Fate/ZERO with シルヴァリオ   作:甲乙兵長

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土日にあまり進ませられず、いつもより遅め。

もう一本今週中にとは考えてるんですが、行けるかどうか・・・・・・仕事終わりのテンション次第ですかね。


評価バーが着々と色づいてくれてて嬉しい。


2021.4.4 誤字修正




【Act7/回顧/Holocaust】

 拡散された使い魔に感あり。

 今宵も訪れた条理を外れた者たちによる騒乱の夜で、部下の一報を聞いた切嗣は使い魔に令を発した。

 場所は冬木市を跨ぐ大河川。冬木を新都と深山に割る未遠川(みおんがわ)。そこに向けて夜空を引き裂く雷鳴の戦車を捕捉したというのだ。

 ライダーの目的がなんであるか考察する意味はない。まず間違いなく追加令呪の確保のためのキャスター討伐しかありえないからだ。ただでさえ英霊の操縦が困難であろう未熟な魔術師に、豪放磊落が形を成したような征服王の気質。二つの不利があってウェイバー自身も危機感はあるに違いない。幸いいまだ現存令呪の欠けはないが、縛る鎖は多いに越したことはない。

 霊体化ができないケラウノスは現界したまま徒歩で移動するしか手段がない。負担なくメルセデスを使えると知ったあとは一応運用するか提案されたものの、ケラウノスは不要と一蹴した。

 

 

『俺単騎(ひとり)なら、自分で走ったほうが速い』

 

 

 断言したケラウノスは――跳んでいた。

 クラシックカーながら、最高時速260キロを叩き出せる潜在力を秘めた車輌運用を固辞したのは、単純な速力の差ではなく、移動方法が異なるからだ。平面を道沿いにしか走れない車と違い、自由に立体的な挙動が可能な健脚頼りのほうが英霊にとって利便が良いから。

 とはいえ霊体化できないということは物理法則の支配下ということで、重力空気抵抗慣性その他諸々、縛る制約は多くなるがなんのその。英雄の枷足り得ず。

 木から木へ。電柱から電柱へ。建物から建物へ・・・・・・強化された肉体で保有スキルである魔力放出により、跳躍と同時に脚部や背中などの要所から無色透明な魔力を噴射。ジェット推進の要領で身体をより高くより遠くへ跳ばし続ける。それはもはや跳躍というより滑空に近い。翼無き英雄の飛翔は街を行き交う一般人に捉えること(あた)わず、陣風の残滓を荒々しく置き去るのみ。

 そうして辿り着いた河川沿い。粉塵を立てて着地すると、ケラウノスは近場にあった巨大な排水溝を知覚する。普通車一台程度なら容易く通り抜けられるであろう横穴は、夜間ということも相まって不気味な姿を醸していた。吹き通る風の音が空洞に木霊(こだま)し、まるで巨大な怪物の唸り声のごとく響き渡る。

 

 

(この中か・・・・・・)

 

 

 ケラウノスは直感的に推理した。一帯にライダーの騎影はなく、キャスターは陣地形成を得手(えて)とするクラス。籠城可能な工房を設置するのに、この穴蔵は絶好だろう。試しにサーヴァントの霊視で魔力の痕跡を視覚化すれば、あからさまなほどに魔術の痕跡がうかがえる。隠蔽の手際が杜撰(ずさん)というより、そもそも他者に見咎められる可能性を考慮していないように感じた。逆にこれで今まで発見されていなかったのが不思議である。

 キャスターの真名は明かされていないが、彼らの所業を知る限り、決して尋常な精神性とは言い難い。自らの狂気のおもむくまま無辜の児童を次々と連れ去り手に掛ける悪逆ぶりは、断罪者の怒りに触れる十分なものだった。片手の負傷を気に掛ける素振りもなく、固く拳を握りしめる。

 いざ閃剣を抜き放ち、一歩巨獣の口腔へ足を踏み入れんとしたとき。

 突如背後に現れた気配にケラウノスは振り向きざまの斬閃を放つ。

 同時に、喉元へ突き付けられた紅の切っ先。

 天霆の一閃は相手の(くび)に吸い込まれる寸前、薄皮を裂く程度でとどまっていた。

 

