「ひいひい、まったく容赦のないガキじゃわい」
這う這うの体で老人が帰還した。
不意打ちをしたのに見事に夏芽に返り討ちに遭って。
「じいさん、勝負に焦ると小物っぽさしかでないぜ?」
談話室でスマホを弄ってくつろいでいる和夜が皮肉気に笑う。
「勝ちは勝ちじゃからいいんじゃい!!」
そう、彼の言う通り、今回は彼の判定勝ちだった。
この魔王の持ちかけたゲームは、地上に事務所を構えている魔王の運営サイドが審判を務める。
そしてそのような結果になった。
「儂は次の予告動画を撮らねば。
坊主は次の手は考えておるのかい?」
「考えてるわけないじゃん」
元々、和夜は、アウトサイダーは四天王の中で最も活動が消極的だった。
彼は他の面々と違って積極的に地上に干渉する動機を持たない。
「でも前回みたいにヌルいのは無しだぜ?」
その声に、二人はギョッとした。
談話室の片隅に、黒いローブの女がいた。
彼女はクリスティーン。“悪逆”のクリスティーン。
並行世界の住人たるティフォンも含めて、四天王の男どもは全員日本人だ。
だが彼女は純粋に、魔王と同じく地球の如何なる人種とも異なる完全な異世界人。
その上、その活動は謎めいている。
今回、文明の女神の主導で行われている魔王の派遣。
彼女は二柱の女神のその片割れ、邪悪の女神の神官だ。
四天王の男どもが魔王にスカウトされた人材なら、彼女は最初から魔王と共にこの世界に派遣された人間だった。
女神の使徒たる魔王が絶大な力と権力を有する存在であるように、その女神に仕える神官達も無数の世界から選りすぐられ、神に認められたエリートだった。
つまりこのクリスティーンも、神に選ばれた神官に相応しい人間なのだが。
「ぶっ殺す、って言ったなら最後まで貫き通せよ。
我が神はその中途半端さを嫌うぞ。ぎゃはははは!!!」
この女、どう見ても育ちの悪さがにじみ出ているのである。
神官と言うよりギャングの下っ端と言われた方がしっくりくるほどだ。
「覚悟が無いなら最初から何もするなよ。
臆病者にはそれがお似合いだ」
だが、彼女の指摘は本質を突いていた。
「ふん」
和夜は顔を逸らした。
図星を突かれただけでなく、言い返す度胸も彼には無かった。
悲しき陰キャの性だった。
「我らが大いなる至高の女神、メアリース様は人間の輪廻転生さえも管理していらっしゃる。
これはあんまり言っちゃダメなんだが、これってポイント制なんだよ。
メアリース様の作る社会に貢献すればするほど、来世に特典が付くんだ。
お前も来世で良い思いをしたいなら、魔王様に尽くすことだな」
一応文明の女神と合わせて二柱に仕えていることになっているこの神官はそんなことを明け透けに口にした。
「はッ、そんなネットの三流ファンタジー小説に登場する神みたいなのが、僕らの住む世界の神様とはね!!
