バッドガールズ・ダークサイド   作:やーなん

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前々から挑戦したかった魔法少女モノです!!
ジャンルは、一応ギャグです。はい。


第一章 魔法少女黎明期
魔法少女フェアリーサマー、参上!!


 二十二世紀、西暦2150年頃。

 日本列島の側にある無人島。

 

 この時代、珍しく人の手の入っていない自然の残るその孤島では、決戦が行われていた。

 

 

 耳をつんざくような鳴き声が響き渡る。

 そのおぞましい声を発するのは、全長三十メートルを超える三つ首の黄金龍だった。

 

「またどこかで見たようなデザインね……」

 呆れたように呟くのは、それに対峙する十代半ば頃に見える少女。

 上空からその巨竜を見下ろす彼女は、やはり普通では無かった。

 

 ボーイッシュながらも黄色を基調とした衣装を身に纏い、その手には金属質のステッキが握られていた。

 

 彼女は魔法少女。

 魔法少女フェアリーサマー。

 

 この地球で不動の人気と知名度を誇る、人類史に残る英雄だった。

 そんな彼女と相対する怪物を使役するのは、もはや彼女の腐れ縁と言っていい相手だった。

 

「ふははは、見るがいいフェアリーサマー!! 

 このタイプのキメラは十数年前にも作ったが、あの時の反省を生かして各首を独立して稼働できるようにしておいた。

 鱗は勿論、ダンジョン最下層付近のゴールドドラゴンから調達したのだ!! 

 当然それ以外の部分も有効活用してみた。この三つの首から放たれるブレスは接し3000℃に達し──」

「ああもう、そういうのいいから」

 巨竜の背に立つ腐れ縁相手に、彼女はおざなりに対応した。

 

 自分の“作品”について饒舌に語る彼はドクター・ティフォン。

 キメラ作成の第一人者であり、生命工学の分野で名を残した魔術師である。

 根っからの特撮マニアである彼は、強くてカッコいい巨大生物を創りたがる悪癖があり、最初の作品を暴走させた時にそれを対処した彼女に入れ込んでいる。

 

 怪物は倒されるまでが芸術、というのが彼の美学であり、巨大生物を作っては暴走させそれを彼女に倒させるということを数えきれないほど繰り返した。

 その関係は既に、150年近く経つ。

 

 彼も、彼女も、魔導を得て尋常の人間ではなくなっている。

 この定期的に行われる決戦も、もはや惰性だった。

 

 

 この時代、この地球。

 地上に住む人間は一億人程度だとされている。

 多くの人間は地球を離れ、宇宙という大いなるフロンティアに旅立った。

 

 地球の資源は枯れ始め、地球環境はますます変化している。

 ひと昔前の宇宙開拓ブーム以降、地球という星は人類にとって田舎になってしまった。

 

 まだ人類が地球の重力にしがみついて生きていた時代からずっと生きている二人は、この母たる故郷を捨てられなかったのである。

 昔はキメラを町中で暴れさせて苦情が殺到したりしたが、今は誰もそんなことを言う人間は居ない。

 地球の人々は強固なシェルターに守られた都市で暮らしているからだ。

 だから二人がどれだけ周囲を壊しても、未だ残っている古臭い団体から苦情が出る程度だ。

 

 それでも今日は、なぜか違った。

 戦いの舞台が、無人の孤島なのだった。

 

「いつも通り、その近所迷惑なペットを保健所送りにしてあげるわ」

「はははは、やれるものならやってみるがいい!!」

 いつものように、だがいつもとは違う決戦が始まろうとしていた。

 

 

 

 ……

 …………

 …………

 

 

「ツインバースト、エクスプロージョン!! *1

 

 フェアリーサマーの必殺技が炸裂し、巨竜が爆散する。

 孤島は瞬く間に血の雨が降り、肉塊が無数に飛び散らかる。

 

「ふむ、やはり無尽蔵の再生能力を与えた程度ではダメか。では次回はこの反省を生かして……」

 芸術家気質なドクター・ティフォンは早速次の作品の構想を練っている。

 

「ふん!!」

「ほげッ!?」

 そんな彼をフェアリーサマーがしばくのが、恒例行事だった。

 

「あのねえ、こんなこといつまで続ける気?」

 魔法の杖で彼をぶん殴った彼女は、疲れたように溜息を吐いた。

 人間を超越した彼女に疲れなんてものは無縁だが、それまで生きた年月が見た目以上に彼女を疲れさせて見えるのだ。

 

「もうこんなことしても、誰も注目しない。

 私達の事なんて誰も見に来ない。ネットで放送もされないわ」

 昔は、このどんちゃん騒ぎをする二人は幾度も話題になった。

 だがそれも過去の話だ。

 

「ふむ、フェアリーサマーよ。

 キサマは考えたことはないかね。自分の力を持て余している、と」

「だから? 