 

「ランサーか」

「いつぞやの夜以来だな、セイバー。散歩するには随分と陰気な場所だが」

 

 

 飄々と軽口を叩きつつケラウノスの前に出現したのは魔貌の双槍士・ディルムッド。

 切嗣の謀殺から逃れたケイネスたちの所在はいまだ知れないままだったが、その健在はケラウノスの負傷が証明していた。ゆえにこそ、令呪を欠いた魔術師がキャスター討伐に熱を上げるのは必定。ランサーが戦線に出向くのは予測できていた。

 互いに刃を必殺の範囲に収めながら、衰えなく戦意を迸らせるケラウノスに対しランサーは苦笑しつつ言葉を発する。

 

 

「そういきり立つな。今回俺が主より(たまわ)った命はキャスターを倒すことだ。ここでお前と潰しあうつもりはない。もしその気だったなら、こんな距離で実体化などしないはずだ。違うか?」

「・・・・・・・・・」

 

 

 不意打ち狙いなら確かに長槍の有利を捨てわざわざ刀剣の間合いに入り込まずとも一方的に穂先を突き立てられたはず。あえてケラウノスの刃圏で実体化し反撃の余地を与えたのは、積極的に戦う意思を見せないための演出だったと考えるべきか。随分な博打(ばくち)だが、それだけセイバーの力量にある種信頼を置いていると見える。

 とはいえ、ランサーが全てを正直に語っているとも限らない。先の言葉に嘘はなかろうが、命令の内容を全て明かしているようにもまた思えなかった。

 わずかな沈黙ののち刀身を首筋から外すと、槍使いも切っ先を引く。

 一先(ひとま)ず理解を得たことに一息つき、ディルムッドは話を再開する。

 

 

「お前もキャスター討伐に出張ってきたのだろう? なら此度は一時共闘と行かないか? ここは敵に地の利がある。防衛を得意とするキャスターめを相手取るのに、戦力はあって困るものでもない。俺も、一英雄としてヤツの犯す悪行を看過できんしな。確実に仕留めるためにも、お前の協力は是非ともほしい」

「良いのか? あのマスターの性格からして、俺との共闘を受け入れるとは思えんが」

「それはそれだ。こちらも、過去のことはこの際水に流す、というのが我が主の方針でな。ある程度の自由は認められている」

 

 

 ランサーの語り口からして、相手はホテル襲撃がアインツベルンの手によるものとおおよそ察しているのだろう。まさか建物を解体爆破されるとは想像だにしていなかったであろうが、遺恨で状況判断を曇らせるほど短慮ではないらしい。

 と同時に、此度の出撃は互いに英霊単騎であると理解する。ならば槍兵の主は今どうしているのか・・・・・・。倉庫街のように遠間で様子見? 否、考えられるとすれば。

 

 

「そうか。尾行()けられていたのは俺のほうだったと」

「・・・・・・・・・」

 

 

 秀麗なる勇士は沈黙をもって応えた。

 先ほどから、ディルムッドはライダーの存在を言及せず、あくまでセイバーと自分だけが根城を突き止めたかのような言い方を取っている。つまり、ランサーは征服王が先んじて工房へ踏み入ったことを承知していないと推察すべき。ではどうやって秘された魔術師の棲家を知ったのか? 単純な話、張られていたのはセイバーのほうだったというだけのことだ。

 御三家と呼ばれている魔術師は冬木に元々根差す者たち。拠点とする場所も初めから認知されており、ケイネスはアインツベルン城の結界より外側で、ケラウノスたちの動向を見張っていたのだろう。

 最高戦力たるサーヴァントが防衛から離れた好機を、かのロードが見逃すはずはない。魔術師同士での戦いならば、純粋な闘争を得意としないアインツベルンに対抗できると踏んでの行動か・・・・・・。魔術師殺しの存在を呑んだ上での戦術なら、なかなか剛毅な性格をしている。あるいは長年培った自負(プライド)ゆえか。

