バッドガールズ・ダークサイド   作:やーなん

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最強の凡人と技能の天才 前編

 からんからん、とサイコロの音が鳴る。

 

「こんなことをしてて、いいんすかねぇ」

 魔王城の休憩室、戦闘員たちが待機しているこの場所に数名が卓を囲んでいた。

 

「四天王の皆さんがお休みなんだから、いいんでねえの?」

 バイトに過ぎない彼らは、今日も普通に出勤となったのだが、急遽上司が休みとなったのでやることが無くなった。

 それは困る、という事で急遽茂典翁の工場に仕事を貰いに行った者もいる。

 

 戦闘員たちの役割は、主に四天王の補佐や数名で地上に降りて適当に暴れることだった。

 破壊、恐怖、混乱。魔王が齎すと宣言した三つを、彼らが体現している。

 

 地上の魔法少女たちが対応できない複数のチームで出没し、破壊を繰り返して去って行く。

 魔王のゲームで勝利数と敗北数が拮抗しているのも、魔法少女たちの奮闘の裏で彼らが自衛隊や警官隊と戦っているからなのである。

 対応局の主任も戦力を求めたのも、こう言った裏の戦いがあるからである。

 

「さて、お前らは見知らぬ遺跡の奥へと到達した」

 戦闘員たちは、卓の向こうでシナリオを読み上げるクリスティーンを見やる。

 

「すると奥に安置されていた秘宝が輝き、女神が現れました」

 彼女はイメージらしき女神のイラストを彼らに提示した。

 天秤とサイコロを持った、魔女みたいな恰好をした若い少女の姿をした女神だ。

 

「女神は言った。『どんな願いでも叶えてあげる』、と」

 これには、戦闘員たちも押し黙った。

 

「なんでも、ですか?」

「ああ、なんでも、だ。

 時間を戻しても良いし、死者を復活させても良い、一国の王に成りたいでもいいぞ」

 どうする? と、クリスティーンは面白そうに問いかけた。

 

 彼女のゲームに付き合っている戦闘員たちは、ルールブックを広げて相談し始めた。

 クリスティーンは彼らがどのような回答をするのか見守っていると。

 

 

「おお、残っている者も居るのか。

 遊んでいるところ悪いが、手を貸してくれまいか」

 休憩室の扉が開き、そこから段ボールを抱えているドクター・ティフォンが現れた。

 

「あ、ティフォンさん、どうしたんですか? 

 たしか今日は休暇になったと伺いましたが」

「勿論。これはちょっとした趣味だよ。

 人手が欲しかったから手伝ってほしい」

 彼らが用件を詳しく尋ねると、ええぇ、と引き気味に仲間と顔を見合わせた。

 

「面白そうだ、私も手伝わせろよ」

「うむ、人手は多い方が良いからな」

 ティフォンの趣味に、なぜかクリスティーンも意気揚々と手を挙げる。

 

「分かりました……」

 そして戦闘員たちも、上司の言葉に逆らうという選択肢は無かったのであった。

 

 

 

 §§§

 

 

『こちら、リクルート01。本部へ報告。

 新宿A-8ポイントの正体不明の人だかりに、魔王四天王を複数確認した』

 上位者対策局がその異変を察知したのは、治安維持の為に出動していたリクルート隊だった。

 

「四天王が? 四天王は明日まで行動を控えている筈では?」

 魔王四天王が活動しなくても、戦闘員まで活動させないとまでは言っていない。

 なので、散発的に破壊活動と略奪を行う戦闘員たちに対応する為に、対策局は各地に戦力を分散させていた。

 

『ええと、なんというか、これは実際に映像を見て貰った方が良いというか……』

 リクルート隊のリーダーは、本部のオペレーターにカメラの映像を送った。

 

 そしてたまたまそこに居合わせていた夏芽が、超高速で窓ガラスを破って飛び出した。

 

「……ええー、夏芽さんがそちらに向かいました。

 リクルート隊は事態の監視をお願いします」

『……了解』

 両者ともに、何とも言えない表情で通信を終えた。

 

 

 

「これは、どうすればいいんだろうか……」

 銀髪童顔イケメン転生者たちだけの部隊、リクルート隊のリーダーを務めることになった真なるイケメンも、この状況をどうすればいいか判断できなかった。

 なぜなら。

 

