バッドガールズ・ダークサイド   作:やーなん

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最初の一人

 

 

「大分、被害を抑えようとしたのだけど、酷い有様ね」

 上空から地上へと帰還すべく魔法で降下する夏芽は、恐らくこの世界の東京都内を見下ろすこととなった。

 

 彼女と魔王との戦いの余波で、地上は地震が起こったかのような有様だった。

 日本じゃなかったら、倒壊した建物も多かったであろう。

 

 

「それにしても、いったいどういうことなのかしら」

 文明を司り、それを与えるはずの女神がこうして文明の発展を抑制させている。

 その陰に隠れて、もう一柱の女神が怪しい動向をしている。

 

「ぷぷぷ」

「くすくすくす……」

「何笑ってるのよ、レプ、コティ」

「だって、こんなの笑うしかないじゃない」

 手乗りサイズの性悪妖精どもは、可笑しそうに笑っていた。

 

「教えてあげる、夏芽。

 神様が自分の権能以外の事をする時は、大抵がろくでもないことなのよ。女神なら尚更ね」

「そうでしょうねぇ」

「しかもあの文明の女神は、神域に住まう神々の中でも特にイカレたトラブルメーカー!! 

 ちょー楽しくなってきたじゃない!!」

「最低最悪の予感しかしないわ」

 ウキウキしている二人を見て、夏芽は気が重くなるのだった。

 

 

 

 §§§

 

 

 夏芽が対策局の屋上に降りようとすると、既に迎えは来ていた。

 

「フェアリーサマーさん、あなたは……」

 呆然としている局員たちに守られている千利だけが口を開こうとして、何を言えば良いのか分からず唇を閉じた。

 

「あなた達の職務は良く知らないけど、こういう時に仕事場に居なくて良いの?」

「先ほどの戦闘の余波で、一時的に都内の電子機器の類がマヒしています。

 既に指示は出していますが、復旧にはもう少し時間が掛かるでしょう」

「そう、悪かったわね」

 千利は小さく、いえ、としか返せなかった。

 

「どうやら、状況が変わり始めたみたいね」

 夏芽は振り返って、上空を見上げる。

 空には、無数の天使が浮かんでいた。

 

『この国の政府に通達する。

 明日、先ほど魔王様が認めた調停者を交え、政府の首脳陣と会談を行うとかの御方が仰った。

 報道機関を呼び、インターネット放送の準備をして待て。場所は──』

 神の御使いの、一方的な通告。

 この国の人間に拒否権は無い。

 

「誰か、早く局長に連絡を取って!! 

 官邸にも人をやってください!!」

「ですが、電子機器がマヒしている今、車はほぼ全滅で……」

「同じ都内でしょう、自転車でも何でも使いなさい!!」

 千利が自分よりも年上の局員に指示を飛ばす。

 それを見て、本当にこの子は責任者なんだな、と思う夏芽だった。

 

「申し訳ありません、フェアリーサマーさん。

 どうやら、今日はお構いできる余裕がなくなってしまいました。

 そしてどうやら、明日もお時間を頂く必要が出てきまして」

「私が仕出かしたことよ。素直に従うわ」

「ありがとうございます」

「こちらこそ、仕事を増やして悪かったわ」

「いいえ」

 しかし、千利は首を振った。

 

「体が、震えました」

 見れば、千利は車椅子のひじ掛けの上で手を握って身震いしていた。

 

「肉眼で見れなかったことが、悔しいほどに」

 ある種の羨望、憧憬。

 そこに負の感情は無かった。

 

「あなたがこの世界に来てくれて、本当に良かった」

「それが決まるのは明日、そうでしょう?」

 とは言え、ここまで魔王の行動が早いことに、言いようのない嫌な予感を覚える夏芽だった。

 

 

 ……

 …………

 …………

 

 

 その日、ある意味で歴史的な会談が始まった。

 

 指定された政府の某重要施設に、初めて魔王が地に下りた。

 事務員である全く同じ顔の女性を引き連れ、魔王は記者たちのフラッシュを受け会場へと足を運んだ。

 

