Fate/ZERO with シルヴァリオ   作:甲乙兵長

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今さらですが、この作品はシルヴァリオシリーズとFate/Zeroを

おおよそ知っている方向けになってると思います


なので場面や用語の省略などもあり得ますので、読む際はご留意ください


【Act1/冬木/Battle field】

 

 日本の冬木市新都市部は近頃開発化が盛んであり、観光的強みこそないものの地方都市としては発展の最盛期にあたる。懐古的な商店街を追い立てるようにデパートやチェーン店スーパーが開店し、ビジネス街には墓標じみた灰色のビルが建造され、拓けた土地をならし集合マンションが立ち並ぶ。

 そんな白昼の街中に、人目を惹き付ける一組の男女がいた。

 女神のごとく完成された容姿をいかにもハイブランドな白の厚着に包み、落ち着きなく周囲の情景を見回す銀髪赤眼の女、アイリスフィール・フォン・アインツベルン。

 鍛え上げられた鋼の肉体を黒のスーツに押し込み、先を進む同行者に黙して従う顔に大きな古傷持つ金髪蒼眼の男、ケラウノス。

 氷雪の化身じみた白銀と雄々しさが形を成したような黄金の両者は、良くも悪くも注目を集めてやまない。

 傍目から見ればやんごとなき身分の貴婦人と悪魔も尻込みする辣腕の身辺警護(ボディガード)

 その実は聖杯戦争における主と従僕という関係性である。

 少なくとも、一般人には前者に、魔術の啓蒙(けいもう)ある輩には後者に見えるよう偽装を施している。

 

「あなたから見て、この世界はどう? セイバー」

 

 アイリスフィールは歩きながら横顔で振り返り問う。

 およそ真っ当な人間の住まう領域から断絶した銀世界で産まれ生きてきた彼女には全てが新鮮であった。その様子は、一児の母であることを忘れてしまうほど子供のように無邪気で遠慮がない。

 男は睨みつけるような――実際はそれこそが彼の常態なのだが――眼差しを白い背に一瞬遣って、口を開いた。

 

「俺の聞き及ぶ旧西暦と違い随分と前時代的のようだ。端的に言って古い。

 あちら側の旧西暦末期の日本はバイオテクノロジーと機械工学の融合から生まれた、いわゆる人造の機械生命体が戦争に実戦投入されていたはずだが、こちらのそれらしい技術はまだ空想の産物同然だという。

 だが、普及した一般的技術水準で言うならば、俺の生きた新西暦を多く凌駕する。金属抵抗が正しく成り立ち、燃料の低燃費化がされているからな。

 膨大で複雑怪奇な演算処理……自動精密機械(オートメーション)による量産体制が幅広い分野にあるため、人々の受ける恩恵はかなり高く、広いのだろう。

 医療、教育、福祉……ある程度の誤差はあれど、誰しもが当たり前に権利を得、行使できる環境だ。何より」

「何より?」

「平和だ」

 

 ケラウノスは何気なく風景と化している大衆へ焦点を向ける。

 学校から帰る道すがらタレントのような異国人たちを目撃し慎ましく興奮する学生服の集団、ビジネススーツを着込み誰かと連絡を取っているサラリーマン、警邏(けいら)中とおぼしき警官一組、井戸端会議に花を咲かせる妙齢の主婦たち、新聞を脇に差してパチンコ店に入る男、ジョギング中の女、公園の遊具で友達と遊ぶ子供や動物。

 普通があった。当たり前があった。誰しもが、今そこにある各々の幸福を無自覚に手にしていた。

 

「俺が知る旧西暦は戦乱の時代だ。ただただ無秩序に、ただただ無作為に、無辜の民草は戦禍という大いなる獣に蹂躙される。

 先の人工生命に始まり、成層圏より対象国の領土を焼き尽くす衛星兵器、自動的に命令文のまま人も物もことごとく破壊しつくす陸上機動兵器、空気感染・接触感染が自在な爆発的侵食性を持つ()()の手にコントロールされた致死性の病原菌など……あらゆる害意、悪意でもって人間が人間を鏖殺する魔境であったと。それこそ、ボタン一つで一国を滅ぼすような鋼鉄の塊があった時代だ」

「………」

 

 例えを挙げるどれも、アイリスフィールには具体的想像がつかない。けれど事の深刻さは伝わってきた。

 ケラウノスはまるでその光景を目にしたかのように、険しい顔つきを浮かべているから。それは彼がきっと、似たような地獄をその身で突き進んできたからだろう。

 夫の……切嗣のように。

 

