バッドガールズ・ダークサイド   作:やーなん

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汝、我が闘争に値せず 後編

 

 

 テレビ通話を仕掛けて来た相手は、キャンプ用の折り畳み椅子に腰かけながら笑っていた。

 その背後には、魔の軍勢が勢揃いしていた。

 

『いきなり攻撃してくるなんて酷いじゃないか。

 とても文明人とは思えない対応だなぁ』

「そこを不当に占拠したのはそちらだ」

 その場を代表して口を開いたのは、主任だった。

 

『なら、交渉の余地ぐらいはあっただろう? 

 その努力をせず、俺たちが化け物だから攻撃を加えた。それが本音だろう? 

 ならば、俺たちが反撃したのは正当だ。違うか?』

「……ッ」

『それにしても、なんだ。

 今の戦いの指揮官はあんたじゃないよな? 

 普通奇襲が通じなかった時点で撤退させるべきだ。

 その判断が出来ずに功を焦ったのは丸わかりだった、その結果無駄に犠牲をだした』

 軍服の犬獣人に戦術を説かれる。

 主任は彼が何をしたいのか理解できなかった。

 

『おい、聞いているんだ。さっきの指揮を執ったのはお前か、とな!!』

「……いいや、違う」

『そうか。制服を見るに、同胞を失った悲しみは理解できる。辛いだろう?』

 先ほどの一方的で苛烈な反撃を指揮したとは思えない、理性と悼みに満ちた言葉だった。

 

『申し遅れた。俺は先日に魔王四天王に末席として配属された者である。

 仲間からはアップルマンと呼ばれているよ。お前たちもそうしてくれると嬉しい』

「ならばアップルマン。答えてほしい、一体何が目的なのだ」

『まず一つは、王命だ。俺たちの恐怖を知らしめろ、という魔王様のご命令。

 そして、もう一つが……』

 犬獣人、アップルマンの視線が夏芽に向いた。

 

『我が主上により、フェアリーサマーを倒せと拝命仕った』

 その言葉に、その場の人間は夏芽を見た。

 

『そう言うわけで、宣戦布告だ。

 しかし、なんだ。本当にガキなんだな』

「侮るなら、痛い目を見るわよ?」

『そう言うつもりじゃないが、やり難いな』

 だが、はぁ、と溜息を吐いたアップルマンが、姿勢を正すともう既にスイッチ(・・・・)が入っていた。

 

『お前、世界一の勇者なんだろう!! ならば相手にとって不足はない!! 

 戦争だ、戦争を始めよう!! 一辺倒に容赦もない、慈悲も無い殺し合いをしよう!! 

 お互いに全てを失いつくすまで戦い、滅ぼし合おうぜ!!』

 彼の声に、背後の魔の軍勢が沸き立った。

 

「私は、負けないわ」

『俺も負けを認めない(・・・・・)

 カメラ越しに、両者の視線が交錯し、そして────。

 

 

『ピロリン!! 平素より“危険予知アプリ”のご利用いただき誠にありがとうございます。

 この度はお客様に取り返しのつかない危険が差し迫っていることをお伝え申し上げます』

 夏芽の携帯端末に、そんな機械音声が届いた。

 

「イヴⅡ!!」

 最悪のタイミングだった。

 出鼻を挫かれたどころか、彼女にとっては負けるから戦うなと言われたに等しかった。

 

『はいはーい、皆の偶像(アイドル)イヴⅡだよー!! 

 夏芽ちゃーん、ちょーっと今回はマネージャーとしてNGかなー!!』

 夏芽の呼びかけに、携帯端末からデフォルメされた二頭身の女神の化身が現れた。

 

『魔導頭脳ティターニアの演算結果によると、夏芽ちゃんはこれから一か月後にほぼ100%の確率で消失しているよ!! 

 その間に、およそ852人の死者が発生すると予測されているね!! 

