バッドガールズ・ダークサイド   作:やーなん

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今回より、新章突入!!
いよいよコメディ要素が入ります!!



第二章 魔法少女と魔王四天王
魔法少女ドライフレア、参上!!


 

 

 携帯電話の着信音が鳴る。

 その持ち主は、カーテンの閉め切られた部屋にて滅多に使われることの無いそれに目を向けた。

 

 充電しっぱなしの携帯電話の画面には“兄貴”と送信側の名前だけが表示された。

 SNSのメッセージだ。

 

『和夜、今日は一緒に美味いものでも食べないか?』

 

『いらない』

 返事はいつものようにシンプルだ。

 

 彼はいつものように、パソコンに向かって世間に悪態づく。

 たっぷりある時間を他人を批判するだけに費やし、馬鹿にして、中身の無い文言を並べ立てる。

 アカウントが停止されれば、すぐにまた別のアカウントを立てて同じように他者に攻撃を繰り返す。

 四六時中、何一つ楽しくも無いこの作業を彼は繰り返している。

 

 無味乾燥、それが彼の全てだった。

 別に愉しいからそうしているわけではないし、何か必要に駆られてそうしているわけでもない。

 ただただ、彼はこの世界が嫌いだった。

 

 同調を求める歪な社会構造、気に入らないことを面と向かって言うことのできない現実、そして鬱屈した感情だけで何も行動に移さない自分。

 何もかもが嫌いであった。

 

 彼はこの世界に何も期待していなかったし、誰も彼を認識などしない。

 彼はそう思っている。そう、たとえ双子の兄であろうとも。

 

 彼は一卵性双生児であり、双子の兄が居る。

 彼と正反対の、陽キャの申し子みたいな人間だった。

 

 頭の出来以外はスポーツ万能で申し分なく、誰にでも打ち解けられて友人も多い。

 誰にでも分け隔てなく接し、優しさに満ち溢れている。

 それこそ、太陽のような人間だった。

 

 もし彼に欠点らしい欠点を挙げるなら、それは自分だろうと彼は自嘲する。

 彼は産まれながら、自分というお荷物が付いてきた。

 

 何もなさない、何も生み出さない、ただただ人生を浪費するだけの自分が。

 もし彼は自分の年齢を尋ねられたとしたら、恐らく即座に答えられないだろう。

 それくらい、彼は長い間この狭い自室と言う殻に閉じこもっている。

 

 彼はそれで良いと思っていたし、これから死ぬまでずっとそうなると思っていた。

 

 

 

 

 だが、そうはならなかったのだ。

 

 

 爆音と共に、彼の聖域は破壊される。

 

「……ぁ、……」

 久しぶりに認識した彼の声は、自分の掠れた間抜けなものだった。

 

 自分の部屋を破壊して侵入してきたのは、ヒトの形をした異形だった。

 二足歩行をする爬虫類を思わせる異形は、縦に割れた黄金の瞳で彼を見下ろす。

 

「驚いた!! 彼で間違いない!!」

 その存在を、彼は知っていた。

 つい先日、テレビ局の生放送をジャックして好き放題した化け物だった。

 それについて散々馬鹿にして、煽ったばかりなのだから。

 

 魔王。

 その化け物こそ、魔王ハーレ。

 

「いきなりで驚いてるよね!! 

 君には悪いけど、死んでもらうよ!! 

 それもただの死じゃない!! 来世も何もない、魂ごと抹消するのさ!!」

 異形の道化師は、状況の理解が追いつかず唖然としている彼に、残酷な現実を突きつける。

 

「僕もこんなことしたくないんだけどさ!! 

 新しい世界に開拓とか侵略とかする時は、真っ先にやらないといけない仕事なんだ♪ 

 理不尽だよね、理不尽だろう? だが我が主上は、万が一、億が一、兆が一の可能性を見過ごすことができない!! 

 ────それだけ、我が神はお前の可能性を恐れている」

 魔王の魔手が、彼に伸びる。

 恐怖で動けない彼を、その頭蓋ごと魂を砕かんために。

 

 それでも、咄嗟に、彼の本能は抵抗を選んだ。

 

「くく、くくく……」

 彼の手にはいつだかネットで購入したナイフがあった。

 いつかこの世に絶望した時に、それで自らの命を絶つ時に使おうと思っていたか細いそれで、震える彼は魔王に相対す。

 それを見て、魔王は笑う。

 

「君は何ゆえにもがき生きるのだ? 