 ランサーは、キャスターを討ち取るための先兵と同時に、セイバーの足止めを担ってもいるというわけだ。切嗣の想定した絵図通り敵は動いている。ならばケラウノスも盤上の駒として粛々と従うまでだった。

 

 

「・・・・・・行くぞ。すでにライダーが工房へ侵入している可能性が高い。勝鬨を奪われたくなければ急ぐことだ」

「承知した」

 

 

 言葉少なに駆け出す両騎。

 暗闇に閉ざされた下水管の道中は不気味なほど静かだった。超人的視力は暗所であろうと昼間のように空間を見通す。水たまりに混じって時折血染めされた壁や床を散見するも、生物の残骸らしき物体は転がっていない。黒焦げた(わだち)が道沿いに走っていることからライダーが罠や守衛などを戦車で轢き潰したと思われる。あの宝具の突破力は絶大。キャスターがどんな防衛手段を取っていたか察するしかないが、征服王を僭称するかの英霊の前進を止めるには役不足だったのは確かだ。

 

 

「これはもしやすると、すでに決着がついてしまっているかもしれんな」

「・・・・・・・・・」

 

 

 ディルムッドの軽口にケラウノスも内心同意できた。が、万が一もあり得る。

 しばらく道なりに走り続けて、ようやくトンネル状だった空間から広い場所に出た。

 無数の巨大な支柱が並ぶ伽藍洞。おそらく貯水槽だろう。怪物の(たと)えのまま表すれば胃袋にあたる湿った空間。そこに止まっている勇壮な神牛と戦車を視認し、少し離れた位置で二人の英雄は赤いマントの後背(こうはい)を見つける。

 

 

「・・・・・・ム? おう、貴様らも来たか。残念ながらここはもぬけの殻だぞ。奴らの根城に違いはないようだがな」

「これは―――」

「・・・・・・・・・」

 

 

 そこに展開されていたのは、一言でいえば雑貨屋である。

 椅子があり、机があり、楽器があり、時計がある。用途不明の何がしかや小道具もある。展覧された品々に規則性といったものはなく、手探りゆえの混沌と童心による遊び心がふんだんに拵えられていた。各種雑貨の意匠にもたらされた拘りはそれを制作した者の情熱と愛情を確かに備えている。そうでなければここまで周到に、ここまで徹底に、原型を失うほど形を変貌させなどしないだろう。

 ただしそれら全てが、()()()()()()()()()()()()()()という一点が、あらゆる物品に凄惨な狂気を宿していた。

 ましてや、雑貨の中には無惨に解体され切り開かれながらも、いまだ息絶えず意識を保ってさえいるモノも見受けられる。とうに生命活動を途切れさせてしかるべき状態で生存していられるのは、明らかに外法の業を施されているからに他ならない。彼らは終わらない悪夢と苦痛に浸されながら、延々正気であることを維持させ続けられているのだ。

 鉄臭さ蔓延る闇の中に広がった凄惨な光景に、二人の英雄は絶句しながら、同時に憤怒を燃え上がらせる。攫われた子供たちの悲惨な末路に、かつてない激憤が臓腑(ぞうふ)を焼いた。

 そんな二騎の内心を知ってか、ライダーはその豪放な性格らしからぬ平坦な声音で呼びかける。

 

 

「ま、見ての通りの有様でな。悪いが調べ物はなしだ。隠れ潜んでる連中がいる上、これ以上こ奴らを辱めるわけにもいかん。一切合切壊して焼く。異存はあるか?」

 

 

 固く得物を握った両人は無言だった。それを了解と取ったライダーは血だまりの地面に尻もちをついたマスターを抱え御車台に乗せる。

 

 

「生き残りは・・・・・・」

「息があるのもおるにはおるが、やめとけ。あのザマじゃ一思いに殺してやったほうが情けってもんだ」

「・・・・・・・・・」

 

 

 ウェイバーの提言を端的に切り捨て、征服王はキュプリオトの剣を抜き放つ。

 

 

「辛気臭いところですまんがな、ゼウスの()らよ。ひとつ念入りに頼むぞ――灰も残さず焼き尽くせッ!」

 