この世界もそんな下らない小説みたいにゴミ同然なわけだ!!」
顔を合わせないまま、和夜は虚勢を張って皮肉を言った。
そんな彼を、クリスティーンは生暖かく見ていた。そう、まるで昔の自分を見ているかのように。
「当然だろう。メアリース様は、ああ、あの御方は地球世界出身だったな。
こちらでの正しい呼び名、メアリー・スー。その名の意味を私はこの地球で初めて知ったが、酷い由来だよな!! まあ、それを分かっていて、そう自ら名乗ってる御方だよ」
まさに、人間の傲慢を凝縮し、その愚かさも体現した偉大な女神。
「人間の文明そのものを司り、文明そのものたるかの至高の御方が、人間の生み出した輪廻転生と言う概念を管轄しているのは当然のことだ」
彼女がやたらと文明の女神を至高と持ち上げるのも、ある種の女神の自虐なのだろう。
なにせ人間と言う生き物は、他の生物を差し置いて地球の頂点を気取ってる連中なのだから。
「……」
それを理解して、和夜は黙った。
魔王を派遣したかの女神を皮肉ることがどういうことか、余りにも馬鹿馬鹿しいことを
「……あ」
だが、そこでふと、彼に天啓が舞い降りた。
まさにそうとしか思えない閃きだった。
「ふぃー、やれやれじゃ。
嫌なもんじゃのう、死んでも極楽が待ってるわけはなく、次の人生で次の仕事の日々が待っておるとは」
茂典翁はこの世界の残酷な真実に溜息をもらしていると。
「く、くくくく、くくくッ」
「いきなり、どうしたんじゃ?」
和夜は、肩を揺らして笑っていた。
「──次のアプローチが決まったんだ」
その邪悪な笑みを見て、茂典翁は思わず固まった。
ただ、クリスティーンだけは優しく微笑んで彼を見ていた。
§§§
さて、今日は平日。その真っ昼間。
上位者対策局に所属する魔法少女たちは、今日も出勤していた。
なにせ彼女たちは貴重な戦力である。
魔王が人命を賭けた以上、のんきに学校に行っている暇など無い。
だがそれは、国家機関として教育を怠るわけではなかった。
「今日は、日本の経済問題について学びましょう」
千利が、わざわざ広い会議室を使って、テーブルの前に座る二人に言った。
教師の資格持ちなど対策局に探せば幾らでもいるが、今回の授業内容で万が一が起こりうるため彼女が教鞭を振る。
「魔王が来て以来、この五年ほど日本の経済は不景気から脱しつつあります」
奇妙な話だった。
この地球にやってきて、破壊と混乱を齎している筈の魔王が来てからの方が、景気が良くなっているというのだ。
「その理由を、答えられますか?」
「あれですよね、魔王がこちらの被害を補償をしてるからでしょ?」
テレビでやってました、と水無瀬が答えた。
「そうです。魔王はあくまで異世界の住人。
最初こちらの貨幣なんて持っているはずも無く、無尽蔵にこの世界のお金を生み出せるわけでもない。
ではどうしているのか、と言いますと」
千利は部屋を暗くし、スクリーンに機械で映像を映した。
『わははは!! 儂は魔王様の眷属!!
お前たちが上位者と認めた魔王様の配下、故に儂は“上位国民”と言うわけじゃ!!
だから何をしようとも捕まらないのじゃ~!!』
『おおっと、機械が暴走してビルが~~!! 操作を間違えたわけじゃないぞ。
儂は悪くないんじゃ、これは事故じゃ、女神様の機械が悪いんじゃ~~!!』
サイバーサングラスをかけた老人が、映像の中で好き勝手にブラックなことを言いながら大暴れしていた。
茂典社長語録、と映像のタイトルには書かれていた。
水無瀬は眉を顰めたが、もう一人は歯を噛み砕かんばかりの表情をしていた。
「そうです、魔王は彼を起用し、自分たちが壊した分を補填する為の資金を調達するようになったのです」
その仕組みを、別の動画で社長当人が解説していた。
『儂が聞いたところ、魔王様が仕える女神様は何万と言う世界を管理しているそうじゃ。
その中には儂らの地球より文明の発展が遅れている世界もあるらしいのう。
儂らの会社ではそうした発展途上世界へ食料や医療品を輸出し、その対価に別のより優れた世界から商品を仕入れることができるわけじゃ。
偉大なる女神様の威光と言うわけじゃな』
先ほどの映像と打って変わって自分の放送チャンネルで物静かに、視聴者の質問に答えている茂典翁。
『あとは儂の伝手を使って売りさばけば、濡れ手に粟のごとくぼろ儲けよ!!
いやぁ、儲かっちゃって困るなぁ、儂らは壊した分を補償の為のお金を作れと言われただけなんじゃがなぁ~!!
常に成功をし続けてしまう、儂の才能が恐ろしい!!』
元々茂典翁はこの日本でも昭和の時代にカリスマ的な経営者だった。
魔王の協力が無くても、彼は既に成功をしていた。
『じゃから、安心して儂の会社の工場で働くと良い!!
なにせ、幾ら製造しても供給過多になることが無いからな!!