 私の師匠はあなたも知ってるでしょう。

 私は調停者。誰かの肩入れなんてしない」

 フェアリーサマーは強い。強過ぎる。

 この時代の人類の技術を集めても勝ててしまう。

 だからこそ、彼女は話し合いの場とか式典に呼ばれることもある。

 

 だが、本気を出したことなど無い。

 力には責任が伴う、とは師の教えであり、自分が本気で暴れまわったらどうなるか彼女は知っているのだ。

 

「実はな、我が宿敵よ。私にスカウトの話が来ているのだ」

「はあ? そんなのどんなもの好きよ」

 人類の生命工学はとっくに極まっており、今の時代人間は二百歳まで生きれると言う。その水準を押し上げたのが彼である。

 今更新しい技術なんて産まれないだろうし、その分野を極めたはずの彼は化石扱いだと聞いていた。

 

 そんな彼は、とんでもないことを口にした。

 

「──異世界の魔王だよ」

 その言葉を聞いた瞬間、彼女は頬が引きつったのを自覚した。

 

「悪の組織の幹部に、博士ポジションは不可欠であろう!! 

 その話を聞いた時、私は年甲斐も無くワクワクしてしまってな!!」

 この男、真っ当な倫理観や常識を持っているのに、それを踏まえた上ではた迷惑に振舞っている救いようのないバカだった。

 そもそも、バカじゃなければ百年以上もこんなことを繰り返していない。

 

「と言うわけで、此度の戦いが最後となる。

 我が子の爆散の瞬間は実に見事で芸術的であった。これを成しえるのはお前以外はおらんだろう。

 と言うわけで、お前には勝ち逃げを許そう」

「ちょ、待ちなさいよ!!」

「さらばだ、我が宿敵よッ!!」

 ドクター・ティフォンは高笑いをしながら空間の揺らぎを発生させて消え去った。

 

「……」

 彼女はすぐさま携帯端末を取り出し、彼の反応を追った。

 しかし表示は無慈悲にも『ロスト』の一文字のみ。

 

「そんな、ドクター。あの人が異世界に行くなんて」

 魔法少女フェアリーサマーは膝を突いた。

 

「──恥ずかしくて耐えられない!!」

 彼女は悶えた。

 あのバカが高笑いしながら異世界の人々に迷惑を掛ける姿を想像して。

 この地球の人類を代表して恥ずかしかった。

 

「コティ、レプ!!」

 彼女は自分に力を与えた二人の妖精を呼んだ。

 

「うーん、なーに?」

「何か面白いことでも起こったの?」

 端末の中から妖精が現れる。

 二人とも眠そうだった。

 

「二人とも早くあのドクターの痕跡を追って!! 

 二人なら別世界に行っても追跡できるでしょ!?」

 彼女は何としてでも、地球人代表としてあのバカを止めねばと思った。

 

「なにあいつ、今度は異世界に行ったの?」

「相変わらず変なことばっかりしてるのね」

 二人の妖精は端末の機能を利用し、魔法を行使し拡大していく。

 

「捕捉できたわよ。でもちょっと時間軸はずれるかもね」

「良いから早く、転送ゲートを開くから術の補佐をして」

「りょーかーい」

 二人の妖精が飛び立ち、彼女の両肩に座る。

 

 本来高度の演算と詠唱が必要な魔法を、機械と二人の妖精が代行する。

 彼女はただゲートを開くだけで良かった。

 

 こうして、地球から魔法少女フェアリーサマーは転移した。

 

 

 

 §§§

 

 

「……ここが、異世界?」

 地球から転移したフェアリーサマーは、その眼に映った光景に目を見張った。

 

 コンクリートのビルに取り付けられた雑多な看板の数々。

 視界を埋め尽くすほどの歩行者の群れ。

 クラシックとしか言いようのないハイブリッド車が道を通り過ぎた。

 