 だからダメー。戦っちゃダメー!!』

『なんだ、たった800人程度でお前を殺せるのか』

 イヴⅡの主張に、アップルマンは拍子抜けと言った様子で椅子に座りなおした。

 

『……お嬢ちゃん、この世界は戦場になるんだ。恥をかく前にお家にお帰り』

 そして、彼は逆撫でするように優し気にそう言った。

 

「私を馬鹿にするな!!」

『あー、悪いけど、武装を強制ロックするから。

 魔力も使用制限を実行。ごめんね夏芽ちゃん、貴方を行かせるわけにはいかないの』

 杖を取り出し戦いに出向こうとする夏芽を、しかしイヴⅡは許さなかった。

 この瞬間、夏芽はただの小娘に過ぎなかった。

 

「くッ、なんで、何でなのよ!!」

『納得がいかないか? じゃあ思考実験でもしてみようぜ』

 至極退屈そうに、アップルマンが言った。

 

『俺はお前が出て来た直後、人質を使用して負けを認めるよう迫る積りだった。

 勿論、受け入れない場合は住民を虐殺する、とな。

 さて、お前はどうする?』

「お前たちを倒して、人質も救うわ!!」

『じゃあそれが成功したとしよう。

 では俺はあらかじめ市中に仕掛けておいた爆弾で住民を殺しただろう』

 アップルマンはそれこそ子猫を愛でるような視線で、夏芽を見ていた。

 

「民間人を殺すのか、貴様は!!」

『それも仕事だ、仕方ないだろう』

 激高する主任にアップルマンは肩を竦めた。

 

『俺はそれを繰り返す。お前が負けを認めるまで、何度も。

 そして負けを認めても、何度も繰り返す。負けを認めるたびに土下座でもしろと言うかもな』

 くつくつ、とこの冷酷な指揮官は嗤っていた。

 目的の為には手段を択ばない、狂気があった。

 

『俺はお前がどれだけ強いか知らないが、民間人を殺すことはできないだろう? 

 例えお前をどれだけ批判しようともな。

 だから俺は世間に対してこう喧伝するわけだ、俺たちはお前が負けを認めるなら何もしない、と。

 まあプロパガンダだな、戦争の手法だよ』

 そうして、悪役の筈の彼が、夏芽に悪役を押し付けるのだ。

 

『そうやって、惨めに俺たちに屈するお前を、世間に配信するのも良いな。

 全裸で俺の靴を舐めろとでも命令してやってもいい。

 世間様はすぐに、お前を惨めな愚か者として見るだろうよ』

 夏芽は、最強の魔法少女だ。

 アップルマンはただの戦争屋だった。

 

 その違いは、子供か、大人か、それだけに過ぎなかった。

 戦うまでも無く、勝敗は決していた。

 

『英雄を殺すのは簡単だ。

 怪物は民衆を殺し、怪物は英雄に殺される。

 そして、英雄は民衆に殺されるものだ』

 理路整然と、自分の殺し方を説明される夏芽は拳を握り締めることだけしかできなかった。

 

『英雄は、自分から名乗ることはできない称号だ。

 なぜなら英雄を承認するのは、民衆だからだ。民衆の承認無くして、英雄は存在しない。

 故に、お前を殺すことなど、わけ無いのだ。

 ────お前はその程度の人間なんだよ』

 もう、アップルマンは夏芽を相手になどしていなかった。

 いつでも貶めて、いつでも殺せる程度の相手に成り下がった相手など、興味を示していなかった。

 

「卑怯者ッ、あんたはそれで恥ずかしくないの!!」

『それは、誰に対しての恥なんだ? 

 依頼された仕事をこなせない方が、よっぽど恥じゃないのか?』

 水無瀬の罵倒を、アップルマンはそよ風のように軽く受け流した。

 

「……それでも、私は戦う」

『お?』

「あんたが手段を択ばないなら、私だってプライドを捨てるわ」

『ほう……』

 彼は、アップルマンは、ようやく夏芽が英雄の顔になったのを目にした。

 

『でもダメだって、今の情報を加味して再演算した結果!! 

