Fate/ZERO with シルヴァリオ   作:甲乙兵長

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お久しぶりに投稿です
本当は終わりまでのストックを作ってから
出したかったのですが無理でした

ボチボチな亀速度の復活なので

「ふーん、戻ったのね」

と寛大に受け止めてもらえれば




【Act13/昏き黎明/Hero】

 

 最初に感じたのは、肌を刺す熱。次に、眼球を干上がらせる赤。

 ――炎。

 赤い地獄がそこにはあった。

 焼かれ朽ちゆく建造物。焦熱に悶え死に際まで苦痛を訴えながら息絶えていく人々。

 凄惨たる現場から目を逸らし、空を見上げる。

 遥かな天に座す月明りと、在り得ざる第二の太陽。

 大いなる巨神の眼光のように、陰陽両極が夜空に煌めき地上の狂騒を睥睨している。

 地を這う黒蟻たちは、ささやかな抵抗を繰り広げていた。

 見たこともない/見覚えのある意匠の軍服に袖を通した兵隊たち。

 隊列を組み、呼吸を合わせ、武装を手に抗戦する。

 掃射される火線の重奏。白い尾を引くロケット砲。戦車の号砲がけたたましく耳朶を叩く。

 放たれた鉄風雷火が集束するのは、平穏な街並みを焦熱地獄に堕とした怪物たち。

 数の暴力に晒されたたった二体の人外は、なんの痛痒もなく火砲の洗礼を一蹴する。そしてたかる蠅を払うべく、砂塵の向こうで紅と蒼が揺らめいた。

 

「「天昇(てんしょう)せよ 我が守護星 鋼の恒星(ホムラ)を掲げんがため―――」」

 

 祝詞を告げて二機の魔星は進撃を開始。

 紅の巨躯が瘴気を纏い人体器物の区別なく原子レベルまで消滅させる。

 蒼の麗躯が凍気を走らせ結晶の華を爛漫と咲きほこらせる。

 恐れを押し殺した兵士の奮闘も空しく、一方的な虐殺は止まらない。彼我の間に横たわる圧倒的性能差。覆しようがない戦力差。数の有利を帳消しにする突出した個。絶対的差異によって二人の魔人に成すすべなく、数多の勇敢な命は道半ばで踏み潰される。

 殺戮の愉悦に酔う鬼面、醜穢(しゅうわい)を清める爽快に微笑む鉄姫。

 凄烈な爪痕を残しながら、悪魔の宴はなお終わらない。

 そして―――

 

 

()()()()()

 

 

 一人の益荒男(おとこ)が立ち塞がった。

 火の粉にたなびく黒衣の外套。完膚の露出なく身にまとった戦装束。腰に帯びた七刀。厳めしいかんばせに走る乾いた傷跡が荒々しく。憤怒に燃える両眼は、赦せぬ敵を前にして蒼き熱情を迸らせる。

 犠牲となった人々の血と嘆きを代償に、不滅の勇者がいま戦場に舞い降りた。

 そう、もはや悲劇は幕を閉じた。(おまえ)の出番は二度とない。

 刮目せよ。いざ讃えん。その姿に民は希望を見るがいい。

 ここから始まるは男の紡ぎ出す新たな英雄譚(サーガ)

 男は運命へと挑むもの――覇者の冠を担う器。

 始まりの■■■■。法の守護者。鋼の化身。閃剣。光刃。■■■■最強。

 その名も―――

 

 

本当に?

あれが英雄? 民の守護者?

よく見ろ。もう知ってるだろ。

アイツはただの破綻者だ。

邪悪を赦しておけない塵屑だ。

涙を明日に変える? 払った犠牲に報いる?

どの口がほざくんだ、そんなこと。

泣いたこともない奴が偉そうな口を利くな。

どんなに輝かしくたって、

近づいちゃならない太陽(ヒカリ)はある。

だから、()()もやめておけ。

欲望竜と審判者みたいな阿呆はもういらん。

蝋翼(アイツ)のようになるな。

煌翼(アイツ)のようになるな。

守るべき愛の骸があるのなら。

闇の竪琴をシルベにしろ。

――忘れるな。

 

 

 ***

 

 

 最初に感じたのは、光。

 明滅する白熱灯。覆いかぶさる、誰かの顔。

 

「――・・・・・・つぐ。切嗣っ」

「・・・・・・・・・舞弥か?」

「目が覚めましたか」

 

