと、わたしの方が似てる気がする。

 

でもお顔はとっても怖い。

 

お目々も尖ってる。

 

ママもわたしが悪いことしたとき、こんなお顔したような。

 

「誰とかじゃなくて。

あたしはお前のこと聞いてんだ。

あんな道のど真ん中でバカみたいに泣き叫んで。

脱走したいのか?見付かりたいのか?

ハッキリしろ。」

 

うわあ、やっぱり怒ってる。

 

やっぱり、わたしは悪い子なんだ。

 

「う、う……うわぁ…ッん!!」

 

わたしが泣きそうになったら、またその人は勢いよく口を塞いだ。

 

またわたしはビックリして泣くのをやめてた。

 

「だから泣くのはやめろって。

隠れた意味がねえ………。

……………それと」

 

その人は怒りながら怖いお顔でそう言うと、わたしのお口からお手手を離した。

 

そしたら、わたしのお洋服のお胸あたりにピン留めしてるおまもりを無理矢理ひっぱってとった。

 

「これは外しとけ。

もうこんなのはいらないだろ。」

 

その人はそう言うけど、いらないなんてぜったいない!

 

「返して!それはママとパパがプレゼントしてくれた大事な大事なおまもりなの!!」

 

わたしはおまもりを返してもらうようにお手手をがんばって伸ばした。

 

だけどその人はイジワルして、おまもりをわたしが届かない上の方へお腕を伸ばした。

 

なんで返してくれないの!?

 

大事なものっていってるのに!!

 

「返して!!」

 

「黙れ!!!」

 

「………っ!?」

 

その人は大きな声で怒鳴った。

 

ママもパパもこんな大きくて怖い声出したことないのに。

 

なんで?

 

そんなにわたし、悪い子なの?

 

わたしはしょげてお手手を下ろした。

 

また泣きそうになったけど、泣いたらまた怒られるからがんばってガマンした。

 

「御守か。

確かにな。守ってくれる。

でも。」

 

その人はよくわからないことをぶつぶつ言った。

 

そしたら

 

「脱走しても守ってもらおうなんて。

生半可な気持ちで地上に出てきてんじゃねえよ。」

 

そう言いながら、わたしのおまもりをビリビリに破った。

 

わたしはショックで動けなかった。

 

ママとパパのおまもりがあるから、ずっとずっとがんばれた。

 

あれがあれば、ママとパパがずっと近くにいてくれると思えたから。

 

だけど、それが、今。

 

「お前は地下室の扉を開けた。

それは親への反抗。親への離縁。

名を捨てたも同然。」

 

まったく知らない。

 

何を言ってるのかもわからない人に。

 

もうもとに戻せないくらいビリビリに破られちゃった。

 

すっごく悲しくてすっごくイヤな気持ちがする。

 

「メソメソ泣いてんじゃねえ。」

 

泣いてないもん。

 

お目々とお鼻からお水が出てきてるだけだもん。

 

「お前はこれで月村の汚名から解放されたんだ。

お前も家出したくらいだし、お前の両親が何やらかしたか知ってるはずだよな?」

 

つきむら……。

 

あいかわらずその人は何をおはなししてるのかわからないけど、たしかに今、つきむらって。

 

わたしとママとパパの一緒のお名前言ってた。

 

「しってるの?」

 

「……?

ああ、ラジオとか新聞とかでな。

とんだ腑抜けだ。」

 

「ママとパパがどこにいるのかしってるの?」

 

「………!?」

 

わたしがその人にママとパパのこと聞いたら、その人はビックリしてた。

 

なんでビックリしてたんだろう?

 

もしかしてもう教えてくれたのかな?

 

そのらじお……?

 

とか、しんぶん……?

 

ってとこにママとパパはいるの?

 

「お前な……!

………………お前、一つ聞くぞ。

お前が外に出たのは、いつの頃だ?」

 

その人は怒ってるって思ったけど、いきなりちょっと優しくなってわたしに聞いた。

 

さっきからおまえおまえってわたしに向かって言ってる気がするけど、わたしのこと言ってるのかな?