 我が腕の中で息絶えるがいい」

 魔王は古典を引用し、一切の慈悲や容赦無く、本気で彼をこの世から抹消しようとした。

 

「…………はい?」

 だが、突如として魔王は虚空へ顔を見上げた。

 

「はあ、はあ、了解いたしました。全ては主上の御心のままに」

 魔王は突然肩の力を抜いて、溜息を吐いた。

 

「今度のお仕事は、いつもと違うことが多すぎる」

 魔王は彼にまるで同意を求めるかのように、肩を竦めて見せた。

 

「和夜、何があったんだ!!」

 すると、その時だった。

 

「あ、兄貴……」

 彼の双子の兄が、異変に気付いて現れたのだ。

 

「ば、化け物!?」

 彼の兄は、魔王に遭遇しても引かなかった。

 よく鍛えられた全身は、ずっと引きこもっていた弟とは比べ物にならない。

 彼は五体のみで、魔王から弟を守ろうと立ち向かおうとした。

 

「邪魔だよ、おまけの分際で」

 魔王の動作は片手の親指で人差し指を弾いただけだった。

 

「が、はッ!?」

 たったそれだけで、双子の兄は不可視の力で壁に叩きつけられて気を失った。

 

「さて、土壇場で殺すな、は無いよね。

 もう口上も述べちゃったじゃないか。しまらないなぁ」

「──ざ、けんな……」

「んん?」

「ふざけんな、兄貴がおまけだって、僕じゃなくて、兄貴が!!」

「ほほう」

 魔王は笑みを浮かべた。

 何十、何百と同じ魂の持ち主を引き裂いておきながら、ようやく彼はなぜ己の神がそこまで彼を恐れているのかほんの少しだけ理解した。

 

「気に入った」

 魔王の腕が、怒りに満ちた彼の胴体を鷲掴みにした。

 

「そのおまけを生かしてやる。

 その代わり、お前は僕の配下になれ」

「…………嫌だね!!」

「そうかい、じゃあ殺すよ」

 魔王に遊びや慢心、油断は一切なく本気だった。

 なぜならこれは、仕事なのだから。

 

「ま、まって!!」

 淡々とアリを踏みつぶす作業をしようとした魔王の本気を見て、彼が折れた。

 

「……わかった、あんたの言うとおりにする」

 悔し涙を流す彼は、震えながら魔王に屈した。

 

「最初から、そうすればいいんだ。

 我が神も、消すくらいなら仲間にすればいいのにね♪ 

 ボクちゃん頭イイ!!」

 それが最も合理的な判断だと、魔王は判断した。

 

 そうして彼は、魔王の配下になった。

 魔王四天王のひとり、という破格の待遇で。

 

 

 

 §§§

 

 

 それから五年後、魔王の居城にて。

 

「ねえハーレ、なんでさっさと人類を滅ぼさないのさ」

「滅ぼすのが仕事じゃないからさ」

 二人は名作FPSをプレイしていた。

 

「ああ女神様の試練って奴? 

 馬鹿馬鹿しい。地上の馬鹿どもを見て見なよ。

 せっかくハーレが人類共通の敵になってあげてるのに、一致団結なんて夢のまた夢。

 うちの国のお隣さんとかフェアリーサマーに魔王を倒させろなんて恥知らずにも声高に言ってるしさ」

「和夜にも分かるようになるさ。

 追い詰めれば、人間の醜さってのは味わいが出てくるんだよね」

「ふーん。あ、裏に来てるよ」

 どうでも良さそうに、和夜は返した。

 

「おっと、任されよ」

 二人は絶妙なコンビネーションで、後ろに回り込んできた敵プレイヤーを撃退した。

 