 そこには既に、夏芽と首脳陣、そして報道陣が待ち受けていた。

 ネットを通じてその内容は全国へ、世界へ放送されている。

 

 多くの国民が、テレビ局の生放送でこれから行われる会談を固唾を飲んで見守っていた。

 そして多くのフラッシュが焚かれ、魔王が首脳陣の対面に座った。

 

「まず、調停者として呼ばれた私が一言述べさせてもらいます」

 テーブルに『調停人 魔法少女フェアリーサマー』と書かれた名札があるこの状況が他者から見れば滑稽だが、ここに居る全員大真面目だった。

 

「私は部外者、来訪者に過ぎません。完全な中立であり、どちらにも肩入れはしません。

 多分ネットでは私に対する意見も有るでしょうが、それを口にする前に聞いてください」

 彼女は慣れた態度で、カメラに向かってこう言った。

 

「私はドルイドの資格を持つ魔法使いです。古代ケルトにおいてドルイドは王権に勝る影響力があり、税の免除などがなされていました。

 だから私は消費税以外の税金を払ったことが有りませんよ」

 なんて、冗談めいた言葉も言ったが、誰ひとりこの場に居る人間に笑みは浮かばなかった。

 

「故に私は調停者として公平な立場を保持する為に、私に対する批判や誹謗中傷をした人間は無差別で自動的に呪いが掛かるようになっています。

 それを理解した上で、私に対するどのような発言も自己責任でお願いします」

 その場の誰もがその発言を嘘だとは思わなかったが、この放送を実況していた実況者の幾人かが面白半分で実行して意識不明に陥ったのは余談である。

 

「じゃあ、そろそろ話し合いを始めようか」

 道化師装束の魔王が口を開いた。

 

「まずさあ、昨日のボクちゃんの本気モード。

 実はあれって本来勝手に使っちゃダメなんだよねー♪ 

 だからさ、あのあとすぐに我が神たる我が母に叱られちゃった。てへぺろ」

 魔王がウインクしながら舌を出してかわい子ぶる。

 強面の極道がお茶目な表情をしたような、致命的な組み合わせのエラーがあった。

 

「だからさ、お互いの全力にリミッターを掛けようってお話。

 君は中立と言うけど、どうせまた戦いが起こるからね。その時に黙っている君じゃないでしょ?」

「……」

 夏芽は否定はしなかった。

 

「ボクちゃんもさー、滅多に機会は無いとはいえ、戦うこともあるからさ。

 そういう落としどころ~。やっぱりボクちんが戦わないと部下に示しがつかないしね」

「そういう話なら、こういう公式の場は必要無いのでは?」

「そうそう、こっちも本題だったね」

 魔王の重圧に飲まれ、百戦錬磨の筈の政治家たちが口を開けずにいたが、彼はその首脳陣に視線を向けた。

 

「ゲームのルールを変更するよ。

 これからボクちゃんの配下と、君たちとこの町でひと月ごとの勝敗を競おう!! 

 勝利数がもし、ボクちんたちより下回ったら──」

 邪悪の女神の化身たる彼は、道化の相貌を凶悪に歪めた。

 

 

「──その時は、地上の住人1000人殺す」

 

 

 これは対談では無かった。

 一方的な、死の宣告だった。

 

「ふ、ふざけるな!!」

 今の総理大臣に当たる男が、声を荒げた。

 

「そんな話、受け入れられるわけがないだろう!!」

「ああうんうん分かるよ分かるよ、間違っても頷いちゃったら国民から突き上げられるもんね~」

 激怒する総理に、魔王は投げやりに理解を示した風を見せる。

 そして邪悪の化身はニィっと笑った。

 

「じゃあさ、ボクちゃんらが殺す人間、君たちが決めていいよ」

「は、はぁ!?」

「君らの政権を批判する人間、ほら政敵とかマスコミとか面倒な団体とか居るでしょ? 