 

でも、お名前知ってたみたいだし、なんなんだろう?

 

「おい、聞いてんのか?

お前に言ってんだ。お前に。」

 

その人はわたしに指差しながら言った。

 

やっぱり、わたしのことお前って思ってるのかな?

 

「えっと、どのくらいだろう……?

えっとね。おともだちとバイバイして、それから、パパに会って、でもその人はパパじゃなくて、それでこわくて逃げて、それでお外のいろんなものを見て、ママに………あれ?

ママに会ってからパパに会って、でもママもパパもママとパパじゃなくて、それでそれでね。

えっとね。」

 

「ああもういい、質問を変える。

外に出て、何回寝たんだ?」

 

「え……。

えっと、お外に出てえ…………まだ寝てないかな。」

 

「は……!?」

 

またその人はビックリした。

 

え、お外に出たら寝なくちゃだめなの?

 

また怒られるのかな。

 

だって、お目々はしょぼしょぼするけど、まだ眠くないんだもん。

 

「じゃあ、今日地下室から出たってことだな?」

 

「……わからない。」

 

「わからないってことはないだろ。

だって、寝てないんだろ。」

 

そんなこと言ってもわからないものはわからないよ。

 

今日とか明日とかは、おともだちが教えてくれるんだもん。

 

おともだちがたくさん数字言って、その最後の数が1増えてたら明日ってパパが言ってたもん。

 

ほんとうにもう、わかるまで待っててよ。

 

「……まあいい。

それで、お前は両親……ママとパパがどこにいるのか本当に知ってるか?」

 

「わからない。」

 

「本当か?」

 

「わからない。」

 

「どっちなんだ。」

 

「わからない。」

 

「いい加減にしろ!」

 

「わかんない!!」

 

もういろいろいろいろわかんない!!

 

わたしはママとパパに会いたいだけなのに!

 

なんで怒るの!?

 

なんでおまもりビリビリにするの!?

 

わかんないわかんないわかんない!!

 

「はあ。」

 

その人は、ムッとしてお口チャックしたわたしにため息を吐いた。

 

そんなことしたって、ごめんなさいしなくちゃお口利いてあげないもん!

 

「お前のママとパパの場所。

あたし知ってるよ。」

 

「え?

………キミ、今なんて?」

 

「お前のママとパパの場所知ってるって言ったんだ。」

 

やっぱり言った。

 

ママとパパを知ってるって。

 

なんでさっき教えてくれなかったのかな?

 

「どこにいるの?」

 

わたしが聞くと、その人はわたしに背中を向けてここより眩しくない、狭いとこの奥の方へ歩き始めた。

 

「教えてやる。一緒に来い。」

 

「………うん。」

 

わたしは怖かったけど、勇気を出して着いて行くことにした。

 

だってママとパパに会えるかもしれないから。

 

なんだ、あの人すっごくイジワルで怖かったけど、優しい人なんだね。

 

 

 

それからわたしはその人に着いて歩いた。

 

その人はずっと狭かったりフラフラしたりするとこを進んでる。

 

わたしは「もっと広いとこ歩こう」って言ったけど、その人はお返事してくれなかった。

 

ほんとうにイジワル。

 

ママとパパに会ったら叱ってもらうんだから。

 

でも、ちょっとだけ、なかよしになりたいな。

 

なにかおはなししようと思ったけど、ずーっと変なところ歩いててそれどころじゃない。

 

ほんとうになんで広いとこ歩かないの?

 

眩しいところキライなの?

 

スキキライしてちゃいい子になれないよ。

 

そう思ってたら、その人は狭いところの出口で止まってキョロキョロした。

 

「なにか探しているの?」

 

気になって聞いたけど、その人はわたしの方を向いただけで、またお返事してくれなかった。

 

その人は狭いところを出てやっと広いところを歩い………いや、走った!

 

ちょっと待って!

 

置いてかないで!

 

わたしも走って急いで追い掛けた。

 

なんでいきなり走るのさ!

