Fate/ZERO with シルヴァリオ   作:甲乙兵長

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タイトルが全てを物語る。

もうちょっと匂わせるぐらいに加減するべきかとも思いましたが、

まぁ、引っ張ってもどうせ読めば分かるしいいか、と開き直り。




【Act9/牙剥く欲望/Favnir】

 

 

 冬木大橋付近の河川敷にて。

 尋常ならざる魔術の気配に各々河川敷へ(つど)った聖杯戦争参加者たち。

 ライダー、セイバー、そしてランサーはサーヴァントのみが揃い、一様に四百メートルはあろう川幅の中州に厳しい眼差しを向けていた。

 隠遁していたキャスターが狂気のままに召喚した怪魔の軍勢。川底を埋め尽くす勢いで喚起された穢れし魔性どもは、あろうことか召喚者であるキャスターを内に取り込み、一体の巨大な怪物へと変貌した。

 筆舌に尽くしがたい汚肉の集合体は、今はまだ佇立(ちょうりつ)するばかりだが、やがて本能のまま動き出し、密集した人工住宅地へとその矛先を向けるだろう。呼び寄せるだけ呼び寄せられて、彼らは魔力に飢えている。人間を捕食し、魔力を自ら生産できるようになってしまえばもはや止められる術はない。

 桁外れの魔術行使に、河川は濃い霧に覆われ地上から大怪魔の存在をはっきり視認はできないだろうが、それも時間の問題だった。すでに対岸には異常を察した野次馬が集まり始めている。ここまで大っぴらな憚りなき魔術の実行。世論への神秘隠匿を絶対とする魔術協会、ならびに此度の監督役である聖堂教会神父は今頃てんやわんやの大騒ぎに見舞われているだろう。

 組織内騒動はともかくとして、実際問題放置できるわけもなく。

 戦車に乗ったまま、征服王は思案げに顎鬚(あごひげ)を撫ぜる。

 

 

「さぁてと。集まったはいいものの、どうするべきかのぉ」

「監督役の情報では、キャスターは魔導書タイプの宝具を所持しているそうだけど・・・・・・」

「モノが見えていれば、俺が遠間からでも槍で射抜けるのだがな」

「そうか! 魔術を断つ槍の効果なら、宝具そのものは別でも召喚術式は破壊できる」

「頼もしい限りだが、件の宝具はキャスターもろともあの分厚い肉の中。さっきちょいと一撃見舞ってみたが、傷ついた端から肉が盛り上がって修復していきよる。引きずり出すのは骨が折れそうだわい」

「現状、もっとも火力があるのはライダーの戦車と、セイバーの剣、かしら?」

「おお。そういえば、お主の剣は何やら敵を滅することができるらしいな。もしやすると、セイバーの刃なら再生しにくいかもしれぬ」

「なら、ライダーとセイバーでとにかく焼くなり斬るなりしていって、隠れるキャスターを引きずりだしたなら・・・・・・」

「俺が破魔の紅薔薇(ゲイ・ジャルグ)で宝具を貫く、と。そういう手筈か」

「そうすんなりと行けるかが一番肝要であるが・・・・・・他に手らしいものもない。バーサーカーの姿をとんと見かけなくなったのも不気味ではあるが、今は置いておく。今回ばかりは、皆で(くつわ)を並べなければ対応できん輩であるしな。ところでセイバー、お前水上の敵に相対する備えは持ち合わせておるのか? この前みたく跳ぶだけでは限界もあろう」

「――ことごとく、心配は不要だ。アレの相手は俺だけでいい」

 

 

 途端、沈黙の帳が落ちた。

 一同瞠目し、正気を疑い、(いぶか)しむ。

 ケラウノスの断固とした台詞と態度は、先の言葉に微塵の欺瞞も冗談も含んでいないと、言外に語っていた。もとより、こんな土壇場でふざけるような性格の男でないことは誰もが承知している。だからこそ、無謀極まりない発言の意図が読めなかった。

 なんとも言えない空気が場を支配する中、代表してマスター・・・・・・アイリスフィールが鋼の男に声をかける。

 

 

「セイバー。それはどういうこと? あなたには、召喚魔を倒せる秘策があるの?」

「秘策などと大仰なものではない。ただ、俺の描く方法には征服王の協力が要る」

「余か?」

「そうだ。・・・・・・先日、貴様の使ったあの世界――固有結界だったか――あそこにあの怪物と俺を共に放り込め。あとは、全て俺が片を付ける」

 

 