「フェアリーサマーと言えばさ、この間めっちゃぶん殴られたんだけど。

 あんな脳筋女、ティフォンの奴は何が良いわけ?」

「でも奴の作った彼女のアニメを全部見ていたではないか」

「暇だったからね。でも実写は酷いデキだった」

「本人に出演してもらえなかったから、と言っていたしな」

「普通そこまでするかなぁ、惚れてるにしても酷すぎる」

「いや、あれは惚れた腫れたの単純な話ではないんじゃない?」

「そうなんだ。僕は誰かを好きになることなんて無いだろうし、どうでもいいか」

「くっくくくく」

「何笑ってるのさ、そこにM16あるよ」

「おっと、ちょうど手持ちが弾切れだった、交換せねば」

 二人は雑談しながら、敵をなぎ倒して進む。

 容赦なくリスキル*1する和夜に、正確無比の長距離射撃でヘッドショットをする魔王。

 

 二人が迷惑行為とチート疑惑で対戦部屋から追い出されたのはその試合が終わってからだった。

 

「ハーレさあ、思ったんだけど」

「なんだい?」

「正直、試練を与えるなら戦えってのはアンフェアじゃない? 

 それじゃあ戦う才能の無い人間が何もできないじゃないか。まさか遠くから応援とかしろとでも? 

 前線で戦う女の子たちの為に募金でもしてくれるのかな?」

「ふーむ、一考の価値がある意見だね」

「ゲームとかさ、歌やダンス、なんならトランプでもいい。

 わざわざ上から脅さなくてもやりようはあるでしょ、文明の女神なんだから」

 小馬鹿にしたように、彼は魔王の上司を嘲った。

 こんなことを言えるのは、この世界でも彼だけだろう。

 

「まあ、尻を叩いて火を付けないと、人間なんて生き物は本気にならないだろうってのは同感だけど」

 遊ぶゲームを変えながら、彼は自らの所感を口にした。

 

「──そんなに人死にを見るのが嫌か?」

 どこか可笑しそうに、魔王は言った。

 

「いや、僕グロとかスプラッタとか気持ち悪いだけなんだけど」

 心底嫌そうに彼は答えた。

 それでも魔王は、彼の本心を見透かしたように何も言わずに笑っていた。

 

「ならば、そろそろ働いてもらおうか」

「あーはいはい、お給料分は働きますよ。

 じゃあ適当に壊して混乱させて恐怖させますよ。やり方はいつも通り僕に任せて貰っていいよね?」

「勿論さ、好きにしていいよ」

 魔王は自分の部下のやり方に一切口を出さない。

 だから本当に魔王の四天王は好き放題している。

 

「さてと、今やってるゲームのアップデートが終わる頃には引き上げたいな」

 やる気の見せない彼は、気だるげに魔王の居城から出陣した。

 

 

 

 …………

 …………

 ………………

 

 

「情報課より報告、魔王四天王が騒ぎを起こしているようです」

 上位者対策局のオペレーションルームに入電。

 

「状況は?」

「どうやら、あちらが放送を行っているようですね。

 今、モニターに映します」

 そうして、千利たちは中央モニターから現場の様子を垣間見ることになった。

 

 

『おーい、早く準備して。視聴者は待ってるよ』

 カメラの前で、如何にも悪の魔法使いと言わんばかりの黒装束の青年が戦闘員たちに準備を急がせている。

 

『あ、終わった? じゃあ皆さん、お待たせ。

 ご存じの方も多いだろうけど、僕は魔王四天王の、アウトサイダーって名乗ってる者だよ』

 

 

魔王四天王 大魔導士

“失望者” アウトサイダー

 

 

『初めての人は初めまして。

 見ての通り、日本人です。国籍もあります。

 でも魔王様の部下です。人類の裏切者です』

 彼はそのように自己紹介した。

 

 彼が放送を行っているのは、渋谷のど真ん中だ。

 何十人もの戦闘員が武器をちらつかせ、百人近くの通行人を無理やりギャラリーとして参加させている。

 

『今日の僕のショーは、じゃじゃじゃん!! 