 

「魔法少女フェアリーサマーの同人グッズ即売会はこちらでーす!!」

 

 戦闘員の一人がメガホンを持って周囲に喧伝し、もう一人が列に並ぶように促し、もう一人はティフォンと一緒に売り子をし、もう一人は減った商品を補充していた。

 

 新宿は魔王襲来以前から見る影もないほど住人は減ったが、それでも何万人と今も人が住んでいる。

 通行人は、何事かとこの集団を見ていた。

 

 事前に告知されていたのか、千人近い人間が即売会に並んでいた。

 

「ティフォンさん!! フェアリーサマーキーホルダー六種完売です!!」

「なに!? 早すぎではないか!! 

 一人二種類までと言っておいたはずだが、よもや転売目的か!!」

「すみません、こちらの手違いで……」

「謝罪はよい。今は客を捌くのに集中せよ」

 そしてティフォンと戦闘員たちは大忙しだった。

 

「あの!! あそこに飾ってある本人直筆サインって本物ですか!?」

「勿論だ!! あれは百年前にこの私がファンに成りすまして書いてもらったものだ!! 

 魔術的科学的劣化防止加工済みである!!」

 更に、客相手にティフォンがドヤ顔で自慢していた。

 

「さあ、今なら私自ら監督と編集を行ったアニメ『魔法少女フェアリーサマー』第一期から第二期までをボックスで販売中だ!! 

 以降のシーズンはまた別の機会に頒布する予定であるぞ!!」

 彼はとても、ものすごく、満面の笑みで、心底楽しそうにフェアリーサマーグッズを売り捌いていた。

 

「今なら本人無許可の抱き枕カバーが──」

 その直後だった。

 

 流星が降って来た。

 

 

「ふんぎゃああああああ!!!!」

 空からの渾身のキックによる襲撃により、ティフォンがゴム鞠のように蹴っ飛ばされた。

 

「なーにやってんのよ、あんたって奴は!!」

 まさかご本人の登場に、この場に集まったファンは驚きの声を上げた。

 

「……くっくっく、趣味だ!!」

「あんたはそう言う奴だったわね!!」

 彼は起き上がって、恥ずかしげも無くそう言い放った。

 夏芽は拳を握り締めてイラっとした。

 

「いいからこの連中を解散させなさい!!」

「断る!!」

 だが、ティフォンは譲らなかった。

 

「ここに居るのは、私の同志たちである!! 

 私のSNSのフォロワーの中で、特撮とアニメ好き千人の抽選で選んだものたちだ。

 今更帰れなんて言えるものか!!」

「知るか!!」

「仕方ない……売り上げの一部で手を打とう」

「勝手に決めるな!!」

「……なら、仕方あるまい」

 二人の雰囲気が一触即発になった。

 傍目から見ればとてもくだらない理由で。

 

「まあまあ、落ち着けよ。二人とも」

 そこに、『最後尾はこちらです』と書かれた看板を持っているクリスティーンが割って入った。

 

「明日まで、お互いにやり合うのは無しだ。

 そう言うことになってるだろう、調停者」

「それとこれとは話は別だ。私はこんなグッズ許可した覚えなんて無い!!」

 それを聞いて、クリスティーンは笑った。

 

「なぜ許可が必要なんだ?」

「常識的に考えれば分かるじゃない!!」

「そうだな、常識的に考えるなら──」

 彼女は可笑しくてたまらなそうに、こう言った。

 

「この世界の住人ですらないお前に、許可なんて必要無いだろう? 

 あんたを守る法も、戸籍さえも無いんだから」

「そうだそうだ!!」

 肩越しにティフォンも主張する。

 

「魔王の手下が、法を論ずるの?」

「私が仕えるどちらの神も、法を大事にする御方だぜ? 

 それともどうする? 気に入らないなら、そこのブースを壊して去ればいい。あんたを罰する法なんてないんだからな」

 肩を竦めて、女は嗤う。

 夏芽は無言で、彼女を睨んだ。

 

「やりたければやればいい。

 我が神はその邪悪を赦す。ティフォンの好き勝手もまた、邪悪なれば」

「下らない教義ね。結局全部、強者の理論じゃなの」

 吐き捨てるように、夏芽は言った。

 

「うちの教団はどちらかと言うと互助会に近い。

 我らが神は、教義なんてものを定めていないからな。それだからこそ、あらゆる世界で最大規模の教団になったんだろうが」

 そこまで言って、だが、とクリスティーンは目を細めた。

 

「なあティフォン。このままじゃフェアじゃないだろ? 

