バッドガールズ・ダークサイド   作:やーなん

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悪逆の福音

 

 

 千利こと、魔法少女“魔眼”のバロルはその後も勝利を続けた。

 そのことは報道され、テレビやネットでは彼女の活躍を称える言葉が多く見受けられる。

 だがそれは、魔王と言う恐怖から逃れたい一心から希望に縋ろうとしているに過ぎなかった。

 

「私は、専門の対応チームの編成を提案します」

 夏芽は対策局の会議室で、そのような発言をした。

 

「現状の対策局の体制だけでは足りないと?」

「皆さんも気づいているでしょう? 

 魔王の手下はわざと魔法対策に穴を開けていることに」

 この対策局に派遣されている佐官の自衛官に、夏芽は答えた。

 

「そうだな、あれだけの技術力を持つ存在が、いつまでも魔法に対する対抗策が不完全なのは疑問であった」

 彼も無能ではない。むしろ有能だ。

 だからこそ、魔王に遊ばれているのが分かってしまう。

 

「魔法対策なんて、実はそこまで難しくないんです。

 彼らは推奨しているんですよ、十代の少女を戦わせることを。それを前提にバランス調整している」

「連中の言うところの、試練、か」

 勿論ながら、十代の少女に戦わせるなんて倫理的にも人道的にも有ってはならないことだ。

 当初、この対策局でさえ限定的な運用しかしないはずだった。

 それは勿論世間の批判を恐れての事だが、何よりも大人が何もせずに子供を戦わせるなんてありえないからだ。

 

 その事実に、この場に集まった対策局を運営している面々も渋面で唸るしかない。

 

「この対策局に所属する局員で、魔法所持者は何人ですか?」

「私含めて10人は居ますが、そのうち半分は“卒業”しオペレーターとして働いています。

 先日師匠に会った3人ともう一人が入局して間もなく、魔法持ちの特殊局員は慢性的に人手不足で練度不足ですね」

 実働部隊の責任者である千利が厳しい現実を伝える。

 むしろ、彼女含めて五人も戦う意思がある少女が居ることが十分奇跡なのかもしれなかった。

 

「……思ったのですけど」

 夏芽はふと、疑問を口にした。

 

「魔法抑制装置とかありましたよね、あれは誰が作ったんです?」

「あれは海外製ですよ、日本は魔法の工業化に遅れていますから」

 と、技術士官の自衛官が言った。

 

「ああでも……」

 しかし、彼は途中で露骨に顔を顰めた。

 

「どうかしましたか?」

「いえ、気にしないでください」

 彼はこれ以上話をしたくないのか、話題を打ち切った。

 

「実はですが、私の友人が優れた魔法技師なんです。

 私の武装のほとんどが、彼女が手掛けているんですが、その彼女から基本的な魔法工学の基礎についての教本を貰ってきました」

「見せて貰っても?」

「どうぞ」

 技術士官は夏芽が持ってきた教本を流し見するが。

 

「これだけでこの日本の技術を十年進めるだけの価値はありますが、魔法の使用を前提としている」

 つまり、男性である彼には不可能だった。

 

「今からこれを元に技師を育てるとして、習熟に何年掛かることか」

 とてもではないが、夏芽の想定している対応チームの編成には間に合わない。

 

「実のところ、私に魔法技師の心当たりがあるんです」

 奇妙な物言いだった。

 この世界の住人ではない夏芽が、人材に心当たりがあると言う。

 

「え、どういうことです?」

「それを話すには、私の世界の魔法の理論について話さないといけないですが。

 まあざっくり言うと、どんな世界、どのような並行世界にも、自分と魂を同じくする同一人物が必ず存在する、という理論です。

 これを私たちは“同位体”の理論と言っているのですが」

 ここまで前置きして、彼女はこう述べた。

 

「これは、神々にも例外は無いのです。

 文明の女神とは、人間出身の女神。つまり、彼女の同位体が必ずこの世界にも存在するはずです。

 そしてその彼女の同位体が、魔法技師の才能が無いなんてことは絶対にあり得ない」

 文明の女神は自分の同位体を人造生命体として大量生産して使役しているが、それとはまったく別のこの世界の出身の同位体が必ずいる、と彼女は確信していた。

 

「才能があるかどうかは、希望的観測なのでは?」

「私たちは、才能とは魂に依存すると考えられています。

 神の領域にまでその才能を極限まで高めた実績のある魂の持ち主ですよ? 

