バッドガールズ・ダークサイド   作:やーなん

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予定を変更して、前回書ききれなかった残りの四天王を描写することにしました。
作者は嘘吐きでは無いのです、ただいい加減なだけなのです。悪しからず。


狂気が至る世界

 

 魔王の居城、その謁見の間。

 玉座に座す魔王ハーレに、日本の四天王二人が控えていた。

 

「お前が、あの悪名高いリーパー隊の宗主か」

 魔王は敢えて、隊長という表現をしなかった。

 

 彼の目の前には、軍服姿のコボルト族の男が跪いていた。

 小さい。身長は150㎝程度。

 人間にも人種があるように、コボルトにも人種がある。

 妖精に近いコボルト、爬虫類の特性を持つコボルト、そして犬獣人としか言えないコボルト──彼はそれに当たる。

 

 その種族のコボルト族は、どちらかと言うと総合的な能力が下から数えた方が早い種族である。

 そんな彼に、多くの異形が付き従って跪いていた。

 

 ゴブリン、コボルト、リザードマン、トロール、オーガ、ミノタウロス、サイクロプス、獣人各種族、有翼種、エルフ族、鬼人、ケンタウロス、ドワーフ、ラミア、サキュバス、吸血鬼。

 総勢108名の、魔の軍勢だった。

 

 まとまりも、統一性も無いこの混沌の群が、この男に従っている。

 

「お初にお目にかかります、魔王ハーレ様。

 現時刻を以って、只今着任いたします。

 俺がこのリーパー隊を与る隊長、故郷での管理番号は──」

「誰が数字を名乗れと言った。

 お前は家畜か? そうではないだろう?」

 不機嫌そうな魔王の言葉が、彼の言葉を遮った。

 

「失礼、私の事はアップルマンとでも呼んでください」

 犬獣人は深々と頭を下げて、そう名乗った。

 

 

懲罰部隊リーパー隊『戦争狂』

“狂犬”のアップルマン

 

 

「……」

 魔王には、その人物の魂の色彩が見える。

 なぜ彼がここまで不機嫌なのか、それは彼からすれば一目瞭然だった。

 

 ヘドロのような汚らしく醜悪などす黒い魂を持った存在が108名も目の前に居るからだった。

 これを見ただけで、この連中がどのように生きていたのか分かると言うモノだ。

 その中で、目の前のコボルトの男の魂は黒真珠のように輝いていた。

 こんな魂の持ち主を、彼は見たことが無い。

 

「正直、お前たちを見た時は消し飛ばして送り返そうと思った」

「実行なさらなかった魔王様は二人目です」

 それはそうだろう、と魔王は思った。

 

「お前たちは、我が母の管轄だったな。

 我が母は邪悪の神であって、醜悪の神ではない」

 この連中は抱えているだけで名誉や威信を損なう、と判断した魔王一族は多かったことであろう。

 それほどまでに、見るに堪えないゴミクズどもばかりだった。

 

「我が母が、お前たちに慈悲を与える理由を見せて貰おうか。

 そら、ゴミども。芸を見せて見ろ」

 その瞬間だった。

 

 ──―アップルマンの体がはじけ飛んで、入り口のドアの上の壁に叩きつけられた。

 

 和夜は、ティフォンは見た。

 108の魔の軍勢が、一糸乱れずに一斉に顔を上げて状況を把握したのを。

 

「隊長がぶっ飛ばされたぞ!!」

「結局またかい!!」

 屈強なオーガ、鬼、トロールが前に出て背後を守る。

 

「戦闘態勢、各員戦闘態勢!!」

「きゃはははは、今度はどれだけ殺せるかなぁ!!」

「死ぬまで暴れながら逃げてやろうぜ!!」

 小隊規模で指揮する獣人達、遠距離攻撃の準備をしたエルフの集団や有翼種族。

 

「第一隊はかく乱魔法準備、斥候は退路を確保。

 残りは遠慮なくぶっ放せ!!」

 後方では魔法の得意な種族が呪文を詠唱し、素早く動ける種族が移動を開始する。

 

 慣れていた。

 彼らは味方に、魔王にすら攻撃されることに慣れていた。

 

「やめろ、お前たち」

 一瞬の判断が命取りになる状況で、ぐったりしていたアップルマンがのろのろと手を挙げてそう言った。

 たったそれだけで、この喧騒の中で大した声量でもないその声に、混沌の軍勢が停止した。

 

 あわや、殺し合いに発展するのかと思われた状況で、安堵した四天王二人だったが。

 