 

その人はすごい速さで走ってると思ったら、急に止まった。

 

そして三角の帽子を被ったおっきい四角い箱の壁になにかやったら、壁に穴が開いた。

 

これ、動く壁だ!

 

じゃあもしかして、戻れたのかな!?

 

その人は動く壁に寄っかかって待ってた。

 

「遅いぞ。ほら、早く入れ。」

 

そんなこと言っても、キミがはやすぎるんだよ!

 

でも、また怒られるのはイヤだから、わたしはがんばって走って、そのまま壁の穴へ入った。

 

入ったのはよかったけど。

 

「あれ?」

 

地面がない!

 

いや、あった!

 

あったけど、低い!

 

うわああああああああ!!

 

「いたい……。」

 

いろいろなとこぶつけた。

 

なんでこんなとこに下に行く段差あるの。

 

最初のときは上の段差しかなかったのに。

 

ほんとうにとってもとーっても痛い。

 

いたいいたいいたい……!

 

「うわ〜〜〜〜〜〜ん!!」

 

「何やってんだお前……。

急いで入れとは言ったが、転がり落ちろとは言ってねえぞ。」

 

そんなこと言っても下の段差なんてなかったもん!

 

転がってないもん!

 

落ちたなんてしらな………

 

落ちたの?

 

あそこから……?

 

「うわ〜〜〜〜〜〜〜〜〜ん!!!」

 

「泣くな!!」

 

「ぐすっ………でも、でもね。

すっごく痛かったんだよ……。」

 

「だから!そんなことで一々泣き喚くんじゃねえ!!」

 

「だって……だって…………

うわ〜〜〜〜〜〜ん!!」

 

なんでおはなし聞いてくれないの?

 

すっごく痛いのに。

 

あんな高いとこから落ちたのに。

 

大丈夫ってなでなでしてよ。

 

「カノンちゃん!

帰ったの?なんか泣き声聞こえ……」

 

いたっ!!

 

なにか頭の後ろに当たった!!

 

「うわ〜〜〜〜〜〜ん!!!」

 

「ごめんごめん!

痛かったね〜。大丈夫だよ。

ほら、痛いの痛いの飛んでけーー!!って!」

 

また違う人だ。

 

痛かった方から出てきた。

 

ママより負けるけど、優しい声とお手手だ。

 

「あ、ほら泣き止んだ!

他にも痛いところない?」

 

「………いっぱい。」

 

「いっぱい!?

いっぱいか〜……。

ミア困ったな……。

でも、わかった!

きみの痛いとこ!ぜんぶぜんぶ!飛んでいけえ!!」

 

優しい人はママが魔法をかけるときみたいに、お手手をわたしのからだに触るしぐさをしたら、お腕を大きく大きく広げた。

 

まだちょっと痛いけど、痛くなくなったような気がする。

 

「どう?痛いの飛んでった?」

 

「うん。」

 

「そっか!よかった!!」

 

優しい人はそう言いながら、わたしの頭をなでなでしてくれた。

 

ママよりちょっと乱暴だけど、ママみたいに優しかった。

 

「それでカノンちゃん。

この子は?」

 

優しい人は立ち上がって、怖い人になにか言ってる。

 

優しい人も大きいな。

 

怖い人とおんなじ?

 

ちょっと小さいかな?

 

モコモコのお洋服着てる。

 

かみのけも長くておにんぎょうさんみたい。

 

かわいいな。

 

「新入りだ。

やっと見付けた。

だが変わったヤツでな。

家出したくせに両親の場所を知りたがってんだ。」

 

「両親を……?

……………カノンちゃん。この子って。」

 

「ああ。

………ここじゃなんだし、部屋に入ろう。」

 

「そうだね。

きみ。大丈夫?立てる?」

 

おはなしが終わったのかな?