むしろ儂らがどれだけ頑張っても、無数の発展途上世界に食料を供給することは難しいじゃろう。
というわけで、幾らでも仕事先はあるし、ゆくゆくは儂が以前から計画していた──』
映像の茂典翁はとある図面を示した。
『この真・楪グループプレゼンツ、ユズリハタウン計画を実行するのじゃ──!!』
それは、彼の長年の夢である都市計画だった。
元々は土建屋として企業し、成功した彼の最終目標だった。
「欺瞞ですわ!!」
どん、とテーブルを叩いて立ち上がる、水無瀬の片割れ。
魔法少女ジェリー、またの名を楪 成実。
この老人の、実の孫だった。
「どうせあのクソジジイはお金欲しさに魔王に協力しているに違いありません!!」
「成実ちゃん」
怒りのまま、気炎を上げる成実に千利は一枚の書類を示した。
「じゃあ、これをあなたが払ってください」
それは、請求書だった。
つい先日、魔法少女ジェリーが戦闘で引き起こした破壊の結果だった。
総額、しめて十五億円也。
「そ、それは……」
「悔しいですよね、屈辱ですよね。
ええ、わかります。今私も同じ思いですから。
これを魔王の運営事務所に行って、補償してくださいと願い出るわけですからね」
千利はイヤミったらしく、彼女を睨みながら言った。
そう、彼女はかなり怒っていた。
「この補償金を誰が稼いでいるんですかね?
欺瞞だろうが偽善だろうと、あなたのお爺さんは結果を出している」
その事実に、惨めな気持ちになる成実だった。
憎き仇は悠々と莫大なお金を稼いで、破壊以上にこの日本に経済効果を齎していた。
失業者は彼のグループ会社の数々で目減りし、所得は増え、異世界産の商品が出回り始めた。
魔王たちは世界に混乱と破壊を齎しているのに、結果的に文明の女神がいつもしている仕事をしている。
文明を与える、という女神の権能は健在だった。
「分かったのなら、反省してください」
「……はい、わかりましたわ」
千利は溜息を吐いた。ここまで言って、ようやく反省を促せたのである。
彼女は彼女で苦労をしているが、それで周囲の仲間に迷惑を掛ける理由にはならないのだ。
今も彼女が巻き添えにした自衛隊員が入院中であるのだから。
すると、千利のスマホが鳴った。
「はい、どうしましたか?」
「千利さん、魔王の運営事務所の方で新たな動きが……」
「また新たな事業では?」
「それがどうにも違うみたいで」
千利は首を傾げながらも、電話を切った。
魔王たちと、彼が地上に残した運営事務所は妙な距離がある。
最近は真・楪グループに大部分を一任しているが、当初はその事務所が仕事の斡旋などの補償について失業者の世話をしていた。
だから、度々新しい事業を立ち上げていたのだが。
どうやら、今回も何やら動きがあるようだった。
だからと言って、ある種の中立地帯であるその事務所に何かを出来るわけでもないのであるが。
千利は授業の中断を二人に告げ、オペレーションルームに向かうのだった。
§§§
東京のとある繁華街の一角。
かつては夜の街と称されたこの町は、ゴーストタウンの如き静けさを保っていた。
ここは度重なる魔王の軍勢の蹂躙に遭い、そして魔王が置いて行った事務所が存在している為、今は人通りが殆どない。
そして、周辺の邪魔な建物を取っ払ったそこに、魔王の運営事務所が存在した。
この地球のどの文明とも似つかない未来的なデザインの建物が、地上から魔王の居城へと唯一やり取りのできる場所だった。
「だからさー、おたくらの所為で俺のバイクがお釈迦になっちまったんだって!!」
多くの人間が順番待ちをして補償を待っている中で、一人の男が受付で怒鳴り声を上げた。
「承認しかねます」
「だから、なんでだよ!!」
「もう一度ご説明いたします」
まったく同じ顔の女性が受付に並び、奥でも事務作業をしている異質な光景が、この事務所の日常だった。
彼女たちは、人造生命体。女神の似姿にして、現身。
彼女らは事務的に、機械的に対応する。
「あなたの損害は、記録にありません。
故に、補償をすることは致しかねます」
「だ、か、ら!! そんなの誰が見てたんだよ!!」
「我が主上でございます。我が主上は、地上の出来事の全てを把握しておられます」
幾ら怒鳴られても、眉一つ微動だにしない。
「それとも、我が主上を疑いになられますか?」
それは、事実上の最後通告だった。
この男はバイクの破損を魔王の所為にして補償金だけをむしり取ろうとしていた。
「う……」
だが、冷徹な視線を感じ取った男は、その無機質な瞳に恐怖を覚えた。
生物と言うより、ロボットと言われた方が納得できるほど、感情の無い視線だった。
「ちッ、わかったよ、クソが!!」
男が悪態をついて、受付から離れようとした時だった。
「もし、ちょっとよろしいでしょうか?」
「なんだよ、結局補償してくれるのかよ!?」
「いえ、事前に記載して頂いた資料によりますと、収入が無く、両親がご健在で、就労経験がございませんね?」
「それがなんだよ!!」
「そう言った方々に社会支援として、こちらのチラシをお渡ししています」
男が、受付から一枚のチラシを受け取る。
そこには、こう書かれていた。
『今日からあなたは人生の主人公!?
