「はぁ、なんなのあいつ」
魔王の居城に帰還したアウトサイダー、和夜はげんなりした様子で報告に戻った。
「はい、王手」
「む、むむむ、ちょっと待った!!
さっきの手は無しじゃ!!」
すると、四天王専用の談話室で、魔王と老人が将棋をしていた。
「また~? これで五回目じゃない?」
「若いんじゃから老人を労わってはくれんのかの?」
「僕はあんたの数倍は生きてるけどねぇ」
「それは言わん約束じゃて」
将棋をしている二人だったが、魔王が和夜に気づいた。
「やあ、お疲れ。どうだった?」
「あまりに馬鹿馬鹿しかったから勝ちを譲ってやったよ。
別に勝とうが負けようがどうでもいいんだよね?」
「まあね、いざとなったらどうにでもできるし」
魔王は肩を竦めた。本当に、彼は自分が持ちかけたゲームの勝ち負けなど気にしてなどいなかった。
「和夜くん、そんな調子じゃいかんぞ。
やるからには、勝たねば。常に前進をしなければ、時代に置いて行かれてしまう。
常に勝ちに行くことこそ、成功の秘訣じゃ」
と、魔王と対面して将棋の盤面に唸る老人が言った。
「
和夜は不貞腐れたように顔を逸らした。
「魔王様の介入を無しに勝たねば、四天王の名折れじゃろうに」
「その四天王の地位を利用して一番好き勝手してるのは誰だったっけかな?」
呆れたように、青年は老人を見やる。
「ほっほっほ。儂は魔王様の配下として、地上に混乱を齎しているだけじゃて」
彼は好々爺のように笑った。
和夜はその下に隠れているどす黒い感情にはあえて触れなかった。
この老人が、この日本に最も経済的なダメージを与え、四天王で最も混乱を巻き起こしているのは確かだからだ。
「さて、よっこいしょっと」
老人が座席から立ち上がる。
「おおっと!?」
その拍子にふらついて、彼は将棋の盤面に手を突いた。
衝撃で駒がバラバラになった。
「しまった、やってしもうたわ!!」
パチン、と額に手を当てて呵々大笑する老人
そのわざとらしい動きに、魔王は溜息を吐いた。
「和夜の坊や。勝つ為には何でもする。
勝利への貪欲さが無ければ、勝つことはできないのじゃよ」
「勝ててないじゃん」
和夜は即座にツッコミを入れた。
老人は気にした様子もなく、笑い声を上げた。
「さてと、予告も済ませておるし、そろそろ孫の顔でも見に行くかの」
ひらひらと手を振って、彼は談話室から去って行った。
§§§
ところ変わって、上位者対策局。
「ねえ、大和ちゃん」
オペレーションルームにて、千利は腕を組んで眉を顰めていた。
「もうちょっと外聞を繕えなかったの?」
「千利さん、名前で呼ぶのは止めてくれます?」
「……あのね、水無瀬ちゃん」
千利に苦言を呈され、不機嫌そうにしているのは魔法少女ドライフレア。
またの名を、水無瀬 大和。名前は男っぽいが、れっきとした中学生女子である。
「私たちは魔王と戦うために居るのよ。
そのためには、世間を味方にしないといけない。
賛同者だけ募って、地下に潜っても活動は長続きしないのはわかるよね?」
千利は丁寧に彼女に言い含める。
先日、千利の首謀した上位者対策局の政府クーデターは静かに成功した。
政府の要人たちは魔法少女ドールズハートの支配下に置かれ、全面協力を約束させた。
彼らはまったく人格に影響のないまま、洗脳され感情のリミッターが外された。
保身や逃げと言った選択を取れないようになり、心の内側にため込んだ怒りを爆発させられた。
その結果、今は戦時下と変わらない、と官房長官が怒りのままにメディアの前で訴え、総理大臣が魔王と戦うことを国民に理解を求めるように苛烈な言い方で話した。
もう二度と、日本政府は弱腰などと言われないであろう。
全ては魔王と戦う為、奴らに意気地を見せつける為。
最初から、勝つ為の戦いではない。尊厳の為の戦いだ。
それが、彼女らの人間としての大義だった。
それは全員に説明し、納得した上で全員が残ったのだと千利は思っていた。
「気持ちは分かるけど、魔法が好き勝手に使えるから残ったなんて言わないよね?」
「……」
水無瀬は顔を逸らした。
図星だった。
「悪党が赦せないのは本当ですよ」
「ならもうちょっと、大勢の前でああいう行動は控えようね?
