戦闘シーン。書いてて楽しいけど疲れます。
原作の両筆者の文章力と語彙力の凄まじさに改めて畏怖と尊敬を抱きますね。
あんな自然とカッコイ文面を書けるようになりたい。
そんな拙いながらも背伸びした第三話をどうぞ。
――アイリスフィールは
開示されたプロフィールや遍歴は共有されたものの、それ単体であの男を推し量ることなどできるはずもなかった。
無理からぬことだ。新西暦を一変させたアストラルと呼称される概念はあまりに超越的とはいえまがいなりにも物理学、すなわち科学の延長線。双璧を成す魔術の申し子が
その点、手段無用の合理主義を貫く切嗣は冷淡に情報として飲み込んだ。別世界で生じた惑星規模の戦乱に一度人類が滅びかけたという終末論を。その後来訪した新時代と未知の技術を。ありえる可能性の有り様として分析したのだ。
それは多くの戦争を、多くの嘆きを直接
英霊を道具として活用する切嗣ならそこまでで足りるだろう。
だが、夫の補填をすべき自分にとっては過不足。圧倒的に知らないことが多すぎる。
ホムンクルスとして生まれ、聖杯の器として育てられた彼女。冷たい冬の牢獄で
だからこそ、囮活動をする最中に少しでも彼のサーヴァントを知ろうと努めた。
彼は切嗣の剣であり盾。一目散に主を守るのは彼なのだから、不安に通じる種はできる限り取り除いておく必要があった。
初めて見る外の世界。初めて目にした城内以外の人間。近代化した建造物。あまりに興味の惹かれすぎる情報量でつい目的を疎かにしてしまうところでもあったが、なんとかアイリスフィールはケラウノスに歩み寄ろうとしていた。
芳しくはなかったが……。
彼は寡黙だ。多く口を開かない。それは敵であっても味方であっても同じ。無茶ぶり近い探検行にもわずかな口角の変化すらない鉄面皮。作戦のため従ってはくれるものの、そこに人情味ある温かさは皆無。かつては一国の王に位置する立場にあったというのに、そんな様子で臣下はついてきたのだろうかと八つ当たりじみた疑念すら抱く。
(いえ、さすがにそれは考え無し過ぎるわね)
ケラウノスという男が、初めから
とはいえ人類の初歩的融和策である『会話』があまり成立しないとなると、アイリスフィールにはお手上げに等しかった。
よって、先の問いかけは苦し紛れの一手でしかなかったのだ。
「あなたから見て、この世界はどう? セイバー」
これに対して、ケラウノスは著しく饒舌だった。今までのだんまりは一体なんだったのかと、絶句しながら内心呆れていた。
でも、だからこそうかがい知れる。
彼は、決して鋼鉄の冷人ではないということを。
肉を持って、心を寄る辺に、誰かを守りたくて突き詰めたのだろう。
一心に。英霊なる守護者と化してしまうほどに。
同時に―――。
(自分が、とても嫌いだということ)
誰よりもケラウノス自身が、己の性質を蛇蠍のごとく嫌悪しているのが見て取れた。劫火のごとき義憤に燃え、理想と希望を胸に世の条理を踏みにじってしまえる、自分の
その在り方、その性質、理不尽に迫る苦難に傷つきながら守るべき誰かのために前進し続ける血まみれの雄姿は。
(そう、貴方は……切嗣によく似ているのね)
それこそが、アイリスフィールが彼を信頼しようと決意した瞬間であった。
***
倉庫街のとある一区画。街灯並ぶ四車線路。
夜の帳に沈んだその情景に、無数の剣閃と火花が舞い散っていた。
鋼を打ち付けるつんざくような音色が立ち上るたび、地は抉れ、砂塵が吹き荒れる。ときには街灯やコンテナを針金か紙屑のように引き裂き両断しながら、二人の英雄は覇を競い合う。
遠心力を乗せた朱槍の切り払いを難なく防ぎ、続く黄槍の刺突をもう片刃で流す。返礼として振るわれる一閃を躱し、槍兵はその敏捷さで敵の眼を攪乱しながら多角多面より無数の連撃を放つ。死角含め縦横無尽に繰り出される波状攻撃を、七本の剣を駆使し八面六臂もかくやとばかりの物量で片っ端から撃ち落としていく。伊達や酔狂ではない実戦的かつ驚異的な神速の連続抜刀術。夜闇を照らす光輝纏った閃刃が、煌めく残光の花弁を花開かせた。