 実のところ、私はあんたに興味があるんだ。

 ──ちょっと私と遊ぼうぜ。あんたが勝ったら、このブースは撤収してやる」

 彼女は同僚に視線を向けた後、夏芽に向かってニヤリと笑った。

 

「むッ、これは是非も無し!! 

 仕方ない、クリスティーンに勝てたならそちらの要求を呑もう」

 彼女の意図にハッとなったティフォンが頷いた。

 

「……良いでしょう。でもあんた、この前一度私に負けたこと忘れてないでしょうね?」

「おいおい」

 クリスティーンは肩を竦めた。

 そして。

 

 

だれにむかっていってんだ、なあ?

 

 急に殺気にまみれたどす黒い声色で睨んだ。

 

「……」

 思わず、夏芽は後退った。

 飄々とした態度の裏に、明確な悪意を感じたからだった。

 

 

 

 §§§

 

 

「ルールは簡単だ」

 ティフォンはワクワクしながら報道用の大型カメラを構えながら、この“お遊び”のルールを説明した。

 

「両手首、両足首、そして首。計五つのリボンをお互いに装着する。

 この全てが外れた方が負けである。それ以外は特に無しである。

 まあ、首のリボンが外れるのは致命傷として扱っても良いが……」

「それじゃあ面白くない」

「ふむ、では当面通り全てのリボンを外すという事で」

 クリスティーンの意見に、ティフォンはルールをシンプルにした。

 この二人が、首を落とされたぐらいで“致命傷”になるとは考えにくかったからである。

 

「あー、ゲームの範囲はこれくらいでお願いします」

 戦闘員が道路を封鎖し、町中に百メートル程度のバトルフィールドが出来上がる。

 その中で、夏芽とクリスティーンは対峙する。

 その様子を、多くの観客が固唾を飲んで見守っていた。

 

「先ほど、我が神に問うた。

 あんたをズタズタにしても良いかって。面白そうだからやってみろ、だそうだ」

 神に仕える神官と言うには粗野なこの女の笑みは、邪悪そのもの。

 このお遊びのルールには、勝敗に関してのみ定められている。

 つまり、意図的にどれだけ相手を痛めつけても、相手のリボンを全て奪わない限り“負け”にはならないのだ。

 

「アンチマテリアライズ。

 ソウルシェイプチェンジ」

 普段着の夏芽は、一瞬にして魔法少女フェアリーサマーへと変身する。

 ふわりとした黄色の衣装に、両手足と首元のピンクのリボンは違和感なく共存していた。

 

「それ、三下の台詞だって理解してる? 

 そんなんで魔王の四天王が勤まるの?」

「ぶっ殺してやるよ」

 そんな言葉の応酬をしている二人を見て、ティフォンは宣言した。

 

 

「ゲーム、スタート!!」

 

 次の瞬間、魔弾の雨がクリスティーンに降り注いだ。

 他人からは爆音と手榴弾の爆発が連続したようにしか見えないが、クリスティーンは涼しい顔をしていた。

 彼女の目の前には、見えない障壁が立ちふさがっていたのだ。

 

「シャインコール!!」

 反撃の魔法が、クリスティーンの杖から放たれる。

 三条の光の誘導弾がカーブしながら三方向から襲来する。

 

「ぬるいわ」

 夏芽は魔力の収束を自分の位置で観測した。

 誘導弾は囮だ。彼女は下がりながら、誘導弾に干渉して撃墜した。

 すると、直後に彼女の目の前が爆発した。

 

 爆炎を突き破り、今度はレーザーの雨がクリスティーンに降り注ぐ。

 

「ちッ」

 弾丸よりも持続時間の長い攻撃で、障壁に負荷を掛ける意図が丸見えだった。

 