私達はあなたを戦力として当てにしてるし、あなたも連中に好きなだけ八つ当たりできてお給料も貰える。winwinでしょう?」
千利は少なくとも、中学生特有の病を患って全能感に酔いしれて彼女が魔法を使って戦っているわけでは無いことを分かっている。
「分かりました。気を付けます」
彼女は非を認めた。ちゃんと話しをすれば分かってくれる。
彼女がまともである所以である。何せ他の連中は話が通じない。
「でも、千利さんでも同じことをしたでしょ?」
「私はもっと周囲にバレないようにやるわよ」
少なくとも、犯罪者に温情なんて欠片も持ち合わせてない二人だった。
「ところで、話は終わったなら私の作った魔法出力兵器の感想を聞きたいのだけれど?」
二人が声の方に顔を向ける。
そこには先日、この対策局の預かりとなった女がコーヒーを飲みながら微笑んでいた。
メイリス・アイリーン。
稀代の天才にして、性格破綻者。
彼女を味方に引き入れるのに一悶着あったが、今回は割愛する。
「バッチリです!!」
水無瀬が玩具の光線銃にしか見えない武装を取り出した。
「そう、誰か、使用後のデータを取りたいから健康診断を行って」
「はい!!」
技術士官が、メイリスの指示に即座に返事をした。
「水無瀬さん、悪いけど医務室に行ってくれるかい?」
「はーい」
女性の技術士官を付けられ、水無瀬はオペレーションルームを出ていった。
「すっかり手懐けてますね」
「日本がモノづくりの国と言うのは本当ね。
この国の技術者は優秀だわ。だって私の邪魔をしないもの」
自分の能力に絶対の自信を持つが故の傲慢さに、千利は苦笑しか出なかった。
「それよりも、どうやって魔王に勝つつもり?」
「勝てると、思うのですか?」
「言っておくけど」
メイリスは目を据わらせ、千利をじっと見た。
「私は負けるのが大嫌いなの。
私より上がいるなんて我慢できない。
戦うからには勝つ以外ありえない」
それが、彼女と言う人間だった。
初めから、このゲームに負けるつもりなど無いのだ。
「私はあくまで技術者。でも最終階級は大尉だったし、現場で指揮経験もある。
魔法を前提とした実験部隊で戦果も挙げたわ。
今は貴方を上官と認めてあげる。だけど、あなたのやり方じゃ勝てないと思ったら私は容赦なく貴方の椅子を引きずり下ろす。
……それだけは分かっていなさい」
その言葉に、千利に冷や汗が流れた。
この女は、絶対に実行するだろう。短い付き合いでもそれを十分に分からされるほど、彼女は迅速果断だ。
事実、彼女は既に技術者たちを掌握した。
そして早速、ドライフレアの専用装備を作り上げて見せた。
味方にするとこの上なく頼もしいが、同時に彼女は鋭利過ぎる諸刃の刃だった。
「……とりあえず、現状ではこちらからのアプローチは難しい。
こちらに出来るのは、相手のアクションを見極め、適切に行動に移すほかない」
「妥当ね、情報分析をするから情報班はこちらにこれまでの敵の出現パターンや傾向をまとめて寄こしなさい」
メイリスは元軍属で、実績が有るというだけあって副官としても有能だった。
彼女の自信と傲慢さは、彼女の有能さと比例していた。
「千利さん、そろそろ予告の時間です」
「分かりました。引き続き、監視をお願いします」
オペレーターの声掛けを受け、千利は時計を確認する。
時刻を確認し、彼女は顔を引き締めた。
「予告?」
「魔王四天王の一人が、動画サイトで自分の放送チャンネルを開いているんです。
彼は事前に襲撃を予告し、破壊と混乱の限りを尽くしていくのです」
苦虫を嚙み潰したような表情で、千利は答えた。
「私にもそれを見せてくれない?」
彼女の言葉に、千利がモニターの方に目配せする。
千利の意を汲んで、オペレーターの一人がモニターに例の予告を再生した。
『どうもじゃ、皆の衆!! シゲじいちゃんじゃぞ!!』
予告の動画では、サイバーサングラスを付けた白髪の老人が茶目っ気を丸出しにして手を振っていた。
『今日の襲撃予告は、これじゃ!!』
彼の宣言と同時に、画面には襲撃予定の地図と名前が図で示された。
そこは、株式会社日本IT開発、と呼ばれる会社の本社がある場所だった。
「その名の通り、IT企業かしら?」
「ええまあ、普通の下請け企業ですけど、少し前に有名になりましたよ」
「あら、そうなの。どうして?」
「すぐに分かります」
千利の言葉に、雑談は止まった。
『この会社は、先月プログラマーを過労死させた!!
こんなブラック企業、あってはならんじゃろう?』
老人は口元に隠し切れない喜悦の笑みを浮かべて、視聴者に問いかけた。
『故に、この儂自らホワイト企業にしてやるのじゃ!!
明日からここの社員はブラック労働から解放されるッ!!
サービス残業も経営陣の怠慢もすべて消し去ってくれるわ!!』
この言葉に対し、視聴者がコメントがこうである。
:やっちまえ、社長!!
