Fate/ZERO with シルヴァリオ   作:甲乙兵長

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モチベ低下により先週は一本しか上げれず申し訳ありません。

まぁ不定期タグ付けてるから多少は見逃して?


この作品の行く先とか、別作を書こうかどうとか余所見をして筆が思うように進まなくなってきていましたが、とりあえず連載作品一本をどんな形であれやりきろうと改めて考えました。

これまで同様の投稿期間を心がけようと思うのでよろしくお願いします。

2021.4.4 誤字修正



【Act7.5/暗夜の魔手/Stigma】

 

 ケラウノスがキャスターの棲家を強襲した舞台裏、アインツベルンの拠点を主軸として二つの戦いが展開されていた。

 

 

 

 ひとつは、衛宮切嗣VSケイネス・エルメロイ・アーチボルト。

 実戦闘力に乏しいアインツベルンが第四次に備え雇った外部戦力、通称・魔術師殺しの異名をほしいままにする切嗣の強みといえば何より長年の傭兵経験から導き出した魔術師の弱点や陥穽を手段を問わず突く冷徹無比にあるといっていい。

 魔術師というのは己が神秘の体現者であり、有象無象の凡人とは一線を画す、一種の貴人であると自負して止まない輩が多い。そういった連中は同じ魔術による攻防の対策はしていても、ひとたびそれが銃や手榴弾といった近代兵器に入れ替わると途端に侮る節がある。選ばれた血筋が何世代と懸けて築き上げた術式や理法が、たかだか量産された軍事力ごときに劣るわけもなし。彼らの心底にあるのはそういった傲慢だ。

 無論、それをただの驕りなどと切り捨てられはしない。(れき)とした事実である。魔術は、銃弾やナイフ、ロケット砲すらも退け、鋼鉄の装甲や強化ガラスを突破しうる。大衆向けに普遍化された術など用いずとも、己らが継承してきた類稀(たぐいまれ)なる技術こそが何よりも信頼に足る手足であり剣と盾なのだ。

 だが、彼らは自らの磨いた力を尊ぶあまり、視野狭窄に陥っている側面もまたある。

 魔術に依存しない、凡人のために作られた外付けの暴力装置。人間が人間を殺すため、どれだけの時間と労力をそこにつぎ込んできたのか、正しく理解できている魔術師は実のところ少ない。

 だからこそ、衛宮切嗣は銃などの近代兵器を主兵装に戦う。それが最も敵の不意を衝き、効率的かつ的確に排除しうる合理的な戦法であったから。

 先のホテルの爆破にしてもそうだ。時には魔術師一人のために建造物や、飛行機や電車といった交通手段すら殺害工程に加えるのは、敵にとっての慮外であればこそ。まさか、と思い抱くやり方が、より多くの敵を殺し、結果的により多くの命を救う。

 しかし、そういった手管で斃せるのはあくまで『大半』であって『全て』ではない。侮りを捨て、正しく敵手の戦力を分析し危険度を数値化する、感情が行動に影響されない裏打ちされた実力を持つ者。それを称して切嗣は『強敵』と呼ぶ。

 そういった場面でこそ、切嗣もまた一人の魔術師として、己が秘奥を解き放ち相対する。

 今回の敵――ケイネスは、なるほどさすが時計塔のロードと認められる『強敵』であった。

 彼の魔術礼装『月霊髄液(ヴォールメン・ハイドラグラム)』は攻防一体をなす変幻自在な水銀だ。温度感知による索敵はもちろん、自律防御によって弾雨は容易に防がれ、ひとたび鞭のごとく振るわれる銀の触手は如何な防壁も裁断する無敵の矛。アインツベルン城の各所に設置されたキルトラップはことごとく無為と化し、ケイネスの悠々とした進行をわずかに遅らせるのみ。だが、完全な力など存在しない。一見無敵に思える月霊髄液の弱点を、魔術師殺しの慧眼はいち早く看破していた。