 それは確かに、作戦とは呼べない愚策であった。

 ライダーの持つ戦車型の宝具、『神威の車輪(ゴルディアス・ホイール)』は確かに強力無比な対軍宝具だ。しかし、彼の持つ真価は戦車にあらず。

 先日、アサシンを葬る際に(ふる)われたその名は『王の軍勢(アイオニオン・ヘタイロイ)』。

 征服王として歩んだ彼の軌跡、その生涯、その生きざまの集大成とでも呼ぶべき絶大無類の規格外宝具。かつて戦場を共に駆けた臣下たちをサーヴァントとして再び王の下へ集わせ、彼らと同じく魂にまで刻みこまれた心象風景を具現化することで、世界そのものを己の領域に塗り替える大禁呪。本来、封印指定レベルの魔術師でもなければ成せない偉業を、志を同じくした勇者たちと共有することで、理を捻じ曲げ蹂躙するまでに至った――征服王イスカンダルの誇るべき至宝。尊ぶべき絆の王道。

 多重人格の数だけ実体化する数十人の暗殺者たちは、持ち前の技巧を活かす場もなく、熱砂の平野に血を吸わせる結果となった。

 ケラウノスは、固有結界という戦舞台を貸せと端的に述べている。

 それ以外の助勢は欠片も必要ないと。

 

 

「・・・・・・その自信。お前さんも、光る剣以外の切り札があるということか?」

「あまり進んで頼りたくはないのだが、状況が状況だ。仕方あるまい。切り札というより、鬼札と呼ぶべきだろう類だがな」

「・・・・・・・・・」

 

 

 征服王はしばし英雄の提案を咀嚼(そしゃく)するように吟味し、結論を導いた。

 

 

「――よかろう。やってみるがいい」

「ライダー!?」

 

 

 使い魔の呆れた独断に、マスターは非難の声を上げる。

 

 

「こやつに限って大言壮語を吐くばかりではなかろうて。それに伴う自負と目算があればこそ、無茶な要求をこの場で述べたのだ。どっち道、あのデカブツをこのまま現実に置いとくわけにもいくまい。ほれ」

 

 

 顎をしゃくって夜空を示すと、促された方角から黒く先鋭的なフォルムの鋼鉄が飛来してくるのが見える。災害派遣要請によって哨戒任務から偵察を指示された二機の戦闘機であった。

 

 

「ああいった連中にちょっかいかけられると、こちらとしても動きづらかろう。ならばどうあれ、あの怪物にはご退場願うしかない。・・・・・・にしても、アレいいな。昼間空を飛んどるのとは別物か? なぁおい」

「ああもうっ。余計なモンにばっか興味惹かれやがって! いいよ好きにやれよまったくさぁッ!」

 

 

 マスターのやけくそ気味な発破に得意げな笑みを浮かべ、ライダーはキュプリオトの剣を抜き放ち、臣下たちを招集すべく『座』へ向けて思念を発する。

 準備を整えるライダーの横で、アイリスフィールはケラウノスへ呼びかける。

 

 

「セイバー。あなたのことだからやり遂げるだけの自信があるのでしょうね。でも、いざとなったらすぐに帰ってきて。何もあなたが傷を負う道だけが全てじゃないのだから。もしものときは、別の手を考えればいいのよ」

「・・・・・・配慮は有難く受け取ろう。だが、俺はもとよりこういう性質(たち)だ。隣に誰かを伴うよりも、単騎で敵と向き合うほうが性に合う。今回も、どちらかといえばお前たちを俺のせいで無用な暴乱に巻き込まないための措置でもある。目先の敵に集中してしまえば、俺も自分がどれだけのことをしてしまうかわからんからな」

「そう・・・・・・なら、もう多くは言わないわ。彼の代わりに告げましょう。セイバー、どうか無事で。そして、私たちに勝利を」

「――受諾する(ポジティヴ)

 

 

 かつて所属した軍部の符丁を放ち、ケラウノスは七刀のうち二振りを抜刀する。

 宝具展開の段取りを整え、戦車よりマスターを下ろしたしたライダーはランサーに言伝(ことづて)る。

 

 

「もしも我らが失敗したなら、あとは貴様の槍だけが頼みの綱だ。のけ者にしておいてなんだが、機を逃さず、力を蓄えておいてくれよ? ランサー」

「分かっている。貴殿らの武運を祈る」

「坊主、宝具を展開してしまえばこっちから外の状況は分からなくなる。現世(おもて)で何かあれば余に強く念じて呼びかけよ。遣いを寄越すでな」

「あ、ああ」

「よぅし――覚悟は良いか? 異邦の英雄」

「語るまでもなく」

 