「この世界、まるで私が若い頃の地球じゃない」

「まあ、並行世界だからね」

「時間軸的には百年以上前かな?」

 呆然とする彼女に、妖精レプと妖精コティが補足した。

 

「どれどれ、ネット環境は……あるっぽい。

 今ざっと調べたけど、この世界は2022年みたいね」

 電子機器を自在に操れる妖精レプが、彼女の持つ携帯端末に調査結果を表示した。

 

「令和なんて年号、久々に聞いたわよ……」

 懐かしいわね、と彼女は当時の激動の時代を反芻した。

 

「あと、今調べて分かったことなんだけれど」

「なあに?」

「ドクター・ティフォンの事なんだけど……くすくす」

 妖精レプは可笑しそうに口元に手を当てて笑っていた。

 

「……もう五年近く前にこの世界にやって来たみたい」

 笑っている妖精レプに代わって、妖精コティが答えた。

 その事実にフェアリーサマーは眩暈がした。

 

「もう五年も、この世界の人たちに私たちの世界の恥を晒してたことになるのね……」

 別の世界までやってきて、早々に心が折れかける魔法少女だった。

 

「どうするの、夏芽」

 夏芽とは、フェアリーサマーの本名だ。

 彼女が正真正銘ただの人間だった頃からの付き合いの妖精コティが今後の行動を尋ねた。

 

「とりあえず、あのバカ野郎を探して連れ戻さないと──」

 そう言いながら天を仰いだ彼女は絶句した。

 自分の故郷なら、この時代、この世界には有ってはならない物が存在したのだ。

 

 それは、巨大な円盤だった。

 銀色の巨大な円盤が空に浮かんでおり、異様な存在感を示していた。

 

「……あれ、なに?」

 その姿に、彼女だけでなくその両肩の妖精たちも絶句した。

 しかし何よりも異様なのは、あんな巨大な物体が浮かんでいるというのにこの世界の人々は気にもしていない様子だった。

 まるで太陽か月かのように、そこに浮かんでいて当たり前とでも言うように。

 

「あの、すみません。あれ、何ですか?」

 フェアリーサマー、夏芽はその辺を歩いているサラリーマンを捉まえて尋ねた。

 

「うん? 何を言っているんだい、君は」

 サラリーマンは当然のように答えた。

 

「あれは魔王の居城、彼らの本拠地じゃないか」

 

 魔王。

 およそ現代日本において、ファンタジー小説かアニメにでもしか登場しない名詞だった。

 

 夏芽は呆然としながらも悟った。

 あのバカは、あそこに居るのだと。

 

 そんな時だった、町中に警報が鳴り響いたのは。

 

『都民の皆さん、怪獣警報が発令されました。

 都民の皆様におかれましては、スマートフォンなどのアプリ等によって最寄りのシェルターを把握し焦らずに避難してください』

 怪獣警報。

 バカな、と彼女は思った。

 

「ああ、これから営業だってのに。

 君も早くシェルターに避難した方が良いよ」

 サラリーマンは彼女にそう声を掛けて歩き去って行った。

 

「……スマートホンなんて骨董品の名前、本当に久しぶりに聞いたわ」

「夏芽、現実逃避しないで」

 遠い目になる彼女の頭を、妖精レプが揺らした。

 

『はーっはっはっは!!』

 そして聞き慣れた高笑いが、彼女の現実逃避を許さなかった。

 

『恐れよ、民衆よ!! 

 この魔王四天王、ドクター・ティフォンの作品に慄け!!』

 大空に、ドクター・ティフォンのバカ面が立体映像になって表示される。

 彼女は恥ずかしくなって両手で顔を覆った。

 

 そうしているうちに、大規模な空間転移が発動し、町に怪獣が投下された。

 人々の悲鳴が、怒号が、遠くから聞こえる。

 

「アンチマテリアライズ!! 

 ソウルシェイプチェンジッ!!」

 夏芽はヤケクソ気味に、変身の文言を叫んだ。

 

 彼女は一瞬で私服から、戦闘用の魔法衣装へと身を包んだ。

 

一年(ひととせ)の熱い青春の季節を司る魔法少女フェアリーサマー、ここに参上!!」

 飛翔用の魔法陣を展開し、彼女は怪獣の前へと躍り出る。

 

『ぬ、お前はッ!!』

 立体映像のドクター・ティフォンが彼女に気づいた。

 

「ドクター・ティフォン!! 