 策は功を成した。切嗣の魔術である『固有時制御』で体内の時間を操り通常の三分の一まで停滞させ、自動索敵から逃れた切嗣は不意打ちの一撃を見舞うことに成功する。

 トンプソン・コンテンダー。暗殺・護身用の小型拳銃の小口径から自動車の外板を貫通する大口径まで部品の取り換えで各種弾丸を射出できる単発銃。今回使用した弾は後者。自律防御の薄膜では到底防げない貫通力に、ケイネスの肩は負傷した。

 しかしこれはあくまで布石。この時点ではまだ切嗣はケイネスを仕留める気ではなかった。銃弾の当たり所が良ければ重畳、といった程度。

 真意は、ケイネスに己の礼装が突破される危機感を抱かせることだった。切嗣の手には、自身を脅かす武器がある。それを認識させ、次の機会にはより防御に徹底させる必要があった。

 ――『起源弾(きげんだん)』。

 衛宮切嗣が有する切り札(ジョーカー)。魔術師殺したる所以のひとつである礼装。

 起源とは、魔術師の界隈で知られる物事の在り方。あらゆる存在の原初に規定された方向性。あるいは本質。運命的な言い方をすれば、抗えない宿命とでも呼ぶもの。

 切嗣に冠された起源は『切断』と『結合』。

 かつて彼の師が語ったように、『破壊と再生』とは意味合いが異なる。

 たとえばロープなら、切れたのなら結びなおすことで機能を取り戻す。だが精密機械であったなら話は別。切れたコードや電子回路を適当に繋げても機能が戻ることはなく、より致命的な症状(エラー)となって再起不能になりえる。このように、彼の起源は修復するのではなく、あくまで壊れた対象を出たらめに継ぎ接ぐことしかできない。破壊の前と後に生じる避けようのない変化、不可逆性こそ彼の本質なのだ。

 一見、活用する術が見当たらない己が起源を、切嗣は必殺の武器に変えた。

 その解答が起源弾。霊的処理を施された肋骨を粉末にし弾頭に込めることで、被弾した対象には切嗣の起源が宿る。生物なら出血も外傷もなく被弾した部位は壊死し癒着、血管や神経は二度と元の形に戻らない。

 概念武装と化した弾丸に魔術で干渉した場合は相手の魔術回路にフィードバックする。魔術師にとって最も重要な魔術回路に作用した起源は、一度回路の各所を破断させ、そのあと滅茶苦茶に継ぎ直す。魔術回路は電子のそれと同様にとても緻密で一本一本の役割や機能が最初から定まっている。起動している精密機械の電子回路に一滴の水を落とせばどうなるか・・・・・・ショートした回路はスパークし巡っていた魔力(電気)はあちこちへ飛んで人体(基板)を自ら蹂躙する。暴走した魔力は向かう経路を見失って術者自身を、肉体的にも魔術的にも壊し尽くすのだ。

 魔術師にとってこれは相当な痛手、というより、実質的な死刑宣告である。仮に生き残ったとしても、二度とその身で神秘を行使することはできない。

 精製された魔弾は六十六発。そのうち三十七発は一発として過つことなく、三十七人の魔術師を殺害した。

 そして今宵、三十八人目の犠牲が生まれた。

 通常の豆鉄砲とは異なる30-09スプリングフィールド弾という脅威を確実に封殺すべく月霊髄液で起源弾を包み込んだケイネスは、途端に自ら励起させていた魔力によって体内を滅茶苦茶に焼き尽くされ、不規則に四肢を痙攣(けいれん)させながら受け身も取れず膝から崩れ落ちる。

 ――寸前。

 

 

「・・・・・・っ、カッ・・・・・・()()・・・・・・()()・・・・・・ッ」

 

 

 生存本能の賜物(たまもの)か。己が身に起きた事態を理解できずとも血泡を吹きながら令呪を輝かせた。

 切嗣は令呪の行使を察して即座にキャレコの火を噴くも、音速で放たれた銃弾はことごとく赤と黄の軌跡によって打ち払われた。

 ケイネスの手から二画目の紋様が消え、ここに臣下を招来させる。

 二振りの槍を携えた、泣き黒子が特徴的な魔貌の槍使い。

 ランサーは血反吐をぶちまけ意識を失っている主を抱えつつ、敵意の視線を切嗣に向けていた。表情を変えず銃口を構える切嗣であったが、内心は焦燥に支配されている。サーヴァントと正面から戦って、彼が勝てる見込みはゼロ。切り札であるコンテンダーは再装填が必要で、機銃の掃射も役に立たない。固有時制御で遁走しようにも、二倍三倍程度早めたくらいでこの双槍士から逃れられるヴィジョンが湧かなかった。状況分析する限り、単独戦力では完全に詰みだ。