 なんと、二人が戦うとこの世界が消滅します!!』

 だが、その上でイヴⅡが止めた。

 彼女の本体は無慈悲な結果だけを算出する。

 

「なんで?」

『俺に聞くなよ』

 だが当事者二人は分かっていなかった。

 

「そりゃあ、魔王様がブチ切れるからだろ。

 お前ほどの英雄を貶めておいて見苦しく生きてる民衆に価値なんて無いってな」

 言ってから、クリスティーンは口を手で押さえた。

 アップルマンの視線が、初めて彼女に向いた。

 

『ああ、これはこれは、神官殿。お久しぶりでございますね。是非ともまたお会いしたかった』

「……オレはもう会いたくなかったよ」

『今回、あんたはそちら側か。

 懐かしいですね、あんたとあんたの仲間三人に、俺たちは切り刻まれた』

 アップルマンは口角を釣り上げ笑っていた。

 クリスティーンは顔を逸らしていた。

 

『我が主上も粋なことをなさる。

 我が軍勢を乗り越え、当時担当の魔王様にさえ土を付けたあんたに、もう一度挑める機会を下さるとは』

 彼の言葉に、その場の人間はギョッとして彼女を見た。

 

「それ、ノーカンになっただろ」

『事実は事実だ。なあ、聖女様?』

「それ黒歴史なんで止めてくんない?」

 クリスティーンは心底居心地が悪そうにそう言った。

 

『さて、長話もそろそろ終わりにしようか。

 お前たちは魔王様とゲームをしているんだったな? 

 なら、俺たちとも遊ぼうじゃないか』

 彼はしかし退屈そうにこう言った。

 

『これから毎日、俺の部下を投下する。

 お前たちはそれに対応するんだ。言うまでも無いがこいつらは外道の中の外道、故郷の世界を追われた殺人鬼どもだ。

 お前たちがどれほど対応できるか、楽しみにさせてもらうぜ』

 アップルマンはそれだけ述べると、通話を切った。

 

 

「な、イカレ野郎だろ?」

 静寂が訪れたオペレーションルームに、クリスティーンの声だけが響いた。

 

「ホントなんなの、あいつらは!!」

「さっきも言ったろ、リーパー隊だよ」

 苛立ちを隠そうともしない夏芽に、彼女は淡々と、諦めたようにそう言った。

 

「あいつらは、本来滅ぼす時にしか使用されない、兵器だ。

 お前の所為さ。お前がこの世界に関わらなければ、奴らが来ることも無かった。

 お前が、この世界の人間を苦しめたんだぜ」

「私が余計なことをしたと!?」

「少なくとも、お前に余計な期待をせずに済んだはずだ。我が主上も、この世界の住人もな」

 クリスティーンは夏芽を見据え、淡々と挑発的な言葉を並べる。

 

「ふざけるのも大概にしろッ」

 そして、その言葉に激怒したのは千利だった。

 

「師匠が来なかった方が良かったですって!! 

 他の誰がそう言ったって、その言葉を私が許すことはできない!!」

「じゃあお前、なんでさっきこいつが負けるなんて予測が出たと思うよ」

「なにッ」

「こいつ、きっと独り(・・)で戦ったからだぜ」

 なあ、とクリスティーンは夏芽に皮肉気に笑いかけた。

 

 結局のところ、夏芽が負けるという予測は彼女単体の戦闘力や行動パターンによる分析結果だ。

 つまり、他の誰かが参戦するという、パターンが存在しなかったということである。何度やろうとも。

 

「お前らがどう言おうが、こいつはお前らを仲間だなんて思っていないってことだ。違うか?」

 反論は、無かった。

 

「それで魔王様に挑むだと? 