 最初のゲームをわざと負ければいい。あとでリストを作成してもらうから、それをこっちの事務所に提出してよ。

 ……ちゃんと殺しておいてあげるから」

 魔王の言葉に、歴戦の政治家たちは二の句が継げぬ様子だった。

 

 そう、魔王は人類を滅ぼすつもりは無い。

 逆に言えば、滅ぼさない程度には痛めつけるつもりだった。

 

「冗談ではない!! お前たちの神が何だか知らないが、そんな馬鹿らしい理由でお前たちが我々を弄ぶなど言語道断だ!!」

 そんな悪夢のような話に、別の政治家が半狂乱になって叫んだ。

 

「おい、お前」

 その瞬間。

 

「馬鹿らしい、だと? 貴様、我が神たる母を侮辱したな」

 魔王が、その言葉を言った政治家の前に立っていた。

 

「少しは国の代表だという自覚を持つと良い。

 これは公式の対談なんだからね。次は、うっかり国ごと滅ぼしちゃうよ?」

 そう言い終える頃には、彼の目の前に居た政治家は失神していた。

 

「さて、と。別に嫌ならいいよ。

 この話を受け入れるまで、首を挿げ替えるだけだからね♪」

 魔王は、いつの間にか対面に座っていた政治家たちの頭部を切り離してお手玉をしていた。

 首を取られた首脳陣は、おぞましいことに自分の首が無いことに今更気づいて慌て始めた。

 

「あれ、あれれ、首脳陣なのに脳みそがないぞ!? 

 結論を先延ばしにするしか能がないなら、必要ないかな?」

 ぎゃははは、と道化の魔王は大笑いする。

 その恐ろしい光景に、報道陣はカメラのフラッシュを焚くボタンを押せやしなかった。

 

「魔王、公式の場と言ったのは貴方だ」

 ここでようやく、夏芽が苦言を呈した。

 

「ははぁ、申し訳ございません。調停者」

 彼は恭しく一礼し、首脳陣たちの頭を元の場所に置いた。

 

「お、お、お願いします、助けてください」

 もはや恥も外聞も無かった。

 この人智を超えた魔王の恐怖に、政治家の一人が震えながら涙ながらに夏芽に助けを求めた。

 

「……魔王、負けた時の条件だけを突きつけるのはアンフェアだ」

 しかし、夏芽は取り合わなかった。

 魔王の狼藉は、首脳陣側の暴言と相殺と判断したのである。

 

「そうだね~♪ もちろん考えておいたよ!! 

 勝利数がこちらを上回ったら、ご褒美になにかプレゼントしよう!! 

 技術が良い? 物資が良いかい? 何がしかの譲歩でも良いよ♪ 

 君らにとって莫大な価値のある景品を用意しておくよ」

 それが、彼の用意した対談の内容全てだった。

 

「さてこれ以上、対談を続けるかい? 

 話が終わったのなら、合意の握手をしよう」

 魔王は腰を抜かしている総理大臣を見下ろし、ずっと笑みを浮かべていた。

 

 

 

 §§§

 

 

「あれが営業成績四位ね、なるほどやり手だわ」

 会談という名の宣告が終わりその翌日、夏芽は対策局のオペレーションルームに居た。

 先ほどからオペレーターたちは電話の対応にひっきりなしになり、国民の不安のはけ口にされている。

 

「これから私たちは、毎月ごとに1000人も殺されるのですね……」

 千利や局員たちの空気は重い。

 

「さて、鍛えてあげると言った手前ですが、求められるのは即戦力になったわね」

 これは魔王からの、夏芽に対するゲームだった。

 お互いに手札を出し合い、強い札を出した方が一勝。そういうゲームだ。

 

「かといって、継続的に後進を育成できる環境も必要かな」

「我々には何もかもがありません。

 魔王に対抗する術も、その勇気も」

「ふーむ」

 完全に魔王の恐ろしさに心折れ、失意の千利たちを見て夏芽は口を開く。

 

「多少ズルかもしれないけど、即戦力を用意する裏ワザが有るわよ」

「そんな魔法があるんですか?」

 その物言いに、夏芽は思わず笑ってしまった。

 魔法使いに、魔法があるのかと言うのだから。

 

「私は常に中立よ。誰にも手を貸さないわ。

 だけど、例外が一つある」

「例外、ですか?」

「そうそれは────私の弟子になること。それが無条件で私が手を貸す条件」

 千利だけでなく、その言葉に周囲は絶句した。

 

「千利さん、あなた以外にも魔力を失ったり、失う直前の人間が居るのよね? 