「戦争には作法がある。

 宣戦布告だけは正々堂々としなくちゃぁいけない。

 その時ばかりはどちらかが冷静じゃないとなぁ」

 仲間に肩を貸され、起き上がった彼は──楽しそうに笑っていた。

 

「僭越ながら魔王様、戦争を始めてもよろしいですか?」

 前衛、中衛、後衛の軍団が左右に割れて、再び魔王とアップルマンは向かい合った。

 

 魔王は、彼を見た。

 理性の中に潜む狂気を。

 狂気の中の理性で、どうやって戦うのか目まぐるしく思考している。

 

「面白い」

 自然に、彼の口からそう言葉が出た。

 

「なぜお前たちが処分されないのか、その理由が分かった。

 よくぞこの連中を、ここまで統率させている」

 魔王は満足げに頷いて。

 

「ならば、お前たちの価値を示せ」

「──殺せ!! 喜劇を始めるぞ!! 

 演目は、魔王討伐!! 愚かで狂った道化どもよ、役者も観客もまとめて皆殺しだ!!」

 アップルマンの号令と共に、殺し合いが始まった。

 

 

 

 そして、1分も掛からずにリーパー隊は全滅した。

 

「ふう」

 ひと汗かいた、とばかりに玉座に座りなおす魔王。

 

「さて──」

 スプラッタ耐性の無い和夜が吐いているのを横目に、魔王は命じた。

 

「なぜまだ死んだままでいる? 死んでいる価値も無いクズども」

 その言葉に、魔力も何もなかった。

 

 だが、肉片と血の海と化した謁見の間に異変が生じた。

 血の中から沸き立つように、或いは時間が撒き戻るかのように。

 108の魔の軍勢が、勢揃いした。

 

「これは、どうなっているのですか?」

「我が母の慈悲(のろい)だよ。こいつらは地獄行きになって更生するだけ予算の無駄とされた生粋のクズの中のクズども。

 ならその嗜好と能力を使い潰してやろう、と寿命以外では死ねないのだ」

 むう、と思わずティフォンも唸った。

 こいつらをキメラにしたら面白そうだな、とか思っていた。

 

「アップルマン」

「はッ」

 そしてそれは、彼らを統率する隊長も同じだった。

 彼は、彼らは、最初と同じように魔王の眼前に跪いた。

 

「これから二週間後、およそ1000人ほど殺す予定がある。

 メアリース様が間引けと仰らなかったら、相手次第で取りやめの予定だったが……お前たちを見て決行することに決めた」

 魔王の言葉に、リーパー隊の幾名かが堪え切らず顔を上げた。

 いずれも、殺戮に酔うケダモノの笑みを浮かべていた。

 

「その時に、そいつらを好きにしていい」

 歓声が上がった。

 地獄に行く価値も無い、救われる意味も無い。

 誰かを殺すぐらいしか能力のない、悪の軍勢が湧きたつ。

 それも、アップルマンが手を上げただけで静まった。

 

「だが、それまでは可能な限り殺すな。

 必要最低限以外の殺しはするな。なるべく順番に、地上に降りてお前たちの恐怖を知らしめろ」

「戦力の逐次投入は下策中の下策ですが?」

 王命に、指揮官たるアップルマンが異を唱える。

 

「地上の人間は、メアリース様の財産だ。

 ……言っている意味は分かるな?」

 魔王の意を受けて、犬獣人は顎に手を当てる。

 

「おい、支給された地図を持ってこい」

「はい隊長!!」

 小柄なエルフがアップルマンに地図を持ってきた。

 日本地図ではなく、世界地図だった。

 

「俺はこの国の四天王として配属されましたが、部下どもは世界各地に投下してもよろしいでしょうか? 

 でなければ、こいつらを抑える自信がございません」

 世界地図には各国の戦況や攻撃目標などが記載されていた。

 それを俯瞰する彼は、先ほどの狂気からは程遠い軍人らしい戦略眼を発揮しようとしていた。

 

「好きにすればいい。

 必要な時に全員集合できるのなら、各地である程度の“目こぼし”はしてやろう」

「了解しました。各々任務に励みます。

 お前ら、これから割り当てを決めるから待機しておけ」

 アップルマンの命令に、ぞろぞろと隊員たちが謁見の間から退出していく。

 

 指示を終えた魔王も魔法でその場から居なくなった。

 その場には、未だえずいている和夜と思案顔のティフォン、そしてアップルマンが残った。

 

「おいおい、大丈夫か?」

「ッ、近寄るなイカレ野郎!!」

 人好きの良さそうな笑みを浮かべて近寄る犬獣人の手を、和夜は払いのけた。

 