 

 

(セイバーを・・・・・・)

 

 

 ならばこちらも令呪を使い、使い魔を呼び寄せようとしたところで。

 

 

「案ずるな、魔術師。いや、セイバーのマスターよ」

 

 

 依然厳しい眼差しを絶やさず、二槍を一束に持ち片腕でケイネスを肩に担ぎながら、ディルムッドは切嗣を制した。

 見咎めた右手の令呪。それは相手が好敵手の真の主と察するに足る証明だ。ランサーを見るやすぐにサーヴァントを呼び寄せようとしたことからも、目の前の男が単独で動いていたセイバーのマスターである証立てのひとつ。

 もとより、相手は魔術師として優秀なケイネス卿を打倒した。それもまた、黒コートの男の正体を知るきっかけでもある。

 

 

「ここで貴様を刺し貫くのは容易いが、ケイネス殿はかすかだがまだ息がある。貴様を仕留める時すら惜しい。今宵の勝負は預けるぞ、魔術師」

 

 

 言い捨てるや、身を翻して回廊の窓を破砕し、槍兵は主と共に夜闇へ消えた。

 その急いた背中に銃口を向ける思考も刹那()ぎったが、逡巡(しゅんじゅん)短く放棄する。今回は明らかに命を拾った形だ。あのまま仇討ち目的で穂先を向けられれば死んでいたのは切嗣である。

 救命を見過ごしたとて問題ない。ケイネスはもしやすれば生き残るかもしれないが、魔術師としてはすでに死骸だ。健常にこの先過ごすのも難しいだろう。処理の機会はあとでいくらでも巡ってくる。

 

 

(にしても、あのまま去るつもりならわざわざ令呪の使用を制したりせずとも無駄打ちさせれば戦略的価値もあったろうに。つくづく騎士道精神のおめでたい英雄というのは・・・・・・)

 

 

 切嗣は詮無き思慮を巡らせつつ、妻と共に離脱した舞弥へ電話を繋ごうとして―――。

 指に走った痛みに思考が飛んだ。

 切嗣の指の皮膚下には術処理した舞弥の髪が仕込まれている。彼女になんらかの生命の危機が及んだ場合、髪が燃えて切嗣に事態を伝える仕組みなのだ。

 それが発動したということは、必然的にアイリスフィールも―――。

 焦燥感に急かされるまま、切嗣は叫んだ。

 

 

 

「令呪をもって我が傀儡に命ずる! セイバー、今すぐ戻ってこいッ!」

 

 

 

 ***

 

 

 

 アインツベルン城下の森林地帯にて、もう一つの戦いが発生し――今、決着した。

 

 

 

 わずかに時を遡る。

 サーヴァントの留守を狙い強襲を仕掛けたケイネスを迎撃するべく待ち受ける切嗣を城内に残し、アイリスフィールと舞弥は夜の森を密やかに進んでいた。

 聖杯降臨に不可欠な『器』であるアイリスフィールの身の安全は他の何を置いても優先される。よって万が一がないように、切嗣は護衛を付け彼女を一足先に逃がしていた。

 特に、彼女はサーヴァントが二人敗退したことで身体機能に障害が出始めている。脱出も容易ではないと覚悟していたが、意外にも二人の歩みは快調だった。

 肩を支えるまでもなく、アイリスフィールは平時と同じように己の両足で地を踏みしめ悠然と歩いていた。昨晩の不調ぶりが嘘のように、彼女は活力を取り戻している。白昼休息に時間を当てたからと言って、これほど劇的に体調が復帰するものかと懐疑的な切嗣と舞弥だったが、襲撃中にそれを問いただすのは憚られた。