 魔法による防壁は、大きく分けて設置型と維持型に分けられる。

 前者は一定の防御力を備えた防壁を設置することで、後者は自分で維持することで防御力や持続時間を調整できる。

 設置型は一度設置してしまえば、細かい調整は必要がなく扱いやすい。

 だが持続型は、攻撃を受けるたびに負荷が術者を襲う。

 どちらもメリットがあり、デメリットもある。

 

 クリスティーンの障壁魔法は後者だと夏芽は見破っていたのである。

 彼女は障壁を解除し、即座に回避行動を行った。

 

 夏芽は容赦をしない。

 とん、と足で地面を叩くと、それだけで局所的な地震が引き起こされた。

 

 地面の揺れに、クリスティーンの足が鈍ったのを彼女は見逃さなかった。

 

「ツインバースト、エクスプロージョン!!」

 誘導し、追い込み、そして仕留める。

 魔法少女フェアリーサマーの必殺技が、クリスティーンに炸裂した。

 

 実に淡々と、熟練の狩人のように作業をこなす。

 夏芽の実力は圧倒的だった。

 それは観衆の誰もがそう思った。

 

 

「あー、ちくしょう」

 だが、これで終わるのなら、彼女は魔王四天王などに選ばれていない。

 

 咄嗟に防御魔法で守ったクリスティーンだったが、その黒い神官服はボロボロだった。

 彼女は両手足のリボンが消し飛んでいた。

 首元のリボンだけを両手で庇い、守っていた。

 

「まったく油断したぜ」

 埃を払いながら、クリスティーンは悪態づいた。

 

「まだやるの?」

 これ以上やっても、いたぶるだけで終わると、夏芽はそう思っていた。

 

「くくッ、なあおい、まさかもう勝ったつもりなのか?」

 両者の魔法の力量の差は、ハッキリしていた。

 そう、“魔法”の力量は。

 

「やっぱり魔法の撃ち合いじゃ勝てないか」

 クリスティーンは神官服を脱ぎ捨てた。

 

 

「神官権限、技能転職(スキルリビルド)

 彼女は、本職(・・)に戻った。

 

 一瞬にして、クリスティーンは夏芽の知覚から消えた。

 

「ッ──!!」

 次の瞬間、夏芽の右手のリボンが弾け飛んだ。

 夏芽の対応は早かった。

 ほぼ反射的に牽制の蹴りが出て、それが無かったらもう一つリボンを失っただろう。

 

 彼女は目の前に現れた敵に至近距離で杖を向けて魔法を放った。

 それが、マズかった。

 

 目の前で、杖の先を自分から逸らしたクリスティーンがニンマリと笑った。

 その直後。

 

「“ウエポンスティール”」

 夏芽の手から使い慣れた杖の感触が消えた。

 

「“グレムリンの手”」

 クリスティーンは夏芽の目の前で、熟練の兵士が映画で敵から奪い取った拳銃の弾倉を抜いてその場で解体するように、夏芽の魔法の杖を分解した。

 

「“神速”」

 ナイフの切っ先が、夏芽の眼前に迫った。

 それがリボンに触れるより先に、夏芽は全身から魔力を爆発させ、距離を取った。

 

 

「『スキル制』の人間と戦うのは初めてか?」

 相手は、夏芽が後方の地面に着地する頃にはとっくに余裕そうに離れた位置でナイフを弄んでいた。

 その装いは、落ち着きのある神官服を着ていた時とは想像もできない。

 

 半袖のシャツとハーフパンツ。

 太ももにナイフのホルダー。

 防具らしい防具など一つも無かった。

 敢えて、今の彼女を一言で表すのなら。

 

「本性を現したわね、盗賊(シーフ)

 そう、粗野な品性に相応しい、創作の女盗賊そのものだった。

 

 クリスティーンはにやにやと笑っていた。

 悪党は、彼女のはまり役だった。

 

 

 

 




今回はアンケートの結果により、夏芽のガチバトルとなりました。
本当は一話で終わりたかったのですが、長くなりそうだったので今回も前編後編にしました。
後編を書き終わったら、次はアンケートに従って海外の四天王、次が魔王ハーレにする予定です。

では、また次回!!

次回はどんなお話が良い?

  • 魔王ハーレ―の回顧
  • 夏芽のガチバトル
  • 四天王の掘り下げ
  • 海外の四天王の動向
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