バッドガールズ・ダークサイド   作:やーなん

11 / 25
メイリスと女神

 

 

 

 時は少し遡る。

 

 その日、上位者対策局は緊張に包まれていた。

 

「本当に、彼女を味方に引き入れるんだね」

 局長が脂汗をハンカチで拭いた。

 そこには緊張だけでなく、恐怖も入り混じっていた。

 

 今日は、あの女を迎える日だった。

 

「メイリス・アイリーン。二十四歳。

 所有する魔法はマテリアル・アルトレーション。まあ所謂、物質の変質ですね」

「だが、とっくに“卒業”しているのだろう?」

 資料を確認する千利に、主任が同じものを見ながらそう言った。

 

「彼女の恐ろしさは、そんな表面的な話ではないと思うわよ」

 夏芽は別のページを見ていた。

 そこには、メイリスの仕出かした所業の数々が記されていた。

 

「魔法所有者十七人を人体実験の末に殺処分」

「魔法の発現についての法則を解明。その際に、孤児百名を確保し苛烈な精神的苦痛を与え、およそ六割が魔法を獲得した」

 人道、道徳、そんな言葉が一切彼女の辞書には登場しなかった。

 軍部の権力を笠に着て、やりたい放題をするマッドサイエンティスト。

 その功罪どちらもが、余りにも深すぎた。

 

「そりゃあ、死刑判決もされるわ」

 彼女は紛れも無く天才だった。

 同時に、生かしておくにはあまりにも危険すぎた。

 

「狂ってる……」

 そう呟いたのは、誰だったか。

 この場に居るほぼ全員が、同じことを思っていた。

 

「本当に、彼女を味方に引き入れるのですか?」

「私も不安になって来たわ……」

 まさか夏芽もここまで酷いとは思っていなかった。

 ここに来て、全員が黙ってしまう。

 しかし、時間は刻々と過ぎていく。

 

「例の彼女が、到着しました」

 オペレーションルームに入って来た局員が、そこに居る面々にそう告げた。

 

「通してくれ」

 主任が局員にそう伝えると、すぐに彼女は多くの局員に護送されてきた。

 

 

「思いのほか、センスの無い建物ね」

 表情から漲る自信と、傲慢さ。

 

「メイリスー、今日からここに住むの?」

 そしてそんな彼女に懐いている小さな少女。

 

 この二人が、今後の対策局の命運を左右する人材だった。

 

 

「ええと、お初に御目に掛かります。メイリスさん。

 私が局長の──」

「ああ、別に名前なんてどうでもいいわ。どうせ興味が無ければ覚えないだろうし」

 まず局長が名乗り出ようと挨拶をしたところ、にべも無く彼女に切って捨てられた。

 

「人間なんて、役職と階級だけで十分だわ。

 私をわざわざ呼び寄せたのは、余計な情報を私に覚えさせる為じゃないでしょ?」

 その女に、社交性なんてものは微塵も備わってなかった。

 

「私があなた達を使ってあげる。その代わり私のやり方に口を出さないで。

 それさえ守ってくれれば、予算次第で何でも作ってあげるわ」

 まさに、傲岸不遜。

 交渉など初めからする積りは無いと言わんばかりだった。

 

「それは、人権を無視した人体実験などを含めて、ですか?」

 流石にこの日本では許容できないそれに、千利が目を細めた。

 

「ああ、あれ? あれはもう必要ないわ。

 私がやりたくてやったわけじゃないし」

「それは、どういうことですか?」

「軍部が魔法使いを増やしたい、って言うからそれに従ったまでよ。

 許可を出したのはお偉いさんで、私は提案し、命令され実行しただけ。

 ダメと言われたら、また別のやり方をしたわ。スポンサーの意向だしね」

 彼女はちっとも悪びれも無く肩を竦めて見せた。

 