 それを確保するのは恐らく、この戦いに勝つには必須条件のはずです」

 魔法と言う存在を確認したばかりのこの世界の住人には、夏芽の話は少々スピリチュアルが過ぎた。

 

「まったく普通の一般人だった私がここまで強くなれたのも、優れた魔法技師の力が大きいんです。

 魔法ってそのまま使うと、効率が非常に悪いんですよ」

 とはいえ夏芽の話だから聞くに値するというだけで、その同位体がどこに居るのか全くの見当が付かない状態だった。

 

「……その同位体を捜索する上で、何か手掛かりは無いだろうか?」

 腕を組んで、一応検討するという姿勢の自衛官が夏芽に言った。

 

「彼女が魔法を使えないなんてことは無いでしょうし、まず十代から探すべきでしょうか」

「あと、とんでもなく性格が悪い!!」

「そうそう、あの女神の同位体が性格が悪くないはずが無い!!」

 夏芽の両肩の妖精二人が可笑しそうに言った。

 

「……あと、とても性格が悪いという条件も付けてください」

 両肩の妖精たちに迷惑そうな視線を向けていた夏芽が、皆に視線を戻すと、なぜか全員が顔を顰めていた。

 

「どうかしましたか?」

「いや、あのですね……」

 技術士官の彼が、言いづらそうに言った。

 

「居るんですよ、とんでもなく性格が悪いけど、途轍もない天才の魔法所持者が日本に」

「え、そんな出来すぎなことが有るんですか!?」

 これは僥倖だと思った夏芽だが、他の全員は何とも言えない表情だった。

 

「はい、ただ彼女の扱いはデリケートでして」

 彼は語った。

 この世界における、女神の同位体の所業を。

 

 

 …………

 …………

 ………………

 

 

「主文、メイリス・エイリーンを死刑に処する」

 そこは裁判所、それも軍事法廷だった。

 

 裁判官に死刑を宣告された被告は、眠たそうに欠伸をしていた。

 死刑に処されるだけの所業をしたこの女は、まったく以って反省の色など無かった。

 

「被告、何か言いたいことはありますか?」

 態度が悪い被告の様子に裁判長は顔を顰めながら、彼女に言った。

 

「敢えて言わせてもらうなら」

 眠たそうにしていた女は、一般的には美人なのに怖気の走るような冷たさで唇を釣り上げた。

 

「私を必要としない世界なんて価値なんて無いわ」

 その性格、最低最悪にして傲慢不遜。

 

「この国の魔法関連の道具を開発したのは大体全部私よ。

 私はこの世界に魔法を使った技術の骨子を齎した。

 この私の頭脳を無くして、魔王には勝てないでしょうね」

 自他共に認める、天才の中の天才。

 そして彼女以外の誰もが口を揃えて、その性格に難有りと断言する。

 

「私の死を嘆きなさい、悲しみなさい。

 私の処刑は可能な限り大勢の眼に触れるようにして、全人類は私が死ぬことを惜しみながら、私の齎した技術を称賛しなさい」

 どういう思考回路をしていたら、軍事法廷でこんな言葉を吐けると言うのか。

 

「そして、私が居ないことに悲嘆しながら、魔王に滅ぼされろ」

 連続殺人鬼のサイコパスでも、ここまで自惚れないであろう傲慢の権化。

 それがその女、メイリス・エイリーンだった。

 

「憲兵、彼女を連れていけ」

 裁判官がその聞くに堪えない言葉を無視して警備にそう告げた時だった。

 

「くく、くくく……」

 そんな裁判官達を、出席している軍人達を、彼女は嘲笑っていた。

 

「少し勘違いしていないかしら? 

 ──お前ら程度の凡俗が、私を殺せるとでも」

 誰もが、それを彼女の苦し紛れだと思った。

 彼女は既に24才、その魔力はとっくに衰え、彼女自身が開発した魔法抑制装置を嵌められている。

 彼女の魔法は有用だが、仮にそれを外してもこの場を切り抜けられるものでは無い。

 ……誰もがそう思った。

 

 だが、その直後だった。

 裁判所の天上が、消えた。

 轟音が遅れて聞こえるほど、破壊だった。

 

「待っていたわ、リーン!!」

 メイリスが顔を上げると、そこには巨大な竜に乗った10才程度の少女が居た。

 

 彼女が行った人体実験の被害者にして、その最高傑作。

 自らの名前の一部を与えるほどの、メイリスのお気に入り。

 