「この世界のどこかにも、争い、(いさか)いはあるだろう。先進国と呼ばれる場所が例外的なだけかもしれん。あるいは、終末の芽はそこかしこに転がっているのやも。

 しかし、少なくともまだ、この世界は断崖の淵にはない。それにわずかばかりの安堵がある」

「……あなたの生きた時代も、そんなに過酷だったの?」

「同じだ。この世界と変わらん。技術の差、慣習の差、文明の差、貧富の差。国によっても、土地によっても違う。無論、個々によっても。

 たとえ世界を隔てても、人間という種にそう違いはないのだと、改めて認識させられた気分だ」

「違いは、ない」

「そうだ。だからこそ、そんな無辜の人々を守らんがため、かつて帝国の民をより尊い場所へ、より大きな平和(明日)へ導こうとした。

 独りきりで。

 俺はそんな壊れた男の成れ果てた影でしかないが、それでも罪なき衆生(しゅじょう)を、我らの飛び火で傷つけることは断じてあってはならない」

「セイバー?」

 

 妙に熱の入った言葉尻に、首を傾げる。

 それも、続く台詞ではっとした。

 

「アイリスフィール。()に食いついたぞ」

「っ! ……魔術師?」

「分からんが気配はある。だが距離を詰めてこない。

 あえて気付かせたということは……こちらをどこかへ連れて行きたいようだな」

「こんな街中で神秘を晒すわけにいかないもの。罠に誘われる可能性もあるけど、あちらの思惑に乗るしかないわ。切嗣にも連絡を」

「承知した」

 

 二人は足早に移動を開始。これまでと打って変わり、灯台の明かりを追うように敵手の気配を探るケラウノスに代理マスターのアイリスフィールが追従する形となる。

 

 

 彼らが漫然とこれといった目的地を定めず歩を進めていたのは敵の釣りだしを行うためであった。

 

 

 聖杯戦争は開幕している。すでに、開戦の狼煙とばかりに昨晩の遠坂邸にてアーチャークラスのサーヴァントがアサシンを処刑した。もはや戦場と化した冬木に足を踏み入れた時点で、切嗣たちアインツベルン陣営は姿の見えない敵手の影に気を配らねばならない。

 よって切嗣は己の存在を隠匿して別行動を取り、黒衣の男をサーヴァント、白銀の女をマスターと誤認させる仕掛けを施して野に放った。ほかならぬ聖杯戦争参加者である残り六組に彼らを見つけてもらうために。

 結果として、企みの半分は成功。早速接触を図った敵はケラウノスたちをまんまと舞台に誘い出す。

 身を潜めながら妻と従僕の散策(デート)を見守っていた切嗣は報告を聞くやかねてからの個人的な協力者である久宇舞弥(ひさうまいや)を連れ、二人の行き先を別ルートから尾行する。

 たどり着いたのは海に面した港区画の倉庫街。潮風浴びる無数のコンテナが搬入搬出の番を待ち沈黙している場所だった。人気はない。時間帯がすでに夜なのもあるだろうが、おそらく誘導を仕掛けた敵の魔術的な工作によって人払いがなされているからだろう。

 相棒と二手に分かれ高台付近に身を隠す切嗣。舞弥は切嗣があえて観測場所から除外した大型作業クレーンと戦場を一望できるところに監視の陣を敷く。

 一方で、ケラウノスとアイリスフィールは一人の美丈夫を眼前に捉えていた。

 悠然とした立ち姿から放散される濃密な魔力と武士(もののふ)特有の漲る闘気――サーヴァントだ。主の魔術師らしき姿は今のところ見当たらない。

 

「よく来た。

 とはいえ、罠と疑いつつも真正直(ましょうじき)に俺の前へ姿を晒したことを見込みが甘いというべきか、または余程の自信家と捉えるべきか、悩みものだがな。

 それでも他の腰抜けどもとは違うと、称賛はさせてもらう」

「何者だ」

「ランサー。悪いが真名は明かせん。決闘前の名乗りもできんとは、戦士の誉れもありはしないが、それが此度の(いくさ)のルールなら従わない道理はない」

 

 聖杯戦争に召喚された英霊は七つのクラスに振り分けられる。

 剣士(セイバー)弓兵(アーチャー)槍兵(ランサー)騎兵(ライダー)魔術師(キャスター)暗殺者(アサシン)狂戦士(バーサーカー)

 それぞれの英雄が持つ逸話や伝承から、その格に相応しい側面の英霊が出現する。時には先の七つに該当しない特別なクラスも存在するらしい。

 ケラウノスはストレンジ・セイバー。異邦より来たる剣士のクラス。実際のところ、セイバーの枠組みなのかエクストラクラス扱いなのかは、彼自身をして判然としていない。切嗣もその部分を別段つまびらかにはしなかった。