 その中から誰か一人、私の弟子として預けなさい。

 私の世界の技術ならば、魔力の大小なんてどうにでもできるし、後進育成のノウハウも教えられる」

 夏芽の居た地球において、後継者の育成は何よりも優先されることだった。

 今の彼女には不要なことだと思っていたのだが。

 

「それは──」

 ギュッと、両手を握って千利が言った。

 

「それは私でも大丈夫でしょうか」

 意を決して、彼女は意思を表明した。

 

「ちょっと、千利さん!?」

 流石に周囲の局員も止めようとしたが。

 

「私の世界に一緒に来て、修行してこっちのこの時間軸に戻ればすぐにでも魔王の配下と戦える。

 けれど、私の課す修行は厳しいわよ。あなたも自分と向き合う必要があると思うけど、覚悟は良いの?」

「はいッ、私は、あいつらが赦せない!!」

 それは怒りと、憎しみに満ちた言葉だった。

 

「敵を前にして恐怖に駆られ、相手に命乞いをするようなら、敵が殺すまでも無く私が貴女を殺すわ。それでも良いの?」

「大丈夫です。私はもう、何も失うモノなんて無い」

「そう」

 夏芽は目を閉じた。もうこれ以上言葉はいらなかった。

 

「なら、急ぐわよ」

「ッ、はい!!」

 夏芽は、千利の手を取った。

 

 

 

 §§§

 

 

『都民の皆さん、怪獣警報が発令されました。

 都民の皆様におかれましては、スマートフォンなどのアプリ等によって最寄りのシェルターを把握し焦らずに避難してください』

 

 魔王の宣告から数日。

 その日も唐突に、天から魔王の配下が降ってくる。

 

 怪獣の巨体が道路を割り、腕がビルを擦り抉って行く。

 逃げ遅れた人々が、悲鳴を上げて必死に走っていく。

 

「きゃあ!?」

 その中の一人、小さな女の子が怪獣の歩行の衝撃に足を取られ、転んでしまった。

 そんな彼女に怪獣の足の裏が迫る。

 

「た、助け──」

 その直後だった。

 

 眩い閃光が迸る。光の矢が、怪獣の胸元を穿つ。

 その爆音に、人々は思わず足を止める。

 

「えッ?」

 今にも踏み潰されそうになっていた少女は、いつの間にか誰かに抱き抱えられていた。

 

「もう大丈夫よ」

「あ、ありがとう、お姉さん!!」

「気にしないで。さあ、早く逃げて」

 少女はお礼を言うと、自分を助けた人物から離れて行った。

 

 やがて怪獣の視線が自身に攻撃してきた相手に移る。

 その視線の先に居るのは、千利だった。

 

 車椅子に座っていた彼女の弱々しさは今は無く、立って歩くと思った以上に背が高い。

 ライダースーツのような魔法の衣装を身に纏い、その手には木製の槍が一本。

 

 アイマスクを外した眼には、爛々と輝く魔力を湛えていた。

 

 

「毒の瞳が、憎き仇を差し穿つ!! 

 魔法少女、魔眼のバロル。ここに参上!!」

 

 

「大丈夫かしら……」

 堂々と口上を名乗り上げる急造の弟子を、夏芽は遠目から見守っていた。

 

 

 

 

 

 

 




当初の予定とは違いますが、ようやく一人目の魔法少女が登場できました。
次回からようやくギャグが書ける……タグ詐欺じゃなくなる……。
前置きに四話使うのは今回の反省点の一つとして受け止めましょう。

それでは、次回、新たな魔法少女の活躍をお楽しみください!!
まあ、千利さんは後方支援が得意なキャラなので戦いでは出番はあんまりないけど。

魔法少女フェアリーサマーはどれくらい活躍してほしい?

  • たくさん!!
  • ほどほどに!!
  • 少なくていい!!
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