 

優しい人がしゃがんでわたしに聞いてきた。

 

「うん。」

 

いっぱい痛かったけど、ちゃんと立てた。

 

そしたら、優しい人は笑って拍手して

 

「えらいえらい。よくがんばったね!」

 

って褒めてくれた。

 

ほんとうにママみたい。

 

優しい人が見ててくれたら、わたし、なんでもできる気がする。

 

「ほら、入って!」

 

「うん。」

 

わたしは優しい人に言われるとおり、壁の穴に入った。

 

……似てる。

 

ずっとずーっといた地下室と似てる。

 

でも、いろいろ違う。

 

段差も下だったし、戻ってこれたんじゃなかったんだ。

 

がっかり。

 

あれ、そういえばママとパパは?

 

ここにいるんだよね?

 

わたしはキョロキョロして、ママとパパを探した。

 

誰かが隠れて座ってる。

 

でも、もうだまされないもん。

 

ママとパパよりちっちゃいから、ママとパパじゃない。

 

じゃあ、ママとパパは?

 

わたしはまたキョロキョロして探しはじめた。

 

でも、怖い人が動く壁を閉じちゃって、真っ暗になっちゃった。

 

またイジワルされた。

 

地下室よりももっと暗くてなにも見えない。

 

「ミアの名前は小宮美杏(こみやみあ)。

気軽にミアって呼んでいいよ。

これからよろしく。」

 

この声は優しい人だ。

 

こみやみあって言うんだ。

 

お名前もかわいいな。

 

「きみは?なんてお名前なの?」

 

あれ?

 

みあは知らないの?

 

お外の人はみんな知ってたのに。

 

「わたしは」

 

「ああ、悪い、美杏。

まだ名前付けてないんだよ。

待ってろ今付ける。

えーっと。」

 

わたしがお名前言おうとしたのに、怖い人はまたイジワルしてきた。

 

名前付けるってなに?

 

わたしには月村かりんってお名前あるんだよ。

 

「月村かりん!!

わたしは月村かりんなの!」

 

「………そう。

でもそれは、きみの前のお名前でしょ?

新しいお名前をカノンちゃんが付けてくれるから。

もうあんな人がつけた名前を言わなくていいんだよ。」

 

あれ。

 

みあも、わたしのお名前知ってたの?

 

新しいお名前ってなに?

 

わたしはわたしのお名前好きだよ。

 

だってママとパパがはじめてわたしにプレゼントしてくれたものだもん。

 

「ああ、そうだ。

よし、今からお前は」

 

「イヤだ!

わたしは月村かりんだもん!!

ママとパパがプレゼントしてくれた大切なお名前だもん!!」

 

「我儘言うんじゃねえ!!」

 

また怖い人が怒鳴った。

 

ほんとうにこの人怒ってばかりでやだ!

 

きらい!!

 

わがままなんて言ってないもん!!

 

「みあーー。」

 

わたしはみあの方がいいもん!

 

ほら、わたしがギュッとしたら頭なでなでしてくれたよ。

 

「……カノンちゃん。この子にちゃんと説明した?」

 

「したよ。コイツが聞いてねえだけだ。」

 

「本当に?また難しい言葉使って説明してないよね?

伝わらなきゃ意味ないって、おりとの時言ったよね?」

 

「知らないほうが悪いんだ。

外の世界は甘くないんだよ。」

 

「まったく。カノンちゃんは頑固なんだから。

ごめんね。きみ。

カノンちゃんじゃ分かりづらかったでしょ。」

 

「うん。」

 

わかりづらいというよりきらい。

 

すぐ怒るし、イジワルするんだもん。

 

というより、はやくママとパパに会わせてよ。

 

ここにいるんでしょ。

 

「みあ。」

 

「ん?なに?」

 

「ママとパパは?どこにいるの?」

 

そう聞いたら、みあはわたしをなでなでするのをやめちゃった。

 

それから、みあの体が震えてる。

 

あれ、わたし変なこといっちゃった。

 

どうしよう、みあを怒らせちゃったかな。

 

「ママとパパね……。うん…。そうだね…。

“きみの”ママとパパ……。」

 

「みあ……。

さっきよりたくさんスーハーしてるよ。

大丈夫?」

 

心配して聞いたら、みあはわたしのことをギュッと抱きしめた。

 

「うん…。大丈夫…。

ありがとう…。

ミア、平気だよ。」

 

「美杏、無理するな。

親のことはあたしが話す。」

 

「大丈夫だよ。カノンちゃん。

カノンちゃんに任せるほうがよっぽどだよ。」

 

みあはわたしのことをもっとギュッて抱きしめた。

 

ちょっと硬いところもあるけど、柔らかい。

 

ママみたいに安心する。

 

「きみのね。きみのママとパパ。

きみのママとパパはもう、きみに会いに来ないよ。」

 

……………え?