「メイリスをイジメるやつは、死ね」

 無垢な少女が、下僕に虐殺を命じた。

 その場に居た警備や、銃器などの抵抗も空しく、その場に居た人間はメイリスを除いて一人残らず巨竜に潰され、引き裂かれた。

 

 そのまま彼女は軍事法廷があった基地を壊滅させ、そのまま竜に乗って日本に亡命した。

 

「メイリス、次は何で遊ぶの?」

「魔王の本拠地が見たいわね。

 一緒に観光でもしましょう」

「うん、行く!!」

 まるで年の離れた姉妹のように、二人は笑い合った。

 

 当然、亡命先の日本ではこの二人を持て余しているのである。

 

 

 

 …………

 …………

 ………………

 

 

「さ、流石イヴさんの同位体……」

 イカレている、なんてレベルでは無かった。

 死刑判決された虐殺者、それがこの世界における文明の女神の同位体なのだった。

 

「政府には、再三引き渡し要求がなされたそうですが、当人は技術提供をしてもいいと言っているんですよ」

「とは言っても、彼女は人体実験で何人も殺した相手でして」

 事情を知っている自衛官たちが顔を引きつらせてその顛末を語った。

 

「とりあえず、返答を先延ばしにしつつ軟禁状態だそうで」

「そりゃあ、扱いにくいでしょうね……」

 夏芽も、道理で全員が渋い顔をするわけだ、と思った。

 

「ですが、そのリスクを抜きにしても彼女の協力は必要でしょう」

「君、正気かい!?」

 ずっと黙っていた対策局の局長が悲鳴じみた声を上げた。

 元高官であり、政府の橋渡しをするのは彼なのだから、当然だろう。

 

「こういうことは言いたくないのですけど」

 夏芽が本当に言い難そう口を開く。

 

「──多分、そのメイリスって人と、魔王をこの世界に遣わせた文明の女神は、きっと同じ思考回路をしていますよ」

 今までの夏芽の発言で、誰もが一番聞きたくない言葉だった。

 彼女以外の全員が頭を抱えた。

 ちなみに妖精二人は爆笑している。

 

「あの女が神になると、こんな状況になるのかッ!!」

 魂から血反吐を吐くような、佐官の言葉がこれだった。

 この場に居る全員の心境を彼が代弁していた。

 

「……彼女の技術力は置いておくとして、敵の首魁の思考をトレースしてプロファイリングするのに彼女は必要である、と」

「ああ、その発想は無かったですね」

 比較的冷静な千利の言葉に、夏芽は感心した。

 そして夏芽は、今の話でひとつ気になることが有った。

 

「ちなみに、彼女が一緒に亡命した少女は?」

「ああ、あの女と一緒に居るよ。下手に引き離すと危険らしいので」

「いえこれは手間が省けたかもしれません」

 夏芽は勝機が見えた。

 文明の女神が人間出身なら、邪悪の女神もまた人間出身の女神である。

 つまりその同位体を戦力として後から探そうと思っていたのである。

 

 神と同じ才能と持つ二人がセットになって、この日本に居る。

 これを上手く使わない手は無い。

 

「おそらく私なら、彼女を説得できると思います。

 どうか、政府に掛け合って貰えないでしょうか?」

「ぜ、全力を尽くそう」

 局長は気が重そうにしながらも、頷いた。

 

「局長、私も行きます」

「ああ、頼む。心強いよ」

 定年を超えている局長が、三分の一も生きていない小娘を頼りにするという光景が彼の哀愁を物語っていた。

 

 

 

 §§§

 

 

「うう、ぐす、うう……」

「泣かないでおくれよ、千利君」

 さて、結論から言うとダメだった。

 それは決して、メイリスが政治的にデリケートだからという理由では無かった。

 

「だって、だって、お上があんなに腰抜けだなんて!!」

「僕も元政治家だからね、余り責められないけど……」

 官邸近くの自販機前のベンチで涙を流す千利を、局長は孫にするよう慰めることしかできなかった。

 

 日本政府は、ほぼ魔王に屈した。

 

「あんな我々の主権を無視した、ミサイルも国際法も役に立たない相手にどうすればいいというのだ」

 それが、二人に対応した官僚の言葉だった。

 

 次の魔王のゲームは、負ければ1000人を殺すと魔王は言った。

 つまり、どう言い繕っても国民の命をベッドしたと政府は言われかねない。

 政府としてそれだけは出来なかった。

 

 だから、政府は魔王と交渉を図ろうとしていた。

 なんとか、彼の慈悲に縋ろう、と。

 

 だが、千利の魔法は見抜いた。

 彼女の魔法は汎用性が高く、ある程度の読心が出来る。

 

『保身』『保身』『保身』

『保身』『保身』『保身』

『保身』『保身』『保身』

『保身』『保身』『保身』

『保身』『保身』『保身』

 

 どいつもこいつも、こればっかりであった!! 