 投票型公開処刑でーす。ぱちぱち』

 アウトサイダーが後ろに手を向けると、そこには十字架に張り付けられた男が居た。

 

『た、助けてくれー!!』

 磔の男は恐怖に震えながら助けを求めていた。

 

『さて、彼を処刑する前に、彼が選ばれた理由をご紹介しよう。VTRをどうぞー』

 アウトサイダーが指示を出すと、放送の画面が切り替わった。

 

 そこから流れた映像は、どうやらコンビニの監視カメラの映像だった。

 

「あれ、これって……」

 その映像は、千利だけでなく彼女の同僚やギャラリーの多くが見覚えがあった。

 今朝、ニュース番組で放送されたコンビニ強盗の映像だった。

 

 そして、今磔にされている男がコンビニのレジに押し入り、ナイフを持って店員を脅し、金銭を奪って逃げた瞬間が映し出されていた。

 だが、それだけではなかった。

 

 勇気あるサラリーマンらしき人物が、背後から強盗犯を羽交い絞めにしたのだ。

 強盗犯は激しく抵抗し、サラリーマンを切りつけ逃げ去った。

 この衝撃的光景は、流石にショッキングだとして報道では口頭で説明されていた部分であった。

 

『これで、この男が処刑される理由が分かったでしょ?』

 画面は再び、アウトサイダーの居る現地へと戻る。

 

『さて、ここで犯人さんへのインタビュータイム。

 盗んだお金なんて精々十万円も行かなかったんでしょ? 

 それこそ、コンビニで真面目に働けば一か月で稼げる金額だ。どうして強盗なんてしたんでしょーか?』

『あ、遊ぶ金が欲しかったんだ、悪いか!!』

『だそうです。清々しいほどのクズですねー』

 まさに期待通りの反応で、アウトサイダーはにやにや笑っていた。

 ここで、カメラが強制参加させられたギャラリーに向けられる。

 初めは何が始まるのか、と怯えていた人々はこの強盗犯へ冷ややかな視線を投げかけていた。

 

『ここでサプライズ!! 

 この強盗犯くんが切りつけたサラリーマンの娘さんがゲスト出演してくださいました!!』

 まさかそんなことが有るとは思わず、犯人は思わず目を見張る。

 戦闘員に連れられ、一人の女の子がカメラの前に現れた。

 

『こ、この人が、お父さんを傷つけたんですか?』

『そうだよ。このどうしようもないクズは今聞いた通り、お金欲しさに君のお父さんを傷つけた。

 今は病院で手術中なんだってね、傷が深くて予断を許さない状況だとか』

 アウトサイダーは少女に同情するように語り掛ける。

 

『君が復讐をしたいと言うなら、君の手でそれをさせてあげる。

 あ、勿論僕たちが脅したからだよ? 君は僕らに言われて仕方なく彼を殺すんだ』

 その物言いは優しかったが、氷のように非情で冷たかった。

 

『い、いや、私、こんな奴と同類になりたくない!!』

 だが少女は拒否した。カメラの前だから、というだけでは説明が出来ない拒否反応だった。

 強盗犯は何とか暴れて逃げ出そうともがくが、戦闘員に猿轡をされて呻き声を出すことしかできない。

 

『そうかい、それがいいよ。それに企画倒れにならずに済んだ。

 はいはーい、それじゃあ、この放送を見ているみんなに彼の行く末を決めて貰おうか』

 どういうプログラムなのか、放送画面に『彼を処刑しますか? yes/no 』と表示された。

 

『これでイエスを選んだ視聴者が、一万人を超えたら彼を処刑する。

 もし、それまでに彼を助け出そうという正義の味方に救出されたらそれでお終い。

 こんなゴミクズ野郎に関わりたくないならノーを押せばいい』

 それが、今回アウトサイダーが始めた企画の趣旨だった。

 彼の横に見える位置にあるデジタルカウンターは、既に1000人以上がイエスを選んでいる。

 

『このカウンターが一万人を数えたら、彼を処刑する。

 待っているよ、正義の味方さんたち。あ、別に遅れて来たって構わないよ? むしろ遅れて来てもいいからね。この日本のゴミを一つ掃除した後、ゆっくりと僕らと戦おう』

 アウトサイダーは陰湿に笑いながら、横目でカウンターを確認する。

 数字は既に、2500を数えていた。

 

『でも、助けたいならもうあんまり時間は無いよ?』

 カメラ越しに、対策局の面々を嘲笑いながら彼はそう言った。

 

「今、出動できるのは!?」

「ドライフレアが既に現場に向かっています!!」

「そう、彼女が」

 千利はとりあえず、安心した。

 

 魔法少女ドライフレアは、その名の通り渇きと冷気を齎す炎を操る。

 そう、夏芽に最初に遭遇した三人のうち、あの冷たい炎を操るのは彼女だった。

 その性格、その能力から、対策局所属の魔法所持者で最もバランスが取れて扱いやすい人物である。

 どいつもこいつもクセの強い魔法所持者の中で、良くも悪くも普通な人間だった。

 

 そして、千利がその彼女の出動を確認した直後だった。

 

『そこまでよ!!』

 魔法少女ドライフレアが画面に現れたのだ!! 