──衝撃の転生お試し企画。
人生をやり直したい方、大募集!!
女神メアリース様の手厚いサポート付き』
「はぁ? 転生だぁ?」
「はい、今の人生に、不満はありませんか?
境遇が違えば、自分は成功できたと思いませんか?」
無機質な女が、淡々と言葉を紡ぐ。
「そこで、ある方の企画により、先取して転生を実体験してもらおうという試みです」
「転生って言うと、生まれ変わりとかだろ?」
「はい、我が主上は人間の輪廻転生をも司っておられます。
応相談ですが、容姿や才能も優遇が可能ですよ」
彼女は事実を口にした。事実しか、口にしなかった。
「……本当に、人生をやり直せるのか?」
「勿論です。──なにせ魔王様も、前世はただの人間なのですから。
世間や社会に貢献し、文明の発展の一翼を担えば、次の来世で更なる優遇もなされます」
チラシを握り締めている男に、受付は機械的に受け答えをする。
「我が主上は、才能、家柄、容姿、人間関係、その全てを与えて下さります。
あなた方はただ、その期待に応えるだけでよろしいのです」
「や、やる、やってみせる!! 俺はやるぞ!!」
「分かりました。ではこちらの書類手続きをお願いします」
受付は流れ作業のように、彼に別の書類を渡した。
彼は、この世界の住人は知らなかった。
文明の女神に対する、他の神域の神々の蔑称を。
神々は言う、彼女を“ディストピアメイカー”、と。
悪魔は言う、彼女を“
その所以を、彼は、彼らは思い知ることになるのだ。
§§§
数日後。
「千利さん、主任、暴動です!!」
「暴動!?」
この対策局、事実上の最高指揮官である佐官位にある自衛官──指揮課の主任が困惑の声を上げた。
「どういうことですか?」
「現地に飛ばしたドローンの映像を映します!!」
オペレーターの言葉に、主任と千利はモニターを見た。
「なんだ、これは……」
千利は絶句し、主任は思わず声を漏らした。
映像には、百人ほどの人間が怒りのまま道を闊歩していた。
その行く先は、魔王の運営事務所である。
問題は、彼らの姿形だった。
銀髪。
オッドアイ。
童顔。
そして、何より──無駄にイケメンだった。
ほぼ同じ背丈の、同じ顔の同じ容姿の人間が、同じ目的地へと向かっていた。
「なに、これ?」
ようやく絞り出せた千利の言葉がこれだった。
「あ痛たたた」
「ふ、古傷が……」
そして二十代半ば頃の職員たちがダメージを受けていた。
更に、その場に居た夏芽は。
「う……うわ……うわわ」
かつて、中学生特有の病を患ったことのある彼女は白目を剥いていた。
「お、音声を拾います!!」
この光景にたじろいでいたオペレーター達も、作業に戻った。
『俺たちを元に戻せ──!!』
『こんなの話と違うじゃないか!!』
『詐欺だろ、こんなのは!!』
『どうしてくれるんだよぉ!!』
現場は、阿鼻叫喚であった。
彼らはやがて、目的地へたどり着いた。
『皆様、お揃いになってどういたしましたか?