 

「みあ……?」

 

何言ってるの?

 

だって怖い人が、ママとパパの場所知ってるって言ってたよ。

 

教えてくれるって言うから、がんばってここに来たんだよ。

 

「きみのママとパパは10日くらい前に、きみを置いてどこかに行ったの。

逃げたんだよ。きみから。きみを育てることから。」

 

なんで?

 

なんでそんなこと言うの?

 

「みあ……。」

 

「こわかったよね。苦しかったよね。

でも大丈夫。これからミアたちがきみのこと守ってあげるから。」

 

違う。

 

たしかに怖くて苦しかったし、みあとずっと一緒にいたいけど。

 

わたしはママとパパに会いたいんだ!

 

それに今のみあ、全然優しくない。

 

こわいよ。

 

「ウソだよね。」

 

「………ほんとうだよ。

きみのママとパパはきみを捨てたんだよ。」

 

「ウソだ!!」

 

わたしは急いでみあから離れた。

 

今のみあ、すごくこわい。

 

怖い人よりもずっと。

 

「だからほんとうだって。

信じたくないのはわかるよ。

だけど、嬉しいでしょ?

きみのママとパパから離れられて。」

 

「信じないし、嬉しくない!

なんでママとパパとバイバイするのが嬉しいの!?」

 

「嬉しいでしょ!

あんなクソみたいなやつらから解放されたんだもん!」

 

みあの言ってるのがぜんぜんわからないよ。

 

ウソついてるんだよね?

 

みあはわたしが好きで、みあもずっと一緒にいたいから、そんなウソ付いてるんだよね?

 

「わたしはママとパパが好き!

わたしはママとパパに会うためにお外に出たの!

ほんとうはママとパパを知らないのに、変なこと言わないで!!」

 

「きみこそ!!“ミアの”ママとパパを…………

ミアのママとパパを!!知らないくせに!!!」

 

いたっ!!

 

右のほっぺたが痛い……ヒリヒリする……!

 

なんで……?

 

なんでいきなり……?

 

「ママとパパは!!いっつもミアに!!

ミアに!!ミアに!!

あんな!!ゴミクズにも満たない最低最悪なクソ野郎は!!いなくなって当然なんだ!!!」

 

いたい!!

 

いたいッ!!!

 

誰かが、わたしのほっぺたを。

 

お顔を。

 

お腹を。

 

叩いてくる。

 

地面に倒れて、動けなくなっても、ずっとずっと、叩いてくる。

 

いたくていたくてイヤなのに。

 

誰なの?

 

みあ、助けて。

 

みあ!!

 

「おいやめろ。美杏。

美杏!!」

 

「…………………ッ!?」

 

怖い人が叫んだら、誰かが叩くのをやめた。

 

助かった……。

 

体のいろいろなところが痛い。

 

みあ。

 

またあのおまじないやって。

 

「美杏、大丈夫か?

……無理させて悪かった。

やっぱりあたしが言う。」

 

「ミア……ミア………。

どうしようカノンちゃん!!ミア、やっぱり」

 

「大丈夫だ。

美杏は小宮美杏だ。

あんな奴らの名はもう捨てたんだろ。

大丈夫だ。な。」

 

「………うん。カノンちゃんが言うなら……。そうだよね。ミアはミアだよね。」

 

「ああ。それでいい。

しばらく織人のとこ行って休んでろ。」

 

「うん。」

 

「………さてと。

おい、お前。大丈夫か?」

 

この声、怖い人だ。

 

ふんだ。

 

優しいみあが来るまでずっと寝転がってやる。

 

「おい聞いてんのか!

