バッドガールズ・ダークサイド   作:やーなん

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今回から、新章突入です!!




第三章 魔法少女VS怪人部隊
蟷螂は餌を食べる 前編


 

 

 

 上野公園、リーパー隊野営地。

 

「隊長、撤収準備終了しました。

 いつでも帰還できます」

「わかった」

 隊員の報告に、隊長であるアップルマンが頷いた。

 

「最初に出るのは誰だったか?」

「私達です、隊長」

 手を上げたのは、笑顔の似合う快活そうな小柄なエルフだった。

 

「お前か、マンティス」

 先鋒に選ばれた人物を見て、アップルマンが顎に手を当てる。

 

「ならば、お前の一族全員で出撃しろ」

「あれ、良いんすか? 全員ぶっ殺しちゃいますよ?」

 マンティス、そう呼ばれたエルフは人好きの良さそうな笑みのまま、目は鷹のように鋭くなった。

 彼女の一族は、リーパー隊でも最大の人数である三十人が所属している。

 それぞれが優れたスカウトであり、遠近両方の戦闘に優れた精鋭だ。アップルマンのもっとも優れた手駒でもある。

 

「相手の対応力を見たい、指揮官の能力もな。

 先の戦闘のように無能だったなら、本拠地に攻め入って殺せ」

「了解っす」

「作戦開始は、明日の午前九時からだ。

 それまでは好きにしていいが、────やり過ぎるなよ」

「それは勿論」

 マンティスの顔を見て、言うだけ無駄か、とアップルマンは内心口にした。

 

「初戦でお前たちを失うのは痛すぎる。

 ほどほどに戦い、ほどほどに逃げて来い、つまりは威力偵察だ。それを忘れるな?」

「はいっす!!」

 アップルマンが頷くと、マンティスは自分と同じエルフ族のリーパー隊隊員を呼びに行った。

 

「不安だが、仕方がないか」

 彼の呟きが撤収作業の喧騒に消えていった。

 

 

 

 §§§

 

 

「主任、上野公園周辺から敵集団の一部が移動を開始。詳細をモニターに送ります!!」

 アップルマンからの宣戦布告の翌日、オペレーションルームに仮眠を取りながら交代していた職員たちが、その声に飛び起きた。

 

「やはり、リーパー隊かッ」

 眠れずずっと待機していた主任が、モニターに映ったエルフの集団を睨みつける。

 

「上野駅周辺の封鎖は?」

「半径一キロ圏内は閉鎖済みです。

 しかし、交通機関が麻痺状態では困ると、住民から対応を求められています」

「そんなものは相手に聞け、それより千利君たちを呼んでくれ」

「既に電話を鳴らしています」

 そうして彼らが対応していると、すぐに千利や魔法少女たちがやってきた。

 

「主任、お疲れ様です。

 それで、状況は?」

「……それが、どうにも連中の動きが鈍い」

 主任がモニターに視線を促す。

 

 すると、そこには肩を落としてやる気が無さそうに歩いているエルフの集団があった。

 何やら相談をしてから、方々に散っている。

 残りはその場に留まって、ぐったりしている。

 

「なんだあれは、こちらの油断を誘っているのか?」

「ああ、あれは素だよ、あいつらは一応エルフだからな。

 都会の汚れた空気とか、機械とか生理的にダメなんだ」

 主任の疑問に答えたのは、いつの間にかやってきていたクリスティーンだった。

 

「それにしても初手であいつらを切ってくるか。

 懐かしい顔ぶれだ、マンティスの奴も居やがるし」

 難敵だぞ、とクリスティーンは彼らに言った。

 

「エルフか、完全にファンタジーの世界ですね」

 自分も魔法使いのくせして、そんなことを呟く千利。

 

「お前たちからすれば、オレもファンタジーの世界の出身なんだが?」

 クリスティーンの茶々は無視された。

 

「丁度、今朝の見回りに出たリクルート隊が付近を警戒中です」

「ならば向かわせて排除させるんだ」

「了解、連絡します」

「私たちも、出撃準備します」

「頼む」

 着々と対応が進む中、主任は不安げにモニターを見ていた。

 

 

 

 ところ変わって、現場のリクルート隊。

 

「みんな、目標を変更。敵集団の排除を行うぞ!!」

 リクルート隊のリーダーが仲間たちに呼びかける。

 

「おい、通信聞いたか? エルフだってよ」

「異世界に転生できないって聞いた時から縁のないと思ってたけど、まさかエルフに会えるなんてな」

「俺、ちょっと緊張してきた」

 凶悪な敵、と聞かされていても、エルフに会えるという事実にリクルート隊の隊員たちは浮ついていた。

 