「そう言うなって。まあ俺らと同じなんて嫌だろうが、否が応でもこれからは同僚だ。

 後でお互いに仲間として酒でも飲まないか?」

「誰があんたなんかと!!」

「私は行くが?」

「おい、ティフォン!?」

 和夜は同僚に信じられないと言った視線を向ける。

 

「彼と言う人間……では無かったな。

 彼と言う人物に興味を抱いたのだ」

「今でこそ犬畜生だが、前世では人間ではあったぜ。人間扱いしてくれるなら、それはそれで嬉しいな」

「ほう、そうなのか」

 この二人のやり取りを見て、和夜は奇妙にもアップルマンに自分の兄を連想させられた。

 あのコミュ力の塊みたいな陽キャと、どことなく。

 

「はあ、わかったよ僕も行けば良いんだろ」

 結局、その奇妙な何かを確かめるべく、和夜も参加することにした。

 

「じゃあ、この世界の美味い酒を教えてくれよ」

「うむ、良いだろう」

 

 こうして、魔王軍に新たなる四天王がクリスティーンの代打で参入するのだった。

 

 

 

 §§§

 

 

 銃声が、鳴り響く。

 そこは砂漠地帯を思わせる大地に、無数の廃墟が点在していた。

 

 完全武装の兵士たちがその間を縫うようにして進んでいく。

 

「ポイントデルタ制圧!!」

 兵士の一人が、無線で仲間に状況を伝える。

 次々と新しく制圧した地点に仲間が現れる。

 彼らの頭上のネームを確認して、一斉に動き出す。

 

 これは、ゲームの世界。

 FPS*1のタイトルで、名前は“サクリファイス”。

 全世界で二千万の売り上げで、今ではゲーム業界全般でもトップのビッグタイトルになった。

 

 このゲームが人気に、いや売れたのは理由があった。

 この“サクリファイス”というゲーム、VR空間でプレイできるだけでなく、五感を完全にゲームとリンクさせる所謂フルダイブタイプのゲームであった。

 

 現代では技術的に不可能なこのゲームは、魔王の到来と共にゲーム機と共に安価で世界中に販売された。

 人々は、魔王に侵される現実から逃げるように、このゲームに没頭した。

 

 そしてゲーム機と共に“サクリファイス”が世界中に普及した時、人々はこのゲームのタイトルの意味を知る。

 

「これから毎月一度、“サクリファイス”の大会を中国で行うよ。

 ただし、この大会中にログアウトは出来ない。ログアウトできるのは、勝者だけだ」

 このゲームを世界中にばらまいた張本人は、実に愉快そうに宣言した。

 

 

魔王四天王 中国担当 『主催者』

ゲームマスター

 

 

 彼はクリスティーン同様、この世の者ではない、異世界人である。

 彼女との違いは、彼は神官ではないとところだろうか。

 

「分かりずらかったかな、要するに大会のゲーム中にキルされた人間は現実でも死ぬってことさ!! 

 勿論、それだけじゃあ誰も参加しないだろう。

 大会の優勝者には、僕と戦う権利を上げよう。そして、僕に勝った人間は、魔王様にご褒美を貰えるんだ!!」

 彼の姿を模ったアバターが、狂気を伝搬させる。

 まるでひと昔前に流行ったラノベのデスゲームみたいなことを繰り広げる彼は、実に楽しそうに笑っていた。

 

 そして、彼は三十回の大会を開いて、その優勝者全てを葬った。

 

 更に、彼の魔の手は“サクリファイス”内部に留まらなくなった。

 

 

 

 ファンタジー一色のMMORPGの舞台に、場違いな銃声が鳴り響いた。

 

「くそッ、くそッ、なんでログアウトできないんだ!?」

 モンスターが徘徊する薄暗い洞窟を逃げるフルプレートアーマーの戦士が、必死に逃げながらログアウト機能をタップする。

 しかし、幾らやっても“ゲームマスター権限により不可”としか表示されない。

 

 銃声が、彼に迫ってくる。

 道中のモンスターを銃殺しながら、死神は彼を追い詰めていく。

 

 嫌な汗が、背筋を伝う。

 こんなところまで五感を感じなくてもいいのに、と思わずにはいられない。

 

「おや、もう鬼ごっこは終わりかい?」

 ファンタジーの世界観に相応しくない現代の迷彩服を着たアバターが、狙撃銃を構えながら歩いてきた。

 

「て、てめぇ何者だよ!! なんで銃なんて持ってるんだ!! 