お前だよ。立てるなら立て。」

 

「………はーーい。」

 

ほんとうはみあに言われて立ちたかったんだけどなー。

 

みあならなでなでしてくれるし。

 

「立てるなら最初から立て。

美杏に心配かけんじゃねえよ。」

 

せっかく痛いのガマンして立ったのに、怖い人はなんかちょっと怒ってるように言った。

 

でも、乱暴だけどお洋服の背中についたほこりを払ってくれた。

 

怖い人もちょっと優しいのかな。

 

「すまなかった。

美杏がああなる前に、あたしが引き受けるべきだった。

美杏はなにも悪くないんだ。許してやってくれ。」

 

怖い人は何言ってんだろう?

 

ああなるってどうなったの?

 

もしかしてみあを怒らせちゃったことに怒ってんのかな!?

 

うわあ、はやくごめんなさいしないと。

 

「ねえ、さっきからみあどこにいるの?

わたし、真っ暗でここ見えなくて。

みあにひどいこといっちゃったし、怒らせちゃったから、ごめんなさい言わないと。」

 

「おま……。

ああそうかよ。

……美杏はちょっと疲労が溜まったみたいだから謝罪なら後にしろ。」

 

………?

 

ひろう……?

 

しゃざい……?

 

えっと、みあはそこにいるの?

 

「………美杏は疲れてるから謝るならまた今度ってこと。

………ったくそんくらいはわかれよ。」

 

あ、そういうことか。

 

ならはじめからそう言えばいいのに。

 

やっぱりイジワル。

 

「わかった。

みあが元気出たら教えて。」

 

「ああ。

………そうだな。そうする。

………なあ、お前。

お前の両親……ママとパパに、外のことって聞いたことあるか?」

 

「うん。あるよ。

ママとパパとね、お外は危ないって。

地下室でいい子にしててって約束してた。」

 

約束してたのに、破っちゃった……。

 

またいい子になるから、ママとパパに会いたい。

 

「ああ。外は危険……危ないんだ。

でもな。地下室から出ただけのとこはまだ安全かも知れない。」

 

ぶぅ。

 

また変なこと言ってるの。

 

お外は危険で、地下室から出たところがお外なんでしょ。

 

でも地下室から出たところが安全、でもお外は危険……?

 

よくわかんない。

 

「お前、外の壁。

見たことあるか?」

 

お外の壁?

 

おっきい四角い箱ならたくさんあったけど、壁ってあったっけ?

 

「ううん。ないよ。」

 

「そうか。

………あるんだよ。巨大な壁が。

その向こうに何があると思う?」

 

やっぱりあるんだ。

 

お外にも壁が。

 

その壁の向こう……。

 

なんだろう?

 

なにがあるんだろう?

 

楽しいところだといいな。

 

「外の壁のそのまた向こう。

そこもまた外だ。

いや、そここそが外なんだ。」

 

?

 

お外のお外はまたお外?

 

それどその、お外のお外がほんとうのお外?

 

やっぱり怖い人の言ってることはよくわからないよ。

 

「ここは檻なんだ。

猛獣を閉じ込める監獄だ。」

 

また変なこと言ってる。

 

閉じ込めるって?

 

なにを?

 

「いいか。月村かりん。

お前のママとパパは、外のまた外にいる。」

 

え。

 

今、ママとパパの場所言った?

 

やっと教えてくれた!!

 

やっぱりイジワルして教えてくれなかったんだ。

 

ママとパパに会ったら叱ってもらおう。

 

「あいつらは耐え兼ねて脱走したんだ。

探査員でもないくせに、町の外に出るなんて馬鹿げている。

どうせ、お前の両親も……。

月村かりん。お前がママとパパを愛し、その名を捨てることを拒むなら、行くがいい。

壁はここから出て左に真っ直ぐ進むとある。」

 

お外の壁も教えてくれた!