 アイリスフィールは、自身の復調がケラウノスがもたらしてくれた何がしかの恩恵によるものと理解していた。道中、話す余裕が生まれたアイリスフィールは、舞弥にそのことを説明する。最初こそ彼女は驚き、胡乱な素振りも見せはしたが、結局は相棒の妻を信頼することにした。

 以前よりも冷女の態度が和らいでいるように見えるのは錯覚ではなく、聖杯の秘密に始まり己が胸中を吐露したゆえ距離感が縮まっているからだろう。前とは違い、二人はどこか気安い雰囲気で道すがら話をしていた。

 互いの願い、切嗣への感情、舞弥の事情とホムンクルスの事情・・・・・・様々なことを。

 しかし不意に、アイリスフィールは結界に新たな侵入者が現れたことを悟る。

 遠見(とおみ)の眼で敵手を認めたアイリスフィールは、苦々しい名を口にした。

 

 

「言峰、綺礼・・・・・・!」

 

 

 聖杯戦争開幕より前から、切嗣が要警戒していた危険人物。

 黒い僧服を纏った(くら)い気配の男が、迷うことなく城へ向けて歩を進めていた。

 奴の目的はあくまで切嗣。二人の認識は合致していた。

 ならばこそ、危険を冒してでもあの男をこのまま進ませてはならないという意思に相違はなく。

 

 

「ですが・・・・・・」

「分かってるわ。危険なのは百も承知。でも、私だって、ただ守られるだけのお姫様じゃ格好悪いわ。私はあの人の妻なのだから、夫の道行きを開くのも、役目のひとつでしょ?」

「・・・・・・わかりました。お覚悟願います。マダム――いえ、アイリスフィール」

 

 

 かくして、求道者の障害となる選択をした両名。

 最初はうまくいった。幻術で攪乱した舞弥の銃撃と体術、そしてアイリスフィールの糸を駆使した魔術で綺礼は両腕を封じられ、無防備な背を晒す的と化した。いかに研ぎ澄まされた武術と肉体があろうとも、力を発揮することができなければウドの大木。あとは死に物狂いで這いずる舞弥が再び銃を手にしたなら勝負は決まる・・・・・・はずだった。

 だが、彼女らの認識はあまりに浅かった。言峰綺礼は、紛いなりにも代行者――聖堂教会における異端狩りに己を特化させた戦闘マシーン。たかだか腕を樹木に固定した程度で捕えたなどと、思い上がりも(はなは)だしい。

 自らの魂に空いた洞を埋めるべくつぎ込んだ苛烈な修練の極致。中国拳法の秘奥にまで達する綺礼の武錬は極論、全身が凶器である。

 緩やかな吸息からの鋭い呼息。拘束された手のひらを木の表面に当て寸毫(すんごう)から放たれた発勁により、三度の乾いた衝撃音ののち大人の胴体はあろう成木は断裂の悲鳴を上げて叩き折られた。

 そのあとの顛末は言わずもがな。自由を取り戻した代行者は投擲剣で黒髪の女を虫の標本のごとく縫い留め、銀髪のホムンクルスの首を掴み片手で持ち上げる。

 呼吸を断たれ、意識は朦朧。綺礼はいくつかアイリスフィールに詰問したはずだが、問いかけられた本人である彼女はなんと答えたのか覚えていない。ただ、何か言い負かしたような記憶がかすかにあり、どこか清々しく勝ち誇った気分にはなった。

 現実的に見れば、絶体絶命。起死回生の手札はなく、次の瞬間には頸椎を折られるか、投擲剣で串刺しにされるかもしれない。だが、恐怖も媚態も覗かせはしない。胸の内で不思議とこみ上げる不退転の覚悟、不屈の闘志が、抗う活力となって視線に宿る。執念とも呼ぶべき強烈な思惟を湛えた眼光に、綺礼は奇妙な戦慄を覚えた。