 

 

「彼らはあの時、心が折れたんだろう」

 局長は、先日の会談という名の何かを思い起こす。

 自分も一年遅かったら、あの場に居たかもしれないという恐怖を。

 

「それが、魔王の失望を買うと分かっていてもですか!?」

 千利は顔を上げ、怒りを滲ませ言った。

 

「魔王が、戦わない者と交渉に応じるとでも!?」

 結局、政治家たちは国民の命を言い訳に逃げの一手を繰り出しただけに過ぎなかったのだ。

 それがたまらなく彼女は許せない。

 

「まあ、ね……」

 実のところ、あの会談の後別の一幕があった。

 会場を出た魔王は、路上で待機していたマスコミのインタビューを受けた。

 それだけでもツッコミどころは多いが、問題はそれが終わった直後だ。

 

 ある少女が、魔法を用いて魔王に奇襲を掛けたのである。

 

『残念だけど、魔王に挑むなら手順を踏まないと♪ 

 無敵のオーラを剥がす準備ぐらいをしてから、またおいで♪』

 そう言って、魔王は挑戦者を見逃した。

 彼は自分に挑む者には敬意を持って接する傾向があった。

 対策局に今のところ戦死者が居ないのは、同じ理由であろう。

 

 なぜなら、これは“試練”なのだから。

 立ち向かわない者に、生かす価値など無いと言われても仕方がないであろう。

 

「僕も、魔王の機嫌を損ねるとは思うよ。

 けど政治の世界って一言じゃ言い表せないからね」

「その結果、1000人じゃなく10000人殺すと言われたらあの連中は責任を取れるんですか!!」

「…………」

 局長は無力感に肩を落とした。

 この仕事に就いてから、何度も感じた無力感だ。

 彼女たちに、戦いに赴く彼女たちに力に成りたいと思っていても、何もできない歯がゆさだけがあった。

 

 その時だった。

 

 

「お前なんで、そんなに悩んでるんだよ」

 その女の声に、彼女は顔を上げた。

 局長も振り返る。知っている声だったからだ。

 

 そこに居たのは、金髪の女だった。

 しかし、西洋人と似てるがその顔立ち、人種は地球上のどれとも該当しない。

 

「あんたは、魔王四天王!!」

 局長が思わず身構える。

 そう、その女は魔王の配下。

 どこか宗教色を感じる黒いローブを纏った異世界人。

 

 

魔王四天王 従軍神官

“悪逆”のクリスティーン

 

 

「おおっと、そんなに身構えるなよ。

 今日は事を構えるつもりは無いさ」

 局長を庇うように前に出た千利に、彼女は愉快そうに笑った。

 

 それでも二人は油断しなかった。

 この女が、どれだけこの国に混乱を齎したか知っているからだ。

 

「それで、いつまでいい子ちゃんぶってんだ?」

 彼女は自販機に硬貨を入れて、ジュースを購入する。

 ペットボトルのキャップを開けて、中身を口にしながら世間話のように語り掛けた。

 

「あなたの戯言には耳を貸さない」

「そうか? これでもオレ、神官なんだぜ? 

 悩み事ぐらい聞いてやってもいいのに」

 にやにやと笑う彼女は、とても聖職者とは思えない所作だった。

 

「世間の目が、そんなに怖いか? 

 周囲の反応が、そんなに恐ろしいか?」

「なにを……」

「お前はもう、答えを出してるだろ?」

 彼女はまるで、サバサバした男友達か何かのように、千利の背中を押す。

 

「まあ、安心しろよ。お前が何をしようとも、我が神はお前を赦すだろう。

 ……ヒトは生きる上で、必ず悪を行う。

 ならばこそ、お前が成しえる邪悪に我が神の福音があらんことを」

 それは、読心が出来る千利にして心を読まれているような感覚であった。

 

 魔王の配下は、言いたいことだけを言うと、本当に何もせずに背を向けて歩き去って行った。

 

「……千利君、奴の言うことなんて真に受けちゃダメだ」

 局長は途轍もなく嫌な予感がした。

 そう、何かが、とんでもなく恐ろしいことが起ころうとしている予感がした。

 

「…………局長」

 俯いていた千利が、顔を上げた。

 その眼には、深い絶望の奥底に決意が宿っていた。

 

「一緒に、地獄に堕ちてくれますか?」

 その言葉にどす黒い何かを感じた彼は、取り合えず話だけはしてほしいと口にするほかなかった。

 

 

 §§§

 

 

「みんな、聞いて!!」

 千利は、オペレーションルームに全ての局員を集めた。

 

「政府は弱腰で、役に立たない!! 