 久宇舞弥。数ある名のひとつ。滑らかな黒髪の女。男の相棒。かつて拾った(救った)命。魔術師殺しの補助機構。

 衛宮切嗣はどこかに横たわっているようだった。手足の感覚は在る。痛みや違和感はない。だが倦怠が靄のようにまとわりついている。手近に武器はない。意識レベルは徐々に回復中・・・・・・。

 自らの状態を機械的に計測しながら、切嗣は半身を起こす。

 が、陸酔いのような酩酊感に頭を抱えた。

 

「まだ無理をしないほうが」

「いや、状況が知りたい。何がどうなっている? キャスターは? アイリは?」

 

 矢継ぎ早な切嗣の問いかけに、舞弥は順繰りで応えていった。

 ここは未遠川にほど近い小拠点のひとつ。連絡が途切れ向かった先で切嗣は船上に倒れていた。運び出し、処置を施していた。昏倒の原因は魔力欠乏。海魔との戦闘でケラウノスが相当な力を行使したためと思われる。

 さらに、回復を待っている間に、キャスターはセイバーに斃されたこと。アイリスフィールは彼と共に無事なこと。他のマスターやサーヴァントたちはすでに解散し戻ったこと。ソラウへの尋問からケイネスの居場所を突き止めたこと。そして、事件の終息に忙殺されていた教会の監督役が、何者かに殺害されたこと。

 

「神父の貸与令呪は?」

「情報が秘匿されているので、おおやけな確認はとれていません。しかし十中八九」

「キャスターに意識を割かれている隙に持ち逃げされた、か・・・・・・。タイミングとしては、事件終息直後を狙ったな」

「はい。討伐権利を主張した上で口封じを行ったところから推察すると、下手人はケイネス・エルメロイである可能性が高いかと。彼が密かに人形師とコンタクトを取っていた裏もあります」

「間桐は?」

「現場に姿を見せていないので、なんとも。バーサーカーも発見できませんでした」

 

 無理にでも動かすことで大脳の働きを徐々に冴えわたらせる。

 相手は拳銃で背後から神父を撃ったらしい。射手に令呪が渡ったかは不明だが、仮定として獲得した扱いとする。間桐はいまだ静観。不気味なことこの上ないがまだ攻めるには時期尚早か。情報が足りない。

 

「それから、監督役として新たに言峰綺礼が代行に据えられたと」

「そうか」

 

 なんでもない様子を装いつつ、切嗣は考えを巡らせる。女は弁え、結論を待った。

 しばらくして、男が次の方針を口にする。

 

「アイリたちにランサーの現拠点を知らせ、襲撃させる。今夜は誰も大きな戦いは起こさないという認識のはずだ。ライダーの邪魔は入らない。バーサーカーへの注意は続行。僕たちは裏からだ。ひそかにケイネスへ接触できたなら、コイツを使う」

 

 切嗣が取り出した一枚の羊皮紙に、舞弥は魔術師殺しの思惑を察する。悪辣だが効率的ないつも通りの手練手管。無論、相棒たる彼女に今さら汚れ仕事への忌避感はない。

 準備を始める部下を尻目に、切嗣は割れた窓の外を見やった。

 

(何か、夢を見ていたような・・・・・・いや、思い出す必要はない。サーヴァントの記憶なんかで、心を左右されてたまるものか)

 

 白みだし、薄明のグラデーションがかかった空に、孤高の銀月が浮かんでいた。

 

 

 

 

「ぁ――ぁあぁぁあああぁああああァアアアアアアッッ!?」

 

 慟哭。

 悲哀と悔恨、絶望、憎悪――怒り。

 およそ清爽な黎明には不似合いな、血飛沫のごとき叫喚であった。

 

「かはッ、ァア・・・・・・貴様らは、貴様らはそこまで聖杯が欲しいか!? 俺の(いだ)くささやかな願いも、忠道すらも容易く踏みにじり、恥じることなく踏み越えるのか!? 己のことしか能にない畜生どもッ、騎士の誇りを解さぬ欲に狂った狂人めッ……貴様らの願望はこの俺が赦さない! ォォオッ、聖杯に呪いあれ! 願望に災いあれ!」

 

 自らの槍に心臓を貫かれながらも、美貌の槍使いは狂気を糧に今わの際呪詛を吐き続ける。彼こそは、この聖杯戦争においても純粋で、ある種もっとも無欲な英霊であった。

 