 

 地下空間に雷鳴が轟いた。

 ありえざる自然現象。源は無論、ライダーの愛騎。二匹の神獣と戦車から放散された雷撃は瞬く間に一帯を焼き焦がし、暗黒を紅蓮に染め上げる。容赦なく発揮される破壊工作に、改めて騎兵の宝具の強大さを認識するも、ケラウノスに余計な雑念が侵入する隙はなかった。

 かつて命であった残骸が、赤い蜷局に巻かれ朽ちていく。

 炎獄と化した貯水槽は、記憶にあるひとつの情景と結びついて離れない。鋼の英雄が記録した、二体の魔星による大虐殺。人肉が焼ける匂い、営みが崩れ去る音、暴虐の愉悦に酔う怪物たち。当時前身(ヴァルゼライド)が抱いた義憤、激情、己への不甲斐なさが、異なる世界で共感覚となって結合する。

 ゆえにこそ、ケラウノスはこの時点より、キャスターを全てに勝る邪悪と見定めた。

 流れた涙と血潮と悲嘆に報いるべく、裁きの雷霆は迸る。

 

 

 

 

「っ!? まさかッ、我が主―――!」

 

 

 暗い水路を抜け再び月下へ舞い戻った途端、美貌の槍兵が掻き消える。

 魔力の残粒子を宙に置いて消失したその様子に、ライダーが不思議そうに呟いた。

 

 

「なんだ今のは? ランサーが突然消えよったぞ」

「・・・・・・たぶん、マスターが令呪で呼び寄せたんだ。まさか本当に空間まで越えられるなんて・・・・・・」

 

 

 ほほぉ、とマスターの考察に気の抜けた返事をしながらライダーは顎鬚(あごひげ)を撫でて大体の経緯を把握する。

 

 

「つまりランサーのマスターは何か追い詰められるような事態に見舞われ、緊急手段としてサーヴァントを呼んだといったところか。お前さんらが揃って行動しとったのも、そのあたりの事情がありそうだのぅ」

「・・・・・・・・・」

 

 

 不敵な覇王の眼差しには一瞥(いちべつ)もくれず、ケラウノスは契約で繋がったパスを通じて思念を送るも、切嗣から反応はない。よほど窮する場面のただ中で応える余裕もないのか、意図的に無視しているのか。ともかくこの場に留まる理由はなく、一刻も早く帰還する必要に迫られていた。

 いざとなればランサーのマスターのようにケラウノスも令呪の空間跳躍で移動できるが、だからといって楽観的な態度で止まっていられるわけもなし。

 

 

「にしても、こう気分が落ち込んじゃおちおち戦う意気も湧かんわ。できることなら酒杯でも煽ってぱぁーっと陰気を吹き飛ばしたいところだが・・・・・・あ、オイ。セイバーお前酒はいけるクチ―――」

 

 

 コンクリートを陥没させる重々しい踏み込みでケラウノスは飛び立った。背後から呼び止めるような声は震脚の轟音にかき消され、英雄の耳朶に届かず迷子となる。

 小さくなっていく黒い勇影に溜息をつき、河川へ取り残された征服王はつまらなそうに独り言ちた。

 

 

「まったく、どいつもこいつも(せわ)しないわい。もうちっと泰然とせんモンか」

「オマエ、あんなことがあってよく平気だよな」

「うん? どれのことだ。キャスターの外道ぶりか? それとも謀られたアサシンに狙われたことか?」

「どれもだよ・・・・・・言っとくけど、僕は付き合わないからな」

「貴様に相伴(しょうばん)の期待なぞしておらんわ阿呆。あーつまらん。どっかに余を奮わせる河岸(カシ)はないもんか―――」

 

 

 悩む素振りで月を見上げしばし、ライダーがやおら笑みをこぼす。

 どこか悪戯小僧めいたサーヴァントの稚気に、早くも嫌な予感が止まらないウェイバーであった。

 

 




読了感謝!

次回はまた〇.5系列の話。今回の裏側。

魔術師たちの戦い場面ダイジェストの予定です。

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