 そして、彼らを待ち受けていたのは予想外の光景だった。

 

 

「はぁ~、なんで人間ってのはこう、機械とか好きなんすかねぇ」

「族長~。野営地の公園に戻りましょうよー」

「でも野営地はもう解体済みで、皆はもう撤収してるよ」

「そうなんだよなー」

 まるで熱中症かなにかみたいにぐったりと階段やコンクリートに腰かけている、見目麗しいエルフの集団だった。

 

「おーい、そこの飲み物売ってる箱、ぶっ壊して中身取って来たよー」

「そこのでかい建物に食べ物いっぱいあったぞー」

 そこに、先ほど散って行った彼女らの仲間が戻ってきた。

 ペットボトルや、駅のお土産などを調達してきた彼女らは、仲間にそれを配って行った。

 

「んぎゃ!? なにこれ、しゅわしゅわしてる!?」

「これめっちゃ甘い!! こっちの人間ってこんな砂糖使った食べ物食べてるの!?」

 炭酸飲料に驚く者、お菓子の品質に驚いている者、それはカルチャーギャップに驚く外国人にしか見えなかった。

 

 

「リーダー、あの子たちと戦うんですか?」

「……ああ、そう言うことになっている」

 リクルート隊の面々は、やり難かった。

 明らかに不調な、それも美人の集団に攻撃を加えるのを。

 

「……どうか話し合いで解決できないか、試してみる」

 彼らのリーダーが、苦渋の表情でそう言った。

 ここでそう言う発想ができる辺り、彼が真のイケメンたる由縁だった。

 言葉が通じるなら、理解し合える、と。そう思ってしまった。

 

「だけどリーダー、司令部からの命令は……」

「現場の判断だ。責任は俺が取るさ」

 リーダーは仲間の肩を叩いて、笑って見せた。

 そうして、単身で彼女らの元へと向かった。

 

 

 そして、────仲良くなってしまった。

 

 

 

 §§§

 

 

「何をしているんだ、彼らは……」

 排除を命令したはずの主任は、モニターに映されている光景に頭を抱えた。

 

「あっはっはっは、運が良いな、あいつら!!」

 普通に一緒にお菓子や飲み物を飲み食いしている男女の集団を見て、クリスティーンが大笑いした。

 

「……このまま穏便に帰って貰った方が良いのでは?」

「それはそれで最善の選択かもしれんな」

 ついには千利と主任がそんなことを言い始める始末だった。

 

「しかし、哀れだな。あの一族に気に入られるなんて」

「……一族?」

 ただ冷めた視線を向けていたメイリスが、クリスティーンのその言葉に反応した。

 

「彼女たち、全員女性よね。まさか女性上位の社会体制なのかしら?」

「いいや、違うな。あいつらの一族に、男性は居ないんだ」

 その言葉に、メイリスはテーブルを叩いて立ち上がった。

 

「すぐに、水無瀬たちを戻しなさい!!」

「え? どうしたんですか?」

「問答している時間が惜しいわ、今すぐ彼女らを引き返えさせなさい!!」

 しかし、どう叫んでもメイリスに指揮権は無かった。

 

「落ち着いてほしいメイリス氏、理由を説明してほしい」

「その時間が惜しいと言っているの!!」

 主任とメイリスのやり取りが、無情にもわずかな猶予を奪った。

 

『こちら水無瀬、現場に到着しましたけど。なんですか、これは?』

 そして、惨劇が幕を開けようとしていた。

 

 

 

 §§§

 

 

「何だか、夢みたいだ……」

「……俺、転生できてよかった」

 リクルート隊の隊員たちは、美人のエルフ達に囲まれて感涙を流していた。

 彼らは彼女らと一緒に、歓談の最中だった。

 どういうわけだか、彼女たちは彼らを笑顔で歓迎したのだ。

 

「どうしても、このまま帰ってはくれないのか?」

「まあ、隊長命令なんすよ。適当に戦うまで私らは帰れないんで」

 そんな中で、彼女らの族長マンティスと彼らのリーダーの話し合いが行われていた。

 

「逆に言えば、隊長の顔を立てる程度に戦えば帰ってくれるのか?」

「まあ、理屈ではそうなるっすね。

 隊長を裏切るのは、流石の私らでも良心が痛むっていうか」

「やっぱり隊長さんは、良いヒトなのか?」

「まあ、私達を理解してくれようと努力してくれるっすからね。

 私達と同じ食べ物を食べてくれるなんて、なかなか無いっすから」

 それをどういう意味か、と尋ねることは出来なかった。

 