 なんとしてでも食い止める。

 決して先へは行かせない。

 今わの(きわ)、アイリスフィールが発した異様な気迫。それに根源的な恐怖を刺激され、綺礼は不愉快なその赤い瞳を抉ろうと袖から新たに黒鍵を取り出した。

 次瞬。

ふむ、及第点には達したといったところか。ではひとつ、聖印を授けよう―—―

 声ならぬ思念が女の脳裏でひとつ弾けて。

 

 

 

 首を掴む綺礼の腕を凄まじい衝撃が襲った。

 

 

 

「な――に・・・・・・ッ!」

 

 

 何が起こったのか・・・・・・黒き僧侶は脳内で出来事を反芻(はんすう)する。

 ホムンクルスの女が突然綺礼の腕に触れた。それだけだ。半秒後、いきなり防弾処理を施された僧服の一部が弾けるように破裂し、骨身に浸透する痛烈な衝撃が迸った。まるで度重なる打撃を一度に浴びたかのような激震だった。

 女を取り落とし、いまだ痺れが抜けない左腕を庇いつつ周囲を見渡すと、倒れた黒髪の女がいない。見れば、少し距離を開いた地点で木々の間を縫うように縦横無尽移動しながら、アイリスフィールが舞弥を抱えて走っていた。

 女の歩幅、その上足手纏いを抱えたその疾走は見るからに遅い。焦らず刃を実体化させた投擲剣を構えつつ綺礼は追跡を開始する。

 彼我の距離はそう間を置かずに縮まった。が、

 ()()()()

 指を鳴らすような音が響くと、駆ける綺礼の足元がいきなり爆ぜる。

 バランスを崩したタイミングを見計らったように次の指拍子が二度三度。

 先ほど己が成した断末魔と似た乾いた音が両脇から上がり、倒壊した木々が枝葉ごと巨大な槌となって綺礼の頭上を覆いつくす。咄嗟に転倒しながら回避した先で再び地面から謎の衝撃が膝を襲い、痛みに呻く間もなく糸で編まれた怪鳥が爪を露わに飛来する。

 黒鍵を放ち迎撃するも、虚空でほつれた鳥は難なく投擲剣を素通りさせ捕獲網となって降り注ぐ。同じ手は食わないとばかりに爪のごとく連ねた刃で糸を細切れに切断すると、背後から風切り音。

 先と同じ糸編鳥。今度は二羽の雌雄が(くちばし)から突貫してきた。

 無駄なことと内心嘲りつつも油断なく武器を投擲。迫る比翼を頭から貫き勢いを殺す。

 だが、ほどけた編み鳥の内側から無数の小石が散弾となって身体を打つ。顔面を庇いつつも、緒戦で機能はそれなりに削がれたとはいえ防弾仕様はいまだ健在。小石程度わずかな痛痒にもなりはしな―――。

 

 

(いや、()()()ッ)

 

 

 パチンッ――遠間から起爆の合図が夜闇に響く。

 まるで爆竹が弾けるように、全身の至る場所から不可視の衝撃が連鎖する。小石の被弾個所を起点にして。何人ものボクサーから袋叩きにされるがごとく、不自然なパントマイムを踊りながら綺礼は自身の身に生じる謎の力の一端をようやく把握した。

 触れた対象に衝撃エネルギーを張り付ける。あるいは複数重ね掛けする。

 それがアイリスフィールがもたらす異能の詳細だ。しかしこれは・・・・・・。

 

 

(魔術・・・・・・なのか? 魔力を使ってはいるが・・・・・・何かがおかしい。仮にも時臣氏に師事した身からして、どうにも異質な気配に感じる)

 

 

 外様(とざま)ではあれど、かつて貪欲に魔術の道を修めた綺礼をして、相手の用いる異能が常識的に知られる魔道の術理とは別のモノであると推測した。

 しかし。

 

 

(・・・・・・だからどうだという)

 

 

 衝撃の付属ならびに重層化。種が露呈すれば手は打てる―――。

 そう判ずるものの、実際の代行者は前に進めずにいた。

 地には地雷。樹林は障害かつ打撃武器。空からは糸編みの怪鳥。懐に仕込まれた異能仕込みの(つぶて)・・・・・・こちらの挙動をあらかじめ思考ごと読み取っているかのような綿密なトラップの数々。一歩踏み出せば、拳を構えれば、視線を巡らせば、あらゆる動作を取ろうとも確実に妨害の罠に見舞われ、後の先を取られ続ける理不尽な鳥籠のただ中に綺礼はいた。

