バッドガールズ・ダークサイド   作:やーなん

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今回は説明回になります。



幕間 神々の役割

 三年前。

 

 都内の某中学校の屋上の縁に、一人の少女が立っていた。

 その日は風が強い日だった。

 風に揺られ、彼女の髪や衣服がたなびく。

 その足元には、靴と遺書。

 

「これから、私。死にます」

 虚ろな表情の彼女は、手にしたスマホを片手にそう言った。

 彼女は今まさに、自殺を試みようとしていた。

 更に、その光景をネットで生配信していた。

 

「あ、まただ」

 なるべく時間をかけて、視聴者が集まるのを待った。

 規約違反で何度もアカウントが停止されるも、その度に別のアカウントで彼女は配信を続ける。

 

 そうして集まった視聴者は話題を呼んで数万人。

 学校もこのことに気づいて、下では大騒ぎだった。

 屋上の扉を開けようとする教師たちは、彼女が作ったバリケードを破れずにいる。

 

「そろそろ人生の潮時だと思います。皆さん、さようなら」

 こんなものだろう、と視聴者の数に頷き、彼女は満を持して屋上から飛び降りた。

 

 下の野次馬から、悲鳴が上がった。

 

 落下時の浮遊感と、風が彼女を撫でる。

 そうして、彼女は死んだ。

 

 ……そうなる筈だった。

 

 

「え……?」

 虚空に身を投げるのと同時に、彼女は抱きしめられていた。

 

 それは、闇だった。

 昼間にも関わらず、彼女は闇に抱きしめられていた。

 

「辛かったであろう」

 闇は、彼女に囁きかける。

 

「相変わらず、地球系列の教育制度はレベルが低い」

 闇を纏った手が、彼女の頭を撫でていた。

 

「なんで、なんで助けるんですか?」

 彼女は、何が起こったのか分からなかった。

 だが、一つだけ分かったことが有るとすれば、それは助けられたという事だった。

 

「お前が、救いを求めたからだ」

 闇を纏ったヒト型の何かが、彼女の悲痛な言葉に慈愛に満ちた口調でそう答えた。

 

「私が……?」

「神様、どうして私だけ、こんなにひどい目に遭うんですか、とな」

 闇の化身が、慈しむように彼女を労わっていた。

 

「だから、私がお前の前に現れた」

「本当に、神様、なの?」

「そうだとも。そして、お前の全てを許す者だ」

 神を名乗る闇のヒト型が、微笑んだ。

 

「この程度で、良いのか?」

「え?」

「この程度で、お前を苦しめた全てに復讐したつもりなのか?」

 暗黒の神は、彼女に囁く。

 

「お前に、この力を授けよう」

 闇の指先が、彼女の額に当たる。

 その瞬間、雷撃が走ったかのように彼女の体に未知の力が駆け巡った。

 

「これは、こんなのが……」

 彼女は知っていた。

 これは、魔法。世間に最近認知され始めた力だった。

 

「この力を好きに使うと良い」

「い、いらない、こんな力!!」

「お前は使うさ。でなければ、私がお前の前に現れることは無い」

 その力の恐ろしさに恐怖する彼女に、闇は微笑んだ。

 

「お前は、この世界に足跡を残すだろう。

 そして、お前が生きた証を知らしめるのだ」

 闇が彼女を抱きしめる。

 無限大の愛と、母性がそこにあった。

 

 それは、彼女がとっくに失っていたモノだった。

 

「私は、お前をいつでも見守っているぞ」

 闇が晴れる。

 

 彼女は、校舎の前に立っていた。

 周囲の野次馬たちは、何が起こったのか分からず唖然としていた。

 

 そんな連中に対し、彼女は──。

 

 

 まず、自分の良心を破壊すべく、己に魔法を試みた。

 

 そして、惨劇が巻き起こった。

 

 

 §§§

 

 

 上位者対策局、会議室。

 

「それでは、こちらに協力的な転生者たちは可能な限り彼らの希望に沿うように取りはかるという事で」

「一部の者たちは、我々の下で自分たちの力を活用したいと言っていますが」

「こちらも人手不足だ。魔王の戦闘員に対処してくれるだけで十分役に立つ」

 使えないならこれから鍛えれば良いだけだしな、と主任の言葉に千利も頷く。

 

「一応、希望者を募ってテストをしてみたわ。

 内在魔力は全盛期の魔法保有者の数倍から十倍。それらの恩恵にて身体能力は最低でも常人の二倍以上。

 この微妙なバラツキは恐らく転生前のスペックを参照されていると思われるわ」

 メイリスがプロジェクターで資料をスクリーンに映し出した。

 