「このディルムッドの断末魔を忘れるなかれ! 欲深な魔術師どもッ!! 貴様らの愚かしさ、この血と憎悪をもって汚してくれるッ!!」

 

 粒子となって消失していく。曙に煌めく散りざまは当人の心情とは裏腹に、かくも美しい最期であった。

 

「・・・・・・これで、満足か?」

「ああ。契約(ギアス)は果たされた」

 

 車椅子の男が、皮肉げな口調でコートの男に問いかけた。以前は刃を交わした魔術師たち。起源弾によって半死半生に陥った残骸のロード・エルメロイと、魔術師殺しの冷徹さを帯びた衛宮切嗣だった。

 やつれた包帯まみれのロードは、切嗣の言に懐の許嫁をかき抱く。魔術を失い、矜持を失い、身体の自由を失った彼が唯一縋れる愛しい人。人質であったソラウを。

 

「残りの令呪全てを使ったランサーの自害を契機に、強制証文は履行される。今後一切、僕がお前たち二人に害をなすことは不可能になった」

「・・・・・・あぁ」

()()、な」

 

 疲弊しきった様子で力なく頷いたケイネスの背後から、銃火が轟いた。

 

「がっ――あ、ぁァ?」

 

 火線の雨に蹂躙され、蜂の巣の車椅子ごと二人は地面に崩れ落ちる。

 気を失ったままソラウは急所に銃弾を受け即死。ケイネスはいくつもの致命傷を負いはしたが、幸いというべきか不幸にもというべきか、絶命までほんの数秒程度の猶予があった。

 血のカタマリを吐きこぼしながら弱々しく振り返った先で、機銃を構えた細身のシルエットを見る。見たことのない黒髪の女。しかし、その出で立ちと雰囲気は隣の男と似ている。銃把を握る銃口からは硝煙をくゆらせていた。

 そこで、聡明なロードは己が嵌められたことを悟った。

 衛宮切嗣は、初めから彼らを生かしておく気などなかったのだ。

 ケイネスの葛藤も、最後のヨスガも、結局は等しく無に(なら)される予定であったというだけの話。

 身体よりも、心が先立たんばかりの致命傷が、瀕死のケイネスを襲う。

 

「・・・・・・ぉ、ぃ・・・・・・て・・・・・・殺し、て・・・・・・くれぇ……っ!」

 

 絶望に呑まれ、心砕けたケイネスは死神に(こいねが)う。

 もう終わらせてくれと。これ以上の苦痛は嫌だと。涙ながらに縋りついた。

 

「悪いが、それはできない契約だ」

 

 あくまで冷淡に。あくまで事務的に。切嗣は這いずる男の懇願を打ち捨てる。同情や哀情、嘲笑すらなく。

 ならば、と。

 マスターに代わった黒鉄の一閃が、しめやかに引導を渡してやった。

 介錯の血に刃を染めたのは傷ありの鋼人。

 

「・・・・・・・・・なんのつもりだ?」

「こちらの台詞だ。衛宮」

 

 至近で睨み合う両者。切嗣は刃を握るケラウノスに恐れを抱いてはいなかった。それは決して令呪があるからという傲りが理由ではない。

 

「いたずらに苦痛を長引かせる必要はない。奴らは貴様のプラン通りの役として踊り、俺もまた、囮としての任を全うした。利用し、初めから冥土に送る心積もりであるなら、すべからく送ってやるのが筋だろう」

 

 今さら、魔術師殺しの悪辣さにかける言葉などない。彼の作戦がもたらす効率はケラウノスをしても納得するもので、果たすべき目的のために泥を被る必要があるのはどこでもいつでも同じこと。

 しかし、だからといって見過ごせない面はある。

 

「僕に逆らうのか?」

「・・・・・・何を焦っているのか知らんが、勝手な憶測で独り相撲をするなら余所(よそ)を当たれ。俺は俺の成すべきを成しているにすぎん。衛宮、いまの貴様は動揺している。気を(はや)らせるよりも、一度冷静になることだ」

「焦っている? 僕が? 馬鹿な―――」

 

 失笑と共にサーヴァントの戯言を切り捨てた切嗣は、自分に向かうもう一つの視線に気づいた。

 白銀の身なりでルビーの瞳を不安げに揺らめかせる、妻の視線に。

 