 

 川べりに両者は位置取り、微睡(まどろみ)から覚め始め挙動が活発化していく召喚魔を見据えながら、充溢した闘気と魔力を放散させる。

 大地を炸裂させ、踏み込みと共にケラウノスは疾走を開始した。

 一足飛びで十メートル近くを走破した英雄の足は必然水面に着地し沈むかに思えたが、いかな条理の歪曲か、彼の踵は地面を踏みしめるがごとく流動する水を捉え、わずかにも減速することなく飛沫を散らして河面を平然と走っていく。

 黒衣の背が先んじたのを見送り、褐色の巨漢は感心したような、呆れたような呟きを漏らした。

 

 

「まったく、とことんまで己で解決してしまう奴だのぅ。(まこと)にお前さんは英雄像の体現よ―――」

 

 

 であればこそ、瑕疵(かし)なきその在りようは余計に人外じみて痛々しいのだが。

 声なき思惟を胸中にとどめ、ライダーは牡牛の背に鞭を振るう。

 勇ましい雄叫びを響かせて、雷気纏った神の車輪が宙を滑走する。

 水上を駆ける男に後れを取るまいと、二頭の神獣は隆々と猛った四肢を躍動させ、あっという間に追い抜いた。そして身に帯びた突進力をそのままに、巨大な砲弾のごとく稲光を迸らせて怪魔に肉薄する。

 

 

 

「行くぞデカブツ! 我が至宝、我が王道、イスカンダルが踏破せし覇道をとくと知れぃ! ――『王の軍勢(アイオニオン・ヘタイロイ)ッ!』」

 

 

 

 ――世界が変遷する。

 限定された空間ながら、それはまさしく世界に対する征服の具象であった。

 猛進したライダーの一喝と同時に現実世界から大怪魔と戦車上の彼本人、さらにはケラウノスの姿が掻き消え・・・・・・上塗りされた別位相(レイヤー)の乾いた大地へと招かれる。

 果て無き蒼穹の中天に据えられた熾烈な太陽。地平線の霞まで続く砂の海。

 イスカンダルと朋友たちが等しく魂魄に刻んだ戦いの平野(セカイ)は、どこまでも広がりながら異形と異邦の客人を寛容に迎え入れる。

 征服王は転移するや漆黒の愛馬に騎乗し、その背後に何万何十万の己が軍勢を待機させたまま、離れた場所に佇む黒衣の背と、さらに数十メートル向こう側で山のごとく雄大な怪魔が砂漠の乾いた塵風に煽られているのを視界に映す。小山のごとき存在感は、足元のセイバーと比較すれば(アリ)(ゾウ)ほどの差があり、遠間からでも十分すぎる重圧を見る者に与えていた。

 無論、ライダーの誇るべき勇者たちはたとえ未知の巨獣であろうと恐れはしない。長槍を、剣を、弓を構える王の軍勢(ヘタイロイ)は陣形をとって突撃の号令を今か今かと待ち、いつでも駆け出せるよう戦意を滾らせている。

 とはいえ、今はまだそのときではない。

 なぜなら此度の戦は一人の英雄の真価を問う試練なのだから。

 

 

「見せてもらおうセイバー。貴様の極めた孤高の王道が、如何な物語を吟じるのか」

 

 

 ・・・・・・背後に居並ぶ強壮なサーヴァントの大軍に見届けられながら、ケラウノスは泰然と怪物を見上げる。

 近場で見上げるその威容は、山などと表現する余裕のない物質化した『圧』であった。

 ケラウノスの視点からはまるで天の恒星(ホムラ)を覆い隠す天岩戸(アマノイワト)。あまねく照らす慈悲の光は、不浄の肉に蓋をされ英雄に寵愛をもたらさない。

 水棲生物ゆえのぬめりを帯びた暗緑の体表を乾燥した熱風に晒され、大怪魔は不快げに()く。発される音は聞く者の耳朶と脳髄を腐らせる邪性を帯びた破滅の咆哮。尋常な精神性では相対する資格もない神話の怪物が、まさに現実のものとしてケラウノスの前に立ち塞がっていた。

 

 

「・・・・・・此処(ここ)ならば、もたらされる被害に気を揉む必要はない」

 

 