 単なる魔術頼りではない。衝撃付属の汎用性はさることながら、何よりその仕込みの的確さが悪辣に尽きる。人間心理や生理的情動を事細かに把握していないと不可能な策謀の巣。これを行える存在は稀代の謀略家だ。人心掌握に秀でる怪物じみた頭脳の持ち主。

 だからこそ解せない。この手管はあのホムンクルスのものではない。実行役は彼女かもしれないが、中身が違う。入れ知恵をした輩がいるとすれば・・・・・・。

 

 

(衛宮切嗣・・・・・・)

 

 

 可能性で言えば奴しかいない。

 だが、なぜ今まで隠し立てていたのか。切り札として取っておいたにしても、いささか不自然な感が否めない。書面記録上の切嗣しか判断材料のない綺礼には、確信を持つ証拠が不足していた。

 とはいえ、足止めを喰らっている事実に変わりはなく。このままではいずれ―――。

 

 

(綺礼様)

(アサシンか)

 

 

 念話で語りかけてきたサーヴァントの()()。主に綺礼の手元で他のアサシンたちを統括している女の髑髏面だ。

 

 

(城内の決着がついたようで、サーヴァントの気配が急速に接近しております。おそらくはセイバーかと)

 

 

 報告を聞き、綺礼は潮時を悟った。サーヴァントとの正面衝突になれば敗北必至。結局、まんまと時間稼ぎに乗せられてしまった形となった。

 

 

(・・・・・・アサシン。セイバーと接触しないルートで撤退する。先導しろ)

(はっ)

 

 

 退却の意思が固まればあとは早いもので、負傷した腕の違和感を抱えつつ黒衣の僧侶は立ち去っていく。

 その背を木陰から見送る銀髪の女、アイリスフィールは、生き残った事実が信じられない心地と脅威を退けた安堵が混然一体となり、困憊(こんぱい)のまま傍の木を支えに崩れ落ちた。

 自分に巻き起こった不可解な異常。胸に宿った熱が核となって身体を動かし、かつてない精度で魔術を行使した。戦略的主体となった謎の衝撃付属の能力は、どう扱えばいいのか、どのような位置に設置すれば良いのか、次に取るべき行動は・・・・・・そういった複数の情報が連続的に脳内へ流れ込み、アイリスフィールは身体があらかじめ動作を知っているかのごとく自然に最善手を打ち続けた。まるで、一時的に別の誰かがアイリスフィールを操縦していたかのような・・・・・・生きた他人の匂いや性格が垣間見える挙動の数々。

 身体の疲弊は以前にも増して重く、無理矢理形成した魔術の連続発動によって回路が悲鳴を上げている。捻出した力の代償は、確実に己を淵まで追い詰めていた。消耗されたであろう命の刻限。だが、それに対して不気味さや怒りを露わにするでもなく、アイリスフィールはただ修羅場を生き延びたことに感謝する。

 傍らに転がった舞弥をうかがう。被害は甚大で、傷も深いが、命はなんとか繋いでいた。わずかに漏れる苦しげな呼気だけが、今は安心材料。綺礼が逃げたということは、おそらく切嗣がセイバーを呼び戻したのだろう。大声を張り上げる余力はアイリスフィールにも残っていないが、なぜだかかの英雄ならすぐにこちらを見つけられるという妙な確信があった。

 

 

(助かったのはセイバーのお陰、かもね。二つの意味で)

 

 

 ケラウノスが与えたなんらかの恩恵。それが消耗の器たる己に力をもたらした。

 次に会ったらこっそりお礼を伝えなければ、などと最後に考えつつ、アイリスフィールはシャットダウン工程を終えたコンピューターのように、ふっと意識を落とした。

 

 

 





読了感謝!

例のアノ人の影が見えてしまいましたね。

まあもう一方が手を出さなかっただけマシってもんです。


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