「神は、人間の強化も自由自在と言うわけか」

 資料の参考写真で、一番優れた数値をたたき出したイケメンのリーダーが、握力測定器を壊してしまっていた。

 それを見て、主任は溜息を吐いた。

 

「文明の女神、私達の造物主かぁ」

 局長の脳裏には、先日の神罰と神の声明が思い起こされる。

 まるで忘れることは許さないと、克明に思い出すことが出来るのだ。

 

「あれは私達の定義する宗教上の神とは、恐らく違う存在でしょう。

 他に表現する方法がないから、神と呼んでいるだけで」

 少なくとも夏芽はそう思っていた。

 

「だが、事実としてあれは神に相応しい力を我々に示した。

 気分ひとつで、我々を絶やすことも家畜にすることも出来る力を」

 彼の言葉に、メイリスが眉を顰めた。

 

「何を弱音を吐いているのよ。ゲームを下りるならそうしなさい。

 でも、他の人間の前で上に立つ者が弱さを見せるな」

「分かっているさ!!」

 彼女の叱咤に、主任も声を荒げて答えた。

 優秀な軍人である彼もこの有様なのだから、世間にはある種の倦怠感に似た雰囲気が蔓延していた。

 

 アメリカでは、向こうの四天王の一人が聖書を集めさせて燃やして高らかにこう宣言した。

 

「お前たちが信じる神など、所詮我らが女神が与えた文化に過ぎない!! 

 お前たちが祈ったところで、お前らの神は助けてくれたか!? 

 それはお前たちの歴史が証明している。所詮、お前たちの宗教など、お前たちの道具に過ぎないのだからな!! 

 家畜としてでも生きたければ、我が女神にひれ伏せ!! そうした者だけを生かしてやろう!!」

 向こうで最も被害を出している四天王の一人が、高らかに人類の文化を嘲笑っていたそうだ。

 

「もう一度魔王の居城に殴りこめば、あの女神に話を付けられるかな」

 そんなことを思いつく夏芽に、周囲は引きつった表情を浮かべた。

 

「ダメだこの脳みそ筋肉」

「強く殴ればすべて解決できると思ってるよ」

 これには彼女の両肩に居る妖精二人も呆れ顔だった。

 

「実際のところ、どうなの? 

 殴れるの? どれくらい強いの?」

 師匠譲りのケルト式交渉術が炸裂しようとしたところで、妖精二人が顔を見合わせて、彼女の肩から飛び立った。

 

 妖精たちはプロジェクターに溶け込むように入ると、一瞬スクリーンに投影された画像がブレる。

 

『いえーい、ピースピース』

『人間たちみてるー?』

 すると、スクリーンに妖精二人が両手でピースをしながら自己主張し始めた。

 こんなクソガキみたいな妖精どもだが、実際には夏芽の住んでいる地球よりもずっと優れた文明を持っていた世界出身なのである。

 

『夏芽のお馬鹿さんが女神に挑むとかアホなこと言ってるので、ついでに分かりやすく教えたいと思いまーす』

『進行はレプとコティでお送りいたしまーす』

 ポカンとしている会議室の面々を置き去りにして、妖精二人は画像に手を加える。

 

『私たちが住んでいる世界は、“森”に例えられていまーす』

『一本の木を、幾つもの枝に分かれる並行世界などを含めた一つの世界に見立てられているわけですねー』

 一本の樹木の画像、その一つの枝葉が点滅し、吸い込まれるように宇宙から地球上に突入し、今この場の会議室を上から見た断面図を表示するという演出がなされた。

 

『あのクソ女神は、言うなれば“森”の管理者。時には肥料を与え、時には木を伐採する。

 そうして、“森”そのものを豊かにしようとしているんですねー』

『彼女らは、“森”の外の住人。神々の座する領域』

『その領域に住まう者達は、いろいろな物を司っています。

 日本で例えるなら、大臣のポストみたいなかんじかな?』

 いずれにせよ、一般人には雲の上の世界の住人であることは違いない。

 

「で、倒せるの?」

『いや無理。あいつら、基本的に死の概念とかない。あなた達人間は時間を操る能力とか好きだけど、あいつらには時間の概念とか無意味。

 しいて言うなら、人格みたいなのが無くなることが事実上の死かな? 