 どうして運営に垢BANされないんだ、チートだろそれ!?」

「そりゃあ、この僕が運営そのものだからさ」

「はあ!? 意味わかんないし!!」

「知らないの? 僕四天王だよ、この世界にフルダイブのVRゲームを持ち込んだ張本人さ」

 知っていた。彼は知っていた。

 イカレたデスゲームを繰り返す、狂人のことだ。

 

「別ゲーの装備で弱い者いじめするのが、四天王のすることかよ!!」

「ははは、モンスターをトレイン*2して他のプレイヤーに押し付けてPK*3してた君が言うのかい?」

 アバターは表情豊かに、目の前のプレイヤーを嘲笑う。

 

「それに僕がやりたいのは、弱い者いじめじゃあない」

 パァン、と銃声が響いた。

 

「あ、ぎゃああああぁぁぁ!」

 足を撃ち抜かれ、プレイヤーは激痛から悲鳴を上げた。

 

「い、痛い、なんで、なんで!?」

「何言ってるんだ、痛みの無いゲームなんて全くリアルじゃないじゃないか」

 このゲームはファンタジー要素が売りで、まかり間違っても現実のリアルさなんて求められていない。

 それを無視して痛覚を与えられる彼は、間違いなくゲームマスターだった。

 

「僕の故郷は、VR技術が発展していてね。

 VRが第二の現実だ、みたいに言われていたんだ」

 ゲームマスターが引き金を引く。

 狙撃銃から銃声が鳴り響き、弾丸が発射される。

 

 弾丸は容赦なく、地面にひれ伏すプレイヤーの腕を貫いた。

 もう一度、悲鳴が上がった。

 

「僕はこれでもね、産まれた時から体が悪くてね、外を歩くことも出来なかったんだ。

 だけど、VRは違う。僕はゲームの中でだけ、自由に歩き回れたんだ」

 苦痛にのたうち回るプレイヤーを見下ろし、嗜虐的な笑みを浮かべるゲームマスター。

 

「最初は、羨ましかったんだ。

 だけど、こうやってゲーム機越しに相手の五感を滅茶苦茶にしていくうちに、そうしないと満足できなくなっちゃったんだ。

 最終的に、46人ぐらい殺したって言われたのかな? ははは、実感なんて無いけどね」

 彼の目の前に居るのは、ゲームのアバターではない。

 VRから現実を侵食する殺人鬼だった。

 

「この世界の皆には、感謝してるよ。

 だって、僕の性癖を満足させてくれる土台を喜び勇んで広げてくれたんだからね」

「う、嘘だ、ゲームで人が死ぬなんて……」

「嘘だと思うなら、そう思ったまま死ねばいい」

 ゲームマスターの銃口が、プレイヤーの頭部に狙いを定める。

 

「や、止めてよ!! 俺はまだ10歳なんだ!! まだやりたいことが有るんだ!!」

「え、それ本当?」

 ゲームマスターは思わず必死に命乞いをするプレイヤーの顔を見やった。

 その仕草に、彼は希望を見ようとした。

 

 だが、ゲームマスターは嗤っていた。

 

「ねえ、どんな気持ちだい? 自分の残りの人生が、ゲームなんかに台無しにされるのって!! 

 誰かが築き上げてきた人生をぶっ壊すのも最高に愉しいけど、君みたいな未来ある若者を踏みにじるのも興奮するねぇ!!」

 ゲームマスターは、絶望に歪むプレイヤーの顔に銃弾を撃ち込んだ。

 

 ログアウト先を失ったプレイヤーの精神データが、ゲームの世界に霧散する。

 

「世界中の皆さん!!」

 そしてこの光景は、悪趣味なことに世界中に生配信されていた。

 

「僕をこの世界に送り込んだ女神様は、好きなだけ殺して良いって言っていた!! 

 この世界の造物主たるメアリース様も間引きをしろと言っていた!! 

 今日からお前たちの遊び場は、全て僕の狩場だ!! 

 いつ僕に殺されるかわからない恐怖を味わいながら、第二の現実を楽しんでください!!」

 そう宣言して、ゲームマスターはログアウトした。

 

 彼の狂気が、急速に広がったVRゲームの市場を恐怖のどん底に陥れるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

*1
ファーストパーソン・シューティングゲームの略。一人称視点で進む射撃ゲームのこと。

*2
ゲームで多くのモンスターを引き連れ、他のプレイヤーに押し付ける迷惑行為。

*3
プレイヤーキルの略。




次回はいよいよ、2章のラストになる予定の魔王の独白になります。

それではまた次回!!

次回はどんなお話が良い?

  • 魔王ハーレ―の回顧
  • 夏芽のガチバトル
  • 四天王の掘り下げ
  • 海外の四天王の動向
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