「つまり、手っ取り早い方法を提案して、許可されたから実行したと?」

「そう言ってるわ。上の許可を無しに実験なんてできないでしょ?」

 ふざけるな、という言葉が主任に口から出かかった。

 この女は自分の行いに、良心の呵責や責任を全く感じていないのだ。

 

「もしかして、あなた達も犠牲がどうとか、死者がどうとか、くだらないことを言うつもり?」

 メイリスは心底憐れむようにこう言った。

 

「逆よ、逆。私がやらなかったら、他の凡俗どもはもっと大勢の犠牲を払って、僅かばかりの前進と後退を長い時間をかけて繰り返すことでしょうね。

 でも私みたいな天才の素晴らしい閃きのおかげで、たった五年の研究で多くの魔道具を作り、量産も行えた。

 この素晴らしさが分からないなんて、可哀そう」

 最小の犠牲で、最大の成果を上げた。

 ひとつの見方をすれば、それは正しかった。

 

「私の世界では、魔法と言う力が世間に認知され、工業化されたのは二十年くらい経ってのことでした。

 数多の専門分野の、天才とされる人間が多く携わっていたにも関わらず、です」

「ふーん、あなたが噂の異世界人? 

 わかっているじゃない」

 にっこり、と笑うメイリスだったが、夏芽はどうしても手放しに賞賛するつもりになれなかった。

 彼女の道程は、余りにも血が流れ過ぎる。

 

「でも、ほんの少しでも、他者を労われなかったんですか?」

「それは、他の人間がやればいいじゃない。

 私はもっと別の私の仕事をするべきだわ。私は一切余計なことをしない。それがプロフェッショナルってものでしょう?」

 彼女は傲岸不遜で、社会性は皆無で、性格破綻者だった。

 それでも、自分の仕事に誇りを持っていた。

 

「私が労わったところで、どれだけ私の実験体に寄り添えたと言うの? 

 それで上げられる成果はどれだけ期待できるのかしら? 

 メンタルケアなら、それの専門家がするべきじゃないの?」

 彼女を責めるべき点は数多くあった。

 だが、彼女の言動は一貫してブレていなかった。

 現代の倫理、善悪で彼女の行動の全てを語ることは難しかった。

 彼女の発明は量産され、世界でその研究は基礎となった。それで救われた者も多いだろう。

 しかし一つの事実として、彼女には死刑判決が下された。

 

「正直なところ、私があなた達と組むメリットなんてあまりなさそうなのよね」

「そ、それはなぜですか!? 

 我々はあなたに潤沢な資金と設備を提供できます!!」

「それ以前に、気が乗らないのよ」

 焦る局長に、ここで彼女から予想外の言葉が出た。

 

「向こうの軍部で、調べたいことはあらかた調べたし。

 創作意欲が湧かないのよね。あなた達も、どうせつまらない兵器を私に作れと言うんでしょ? 

 私が日本に来る前に世界に公表した研究成果で、魔法兵器を作るなら十分なはずよ」

「それはまだ、検証の段階です。

 あれを実用化するには、まだまだ時間が掛かります」

「それが凡人の仕事じゃない。

 私が言っているのは、既存の技術を転用すれば幾らでも兵器を作れると言ってるのよ」

 少なくとも、彼女は人殺しやその道具を作ることに愉悦を感じていなかった。

 

「殺人兵器を作ったところで、魔王をそれで撃退したところで、その後は同じ人間に向けられるだけでしょ? 

 私は、自分の名前がダイナマイトを発明したノーベルみたいな残り方をしたいわけじゃないの」

「メイリスはもっとみんなにほめられたいんだよね!!」

 彼女の脇に控える、幼い少女が自己主張した。

 

「そうね、私は多くの人々に感謝されたいの。称えられたいの。死ぬときは惜しまれたいの。そうなるべきなの。

 魔王と戦ったって、そうはならないでしょ?」

「少なくとも、魔王の手下と戦うことは人々に褒め称えられることなのでは?」

 千利が率直に言葉を出すと、メイリスは鼻で笑った。

 

「魔王は、災害よ。

 あなた達は台風や地震に向かって銃をぶっ放すの? 