剣士の絶技に瞠目するも槍捌きに寸分の惑いなく、二振りの変則槍術で応える。片腕で振るっているにも関わらず攻撃の重みと速度は両手使いと遜色ない。振るう長短の穂先は敵手の距離感を狂わせる、接近戦には好ましくない相手。その上ランサーの優れた技巧と跳ねるような軽妙なステップが合わさったなら、これほど恐ろしいものはない。
そして、交わるのは何も刃だけにあらず。差し挟む余地が生じたなら、すかさず肘打ち裏拳膝蹴りにショルダーアタックと、互いに全身隈なく凶器として活用する。サーヴァントの膂力で放たれる一撃は鉄板をひしゃげ大木をへし折るほどの攻撃力を誇り、攻防が重なるたび、肉同士が打ち合っているとは到底思えないような堅く重々しい
双方まったくの互角。ゆえに、一進一退の膠着状態。
セイバーとランサーの現状はこれに尽きる。巧みな武芸と常人を上回る肉体駆動の鍔迫り合い。時代を越え国を越え世界を越え発揮される英雄豪傑たちのあり得ざる対戦カードは、真っ当な理解が及ぶべき隙はなく、魔術の薫陶を授かる者たちにとってしても、予想を覆して余りある激戦となっていた。
特にセイバーとランサーは共に三騎士と称される優良クラス。もとより正面切っての打ち合いは彼らの最も活きる場だ。聖杯戦争
互いに二振りの武器を構えた状態で、
間断なく降り注いだ剣乱舞踏は唐突に小休止を迎え、虚ろな静寂が場を占める。
抉れ吹き飛んだアスファルトの路面。そこかしこに積まれた鋼鉄や瓦礫の残骸。前時代的な殺陣の果てに横たわる尋常ならざる破壊の爪痕……正しく人型の台風によって、戦舞台たる一帯は無惨な様相を晒していた。
「……ふ。名乗りもできない戦いに名誉も何もないとは言ったが、それでもあえて賞賛を贈らせてもらおう。
見事だ、セイバー」
「………」
「異なる時間を、異なる場所で過ごし生きた我らがこうして見えた聖杯の
「……貴様も、ただの伊達男ではないようだ。槍使い」
ここにきて、ケラウノスはようやく
彼も切り結ぶ中で相手の確かな力量を認めていた。牙を研ぎ、苦痛からなる修羅道を駆け抜けたのはランサーも同じ。なぜなら英雄とは誰よりも優れた克己心の徒であるから。その熱量、想いの絶対値を正しく認め、ケラウノスはまぎれもない尊敬の念を抱いた。
不愛想な返答の真意を汲み取り、ランサーも勇ましく微笑む。
「にしても、その光り輝く刀身の異様な魔力……俺の経験則からして、相当に凶悪であると察するぞ、セイバー。輝かしい見た目に反して、肌に刺さるような熾烈な光だ。それが貴様の宝具の一端か?」
「答える義理はない」
「無論、その通りだな。だが、その光には一層注意を払うべきだろう。
ランサーはケラウノスがかざす光輝の危険性に何より気を配っていた。
刀身に帯びた殲滅光。すなわちケラウノスの
この能力を知った切嗣は、その凶悪さに内心震えが走った。核崩壊の断罪剣。一撃必殺の攻撃を常に見舞う異世界の怪物に、改めて警戒心を
だがあえて使用に制限を設けることはしなかった。万象焦がす滅びの光は牽制としても実用面においても他を圧倒する性能だ。燃費の悪いものでもない。対峙した敵魔術師やサーヴァントがその凶悪な能力に注意を割けば割くほど、盤外からの殺意として切嗣が付け込む死角や隙が増える。
『何を遊んでいるランサー。戯れはそこまでにしておくがいい』
突然、一帯に響き渡った
だが隠密に徹する切嗣はすでに敵の首魁を捕捉済み。暗視スコープとサーモグラフィーを併用した夜目の先に、人型サイズの熱源が建物の屋根上で佇んでいた。
『そこなセイバーは難敵だ。早めに決着を付けよ。
「承知した。我が主よ」
主命を授かり、ランサーは短槍を手放した。
宝具とは、英霊がその来歴に応じた偉業や御業を能力や武具、あるいは必殺の一撃に昇華させた切り札。英霊が英霊と呼ばれる
ケラウノスの場合は放射光。そしてランサーの場合は、手元に残した長槍がそれと見るべきか。
槍を覆っていた布が空に溶けるようにほつれて消え、抜き身となった深紅の得物の真価を解き放つ。
「そういうことだ。ここからは本気で相手をさせてもらう」
「そうか。だが――勝つのは俺だ」
短く宣した天霆に、魔貌の勇士は突貫する。