 でもしばらくしたら新しい人格が芽生えて復活するよ』

『仮に倒せたとしても、あれよりマシな人格があなた達に優しくしてくれると思うの?』

『あのクソ女神は人間出身だから良いけど、例えば嵐の神が管理している“木”の人間がどんな生活しているか知らないから不満を言えるんだよね』

『自分たちが恵まれていると分かっていながら不満を言うのが人間でしょ?』

 可愛らしい妖精二人が、画面の中でくすくすと笑う。

 

『それに多分、夏芽じゃ勝てないよ。

 日本で例えるなら、あのクソ女神の地位は都知事ぐらいはあるし』

『あなた達の人間の信じるベストセラーの本の神が、大体一本の“木”を管理する一戸建ての住宅の主人くらいかしら?』

『夏芽は精々、一つの町で一番喧嘩が強いとかそう言うレベル』

『そもそも喧嘩にもならないし、させてくれないと思うよ』

 いやそれ大分強いのでは、とその会話を聞いていた面々は思った。

 

「つまり、かの文明の女神はその一戸建ての集合体である町を、幾つも束ねる知事クラスの地位に居ると」

『そうそう』

『それで言うなら、あのクソ女神はわざわざ知事が民家の庭の木の葉の細胞に、上手く育たないならもぎ取るぞって言ったってことかしらね!!』

 きゃははは、と大笑いする妖精たち。

 だが上手く言葉を整理した千利は笑えなかった。

 魔王を遣わした女神は、想像以上に強大過ぎる相手だったということを確認できただけだった。

 

『まあ、神様なんていろいろ居るし、相性差でジャイアントキリングもあるし』

『でもまあ、夏芽じゃどう逆立ちしても無理。同じステージに立てない』

「とりあえず、戦いの土俵にも立てないことは分かったわ」

 本気で、夏芽は挑むつもりだった。

 あの時魔王に挑んだ彼女を知る面々しかここに居ない為、本気で呆れられていた。

 

『まあ、あれでも事実上ほぼ最上位の存在だし』

『多分倒せても、人間にとって不利益の方が多いと思うわよ』

 結局のところ、神を倒すのは現実的ではないという事だった。

 

「ひとつ、質問をいいだろうか」

 礼儀たたしく、妖精たちに対して主任が手を上げ発言を求めた。

 

『別にいいけど』

「先日、メイリス女史に話しかけて来たあの女神はどういう存在なのだ?」

『ああ、リェーサセッタ様?』

 片割れはクソ女神扱いなのに、その相方は様付けだった。

 

「我々の世界に魔法を齎した者が、なぜ邪悪を司る者と名乗っているのか。

 そんな存在が、なぜ我々に手助けをするのか」

 彼にはそれが疑問であるようだった。

 

『あなた、軍人よね。銃で人を殺したことはあるの?』

「いや、無いが」

『でも人を殺すのは悪いことよね。誰かに命令されて、仮にあなたは人を殺したとしたら、誰が悪いの?』

「責任の所在と言う意味なら、それは命令を下した側だろうな」

『じゃあ、命令が無かったら? 咄嗟に敵に襲い掛かられて、自分の命を守るために銃で撃ち殺したら? 

 それはどっちが悪いの?』

「日本では、撃ち返した方が悪とされるだろうな」

 渋面で自衛官たる主任は答えた。

 

『でも、リェーサセッタ様は赦してくれるよ。

 生きる為に殺すこと、悪事を働くこと、社会的に悪でしかいられない人を赦してくれる』

『悪を成すこと、為されたことで被害を受けた人々を慰めてくれるよ。

 ──そして必ず、相手を罰してくれる』

 それはまさに、神の所業だった。

 

『人間や社会では裁けない悪を、死後に罰してくれるよ』

『だから復讐を許し認め、それ以上の復讐を諦めさせられるんだよ』

 仮に神が復讐を許し認めたなら、それが社会的に何の意味も無かったとしても、正当性は保証される。

 神が認めたのだから仕方ない、とそれ以上の復讐の連鎖を断てる。

 まさに神の偉業、神の威光だった。

 悪の化身、悪の終着点。

 

『“人間”は社会を作るけど、社会や文明が発達するほど、人の心は冷たくなっていく』

『社会に適応できない人間、悪を成すことしかできない弱者を、リェーサセッタ様は救ってあげるんだよ』

 故に、二柱。どちらか片方では無く、二柱の偉大な女神で世界は統治されている。

 その恩恵を受けているこの世界の住人たる彼らは、無言になるほかなかった。

 

『人間って、よく神様を善とか悪とかで分けたがるけど、それで言うならあのクソ女神もリェーサセッタ様も秩序側だよ』

『特に、リェーサセッタ様は神々の領域でも最大規模の教団があるくらいだからね!! 