 そう言う人間を世間はどう見るのかしらね?」

 彼女は傲岸不遜で社交性皆無で性格破綻者だった。

 だが、現実は誰よりも見えていた。

 

「あの魔王に人類が屈服するのは、遠くない未来だわ。

 そうなったら、悪人になるのはあなた達じゃないの?」

 その言葉に、千利たちは反論できなかった。

 そうならない為に、彼女たちは政府に反旗を翻したのだから。

 

「……ここに、私の世界の魔法技術の基礎が書かれている本があるのですが」

「私を見くびるつもりかしら」

 夏芽が交渉材料にしようとした友人の本も、まったく彼女の興味を引けなかった。

 

「まあ、しばらくの借宿ぐらいにはなるかしら。

 私も仕事をしないと体がなまるしね」

 一応彼女も、ここで働く気はあるようではあった。

 しかしこの面倒くさい女は、どうしようもなく気まぐれだった。

 

 一応彼女を引き込めたこと自体は、成功だった。

 ある意味、彼女にこれ以上やる気を出されても困るかもしれないと思った面々に、予想外の出来事が起こった。

 

「ねえ、メイリス!!」

「なあに、リーン。今大事なお話し中よ」

「かみさまが、お話したいって!!」

「え?」

 その少女の言葉に、さしものメイリスも驚いた。

 その場の他の面々も、理解が及ぶより前に。

 

 

「────聞こえているか、この世界の我が友よ」

 

 少女の口から、落ち着いた女性の声が発された。

 

「あなたが、リーンの話し相手ね。

 こうして直接話すのは初めてかしら」

 落ち着きを払い、メイリスが尋ねた。

 

「どうして今になって、私に話しかけたのかしら」

「お前のやる気に関わる話だ」

 少女の口を通して、女の声がそう言った。

 

「その前に、名乗っておこう。

 我が名は、リェーサセッタ。邪悪と悪逆を司る者。

 ──そしてこの世界に魔法を齎した者だ」

 その言葉に、全員が息を呑んだ。

 

「女神、リェーサセッタ」

 夏芽は見据えるように少女を睨んだ。

 

「メイリス、我が友と同じ魂を持つ者よ。

 どうか、この世界の者たちの為に手を貸してやれまいか」

「……なんで、私がそんなことをしないといけないの?」

「憐れだからだ」

 女神の言葉は、実に簡潔だった。

 

「偶にあるのだよ、我が友である文明の女神は数百万年に一度ほど、気に入らないことが有るとヒステリーを起こす。

 本来ならば、我が子たる魔王一族の者が遣わされるのはその世界を滅ぼす為。

 それがこのように真綿で首を絞めるようにこの世界に圧力をかけているのは、ひとえにそれが原因だ」

「ひ、ヒステリー!?」

 そんな素っ頓狂な声を上げたのは、誰だったろうか。

 

「そんな、バカな」

「お前だって偶にやるだろう、周囲の環境に苛立つとモノに当たることを」

「覗き見が趣味なわけ? 女神ってのは」

 メイリスが目を細める。

 とてもではないが、彼女の頼み事が聞き入られるようには思えなかったが。

 

「つまり、八つ当たりという事ですか?」

「八つ当たりで台無しにするほど、我が友は愚かではない。

 あれも自らが神としての責任感ぐらいはある。ただ、そんな心境で仕事をするのでいろいろと雑になる。

 その結果、大抵の場合やり過ぎてしまう」

 酷い話だ、と夏芽は思った。

 

「私に、その尻ぬぐいをしろっていうの?」

「まさか。だが、私はお前が一番やる気を出す方法を知っている」

 少女の表情が、子供らしくない邪悪な笑みに変わった。

 

「これを見てみるがいい」

 彼女が、指先をモニターに向けた。

 すると突如として、モニターがどこかの光景を映し出した。

 