 

 

 

 

「そこまでよ!!」

 赤い炎をイメージした魔法装束を纏った、スカート姿の少女が現場に現れる。

 

「冷たく乾いた心の地平に、悪を憎む炎が燃え上がる!! 

 ──魔法少女ドライフレア、ここに参上!!」

 彼女の登場に、ギャラリーたちも期待の声を上げた。

 

「待っていたよ、それじゃあ始めようか」

「ちょっと待って」

 アウトサイダーが戦闘員たちを呼び寄せ、肉壁として陣形を取らせた時だった。

 ドライフレアが、彼の横のカウンターをちらりと見つつ、制しした。

 

「こんなことやめて、彼を解放して!!」

「あのさ、問答なんてしないよ。

 このカウンターが一万を超えたら、こいつを処刑するって言ってるんだ」

 アウトサイダーは淡々と彼女に現実を告げた。

 

「彼は罪を犯したかもしれない、でも更生の機会を与えられないなんて間違ってる!! 

 彼は警察に逮捕されて、ちゃんと日本の司法で裁かれるべきよ!!」

 カウンターの数字は、5000を上回ったところだ。

 カウントを開始して五分も経っていない。

 

「あのさ、僕の話聞いてる?」

 まるで話が通じない彼女に、アウトサイダーがいら立ちを見せるが。

 

「あなたも同じ地球人なら、どうして魔王に与するのよ!!」

 いいから早く助けろ、と強盗犯が体を揺する。

 しかしドライフレアは目の前の敵を睨みつけていた。

 だがその視線は、ちらちらとカウンターに視線が逸れている。

 

「あー、えーと、僕の異名は“失望者”でね。

 これは確認作業なんだ。お前たち地球の社会が、変わらず僕の失望に値するかどうか」

 アウトサイダーは空気を読んだ。

 既にギャラリーたちも察しているのか、ヤジさえ飛ばない。

 

「この世界は、希望に満ち溢れてるわ!! 

 あなたは知らないだけよ、この世界の美しさを!!」

 ドライフレアは熱く語り聞かせていた。

 その内容は大分ふわっとしているのに彼女は気づいているだろうか。

 

「君も見ると良い、これだけの数がこの処刑に賛同している。

 彼らは傍観者であり、無関心な観客だよ。

 彼らの選択がこの強盗犯を殺すことになっても、心を痛めたりなんてしない。

 まさにこの社会の縮図じゃないか。僕の期待通りさ」

「この世界にも、遠い場所で苦しむ人に心を痛める人は居るわ!! 

 あなたは自分の目線で物事を勝手に判断して、勝手に失望してるだけじゃない!!」

 ドライフレアの言葉は、ちっとも中身が伴ってなかった。

 アウトサイダーに当然響くはずも無く、そもそもこのやり取りも茶番だった。

 

 この馬鹿げたチキンレースの結果、カウンターの数字は9000を超えた。

 

「ねえ、もう多分こいつは助からないからそろそろ始めない?」

「ちッ」

 ドライフレアはカメラから見えない位置で顔を歪めて舌打ちをした。

 

「酷い!! どうせ最初から、処刑を止めるつもりなんてないくせに!!」

「それ、ちっとも助けるつもりが無い君が言う!?」

 この状況で、ただ一つ言えることが有るとすれば。

 

 正義の味方なんて、来なかったという事だけだった。

 

「あー、残念ですが、今ちょうどカウントが一万人を超えました」

 なんだかこのやり取りで疲れたアウトサイダーが、戦闘員に指示を出した。

 

「──処刑しろ」

 彼の非情な言葉に、ギャラリーたちは固唾を飲んだが。

 