:ホワイト化(更地)
:うちの会社も来てくれんかな。
:あんたの所為で路頭に迷ったぞ!!
:↑東京の事務所で補償受けて仕事斡旋してもらえ。
:次はどんな機体か楽しみ!!
:今日も孫ちゃんくるかな?
:来るだろ、多分
「思いのほか人気があるのね」
「まあ、彼はブラック企業とか、特定の企業グループにしか攻撃しませんからね」
メイリスはスマホで彼の放送チャンネルを検索し、開いた。
チャンネル登録者数、三百万人以上。アーカイブにはこれまでの襲撃の光景が残されていた。
そこには、彼の人気の秘密が隠されていた。
「わ、ロボ……!!」
なんとこの老人、最前線で自らパワードスーツのような機械を身に纏い、ビルをぶっ壊している様子がアーカイブのサムネイルに表示されていた。
「ロボット、ロボットは良いわよね!!
ロマンがあるわ。ドリルとかパイルバンカーとか」
うきうきしているメイリスを見て、千利は趣味は意外と男の子っぽいんだな、と思った。
「ところで、特定の企業グループって?」
「ああ、それは──」
千利がそれを話そうとした時だった。
「千利さん、現地に転移反応!!
四天王とその軍勢です!!」
「展開しているこちらの部隊に通達しろ!!」
オペレーターの報告に、ずっとモニターを睨んでいた自衛官の佐官が叫んだ。
「今度は大丈夫だろうか……」
現地に派遣している魔法少女は、割と問題児だ。
彼の苦悩も知れると言うものだ。
「だから、師匠にも同行してもらってるんですよ」
夏芽がここに居ないのは、そちらに彼女が付いていっているからだった。
「でも、彼女はただのお守りなんでしょう?」
メイリスが痛いところを突いた。
そう、夏芽は今回戦わない。調停をどちらも必要としない、現地の地球人同士のいざこざなのだから。
オペレーションルームの指揮官二人は、渋面のまま現場を中継するモニターを見ていた。
§§§
現場は、さながら戦場だった。
「各隊、魔王の軍勢を通すな!!」
自衛隊員たちが、檄を飛ばす。
「安全確認、良し!!」
「よし、撃て!!」
ビルの上から、自衛隊員の持つロケットランチャーが火を噴いた。
標的は、まるで甲冑のような装甲で身を包んだ機械に騎乗した兵団。
「効かぬなぁ!!」
その先頭に立つ、ひと際目立つ意匠の指揮官機と分かるパワードスーツが、片手でロケットランチャーの弾頭を叩き落した。
「やあやあ、我こそは楪一族の末裔にして、現当主なり。ってな!!」
愉快そうに笑う老人の声が、内蔵スピーカー越しに戦場に響き渡る。
自機を含めて十機で現れた機械鎧の軍勢。
市街地を堂々と闊歩し、銃撃をそよ風のように受け流している。
「相変わらず、どういう防弾性をしてるんだ……!!」
アサルトライフルの銃撃を受けても、機械鎧は傷ひとつ付かない。
関節を狙っても、まるで歯が立たない。
これぞまさに、現代の科学を遥かに超越する、文明の女神の威光だった。
「それ以上、行かせませんわよ!!」
だが、それに抗う者もここに居た。
「喉に粘つくこの怒りを糧に、憎悪の蕾が花開く!!
──魔法少女ジェリー。ここに参上ですわ!!」
青を基調とした羽衣のような魔法装束を纏った少女が、機械の軍勢に立ちはだかった。
「おお、孫よ。元気にしとったか?
こちらにおいで、お小遣いをあげよう」
だが、先頭に立つ魔王の四天王はゆっくりと彼女に機械の手を差し向けた。
──瞬間、バーニアを蒸かして手首が一直線に少女に向かって放たれた!!
「ふん!!」
だが、この程度の奇襲、魔法少女ジェリーには通じなかった。
彼女を守るように、四方八方から粘性の液体が集結して壁となった。
爆発、爆音が迸る。
ただの液体が、常識では考えられない強度を発揮して、多少の粘液を周囲に飛散させた程度でロケットパンチを防ぎ切った。
「どうじゃ、儂からのお年玉じゃ!!」
「死ね、クソジジイ!!」
変幻自在の粘液が、壁の形から球体に移行。
そして球体が彼女の腕に伸びて、まとわりつき、鉄槌の形へと変えた!!
軽く25メートルプール一杯分はあろう巨大な質量が、少女の手によって振り回される。
…………周囲の建物を巻き込みながら。
「ぎゃああぁぁ!!」
ビルの上でロケットランチャーを撃った自衛隊員が、足元のビルが倒壊し悲鳴を上げて落下する。
機械鎧たちは迅速な判断で散開して避けた。
「逃げるなああぁぁ!!」
鉄槌が、より射程の長いハルバードに変化し、粘液の矛槍が敵勢を薙ぎ払う!!