事務所に訪れる方々のお邪魔になりますので、並んでお待ちください』
そして表に出て来た事務員の対応もいつも通り機械的だった。
『知るか、俺たちはこんなの望んじゃないぞ!!』
『そうだそうだ、話が違うだろうが!!』
テンプレイケメン軍団の猛抗議を受けても、やはり事務員は眉一つ動かさない。
『転生させてくれるなら普通は異世界だろ!?
なんで地球のままなんだよ!?』
『当方は一言も異世界に転生させるとは言いませんでしたが』
『百歩譲ってそれは良いとして、なんで全員が同じ姿なんだよ!?
普通もっと色々とあるだろぉお!?』
『申し訳ございませんが、企画者の意向です』
『ならその企画者とやらを呼べよ!!』
『現在、対応中ですのでしばしお待ちください』
怒涛の抗議を、事務員は淡々と対処していく。
その姿は芸術的でさえあった。
『そんなことは、どうでもいい!!』
やがて、一人のイケメンが涙ながらに叫んだ。
『俺は家に帰ったら、誰も俺を俺だと分かってくれなかった!!
どれだけ説明しても、持ち物や身分証を見せても!!
実家の前で泣き叫んでも、俺を俺と認識してくれなかったぁああ!!」
絶叫だった。
魂からの悲痛の叫びだった。
『当然じゃありませんか』
だが、事務員の対応は無機質そのものだった。
『転生とは、一度死んで生まれ変わること。
かつてのあなた達は、前世に過ぎません。その関係を、今生に持ち越せるわけがありません』
何を当たり前のことを言っているんだ、と言わんばかりに彼女は小首を傾げた。
『ふ、ふざけるなぁあああ!!』
余りにも無情な返答に、彼らは激怒した。
『さっさと俺たちを、元に戻せ!!』
『家に帰れなくなるなんて、俺は聞いてないぞ!!』
『この詐欺師が!!』
彼らは必死だった。
家から追い出され、それどころか自分を証明するものなど何一つない。
身分証や戸籍も無意味になった。
彼らは無一文で、名前も顔も奪われて、外に放り出されたのだ。
『それは、我が主上の恩恵に不満が有るという事でしょうか?』
『当然だろうが、このアマぁ!!』
『あの魔王の女神に願ったのが間違いだったんだ!!』
『こんなことになるなら、最初からこの話は受けなかったわ!!』
『なるほど』
イケメン達の言葉を受け、事務員は頷き。
『本来なら、リコール対応するところですが、今回は企画担当の意向により恩恵剥奪をさせて頂きます』
すっと、一番近くにいたイケメンを指差した。
『うッ、……うきゃ?』
彼は身動ぎすると、ポカンとなって。
『うきゃ、うきゃきゃ!! うきゃ、うきゃ!!』
まるで、猿のようにふるまい始めた。
あれほど怒り狂ったイケメン達が、ゾッとしたように静まり返った。
『我が主上は、文明の女神。その恩恵が要らないということは、その知性も、文明社会で暮らすことも、不必要という事』
事務員は、女神の現身は、その化身は淡々と、冷酷に告げた。
『なぜなら、この世界もあなた達の人生も、我が主上に与えられた物に過ぎないのですから』
全ては、女神の掌の上。
『ほかに剥奪対応をなさりたい御方はいらっしゃいませんか?』
静まり返った事務所前に、知性を失ったイケメンだけがウキャウキャと笑っていた。
『それでは、あなた達のより良い新たな人生を、我が神に代わってお祈り申し上げます』
事務員は、それだけ伝えると事務所に戻って行った。
残ったのは絶望の淵に叩き落された、イケメン達だけだった。
『ぷッ』
そんな連中を、嘲笑う者が現れた。
『あははははははは!!!』
かの者は、魔王四天王。
“失望者”アウトサイダー。
『お前らホントに、バカだよねぇええ!!』
手を叩いて、宙に浮かぶ悪の魔法使いは大笑いする。
『新しい人生? お前らみたいな親の脛を齧るだけの社会のゴミが、新しく生まれ変わった程度で何か変わるはずもないだろ!!』
『ま、まさか……』
『そうだよ!! 今回の転生お試し企画の、企画立案したのは僕だよ!!』
彼はわざわざ、このイケメン達が絶望する表情を見にやって来たのだ。
『どうだい、常日頃ひがんでるイケメンに成れた気分は!!