 

そのお外に、ママとパパが。

 

やっとママとパパに会える!!

 

怒ってばかりで怖いけど、優しい人なのかな?

 

イジワルだけど。

 

「ありがとう!!

いいの!?」

 

「ああ。

お前は……前のあたしに似ている……。

言って聞くもんじゃないからな。」

 

似てる?

 

そんなことぜーーったいないよ!

 

わたしそんなに怒ってないもん。

 

でもとにかく、ママとパパの場所がわかったんだ!

 

はやく会いに行かなきゃ!!

 

「ありがとう!バイバイ!!」

 

わたしは怖くてちょっと優しいにバイバイして、動く壁を押して、段差を上って、お外の方の動く壁を押して、お外に出た。

 

お外はやっぱり眩しい。

 

それに叩かれたとこがちょっとヒリヒリする。

 

でもわたしはママとパパに会えることが嬉しくて気にならなかった。

 

えっと、出て左だったよね。

 

左はおまもりが付いてる方だから………

 

おまもり……ピンしかなくなっちゃった……。

 

なくなっちゃったってわかったら、ママとパパ悲しむかな。

 

ごめんなさいして許してくれるかな。

 

……でも、ママとパパだって!

 

もう!

 

はやく会って、ギューってしてだいすき言ってずっとずっと一緒にいるようにお願いしよ!

 

そうしたらママとパパも悲しまないもん!

 

わたしはおまもりが付いてたピンを握って、左へ走った。

 

お外はいろいろあったな。

 

怖かったけど、ワクワクもした!

 

今度はママとパパと、あとおともだちとみんなで行きたいな!

 

あとはママとパパに怖くてちょっと優しい人を叱ってもらって。

 

……あ、みあにごめんなさい言ってない。

 

どうしよう。

 

戻ってごめんなさいする?

 

でも、あれ?

 

どっちから来たっけ?

 

えっと、左に行ったから………右?

 

でも、右にはおっきい四角い箱しかないよ。

 

えっと、どうしよう……。

 

「どうしたのかな?

子供一人で。」

 

困ってたら、誰かがおしゃべりしてきた。

 

パパみたいな声だけど、やっぱりパパとは違う。

 

あと、なんか怖い。

 

「ママとパパは?

………キミ、お胸のとこ、ちょっと見せてくれない?」

 

この人も、わたしのこと知らないんだ。

 

なんでお胸みせなきゃいけないんだろう?

 

もしかして、この人も、おまもりをビリビリしに来たのかな……。

 

「イヤだ!!」

 

わたしは大声を出して、その人から逃げた。

 

「こら、待ちなさい!」

 

そしたら、その人もわたしのこと追い掛けてきた。

 

イヤだもん。

 

ピンだけになっちゃったけど、おまもりは渡さないもん。

 

わたしはおまもりのピンをもっとギュッて握りながら、がんばってがんばって走った。

 

でも。

 

前は壁だった。

 

とってもとっても大きくて天井がぜんぜん見えない。

 

「どうしよう……。」

 

壁まで走ったけど、どこにも逃げるところがない。

 

おまもりが取られちゃう。

 

そしたらもう、ママとパパに会えなくなっちゃう気がする。

 

そんなのやだ!!

 

そう思ったら、壁が……動いた……!

 

この壁も動く壁だったんだ!

 

わたしのお願いが届いたんだ!

 

「ママ!パパ!!」

 

わたしは急いで、お外のお外につながる壁の穴に入った。

 

「うわ、なんだ!」

 

「今、ちっこいの通らなかったか!?」

 

「おおい!探査員!!

この子を捕まえてくれ!!」

 

「何!子供!?」

 

「なんで子供が外に!!?」

 

まずい!

 

なんかパパみたいでパパじゃない人が増えてる!!

 

もう!

 

邪魔しないで!!

 

わたしは捕まらないようにがんばって走って、途中の大きくて丸いものの近くで、丸まって隠れた。

 

地面がカサカサしてくすぐったいけど、ガマンしてがんばらないと。

 

お願い!