「おい、お前がやれよ」

「え、やだよ。こんな奴殺して人殺しとか」

「俺だってやだよ。こんなのバイトの職務内容に書いてないし」

 なんと、戦闘員たちは顔を見合わせ、次々と処刑の実行役を押し付け合い。

 

「ここはやはり、四天王であるアウトサイダー様に盛大に処刑していただきたく存じます」

「はあ!? 僕だってやだよ、血で汚れるじゃないか!!」

 僕は潔癖症なんだ、とまさか企画の実行者まで処刑を拒否。

 

「それに、こんなクズを殺して僕がこのクズの同類にされるなんて嫌なんだけど!!」

「さっさと殺しなよ!!」

 ドライフレアが音響装置を魔法で破壊してから、嫌そうにしているアウトサイダーに痺れを切らして叫んだ。

 

「悪党は悪党らしく、地獄に堕ちるにふさわしい罪を背負ってこの世から消え去れば良いのよ!!」

 赤裸々な本音だった。

 彼女の心は本当に乾いていた。

 

「……萎えた。僕はこいつを警察に突き出してくるから、お前たちは彼女の相手しといて」

 結局、誰も処刑を実行するのを嫌がったため、渋々アウトサイダーが踵を返したのだが。

 

「あー、間違えたー!!」

 ドライフレアの魔法が、なんと見当違いな方向に射出された。

 

「むごああああああ!!」

 猿轡の上でも絶叫と分かる強盗犯の呻き声。

 全身が凍てつく業火に焼かれ、体中の皮膚が渇き罅割れ、肉体に深刻な壊死が次々と発生する。

 

「わー、死ぬ死ぬ、死んじゃうってば!!」

 慌ててアウトサイダーが魔法で水を召喚。

 強盗犯は致命傷寸前で命だけは取り留めた。

 

「うわ、こいつやったよ。引くわー」

 アウトサイダーはドン引きしていた。

 勿論、その誤射の前にはカメラが全部ぶっ壊されてた。

 

「今のは誤射、良いわね?」

 ドライフレアがギャラリーに視線を向ける。

 

「今のはどう考えても誤射だろ」

「誤射なら仕方がない」

「彼女の射線に立つなって言わなかったっけ?」

 ギャラリーは空気を読んだ。ついでにクズが適度に再起不能に陥ってすっきりしていた。

 それを確認してドヤ顔でドライフレアが敵に向かいなおった。

 

「悪人とは言え、無力な人間になんて酷いことを!!」

「しかもこいつ僕らの所為にするつもりだよ!!」

「証拠隠滅ー!!」

 ドライフレアは武装を取り出し、敵勢を薙ぎ払った。

 

「フリージング・ドライブラスト*2!!」

 玩具の光線銃にしか見えないその武装から発射された光線が、戦闘員たちを一網打尽に吹っ飛ばした。*3

 

「……はあ、今日は君の勝ちで良いよ」

 バリアで彼女の必殺技を防いだアウトサイダーが心底面倒くさそうにそう言った。

 

「正義は、勝つのよ!!」

 空間が歪んで戦闘員ごとアウトサイダー達が撤収すると、ギャラリー達がドライフレアに黄色い声を送った。

 

「た、助けてくれてありがとう……」

 強盗犯の被害者の娘も、いろいろな意味で彼女にお礼を言った。

 

「やっぱり、良いことをすると気持ちが良いわね!!」

 これが、魔法少女ドライフレア。

 対策局所属で、一番まともな魔法少女だった。

 

 

 

*1
リスポーンキル:FPSゲームなどで相手の復活地点で、復活直後に攻撃する行為。

*2
魔法少女ドライフレアの必殺技。固有装備によって対象に水分を気化させる光線を発射し、凍結させ爆散させる。相手は死ぬ。

*3
説明しよう、戦闘員たちの着ている黒タイツみたいなスーツは即死級の攻撃を受けても致命傷だけは回避してくれる優れモノだ!! 




ようやく、最初に出て来た三人のうち一人が活躍できました!!
これからどんどん、個性的な四天王が登場し、最初に言及したうちで未登場は敵味方残すところあと一人。

彼らの強烈な個性を今後お楽しみください。
それでは!! また!!

魔法少女フェアリーサマーはどれくらい活躍してほしい?

  • たくさん!!
  • ほどほどに!!
  • 少なくていい!!
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