「これは、どこだ!?」

「特定します!!」

 主任の声に、オペレーター達がキーボードに手を走らせる。

 

「おそらく、アメリカのどこかだと思われます!!」

 それくらいの情報は、その光景を見ている全員が察しがついた。

 

 モニターに映し出された光景は、暴動の様子だった。

 アメリカでは暴動に乗じて略奪などが度々起こるが、この様子は暴動にしては大規模だった。

 

「これはいったい、どうなっている?」

「あちらの四天王の活動に、後手後手に回る政府に対して不満を爆発させたのだよ」

 女神は嗤いながら、彼にそう言った。

 この日本に居る四天王は、所謂ご当地四天王なのである。

 世界各国に、魔王の四天王は配置されている。ただ日本に魔王の本拠地が有るというだけの話だった。

 

「これは、マズい」

 その光景を見て、夏芽が青褪めた。

 そう、暴徒たちはアメリカに置いてある魔王の運営事務所にまで手を伸ばした。

 

 事務所の表に出て対応した事務員が無数の暴徒たちによって殴り飛ばされ、事務所の中に雪崩れ込む。

 混乱に乗じて、事務所からお金を略奪する算段なのだろう。

 アメリカの四天王は活動が激しく、その分の補償も大金になるケースが多い。

 お金がいくらでもあると思われても仕方がなかった。

 

「あーあ」

「馬鹿だなぁ」

 夏芽の肩に乗る妖精二人が、溜息を吐いた。

 

「アメリカは、TRPGの本場なのに、なぜわからないのだろうな」

 邪悪の女神が嗤う。とても愉快そうに。

 

「化身を殺したら、本体が出てくるものであろう?」

 その言葉に、この場に居る全員がゾッと寒気がした。

 

 

『──……はぁ』

 その瞬間、彼ら全員が、いや、人類全員が、その声を聴いた。

 

『呆れて、モノも言えないわ』

 その、女の声を。

 

「魔王の円盤から、立体映像が投影されました!! 

 今、こちらのモニターに映します!!」

 オペレーターの声と同時に、モニターの光景が切り替わる。

 

 地球は丸いというのに、その映像は如何なる技術なのか、日本の反対側まで届いていた。

 

 そこは、魔王の玉座だった。

 魔王と日本の四天王が膝を突いていた。

 

 その中心に、全て同じ顔の事務員が居た。

 いや、違う。彼女たちは、こんなに表情豊かではない。

 

 リンゴに絡みつく蛇の意匠があしらわれた杖を持ったその女は、かつんと石突を床に打ち鳴らした。

 たったそれだけで、縮小された画面に映っていた暴徒たちがすべて金縛りにあったかのように硬直した。

 それだけではない。この時、この瞬間、地球上のありとあらゆる争いが、停止していた。

 

『聞きなさい、我が子らよ。

 我が名は、文明の女神メアリース。

 ……ああ、ここは地球系列だったかしら。なら言い直しましょう』

 溜息と共に、この地球に降臨した女神はこう名乗った。

 

『我が名はメアリー・スー。

 その由来を理解していながら、そう名乗る者である』

 その女神は、荘厳と言うには人間らし過ぎた。

 神々しいというには、愚か過ぎた。

 

『この度、私の方の不手際で各管理下世界の再審査を行うことになったわ。

 当然、この世界も再審査の対象となり、この魔王ハーレを派遣した』

 まさに、この地球に巻き起こっている混乱のありとあらゆる元凶。

 それがこの女神だった。

 

『私は人類だけを贔屓し、人類だけを繫栄させる、“人間”の文明を司る女神。

 我が恩寵を受けた人類は、ただそれだけで繁栄に至る』

 それが、彼女の偉業、彼女の権能。

 

『──だと言うのに』

 そんな彼女が、呆れ果てていた。

 

