Fate/ZERO with シルヴァリオ   作:甲乙兵長

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この小説のタイトルからしてそうですが、基本副題などもノリと勢いで命名してます。

意味合いがおかしかったりしてもスルーしてください。




【Act3/招かれざる/Unknown】

 

「提案に来たのだ。

 セイバー、ランサー、聖杯を余に譲り渡し、我が朋友として共に世界を征する軍勢に加わらんか? 無論、貴様らほどの勇者ならば待遇は極上のモノを手配するぞ?」

 

 紫電帯びる神牛に引かせた戦車に乗り、割って入ったライダークラスのサーヴァント。

 真名()を征服王イスカンダル。マケドニアより『最果ての海』を目指して東方遠征を行い、道すがらの国を次々と制覇したかの名高きアレクサンドロス大王の英霊であった。

 宣誓するかのごとく名乗りを上げた巨躯の男は、続いて死闘を演じていた二人に向けて『提案』という名の勧誘を行った。彼の足元でぎゃあぎゃあと喚きたてる小さな人影は言動から察するにマスターのようだが、独断で戦場に突如襲来し勝手に真名を告げた挙句敵である相手を自軍に勧誘する……などといった常識外れの所業を見るにまったく(ぎょ)しきれていないらしい。

 

「で、どうだ?」

『断る』

 

 すげない返答。当然である。

 ランサーは今生の主へ立てた忠義に則って。

 セイバーは堅固なる鋼の気質が隷従を拒んだゆえに。

 悪い旗色にも関わらず、褐色のライダーは豪胆にも諦め悪く言い募った。

 

「待遇は要相談だぞ?」

『くどい!』

 

 英霊たちの()も言われぬ押し問答に、殺伐とした空気がやや弛緩する。

 そんな夜風に、一人の男が漏らした押し殺せぬ怒りの声音が乗った。

 

 

『そうか。よりにもよって貴様か。

 ――ウェイバー君』

 

 

 冷厳な怨嗟が気温を引き下げる。少なくとも名指しされたライダーのマスターであるウェイバー・ベルベットはそう体感するほど血の気が引いた。

 いま殺気を放つ男は、まぎれもなく少年が敵愾心(てきがいしん)を抱いていた時計塔の魔術師である。かの講師が聖杯戦争参加を決め、ウェイバーは彼が手配した聖遺物を偶然にもかすめ取った。ただの嫌がらせなどではない、卑賤な小物とこけ下された己の価値を、誰しも分かる形で知らしめるべく遠くイギリスからこの冬木に降り立ったのだ。

 奪った聖遺物でイスカンダルを招来せしめ、晴れて聖杯に選ばれた。順調……とはお世辞にも言えないライダーの破天荒ぶりにいまだもって振り回されている最中だが、ウェイバーはどこかで現状に一定の達成感と満足感を得てしまっていた。

 しかし、出し抜いてやったとほくそ笑み、得意げだった鼻っ柱を、過去のトラウマが塗りつぶす。(いた)わるような、揶揄(からか)うような(てい)を装飾した、隠しきれない嘲弄の罵倒。降り注ぐロード・エルメロイの言葉のナイフが、一語ごとに小動物のごときか弱い心臓を抉りたてる。

 けれど、トラウマと悪意に押しつぶされそうだったウェイバーの肩を、力強く大きな手のひらが包み込んだ。

 見上げれば、穏やかな髭面が真っすぐ見下ろしている。物理的にも立場的にも上から目線極まる不遜な使い魔であるはずが、今はその眼差しにどこか頼もしさと安心感を得てしまっていた。

 

「フムン。聞くところによるとお前さんが、本来余を呼ぶ手筈だった魔術師ということらしいな。

 だとすれば片腹痛い。いまこの場をもってしても姿を現さず、こそこそとネズミのように遠くから目を光らせるその小物ぶり、実に情けなく滑稽だわなぁ」

『……なんだと?』

「この王たるイスカンダルに相応しき戦友(とも)は、共に戦場を駆ける気概と覚悟があってこそ適格である。

 つまりお前さんのような輩よりも、未熟で前途の知れんこの坊主のほうがまだ見込みがあるということだ。そのあたりを言っておきたくてな」

 

 ウェイバーは隣に立つ大男を改めて仰いだ。浮かべる不敵な微笑は姿なき魔術師への憫笑のようであり、こちらを鼓舞し挑発しているようでもあった。ライダーは確かに断言してみせたのだ。単に優秀なだけのロードより、今の未熟な自身がマスターとして望ましいと。

 未熟なのはまぎれもない事実であり普通に考えて侮辱以外の何物でもなかったが、ウェイバーの胸に去来したのは決して暗いだけの感情ではなかった。

 豪放な啖呵に気色(けしき)ばんでいるであろうランサーのマスターから意識を外し、ライダーは見えぬ聴衆を眺めるように暗闇の倉庫街へ視線を巡らせる。

 

「そら、他にもおるだろうコソコソしとる奴らが。隠し立てねばならんような後ろめたさがないのなら、とっととこの場に集うがいい」

 

 平静を装うも、ライダーの台詞に若干の動揺を示すアイリスフィール。だが、戦車上の覇王が揶揄する存在は、何も切嗣たちのことを差しているようでもないらしい。

 ふと、いきさつを傍観していたケラウノスはジロリとあらぬ虚空へ瞳を投げる。切嗣や舞弥、それに途中から大型クレーンに現れたアサシンでもない。もっと別の……。

 

「どうした! 仮にも聖杯に招かれた英雄豪傑の猛者どもであろう? 人々にかくも尊いと謳われた巨人であろう? ここに至ってなお逃げ隠れるというのなら、英霊にあるまじき腰抜けよな!