 笑わせるんじゃねぇよ。揺るぎない信頼と結束で結ばれた勇者たちだけが、唯一魔王様の喉元に刃が届きうる。

 覚悟を、勇気を、自分たちの価値を示そうとした人間たちだけが神の赦しを得られるのだ」

 到底彼女の性格からは出ないだろう言葉を口にしながら、彼女はこの場の全員に問う。

 

「それが出来ないなら、家畜に甘んじろ。

 これ以上傷つく前に、犬っころみたいに腹を出して降伏しろよ」

「そんなの、死んでも御免だわ」

 そう答えたのは、メイリスだった。

 

「でも、死んだところであの女神のところになんて行きたくはないわね。

 私は最期まで戦うわ。あなた達はどうするの?」

「私は覚悟を、それを行動で示した。

 今更後には引けない。皆もそうでしょう!?」

 アイリスに続いて、千利が声を上げる。

 かつて暴虐を以って結束を促した彼女は、今更引き返す道など無い。

 

「勿論だ、私達が諦めれば、たった今死んでいった仲間たちに顔向けできない!!」

 拳を握り締め、怒りのままに主任がそう叫ぶ。

 

「……こいつらは、お前が守ってやらないといけないほど、か弱くはないみたいだぜ?」

「…………分かってるわよ」

 バツが悪そうに、夏芽は顔を顰めた。

 

「だが、お前らのような不退転の覚悟を持って、我が主上とかつてのアップルマンは戦った」

 クリスティーンは語り出す。

 彼らの覚悟を問うように。

 

「お前たちはどこまで戦える? 

 主要国家が、自分の国が、周辺地域が破壊され、知り合いや家族までも死に絶えても戦えるか? 

 あのイカレ野郎は、世界人口一名になっても戦った。

 記録によると、その状態で一か月以上、あの野郎は魔王の軍勢と戦った。決して勝てないと分かっていながら」

 そんな奴が、彼女らの相手だった。

 

「負けを認めない、か」

「はは、今も負けたと思ってないんじゃないか?」

 主任の呟きに、クリスティーンは肩を竦めてそう言った。

 

「英雄の条件は、民衆の承認だとあいつは言った。

 だが、我が主上はあいつを世界ごと滅ぼせた。いつでもな。

 わかるか? たった一人の覚悟が、その世界をひと月以上存続させたんだ」

 彼もまた、英雄だった。

 世界よりも価値があると認められた男だった。

 

「誰が相手だろうと、私は戦います。

 少なくとも、あんな連中に負けて、私はそれ以下だったなんて耐えられない」

 水無瀬が、悪の軍勢に闘志を示す。

 

「こんなところで、負けて終わるなんて私は嫌です。

 まだ何も、私は何もまだ成し遂げてないのですから!!」

 成実は静かに、己の仇への憎悪を滾らす。

 

「あいつら、神様も裁けないんでしょ。

 そんなの赦せないッ。あいつらに地獄がないなら、私があいつらの地獄になる」

 そして有栖は、能面のような無表情でそう答えた。

 

「そうだ、お前たちの価値を神に示せ。

 そうやって、尊厳だけは屈しないと示し続けろ。

 そうすればいつか、必ず機会は訪れる」

 それがクリスティーンの神官としての、祝福なのかもしれなかった。

 

「私も、いい加減中途半端は終わりにしないと」

 その横で、夏芽も覚悟を決めていた。

 

 

 

 

 

 

 




つい先日、仕事の都合で数日ほど上野駅周辺に滞在していました。
上野公園を出したばかりなのでタイムリーでした。
良いところだったので、リーパー隊許せねぇ、ってなりました。

あいつらクズなので遠慮なくボコボコにしてやりますよ。
アンケートは次回投稿まで延長です、今月お休み貰えたのでもっと書きたいです。

では、また次回!!

登場するリーパー隊の隊員、誰が良い?

  • 下種野郎ゴブリン
  • 狩りをする人狼
  • 撃墜王ハーピー
  • 肉食系エルフ軍団
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