 あの腑抜けどもに任せて置いたら、1か月後にあるのは敗北。

 それも1000人の犠牲で済まないかもしれない!!」

 誰もが、千利の演説を聞いていた。

 ここに居る誰もが、彼女の戦友だった。

 

「私が官邸で聞いた話を、みんなに聞いてほしい」

 そして彼女が先ほど聞いた官僚たちの話をした。

 

 かつて魔王の手先と戦い、前線を引退したオペレーター達は悔しさに涙した。

 自衛官たちは自分たちが無力で終わることに嘆き悲しみ、その無力感に打ちひしがれた。

 そしてまだ現役で戦える四人は、この国の行く末に不安を抱いた。

 

 そんな皆を、夏芽はじっと見ていた。

 

「私はもう、決めた。

 私一人でも、魔王と戦う。でも周りの人間全員を敵に回すつもりも無い」

 ではどうするか? 

 その答えは、千利の視線を浴びたある少女がハッとなって自らの役割に気づいた。

 彼女だけではない、この場に居る夏芽以外の全員がその恐ろしい発想に震えた。

 

「私に付いていけないと言うなら、ここから去っても構わない。

 だけど、その決断は今しかない。ここから先は、汚名を負ってでも戦う者だけしか必要無いから」

 車椅子にアイマスク姿だった彼女は、もう居ない。

 彼女の決意に、その場の面々も覚悟を決めた。

 

「ドールズハート」

 最初、夏芽と遭遇した三人のうちの一人。

 彼女の魔法の名称が、彼女のコードネームだった。

 

「はい」

 その力は、お人形を使役するなんて生易しいものでは無い。

 彼女は電気信号や電磁パルスを操るが、それは人体にも──更には精神にも作用する。

 

「もっといっぱい、お人形さんを作っていいんですね!!」

 魔法少女ドールズハートの真骨頂は、他者を意のままに操り強化し、果ては洗脳することが出来るという事なのだ。

 そしてその人数の限界は未だ見えない。

 

 対策局でも常に魔法抑制装置を装着を義務付けられている、特に危険な魔法所持者として常に監視されている少女だ。

 そして最悪なことに、彼女はその力を使うことに何の躊躇いも罪悪感も抱かないという事だった。

 その力を使い、彼女を利用し、これから彼女らはクーデターを行うのだ。

 

 他の魔法所持者三人も、自分の能力を自由に使うことを許されて羨ましそうにしていた。

 

 そう、ここに居る魔法少女全員、悪い子(バッドガール)にして闇堕ち(ダークサイド)済み。

 

 ここは地球系列世界、管理番号248024。

 世界に絶望し、悪がなければ、魔法を扱えない世界。

 

 

「これで満足ですか、邪悪と悪逆の女神リェーサセッタ」

 夏芽はこの光景をどこかで見えているだろう、悪趣味な女神に悪態づいた。

 

 

 

 




まず、アンケートに答えて下さった読者の皆様に感謝を申し上げます。
予定よりちょっと早いですが、今話が完成したのと、読者の皆様に十分周知したと判断しましたので切り上げさせてもらいました。

とりあえず、この話までを一区切りとし、第一章ということにします。
夏芽が来るまで、この世界はまともに魔王に対抗できる下地さえなかったということですね。
次回以降から二章となり、ようやく書きたいお話が書けそうです。
ツッコミ役が必要だと別作品から主人公に起用したのが仇になるとは、反省です。

ですが、この世界観を通じて作者のこだわりや、表現したい何かが読者の皆様に伝わって下さればそれ以上の事はありません。
あらすじも多少追記する形にしました。ご協力ありがとうございました。

この作品の作風についてのアンケート

  • これまで通りのシリアスな作風を期待してる
  • あらすじ通りの内容を期待している
  • 作者の書きたいように書けばいい

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