再開された死闘。一本に絞られたことで変則さが減じ堅実さが増した槍捌き。長柄武器の本領を発揮しケラウノスの刃圏外から受け止める手がかじかむような腰の乗った
だが、それは単純な弱体化とまで呼べないまでも、これまでより動きが読みやすくなったのは確かだった。映える戦いから一転、力と力が衝突する無骨な戦いへと。とはいえ、警戒を緩める鋼の英雄ではない。むしろより相手の挙動に意識を割き、目論見を見透かさんと蒼焔の眼光を鈍く光らせる。
そして見た。
赤刃と光剣がかち合う刹那、死滅の光がその熱量を減じさせるのを。
刃が交錯するたび生じるかの現象にケラウノスは仮説を立てる。
それを立証するべく、彼は集束させた放射光を刀身から溢れるほど溜め、一斬に乗せて撃ち放った。ガンマレイを固めた飛ぶ斬撃だ。
「……っ!? フッ!!」
弧月を描く灼烈の一刀は輝く尾を引きながら敵手に向かう。
対するランサーは飛来する光刃を穂先で切り裂き危なげなく一蹴した。赤き切っ先に触れた放射光は、切り伏せされた面を起点としてほつれるように霧散する。
その経過を観察して、ケラウノスは己が結論の確度を高めた。
「なるほど、やはりその槍は異能を殺す力があるのか」
「……大した炯眼だ。そこまで断言されては、今さら隠し立てる意味もないな」
「その上で、貴様の素性にも推理が立った。
勇猛果敢なその気性。優れた槍捌きに変則の二刀流。魔を断つ赤槍、さらには女を籠絡する魔法の泣き黒子……ケルトの勇士・フィオナ騎士団のディルムッド」
現界の際、この世界の必要とされる最低限の知識は彼の脳に
「フン。そういう貴様は、一体何者なのだろうな? 悪いがこちらは皆目見当が付かんのだ。
輝く剣、練り上げられた太刀筋、何より猛る焔のごときその気迫……
「………」
「なんにせよ、貴様との
「御託はいらん。残った槍も宝具とやらなのだろう? ならば全霊全力を尽くすがいい。弁えた上で、俺は負けん。貴様個人への悪感情は特にないが、己が使命を果たすため、ここで貴様を討ち取らせてもらう」
「……全力を出させてなお上回る、か。
塩を送られる屈辱に
手を隠しての化かし合いもそろそろ終わりだ。
その誠心に敬意を表し、我が魔槍の妙技をとくと味わえ」
足元の瓦礫に埋もれる形で隠された短槍を、爪先で跳ね上げ掴み取る。
封を解かれた黄槍は対となる比翼武器と連なることで本来の迫力を取り戻した。
無名の槍兵はランサー・ディルムッドとしてここに顕現する。両手に己が分身とも呼べるほど馴染んだ魔槍を握り、鏖殺の雷霆を尊敬に値する好敵手と定めた。たとえ紙一重で敗北に喫しようとも、今の彼に後悔は微塵もないだろう。無論、忠義を尽くし、今の主に勝利をもたらす誓いに嘘はない。
不利は承知。悲観はない。
強敵との相対に無粋な雑念は投げ捨てる。
移り変わって、ケラウノス。
相手を挑発して意気軒高にしてしまうという愚を犯した彼だが、もとより光狂いの太源である彼はこういう性質だ。言葉であれ力であれ、自身に向かう脅威に対し全身全霊を傾ける。相手がより大きく鋭い暴力を振りかざそうとも真正面から強行突破。いっそ自罰的とすら感じる致命圏への投身もなんのその。
心を糧に燃焼し自らの骨身を薪とくべながら飛翔する雄々しき不死鳥なれば。
精妙なる槍術は相も変わらず衰えなく。種が割れたにしても長槍への警戒は捨て置けず、短槍にしても未知の
苦難常道。もとより険しくない道のりなど歩んだことは一度もない。
両者、三度に渡る仕切り直しと相成り、いよいよ決着が見えてきた――そのとき。
夜闇を引き裂く雷鳴が、二人の間に降り立った。
「双方、矛を収めよ。王の御前であるぞ」
稲光迸らせる戦車に騎乗した剛毅な巨漢が、決闘に乱入した。
読了感謝!
閣下はちゃんと
それで槍ディルと互角って弱くない? 極晃だよ? まだだ理論で単独覚醒した閃奏様だよ? とお思いのかた。
彼は己の危険性を承知して、全力を出す場をわきまえて行動してます。現実世界で因果超越した本気の光狂いが暴れたらどうなるかを、よぉーく理解しているのです。
さらに、英霊のセイバー枠に押し込まれたことで弱体化自体はしてます。
それと、
なので舐めプしてるわけではないのです。
本気を出すべき場面はもっとあと。