 自衛隊の装甲車が、現場に到着したのだ。

 自衛隊員と共に水無瀬と成実が装甲車から降りると、目の前の光景に目を疑った。

 

「こちら水無瀬、現場に到着しましたけど。なんですか、これは?」

 水無瀬が通信装置の立体映像に報告する。

 

『遅かったか……』

 メイリスの立体映像が、眉を顰めてそう言った。

 

「え?」

「危ないッ」

 成実が、水無瀬の体を引っ張った。

 

 ひゅん、と彼女の顔のあった場所を矢が飛来する。

 

「族長、女ですよ」

 立ち上がり、弓を引いたエルフが自分たちの族長に言った。

 

「ん? さっさと殺すっすよ」

「んなッ、なんで」

 いきなりの対応に、リーダーは理解できず呆然としてしまった。

 族長の言葉に、リクルート隊の隊員たちを対応していたエルフ達が立ち上がる。

 その手には、弓矢が握られていた。

 

「待って、待ってくれ。彼女らは俺たちの仲間だ!!」

「そうなんすか?」

 一人、動かなかったマンティスの肩を掴んで、リーダーが訴える。

 しかし、彼女は人懐っこい笑みを浮かべてこう言った。

 

「心配しなくても、あんたらは連れていくっす」

「……え?」

「女は邪魔だ、殺せ」

 彼女の言葉に、矢を番えたエルフ達が弓を引く。

 

 三十の矢の雨が、水無瀬達に目掛けて放たれた。

 

「くそッ」

 彼女たちは口上も述べる間もなく、魔法衣装を纏って横に避けた。

 背後の装甲車が、矢の雨を受けてハチの巣になり、爆発炎上した。

 

「掛かれッ」

 エルフの一人が号令し、腰から鉈を手に取りエルフ達が突撃してきた。

 その見目麗しい美貌に浮かぶのは、猟奇的な笑みだった。

 

「う、うわああぁあ!!」

 その恐怖から、水無瀬達に付いてきた自衛隊員が発砲した。

 

「あははは!!」

 しかし、標準が彼女らには定まらない。銃弾は四方八方に飛んでいく。

 そして彼女らは凄まじい俊敏さで、簡単に距離が縮まった。

 

「うりゃあ!!」

 鉈の一撃が、自衛官の肩口に落とされる。

 彼は悲鳴を上げながら、武器と片腕を落とした。

 

「く、ここは!!」

 こんな土壇場で、成実こと魔法少女ジェリーは冷静だった。

 ペットボトルの中身を揮発性の粘液に変化させ、それをバラまいた。

 一瞬にして空気中に広がる気体に、流石のエルフ達も突撃を躊躇った。

 

「ここは撤退、撤退よ!!」

 水無瀬に言われるまでも無く、自衛官たちは既に退却を始めていた。

 彼女も狙撃を恐れ、火柱で壁を作って上野の路地へと消えていく。

 

 

「追いますか?」

「いや、それより……生き残りは?」

 族長たるマンティスは追撃を選ばなかった。

 各々のコンディションが最悪に近く、それ以前に追撃の意義を感じなかったのだ。

 

「こいつだけです」

 彼女の前に連れて来られたのは、片腕を切り落とされた自衛官だった。

 

「は、早く処置しないと!!」

「無駄っすね、血を失いすぎてる」

 だから、とマンティスは自身の鉈を振り上げた。

 血を失い意識が朦朧としている自衛官は、その光景をぼんやりと見るしかなかった。

 

 

 ばちばち、と火の粉の爆ぜる音が、上野と言う都心に染み渡る。

 ここに来てリクルート隊の面々は彼女たちがどういう生き物なのか知ることになった。

 

「こいつら、エルフじゃねぇ」

 そう呟いたのは、誰だったか。

 

「こんなの解釈違いなんですが……」

 胃の中のモノを全部吐き出しながら、隊員の一人がそう言った。

 

 

「今日の戦果を挙げた勇者に乾杯!! 

 そして我らに恵みを下さった精霊に感謝を!!」

 族長のマンティスが、焚火の前でそう言った。

 それに呼応するように、エルフ達が各々の飲み物を掲げた。

 

「そろそろ、焼けた頃だろ」

 焚火で肉が焼かれている。

 その肉の出どころは、言うまでもない。

 

「あいつら、ヒトを喰ってる……」

 彼らは、ようやく気付いたのだ。

 彼女ら一族が、エルフの見た目をした怪物であることに。

 

 

 

 §§§

 

 

「あいつらは人呼んで、“蟷螂”の一族。

 遺伝子のエラーによって男児が産めないエルフの種族だ」

 退却した水無瀬達の無事を確認して一息ついたオペレーションルームの面々に、クリスティーンが語り出す。

 