……周囲の味方ごと。
「うわー!?」
近くで待機させておいた虎の子の戦車が空中に巻き上げられ、中の人たちをシェイクする。
機械鎧たちは跳躍し、普通に回避した。
「はあ、やれやれ」
その光景を見て、夏芽はなぜ自分がここに寄越されたのか悟った。
ちなみに、巻き添えになった味方は彼女がとっくに救出済みである。
「ぜぇったいに、ぶっ殺してやる!!」
殺意をむき出しにして、魔法少女ジェリーは粘液の塊を空中に放り投げた。
彼女の魔法は、液体を粘液に変え、性質や物理法則を無視して操ることだった。
だから、こんなことも出来る。
「今度こそ、死ねええぇぇぇ!!!」
粘液が高濃度の酸性に変化、さながらマップ兵器のごとく硫酸の雨となって地上に降り注ぐ!!!
どかッ、ばきッ、峰打ち!! 魔法少女ジェリーを倒した!!
……降り注ぐ前に、夏芽がジェリーの意識を刈り取った。
「おお、これはこれは。この間は魔王様の城で世話になったのう!!」
ぐったりと気絶したジェリーを担ぐ夏芽の前に、ジェット噴射で飛行する機械鎧が下りて来た。
「この子、いつもこうなんですか?」
思わず真顔で、夏芽は尋ねた。
「はははは、まさに儂の孫、というわけじゃな!!
──あとこれは先日の御返しじゃ!!」
機械鎧の左手が瞬時にドリルに換装され、高速回転しながら二人まとめて穿ち貫こうと迫る!!
「ドォォォオオオリィィィィルゥゥゥ、クラッシャ──!!!!」
「えい」
やたら濃い巻き舌でドリルを放つ四天王を、夏芽は蹴り上げた。
「ぎょええええぇぇぇ!!!」
老人の乗る指揮官機は、そのまま魔王の座す円盤まで飛んで行った。
「ああ、社長……どうします、専務?」
「どうするもこうするも、まずはこうだろ」
取り残された機械鎧たちは、顔を見合わせると一斉に夏芽の前に並んだ。
指揮官の敵討ちかと思いきや。
「どーも!! 社長が失礼しました!!
我々、こう言うものです!!」
全長五メートルはあるゴツゴツのパワードスーツを着ているとは思えないほど、折り目正しいお辞儀と共に名刺を一斉に差し出してきた。
「あ、これはご丁寧にどうも。
こちらは生憎名刺を切らしておりまして」
夏芽も丁寧に対応した。
「恐縮ですが、此度の被害は全てこちらの事務所に請求して頂ければ──」
と言ったやり取りの後、残り九機のパワードスーツの部隊は撤退していった。
気絶している人間たちの中で、一人取り残された夏芽は渡された名刺に目を落とす。
そこには、『真・楪グループ 専務取締役』という役職や氏名や連絡先が書かれていた。
§§§
「やっぱりこうなったか……」
仲間たちの無残な姿に、涙する佐官の哀愁漂う背中が貰い泣きを誘う。
「あれ、どういうことなの?」
「ジェリーの両親は、当時自分の会社から創業者を追い出し、経営権を獲得したのですが、……その創業者が魔王の後ろ盾を得て報復し倒産。
彼女の両親は、彼女と共に入水自殺を図るも、あの子だけが生き残ったのです」
「ああ、つまり……」
「ええ、ジェリーは、彼女は両親の仇を討つために、実の祖父を殺そうとしているんですよ」
これには、性格破綻者のメイリスもやれやれと肩を竦めた。
「愚かしい、復讐の連鎖ね」
「私もそう思います」
画面の向こうの、更地と化した(主に味方の所為で)市街地を見ながらそんな感想を漏らす二人だった。
今回にて、魔王四天王は全て判明し、味方組織の魔法少女も残すところあと一人と、描写だけが一人となりました。
ちなみに、今回は勿論人類側の負け判定です。是非も無し。
次回はネタが思いついたので、もう一度アウトサイダー君が日本に混乱を巻き起こします。
あと、魔法少女フェアリーサマーの活躍度合いをアンケートしたいと思います。
ご協力くださると、幸いです。
次回予告
それはコンプレックス、僻み、そして憎しみ。
呼び寄せられた百人の男たちに、魔王四天王アウトサイダーの魔の手が迫る!!
次回、『魔法少女VSイケメン軍団』
失望者は期待する。どうしようもない奴らが、あい変わらずどうしようもない連中でしか無いという事を。
それではまた、次回!!
魔法少女フェアリーサマーはどれくらい活躍してほしい?
-
たくさん!!
-
ほどほどに!!
-
少なくていい!!