 あ、ちなみにあのクソ女神も嫌われてない神は居ないぐらいだけど一応一緒に祭られてるよ!!』

「……なんで私を見るのよ」

 なぜか皆はメイリスを見て納得したような表情になっていた。

 

「考えてみれば、私の知っている魔法保有者の全てがどうしようもない弱者ばかりだったな」

 主任は、千利を見る。

 彼女だけではない、ここに居る魔法保有者の誰もが、地獄を見ていた。

 

「私は到底認められないけどね」

 別の世界で、そしてこの世界でも魔王の所業を見て来た夏芽は素直に賞賛するつもりはなかった。

 

「あの、ふと思ったんだけどね」

 ここで局長が、こんなことを言い出した。

 

「神々の世界で、あの女神様が都知事ぐらいなら、より上位の存在が居るわけだよね? 

 だったら総理大臣クラスから、諫めて貰ったり……」

 そこまで言って、彼は気づいた。

 

 妖精二人が、真顔になっていた。

 あんなに可笑しそうに笑っていた二人が。

 

『『──忘れろ』』

『『この話は忘れろ』』

『『そして決して、二度と口に出すな』』

 まるで機械で揃えたように、二人の声がスピーカーから奏でられる。

 

「二人とも、何をしてるの?」

 妖精二人の催眠作用のある声をかき消して、夏芽が尋ねた。

 

「……危なかったわ」

「人間に、“あの御方”を知られちゃいけないもんね」

「とばっちりを食らいたくないもんね」

 プロジェクターから出て来た妖精二人が、そんなことを言い合って夏芽の元に戻った。

 

「“あの御方”?」

 夏芽は思わず、聞き返した。

 聞き返して、しまった。

 

 その直後、夏芽はどこからともなく視線を感じた。

 そして幻視した。

 

 無限に引き延ばされた時間や空間の果てから、自分を見下ろす“何か”を。

 それを、認識してはいけない。

 それを、知ってはいけない。

 

 それは、警告だった。

次は無い(・・・・)、と言う温情だった。

 

 

「師匠、大丈夫ですか!?」

 夏芽が千利の声にハッとなった時、彼女は我に返った。

 

「私が、汗を搔いている」

 彼女の身体機能は人間を離れて著しい。

 汗など百年以上掻いたことなどなかった。

 なのに、彼女の服はぐっしょりと汗まみれだった。

 

「あ、夏芽ごめん」

「私たちもうっかりしてた」

 夏芽はこのクソガキ妖精どもと非常に長い付き合いだが、申し訳なさそうにしているのを見るのは片手で数えられる程度だった。

 

 その時だった、警報が鳴ったのは。

 

「会議は中止だ、諸君持ち場についてくれ!!」

 局長の言葉により、解散となって面々はオペレーションルームへと向かう。

 

 各々指示を飛ばし、あとは出撃した水無瀬たちの勝利を祈るばかりとなった時である。

 

「えッ!! そんな!!」

「どうした!!」

「そ、それが、主任!!」

 連絡を受け取ったオペレーターが、振り返って叫んだ。

 

「地下に収容していた暴動を起こした転生者たちが、脱走して施設の一部を占拠しはじめたそうで!!」

「なんですって!?」

 それには、千利も目を見張って驚いた。

 

「マズいぞ、連中に占拠されている施設には彼女も!!」

 彼が焦っているのは、他でもない。

 魔法少女ドールズハートが、ちょうど今検査を受けている最中なのだ。

 

「すでに女性職員の何名かが彼らの洗脳能力によって支配下に置かれているようで」

「状況は切迫しているというわけか」

「私が対処します」

 この場で戦力となるのは、千利と、警備員ぐらいしかいない。

 

「もっと問題が有るわ」

「なんでしょう?」

「連中がリーンに何かしようとしたら、自己防衛の為にこの建物を吹き飛ばす恐れがあるの」

 そう言うメイリスは割と焦っていた。

 それが、今がどういう状況なのかを如実に物語っていた。

 

「私もリーンが心配よ、最悪私も戦うわ」

「……戦えるんですか?」

「私を舐めないで」

 日本だというのに自動拳銃を取り出してメイリスも千利に同行を決めた。

 

「どうしようもなくなったら、私が何とかするからさっさと行きましょう」

 夏芽は、またひと騒動かとあのイケメン集団に辟易するのだった。

 

 

 




今月に入ってから、花粉症が酷くて最悪ですね!!
頭痛いし気分が悪いし吐きそうだしくしゃみとまらないですし、こんなひどいのは初めてです!!

皆さんも花粉症は大丈夫でしょうか!!
お陰でモチベーションが最低です。
説明が長引いて説明だけで終わっっちゃったし、今回。

モチベーション向上の為に感想とか、今日設置したアンケートに回答してくれると嬉しいです。
では、また次回!!

次にやってほしい内容は?

  • 魔法少女たちの日常
  • 四天王たちの色々
  • 夏芽の訓練風景
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