『魔王ハーレ、この体たらくはなんだ』

『我が主上よ。我が不手際をお許しください。

 地球人がここまで軟弱だとは思わず……』

『もういい。あなたは試練だと、ちゃんと伝えたのだから。

 これは試練の難易度を、一段階上げるべきね』

 女神の冷酷な視線が、全人類に見下ろされる。

 

『私が統べるべきでない国家は、──間引け』

 まるで田畑の雑草を抜くように命じるような気軽さで、女神は魔王に命じた。

 

『その国の文化も生活も残さず、消し去れ。

 それでなお人類がやる気を見せないなら──』

 溜息をもう一つ。

 

『この世界の“格”を落とす』

 それは皆殺しより、ずっと残酷な宣告だった。

 

『お前たち地球人は全員、より上位の優良な世界の為に労働する為だけの世界に堕とす。

 お前たちの固有の文化も、国家という枠組みも風習もすべて取り上げる。

 365日、ローテーションで効率よく搾取され続けるように作り直す』

 その意味は、実に単純だった。

 

「わ、私たちを、家畜扱いするつもりか……」

 震える声で、局長が女神の意図を察した。

 

『お前たちには、必要なポテンシャルとスペックを与えたはずだった。

 これもすべて、私が観賞用としてお前たちを甘やかしていた所為だわ』

『我が主上よ、それ以上は──』

『──こんなのが、神なのだと、言ったわね』

 それは、誰に向けられた言葉なのだろうか。

 だが、それは多くの人間の意思だったのだろう。

 

『わからないかしら、私は人類文明の女神。

 お前たちがそうなんじゃない。私がこうだから、お前たちがそうなのよ』

 神は、自らを似せて人を創った。

 

『私の愚かさ、醜さ、その全てお前たちを映す鏡なのよ。

 それとも、私がお前たちの造物主だと信じられない?』

 女神は嗜虐的な笑みを浮かべると、スッと指をスライドさせた。

 

 すると、パソコンのメニュ画面のようなものが虚空に開かれた。

 そこには数多の管理項目がずらりと並び、彼女はタッチパネルで操作するようにその項目をスクロールさせた。

 

 ぴたり、と指で止めたのは、酸素濃度、という項目だった。

 0から100まで、バーで示されたその数値を、彼女はゼロに近づける。

 

「あッ……い、息が……」

「ぐ、ぐるしい」

 その直後だった、夏芽以外の全員が、息が出来なくなって悶え始めた。

 

『これでわかったでしょう、お前たちを生かしてやっているのは誰か。

 お前たちに全てを与えているのは誰なのか』

 それは、余りにもわかりやすい神罰だった。

 

『だから、私が返せと言ったらお前たちの全てを返してもらうし、家畜に成れと言ったら家畜にするのよ。

 でも私は慈悲深いから、何の前触れも無くそんなことはしないわ』

 酸素濃度の項目を元に戻して、女神は薄く笑った。

 

『私はお前たちに、自由意思も与えた。

 私の与えた試練に立ち向かい、己の尊厳を示す機会を与えた。

 それが要らないというなら、適当にもう一人、我が化身を殺せばいい』

 床に蹲り、地面に横たわり、必死に呼吸を整えている人々を見下ろしながら、女神は残酷な言葉を口にする。

 

『お前たちは──』

『いやぁ、流石我が主上だ!!』

 その時だった。

 魔王ハーレが顔を上げたのは。

 その顔には、道化の化粧。

 

『人間ってのは実に愚か!! 自分たちの所為で数が減った生き物を勝手にファッション気取りで保護した気になって、足を引っ張り合う!! 文化を否定し合う!! 