 矮小な命を圧倒する禍津化生(マガツ)を見据え、天霆は静かに(うち)へ呼びかける。

 目に見えた分かりやすい変化はない。だが、確実に変革が起こっていた。

 心ひとつで森羅を超越する破綻者が、ひとつ、またひとつと――見えない縛鎖を千切るように、その存在感を膨れ上がらせていく。

 轟々と音を立て、血肉を巡る魔力の奔流は、どこまでも速く、(はや)く、(はや)く――鋭利な刃のように収斂(しゅうれん)しながら、彼の魂の熱量を高次の領域へと高めていく。

 

 

 

「――出番だ。鱗を逆立てろ、滅びの魔剣(ダインスレイフ)

『応ともさァ! 待っていたぜこの瞬間(トキ)をッ! 浪漫(ロマン)が分かってるじゃねえか英雄ッ!』

 

 

 姿なき歓喜の雄叫びと共に光り輝く天霆の心臓部。

 そこから迸る魔竜の星が、目先の怪魔(タカラ)に欲望の涎を滴らせる。

 

 

『いざや怪物退治としゃれこもう! 誰もが(くら)英雄譚(ジークフリート)を、煌々(こうごう)しく打ち立てやがれッ!』

 

 

 

 砂の大地が鳴動する。

 励起した魔星の星辰光が、深く深く・・・・・・地の底から形象(カタチ)を持ってやってくる。

 積み重なった厚い地層を卵の殻のように割り砕きながら、ついにソレは地表に孵った。

 生誕したのはあらゆる鉱物を多分に含んだ頑強なる岩塊の化身。星の輝きに魅せられた大地竜(ジオレクス)

 一戸民家を丸呑みにできるほど大きく剣呑な牙が生え揃う(アギト)に、鋼鉄を紙のように貫き潰す剛爪。峻険な山脈のように連なった背びれと尻尾に、窪んだ眼窩に押し込まれた強欲を宿す超常の瞳煌(どうこう)。その巨躯はほんの鼻先数メートルの位置にいる怪魔と比べても遜色なく、地上を這う虫けらどもを睥睨するに足る威圧感だ。

 逆立った岩鱗に覆われし巨竜の頭頂で、安定した体幹を揺らがせることなく佇んだケラウノスは、轟と燃える決意の焔を眼光に宿し敵を捉えている。

 

 

「貴様が幾度英雄譚を言祝(ことほ)ごうとも、すでに拝する星はない。孤高の英雄は、宿敵と共に踏み越えた悲哀の涙に散ったのだ。もとより我らは度外の狂人。燃え盛る修羅場にしか生きる価値を見出せぬ光の亡者に、一体なんの価値がある?」

 

 

 自らの根源たる閃奏、同系統に属する天奏、異腹より派生した烈奏。

 光を奉ずる極晃はどれも等しく度し難い。対立する滅奏同様、罪深く、呪わしい。

 ケラウノスにとって限界を打ち破り、目先の障害に対して打ち倒す以外の選択肢を持たない英雄譚に意味はないのだ。真の勇者は、光と闇という垣根を超えて他者と繋がり、深く広い海洋のように穏やかで慈悲深い只人こそが相応しいと、彼はすでに知っている。

 ゆえに―――。

 

 

「黙って使われているがいい、欲望竜。揃って気狂いの我らにできるのは、ああいった邪悪と命を削る共喰い(殺し合い)以外にありはしないのだから」

『あぁいいぜそれでこそォ! ややこしい御託なんざいらねェのさ! お前と()ける地獄なら、どこだろうと極楽浄土よ! 無限に奪って殺って喰らい合おう! その(タカラ)が潰えるまでッ!』

「是非もない――貴様の成した悪逆無道、穢れた魂で贖え。キャスター」

 

 

 雄々しき断罪の掛け声と共に突撃する魔星の暴竜。

 狂おしい呪詛と哄笑を乗せて迎撃する魔海の海魔。

 

 

 

 冴え渡る天穹の下、常世ならざる灼熱の大地で二匹の異形が衝突した。

 

 

 






読了感謝!


邪 竜 お じ さ ん 参 戦 !!!

呼ばれて飛び出て大歓喜! って感じで長らく待たせて登場です。

だってコイツ普通のバトルじゃやり過ぎる未来しか見えないし。

固有結界って便利な設定ですね。存分に暴れさせても被害が出ない。

最近流行りの呼び方は 領 域 展 開 でしょうか。

呪術は不勉強なので話題についていけてませんけど。


で、盛り上がってくる展開で申し訳ありませんが、今週はたぶんこれで終わり。

先をどうするかうんうん悩みながら書き進めてるので心折れそう。

完結させますがね。うん。絶対。

長文失礼しました。

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