 剣を主に扱うならセイバー。弓や銃といった飛び道具を武器とするなら大体アーチャーといったように、クラスの分類は案外大雑把なのだ。

 その点で言えば、対峙するサーヴァントはまぎれもなく槍使い(ランサー)だった。

 撫でつけた黒髪。優男といった、しかし決して軟派な風情ではない勇壮ながらも秀麗な顔立ち。艶めかしい泣き黒子。豹のようにしなやかで洗練された野性味を宿した肉体。客観的に、幾人もの婦女を魅了してやまないであろう美男子だ。

 動きやすそうな革の軽装を纏う手に携えるのは、包帯のような呪術的紋様が描かれた布を巻く穂先の赤い長槍と黄色い短槍。それをアスファルトに突き立て、肩に担ぎ正面の主従を油断なく見据えている。

 

「……魅了(チャーム)の魔術?」

 

 ケラウノスの背後で、白衣の女主人が槍兵を睨み呟いた。

 鋭い指摘に苦笑いを浮かべるランサー。

 

「生まれ持った呪いのようなものだ。自分ではどうしようもない。恨むなら、俺か、女に生まれた自分を恨んでくれ。

 もっとも、魔術師であるお前に易々(やすやす)通じるはずもなかろうが」

「魔眼……いえ、魅了の面貌に、二振りの槍使い―――」

 

 アイリスフィールは人造生命(ホムンクルス)だ。初めから製造目的を定められて創造された命。ゆえに魔眼などのまじないを受け付けぬよう抗魔力を生来保有している。そうでなくとも、ランサーの(げん)の通り、魔術師であるならば対抗する術などいくらでもあるだろう。

 偽のマスターであるアイリスフィールにサーヴァントの詳細(ステータス)を穿つ透視眼は備わっていない。だが仮にも前線に立つ以上、ただの支援役に徹するのは憚られた。ならば行うべきは観察。それに伴う真名看破。

 サーヴァントの外的特徴、得物、体質、気性などから、敵の正体を推測する。

 英雄アキレスにとっての(かかと)のように、真名が明らかとなれば、どんな強力な英霊であれその来歴に応じた陥穽(かんせい)……弱点を突き策を講じることが可能だ。だからこそ、真名秘匿のために召喚された英霊たちはクラス名で呼称されるのだ。

 とはいえ、悠長な分析を敵が許してくれるはずもなく。

 槍兵の戦意が迸った次の瞬間、駿足の間合い詰めから紅の一刺しが放たれる。

 

「セイバー!」

「下がれアイリスフィール」

 

 尖突を交叉した双剣で受け止めながら(れい)と促すケラウノス。

 その姿はすでにボディーガードのものではない。簡素なスーツは霞のように消え去り代わりに召喚時纏っていた外套なびく軍服を着ている。彼本来の姿であり戦装束だ。

 不意の一撃を止めた相手の得物を目ざとく認め、美貌のランサーはほくそ笑む。

 

「貴様はセイバーか。聖杯戦争においては最強と名高いクラスと聞く。これは大物を引いたらしい」

「………」

「ふ、敵に開く口はないか?

 ならば刃で語るまで―――」

 

 大きく飛び退いたランサーは二振りの槍を不敵に構え仕切りなおす。本来両手で駆使するはずの長柄武器をそれぞれで構える仕草は異端ながらも堂に入っていた。

 それを受けて、ケラウノスもまた臨戦態勢。抜刀済みの剣筋(けんすじ)を立て、重心を落とし路面に亀裂を刻むほど踏みしめる。

 両者を隔てる空間に横溢する凄まじい気迫と魔力。不可視であるはずのエネルギーは濃密な陽炎のごとく景色を歪める。穏やかな夜気は不要とされ、ここに真の戦端が開かれようとしていた。

 見守るもの、隙を伺うもの、傍観するもの、座興とするもの、推し量るもの。剣呑な催しを知る多くの観覧たちが密かに幕開けを待つ。

 そして。

 

 

『――――っ!!』

 剣と槍が再び衝突したとき、聖杯を懸けた闘いは本当の始まりを告げた。

 

 

 




最後までお付き合いありがとうございます

今回はランサーとの邂逅まで区切りよく行けました

勢いで書いといてなんですがランサーが不意打ちってどうなのかと自分で疑問に感じてます
お気に入りのアルトリアの出番が奪われた腹いせかもしれません



次回から戦闘シーン(予定)


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