「そういえば、君に僕の仕事(殺し)を見られるのは初めてだったね。できれば、知らないままでいてほしかったのが本音だが」

「切嗣・・・・・・」

 

 アイリスフィールの声音にはささやかな恐れが混じっているのを、男は察した。それはケイネスたちを無慈悲に切り捨てた手口だけではなく、魔術師殺しに立ち返った、彼女が出会う以前の切嗣が、まるで見知らぬ誰かのように見えてしまったから。

 諦観混じりの寂しい微笑が、なおのこと痛々しく、心臓を締め付けてやまない。

 どうして、と目で問いかける妻に、天秤の守り手は己の行き着いた理論を解いた。

 

 

 最小の犠牲でもって最大の救命を。

 

 

 何千年経とうと、人の営みから『争い』という文化は消え去ってくれない。衣食住のため、家族のため、己のため。理由は多種多様に。その根っこに蔓延るのは生命の進化に、霊長の魂に刻まれた本能だからだ。弱きを切り捨て強き命の(たね)が次の世代へ引き継がれる。そうでなくば先がない。生存競争はこの星の原初に生まれた細菌の時代から罷り通る概念。より高い地平に人類が至るまで決して外すことができない呪縛だ。

 けれど、その前にどれほどの屍を道に敷いていけば良いのか。

 多のために少数派を切り捨てなければならないとき。

 その中に、自分の愛する者があっても亡き者にしなければならないとき・・・・・・残酷な現実は、常に選びたくない選択を人々に強いる。まるで試練のように。衛宮切嗣が選ばされてきたように。

 犠牲が生まれるのは仕方ない? 競争こそ生き物の在り方? ――ふざけるな。

 

「戦場に英雄なんていない。いるのはただ敵を多く殺しただけの虐殺者だけだ。敵の骸を築いた分だけ、一人の強者が尊ばれる悪習は、断たれなければならない。英雄の道行きは、その背を見て育つ者を狂わせる。勝利という名の栄光に逸らせ、喜んで命を投げ捨てさせる。眩い憧憬は、人を英雄願望に投身する自殺志望へ洗脳するんだ―――」

 

 冷たい殺人機構に宿った炉心が、男の激情を燃え滾らせた。殺意に匹敵する眼光は、真っ向から自らの従僕を射抜いていた。

 この英霊(おとこ)こそ、まさに崇敬される英雄の理想像ゆえに。

 

「何が英雄。何が英霊。お前たちのような殺戮者が正当化されるサイクルは、この世から根絶しなければ。戦争という地獄はなくならない。最小の犠牲で最大の効率を得るためなら、僕は喜んで悪鬼となろう。外道となろう。悪で邪悪を掃滅する――必要悪(マキャヴェリズム)を成すことで、僕はこれまでを行ったのだから。そしてこの冬木での流血を、世界最後の戦いにしてみせる」

「・・・・・・・・・」

「そのために僕は聖杯を()る。願望機の奇跡をもって、人の魂から災いの種を切除する。あるいは塗り替える。独善なのは承知だとも。だが、もはや奇跡にでも訴えなければ、人は永久に変革しない。それが僕の導いた解答だ。・・・・・・もう二度と、世界に無用な理不尽が無いように。そのためなら僕は―――」

 

 この世全ての悪を担うことも厭わない。

 それが切嗣の掲げる正義の・・・・・・。

 

 

 ――守るべき愛の骸があるのなら。

 

 

「・・・・・・・・・っ」

 

 

 ――忘れるな。

 

 

 口が動かない。

 饒舌だった舌が錆びついたようだった。意図せぬ誤作動。何か決定的な宣誓となるはずだった言葉が、諫められた気がした。誰に。何に?

 昂ぶっていた熱が冷めていく。燃えるような激情が、冷たく優しい手のひらに包まれたような・・・・・・。

 

「そうか」

 

 困惑した様子の切嗣を不審がるでもなく、納得の響きでケラウノスは頷いた。

 

「お前にはあるのだな。本当に守りたい唯一(モノ)が。ならば、踏みとどまれるだろう」

「なに・・・・・・?」

「貴様の言う通り、英雄など大したものではない。特に俺のような、敵と認識した相手を切り捨てるばかりの、どうしようもない塵屑は」

「・・・・・・・・・」

「悪を体現することで諸悪を討つ。知れたことだが、最後に残るのもまた『悪』だ。ならば残ったひとかけら、世界最後の悪を断つのが、本来の俺の使命だろう。なぜなら俺は『悪の敵』なのだから」