 

見付かりませんように!!

 

わたしはおまもりのピンをギュッと握ってお願いした。

 

「あの子……どこに行った……?

おい、今何時だ?」

 

「えぇ、3時47分です。」

 

「くっ……だいたい4時か………。

あと1時間以内に見付けないと日の出だぞ!

いいか!とにかく探せ!!

あの身長からみて4,5歳だ!

そう遠くには行ってないはずだ!!」

 

「はい!!」

 

なにかおはなししてたけど、もう行ったのかな?

 

もうここから動いて

 

「ぐっ!!」

 

「うわっ!!」

 

え……?

 

なに?

 

なにか、ドキューンっておっきい音が2回鳴った……。

 

「ちっ……。男か。」

 

まただ。

 

また、ドキューンって2回。

 

「よし、脳天直撃。

あとで持ってってもらうか。」

 

何やってんだろう、あの人?

 

なにか持ってる。

 

長くて筒みたいなのが、先っぽから煙出してる。

 

それになんだろう。

 

あの人、他の人より体が明るい。

 

お目々も、ちょっと小さい。

 

「……?

まだ誰かいるな?」

 

…………!!

 

見付かった……。

 

なに、あの人……。

 

怖い。

 

すっごく怖い。

 

長い筒みたいのをわたしに向けてる。

 

なにするつもりだろう。

 

お胸のあたりがすごくバクバクしてる。

 

逃げたい。

 

でも、足が震えて動けない。

 

「逃げられたつもりか!!」

 

「かりん!!!」

 

ドキューンって音がまた聞こえた。

 

その前に、わたしのお名前が聞こえた。

 

優しくて、とっても安心する声が聞こえた。

 

それで、誰かにギュッと抱き締められた。

 

とっても優しい。

 

「……ん?なんだ?」

 

「かりん。大丈夫だった?」

 

この優しい声。

 

優しいギュのしかた。

 

におい。

 

なでなでのやりかた。

 

間違いない。

 

「ママ!!」

 

ママだ!

 

やっと会えた!!

 

「そう、よかった。」

 

「うん!!」

 

やった!

 

やったやったやった!!

 

やったーー!!!

 

やっとママに会えた!!

 

ということは、パパも近くにいるんだよね!

 

えっと、何からおはなししようかな!

 

はじめてのお外のことかな!

 

動く壁のことでしょ!

 

あ、あと怖くてちょっと優しい人のこともおはなししなくちゃ!

 

「かりん。」

 

「なに?ママ。」

 

「ずっとずっとかりんを一人にしてごめんね。

さいごに、かりんに会えてよかった。

ママは世界一の幸せものだよ。」

 

そう言ってママはわたしの頭をなでなでしてくれた。

 

とっても優しい。

 

とっても落ち着く。

 

やっぱり、ママのなでなでが一番だ。

 

「わたしもママ大好き!!

ママに会えてよかった!!

わたしもママと同じでせかいいちの幸せだよ!!」

 

「うん。同じだね。

……かりん、これを」

 

そう言ってママがぽっけからなにか取り出したとき。

 

ドキューンって音がまた聞こえた。

 

「こちら番号2374。

イクリプスタウン東門周辺にて、影人3名確認。全員クリア。

内、ターゲット1名。

至急回収を頼む。

オーバー。」

 

 

ママがぽっけから取り出したのは、きれいなきれいな石だった。

 

すごいなー!

 

どこで見付けたんだろう!

 

「ママ!これどうしたの?

………………ママ?」

 

わたしが聞いてるのに、ママは答えてくれない。

 

なんでだろう。

 

それと、なんかギュのしかたも弱くなってるのような。

 

………そうか、ママ眠くなっちゃったんだ。

 

もう、おねむさんなんだから。

 

………わたしも。

 

わたしも疲れちゃったな。

 

今日だけで、たくさんたくさんあったもん。

 

眠くなってきちゃった。

 

わたしもおねむさんだ。

 

一緒だね。

 

ママ、起きたらわたしのこと、いっぱいなでなでしてね。


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