「だから彼女らは子孫を残す為に、外部から男を略奪する。そして女を殺すんだ。

 そしてどういう弊害なのか、人肉を好んで食すようになった」

「まるで未開の地の蛮族そのものね」

 モニターのズーム倍率を低くして、遠目から監視する羽目になったこの場の面々は顔を顰めていた。

 

「我らが至高の女神メアリース様は連中に治療を申し出た。

 我らが神の威光ならば、その症状を治すことは容易かった」

「だが、それをせずにいるのか」

「ああ。これが自分たちの文化だ、と言ってな」

 勿論それは彼女らが自分たちの文化に誇りを持っているから、などではなかった。

 

「メアリース様は、人間の女神だが思いのほか懐が深い。

 ゴブリンだろうがオークだろうが、自分の勢力圏に帰属するなら“人類”と認めて下さる。

 私達人間と同じように、知恵と文明を与えて下さる」

 それがあの傲慢な女神の、数少ない美点の一つだった。

 

「だが、あのクソエルフどもはそうじゃない。

 あれはもはや、血の味を覚えたケダモノだよ」

 その結果が、地獄にさえ行けない懲罰部隊逝きだった。

 

「リーパー隊は、そうした生来の欠陥を抱えて、犯罪者になった連中の集まりだ。

 憐れだろう? 後天的では無く、先天的に人殺しなんだあいつらは」

 だからそんな彼らを、慈愛深い邪悪の女神を以てしても裁くことはできなかった。

 

「早く、あいつらを救出してやるんだな。

 あのクソエルフどもは、略奪民族だ。用済みになった男は、……分かるだろう?」

「仕方がない、親衛隊と有栖君を呼べ」

 高度な連携と結束力を持つ“蟷螂”の一族に対抗するには、同じように自在な用兵を行える集団が必要だった。

 

「こちらの守りは、先行させた水無瀬達を呼び寄せましょう」

「それが良いだろう」

 マンティス達の対処は個々の武勇では難しい。

 千利の提言を、主任は受け入れた。

 

「……もはや形振り構っていられない。

 信用してもいいのんだな、クリスティーン殿」

「あんたらがやられたら、オレがあいつらに八つ裂きにされるんだ。

 それにまさか共謀してるとでも? そこまで回りくどい真似を、我が主上はなさらない」

 彼の警戒心を、クリスティーンは鼻で笑った。

 

「メイリス氏は実戦経験を見込んで部隊運用の補佐を頼みたい」

「……まあ、良いでしょう。その柔軟さを見込んで、先の失態は目を瞑るわ」

 主任の行動力を及第点と、メイリスは判断したようだった。

 

「さて、頼ってばかりではいけないと分かっているが、早く戻ってきてくれ、夏芽君……」

 そして、彼は今この場に居ない夏芽の期間を切に願うのだった。

 

 

 

「こんなことは間違ってる……君たちはそんなことをしなくても生きられるはずだろう?」

 一か所にまとめられ、縄で縛られた“戦利品”たちのリーダーが言った。

 

「仮にそうだとしても、これまでそうしてきたことは消えないんすよ」

「ッ……」

 衣服を血で滴る肉を齧りながら汚し、族長のマンティスは語る。

 

「エルフ族は寿命が長いから、繁殖期間の間隔が長いんすよ。

 男児が産めない私たちは、差別の対象だった」

 だが彼女に、彼女たちに劣等感なんて見当たらなかった。

 

「特異な生態な私たちは、当然周囲から疎まれた。

 だけど、その連中を暴力で皆殺しにした瞬間、ぴたりとピースがハマったんすよ」

 嗤っていた。愉しんでいた。

 猟奇的で、嗜虐に満ちた、純粋なる邪悪の笑みだった。

 

 

懲罰部隊リーパー隊 “蟷螂”族長

通称“人喰い”マンティス

*1

 

 

「こうして生まれてきて、良かったって!!」

 純真無垢に笑うマンティスは、戦利品たちを見下ろして口内に溢れた涎を嚥下した。

 

 

 

 

 

 

 

*1
“人喰い”マンティス。最終討伐賞金:金貨五万枚、日本円換算で約一億三千万円。最終判決:魔物扱いの為無し。駆除対象。




と言うわけで、蛮族系エルフ軍団の首長マンティスとその一族の登場です。
リーパー隊の面々はみんなこんな感じです。
皆の大好きなエルフだよ!! 半分くらいアマゾネスみたいなものですが。

リクルート隊の皆はトラウマと共に成長してくれるでしょう。
次回は、いよいよ本格的に彼女らと衝突です。

では、また次回!!

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