「悪の・・・・・・敵」

「しかし、それはおそらくお前ではない。俺がこの地で討たねばならないのは―――」

 

 告げようとした、ところで。

 

「っ―――」

 

 ぐらり、と。

 嫋やかな美貌の恵体が、崩れる。

 

「アイリッ!」

 

 切嗣は失念していた。舞弥は忘失していた。

 アイリスフィール・・・・・・聖杯の器である彼女の限界を。

 これまでに消滅した英霊は四騎。とっくに生体としての『包装』が剥がれ、正規の役割が顕現していてもおかしくない。それは、ケラウノスから分け与えられた『祝福』によって押し留められていたが、今朝のランサー消滅が契機となって、補える閾値を超えてしまった。気力で現時点まで保たせていた糸が、ついに切れたのだ。

 バランスを欠き、脱力した身体。すでに意識を失っている。

 駆け出した切嗣は間に合わない。舞弥はさらに遠い。ケラウノスなら―――

 

()ッ!!」

 

 鋼刃一閃。

 地を蹴り、代行マスターに放たれた凶刃。英雄の凶行。

 当然ながら真意は別にあった。

 斬撃を、そして白銀の女を受け止めたのは、黒。

 暗い・・・・・・闇の陽炎を纏った見知らぬ人型の『ナニカ』だった。

 

「――――」

()()()()()?」

 

 光を遮る暗闇が邪魔をして、顔はうかがえない。

 『あの男』と似ているようで、まったく別物の闇に覆われている。

 拮抗する鋼と鋼。剣と剣。

 それも長くは続かず。

 ケラウノスの双剣が圧し始める。謎の存在――おそらく英霊――は片手で支えるのみで、もう一方はアイリスフィールで塞がっている。力負けは必至だった。

 しかし。

 影の肩口から黒塗りの刃が突き出される。ありえざる()()()からの奇襲。

 慮外の反撃であったが、ケラウノスの培われた戦闘本能は敏感に危機を察知。後退して避けた。

 にもかかわらず追いすがってきた攻撃は、予想外の距離にまで射程を伸ばしてきた。ロングソードでここまで来ない。飛び道具か、長柄武器でもなければ・・・・・・。

 

「ぬぅッ!」

 

 顔面を貫かんと迫った切っ先を逸らし、頬傷程度にとどめる。

 そのとき閃いた火花の最中に、敵手の凶刃を詳細に網膜が捉えた。

 

(・・・・・・これは、もしや)

 

 素早く得物を引く仕草をとる影に向けケラウノスはガンマレイの弧月斬を放った。加減抜き、敵を一刀に滅ぼすための出力がこめられた斬撃だ。

 人質がある状況でとる戦法ではない。巻き添えを喰らえばアイリスフィールは。

 切嗣が咄嗟に令呪を構えた次瞬、コンクリートを焼き砕きながら眩く肉薄する一閃は影に切り払われた。真っ二つに裂かれ、ほつれるようにして消える放射光。その情景が、記憶の場面と被る。

 ケラウノスが思考した一瞬の間。生じた隙に影は暗闇を濃く纏い、全身を覆いつくす。

 

「待て!」

 

 その行為の意味するところを理解した切嗣はコンテンダーの銃口を向けたが・・・・・・。

 謎の影は、忽然と姿を消したあと。現れたとき同様、痕跡らしきものは一切なく。霊体化とは別種の移動、転移の方法であると推測できる。

 血生臭い廃工場の一角に残ったのは、痛いほどの沈黙。

 そして、聖杯の器が奪われたという事実だけであった。

 

 

 ***

 

 

「よくやった」

 

 男はサーヴァントから手土産を渡される。

 今代アインツベルンの姫君。聖杯降臨に不可欠な、願望機の器たるホムンクルス。

 聖杯戦争における絶対的なキーカードを、彼は手中に収めたのだ。

 

「さあ、舞台は整えた。来るがいい。衛宮切嗣」

 

 カソックの僧侶――言峰綺礼は(わら)う。

 その右手には、失われたはずの令呪が刻まれていた。

 

 

 





読了感謝です!

話の前後の繋がりがおかしくないか不安ですが
とりあえずフェイトをノロノロ再開していくつもりです

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