 この世界でもバカみたいな狼藉は相変わらずのようね!!」

 手に持った魔法のステッキを怪物に差し向け、彼女は叫んだ。

 

「ツインバースト、エクスプロージョン!!」

 初手必殺技。

 適当な戦いの駆け引きも無視した、一方的な蹂躙。

 

 怪獣はお披露目から悲鳴を上げる暇も無く爆散した。

 

『おお、その姿は、その技は、まぎれも無く我が長年の宿敵、魔法少女フェアリーサマー!!』

 彼にとっては五年ぶりの宿敵との対峙。

 彼はいつものように、宿敵の登場に歓喜していた。

 

『この私を追って来たのか、そんなにも私が恋しかったか!! 

 だがお前以上に、私がお前を恋焦がれていた!!』

「黙れ変態!! 今からそっちに行くから、待っていなさい!!」

『果たしてそれはどうかな?』

 意味深な含み笑いをした後、空に投影された立体映像はぷつんと掻き消えた。

 

「あいつ、なにを」

「夏芽ちゃん、魔力反応!!」

 歴戦の魔法少女は、相棒の妖精の声に即座に反応した。

 

 一瞬で、周囲の空気が低下した。

 常温が一気に氷点下に変化し、殺人的な冷気が漂い始めた。

 

 魔法だ。

 

 彼女の周囲のビルの屋上に、三人の少女たちが散開して彼女を取り囲んでいた。

 三人とも魔法の衣装を身に纏っている。

 魔法少女だ。

 

「あの、私は敵じゃ──」

 夏芽の弁明は届かなかった。

 真っ赤な炎が、彼女に降り注ぐ。

 

 奇妙なことに、この炎は灼熱の熱源体では無かった。

 冷気だ。この炎が燃えれば燃えるほど、周囲の気温を下げていく。

 

 もし人体に当たれば、凍傷を負って壊死するだろう。

 この冷気の正体が、この真逆の性質を持つ炎によるものだった。

 

「ああそう」

 話は聞いてくれない。

 なら次にするのは武力行使だ。

 

「あなた達に年季の違いを見せてあげるわ」

 

 ドカッ、バキッ、ツインバースト、エクスプロージョン!! 相手を倒した。*2

 

「もっと場数を踏んでから出直してきなさい」

「夏芽ったら大人げない……」

 未熟な魔法少女をあっさりと一蹴した彼女は鼻を鳴らした。

 

「それにしても彼女たちの魔法、滅茶苦茶だったわね」

 魔法少女としては正統派を自称する夏芽からして、今目の前で気絶している三人の扱う魔法はぶっ飛んでいた。

 一言で言うなら、魔法少女らしくなかった。

 

 

「さて、と」

 彼女らをどうしたものか、と考えていると何十人もの人の気配があちこちのビルの屋上に現れた。

 誰れもが重火器で武装した、訓練を受けた軍人が遠近両方から彼女に一人に銃口を向ける。

 

「とりあえず、敵対意思は無いと言って話を聞いてくれますか?」

 夏芽はにっこりと笑みを浮かべて近くの相手に話しかけたのだった。

 

 

 

 

 

*1
魔法少女フェアリーサマーの必殺技。妖精式魔法動力炉二門から放たれる精密な魔力爆発による一撃。要するに、ごり押し。彼女は最強の魔法少女なので、大抵の場合このセリフと共に相手は爆散する。

*2
魔法少女フェアリーサマーは最強の魔法少女なので余計な戦闘描写はカットなのだ!! 




この小説は拙作『転生魔女さんの日常』の外伝作品みたいな位置づけになる……のかなぁ?

この小説の世界観を説明するのにはツッコミ役が必要と思ったので、思い切ってチョイ役程度にしようと思った例の作品からのまさかの外伝主人公という大抜擢。
なお、そちらは第二部を待たずして第三部みたいな内容を外伝で書いているという。

まああくまで主人公は狂言回し。今回はあくまでプロローグなので話の主軸は最後に登場した三人になる予定です。
それでは近いうちに二話目を書くので、しばしお待ちください。
ではまた!!

魔法少女フェアリーサマーはどれくらい活躍してほしい?

  • たくさん!!
  • ほどほどに!!
  • 少なくていい!!
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