どうせ変わらないよ、生産性の欠片も無い、どうしようもない連中から、お前たちは選ばれたんだからね!!』
しかもわざわざ両親が健在な人間だけを狙った、悪魔の所業だった。
『さあ、イケメンに生まれ変わった、才能あふれる若人たちよ!!
──観念して働けよ。もうお前たちを守る両親も、自分の部屋も無いんだからな!!』
悪意の塊が、絶望するイケメン達にぶつけられる。
『僕はちゃんと期待してるよ!! お前たちが結局何も成せず、何もせず、生まれ変わってもどうしようもないゴミのまま日本の寒空で死んでいくのをさ!!』
『だ、騙したのか、この人類の裏切者が!!』
涙を流し、地に膝を突くイケメンの絵になる光景で、一人が叫んだ。
『はあ? 都合の良い時だけ仲間面するなよ。
僕は確かに人類の裏切者だと名乗ったけど、僕は人間社会の一員だと思ったことは一度も無いよ。
それに僕は、ちゃんとお給料をもらって働いているんだ。お前たちとは違うんだよ、バーカ』
邪悪に笑うアウトサイダーは、しかしここでニヤリと笑った。
『でも、僕も鬼じゃない。
事前に説明があったんじゃないか?
そう、君たちには膨大な魔力(なお、この世界で男は魔法を使えません。僕は例外)と、もう一つの転生特典が!!』
わざわざ括弧の内容まで口にして、アウトサイダーは唇を釣り上げる。
『その名も、ニコポナデポ!!
君たちイケメンが微笑んで頭を撫でると、その女性は君たちにたちまち惚れちゃって言いなりになっちゃうわけだ!!
無一文で寒空の下に放り出されるのは流石に可哀そうだから、僕が女神様に頼んであげたんだよ』
「んなッ」
その最低最悪な事実に、千利は言葉を失った。
『じゃあ、諸君。期待通りの働きを上から見させてもらうからね!!』
そうして、アウトサイダーは消え去った。
「な、な、な……」
主任もあまりの事に言葉を失っていた。
洗脳能力を持った暴徒が百人、この町中に解き放たれようとしている事実に。
「すぐに彼らを保護しろ!!
こちらの戦力を連れて、抵抗するなら力づくでも構わん!!」
「こんなのアリですか……」
余りに理解を超えた状況に、千利は頭を抱えた。
「……可能な限りはやりたくはないが、今の話を聞くに連中は法律上日本国民ではない。
都民に何らかの危害を加えるなら発砲もやむ無しと伝えろ!!」
主任の冷徹な指示が飛び、オペレーター達も各所に連絡をいれる。
「私は特殊局員の指揮を執ります」
千利の担当は、魔法少女の運用だ。
その点は主任とは立場が違う。
「最悪の事態にならないといいが」
彼の言葉は、生憎と神には届かなかった。
もう既に、暴徒たちが略奪を始めようとしているのだから。
「魔法少女ドライフレア、ジェリー、出撃の準備をしてください!!」
「あまり多用したくはないが、最悪の場合はドールズハートも動員させろ」
「分かってます」
余りにも無慈悲な、アウトサイダーの策略。
その対応に、誰もが動かざるを得なかった。
「行くの、夏芽」
「あのどうしようもない連中を助けるの?」
イケメン軍団が登場したあたりからずっと大爆笑していた二人の妖精が、踵を返した夏芽に問う。
「私が助けるのは、一方的な暴力に晒される無力な人たちだけ。
そうでしょう?」
彼女は妖精二人にそう告げて、千利を見やる。
彼女は目礼だけをして、己の師を見送った。
ここ、ハーメルンで二次創作を読み漁ってる皆様なら、一度くらいはテンプレイケメン転生者を見たことが有るのでは?
私がかつて、理想郷に投稿してた頃にはこのテンプレを皮肉る小説があったぐらい今では古いタイプのオリ主ですね。
今回の話から、オリジナル作品ながら、オリ主のタグを付けさせてもらおうと思います。
次回、いよいよあのイケメン軍団と魔法少女たちが激突する!!
ではこうご期待!!
魔法少女フェアリーサマーはどれくらい活躍してほしい?
-
たくさん!!
-
ほどほどに!!
-
少なくていい!!