 実に愚か愚か!! すべては我が主上が与えたモノにすぎないのにね!!』

 ひょこひょこ、と女神の前をうろついて、“人間”を全て嘲笑う道化の魔王。

 

 空気が読めていなかった。誰も彼を笑わなかった。

 

『……はぁ』

 だが、彼のその行動の意味を理解できないほど、女神は馬鹿では無かった。

 

『まあいいわ、まだ多少の猶予は与える。

 魔王ハーレ、引き続きこの地球での任務に励みなさい』

『ははぁ、かしこまりました!!』

 魔王は恭しく大仰に一礼をした。

 彼が顔を上げる時には、女神は玉座の間から消え去っていた。

 

『こ、これが、この世界の神様なのかよ……』

『諦めろ、これがかの御方の平常運転だ。何でもっとこう、オブラートに包んで仰ってくれないものか』

 立体映像の途切れる間際に、アウトサイダーの悲痛な声と、クリスティーンのぼやきが全世界に聞こえていた。

 

 

「あ、あれが、私と同じ魂の持ち主……」

 息も絶え絶えで、テーブルを使って起き上がったメイリスが憤怒の表情を浮かべていた。

 

「ふざけるな!! 私の知恵も、才能も、与えてやったモノですって!! 

 私の努力も、その結果さえも!!」

 ああそっちか、とその怒りを聞くその場の面々はそう思った。

 彼女は決して、自分の同位体の暴虐非道に怒ってるわけでは無かった。

 

「ゆ、許せない、私と同じだからこそ、もっと許せない!!」

「そうだ、その意気だ。我が友の同位体よ」

 あんな女神を友と呼ぶ、もう一人の女神が怒れるメイリスの様子に満足げだった。

 

「絶対に目に物を見せてやる!!」

 彼女はやる気を出した。それ以外に多大なダメージを負ったが。

 

「ひとつだけ、聞かせて貰えませんか?」

 息苦しさは大したことは無かったが、この地球の住人たちは愕然としていた。

 自分たちがどれだけ、崖っぷちに立たされているのか無理やりわからされたのだから。

 

 家畜に成りたくなければ、尊厳を示せ。

 尊厳が無ければ、ヒトに非ず。家畜に神は居ない。

 

「なんでしょうか」

「なぜ、この世界に魔法を? それも、わざわざ……」

「慈悲だよ。神と言うのも不自由でな。

 我が権能の及ぶ範囲でしか、慈愛を示すことが出来ないのだ」

 彼女はだからこうして、自分の同位体を通じてようやく意思疎通が取れるのだ。

 

「さて、これ以上は過干渉か。

 ではまたいずれ、お前には期待しているぞ。魔法少女フェアリーサマー」

 その言葉と同時に、少女の体から女神が遠のいた。

 

「お話はおわった?」

 ぱりくり、と目を瞬かせて少女リーンは小首を傾げた。

 

「ほら、言った通り馬鹿馬鹿しいでしょ?」

「予想以上に予想通りだったね!!」

「そうね……」

 まさかあそこまでとは夏芽は思っていなかった。

 というか、夏芽も他人事では無かった。

 並行世界の住人たる夏芽も、この地球の住人と同じなのである。

 

 全ては女神の掌の上。

 人間を死に絶やすことなど、あの数値をちょっと横に弄るだけで事足りるのだから。

 夏芽が平気だったのは、彼女が殆ど妖精に近いからだった。

 

「こうなると、あの時イヴさんの遺骸を借りれなかったのは痛いなぁ」

 戦い、尊厳を見せつけるのはこの地球の住人の仕事だ。

 夏芽は思案し始めた。いかにして、あの傲慢な女神を交渉の席に着かせるか、を。

 

 

 

 





今回はメイリスが仲間入りした時のお話だった。
後回しにしましたが、この時にこんなとんでもないことが起こっていました。

戦うか、尊厳の無い家畜になるか。
この世界はその二択を迫られています。

この世界の人々は、どのようにこの残酷な世界を生き足掻くのか。
それを最後まで見届けて下さると幸いです。

では、また。
次回はイケメン騒動の結末になります。

魔法少女フェアリーサマーはどれくらい活躍してほしい?

  • たくさん!!
  • ほどほどに!!
  • 少なくていい!!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。