 そんな臆病者は、このイスカンダルの侮蔑を免れぬものと知れ!」

 

 

 

 ――果たして。

 ライダーの喝破が放たれて間もなく、荘厳な気配が現出した。

 

(オレ)の前で愚かにも王を僭するだけに飽き足らず、数々の聞くに堪えぬ悪口三昧(あっこうざんまい)

 ――不敬が過ぎるぞ、雑種風情が」

 

 

 

 眩いばかりの黄金を体現した男だった。

 逆立つ髪、身を包む甲冑の全てが地上に比するもののない純度の金色であり、高貴さと神々しさ、華やかさを演出している。

 街灯上に佇む超然とした立ち姿は夜の暗闇を退け、大地に根差す有象無象を睥睨(へいげい)する。その珠玉の至宝のような真紅の両眼に認められた者たちは、男の存在から目が離せなくなった。使い魔を通して昨夜の遠坂邸の顛末を見ていた者たちならみな承知している、あの金色の暴虐を。

 惨殺されたアサシン、この場で戦いに興じていたランサーとセイバー、そして自ら正体を明かしたライダー。残るクラスは三つ。男の甲冑姿と壮麗な気配は魔術師たるキャスターにしては違和感があり、理知ある態度は狂戦士にあるまじきもの。

 闇に乗じた暗殺者を処した手管と消去法から推察するに、アイリスフィールは到来した英霊をアーチャーと断定した。遠方からうかがう切嗣も、ランサーのマスターも、ウェイバーも、およそ辿り着いた結論は同様だ。

 イスカンダルは己よりもなお傲然とした黄金の英霊に、後頭(こうとう)を掻いて反論する。

 

「そうは言うがなぁ。余はまぎれもなく世に知られる征服王であるからして」

「戯け。天地開闢から今に至るまで世界を戴く真の王はこの(オレ)ただ独り。それ以外など、総じて取るに足らん雑種に過ぎん。弁えよ愚物」

 

 尊大もここに極まれり。ライダーの反駁をすかざず打ち返したアーチャーは、不愉快げに赤い瞳を(すが)め見下した。

 この場の誰もがかの暴君の空気に呑まれている。それだけではない。一夜のうちにこれだけの英霊が集うなど、過去の聖杯戦争においても異例の事態。混沌と化したこの状況、もはや軽率な行動を一切取れなくなっていた。何が起爆剤となって、均衡が破綻するかわからないからだ。

 

「そこまで自信たっぷり断言するのなら、まずはお前さんの名を聞かせてくれんか? 

 衆生に見初められる英雄なら、威名(いみょう)を隠し立てるなどするまいに」

 

 なおもアーチャーと対話するのは同じ王の格に位置する男。ライダーの述べた理屈は正しいが聖杯戦争において真名を晒すことに戦略的意味は皆無。自身の泣き所を晒すものでしかない。

 

「問いを投げるか? この(オレ)に。

 我が拝謁の栄に浴してなお、この面貌を知らぬと(のたま)うのなら、そのような蒙昧に生きている価値はない」

 

 だが、アーチャーの琴線に触れたのは違う理屈だったようだ。憤りを露わに柳眉を逆立て、高ぶる感情に呼応して魔力の波濤(はとう)が吹きすさぶ。

 にわかにアーチャーの背後が水面のように揺らめいた。波の発生源は二か所。高慢な主の両肩口より虚空を抜けて出現したのは華美に飾り立て磨き抜かれた二振りの刃。それ単体から放たれる魔力と重圧は明らかに宝具と呼んで遜色ない輝きを有している。

 見知った者も多い、アサシンを殺めた断刃に他ならない。

 だが、単純に武器が分裂しているというわけでもないようだ。アサシンに降り注いだものと、いま空間を揺らめかせ現れたものとでは武具の種類も(こしら)えも全て異なる。ならば順当に考えて、黄金のアーチャーが保有する宝具は複数あるわけになるのだが……。

 ランサーの魔槍という例もあり、宝具の複数所持というのは特段目を見張るものでもない。逸話の数だけ、伝承の数だけ、英霊が有する能力は膨れ上がる。クラスごとに振り分けられることで制限も生まれるが、要は乗り越えた修羅場、踏破した偉業の数が英霊の力となる。

 しかしなぜだろうか、このアーチャーに関しては底が見えない。

 感情のおもむくまま必殺兵器を出し惜しむ様子のないその気前良さは、彼の性格云々というよりは見せたところでわずかな瑕疵(かし)にもならないと、言外に物語っているようにアイリスフィールには感じられた。

 

「そして、もうひとり。(オレ)には処断せねばならん無礼者がいる」

 

 巨躯のライダーから紅眼は転じて、ひとりの英雄を貫いた。

 アーチャーの放つ圧倒的存在感から仰ぎ見ざるを得なかった集団の中で唯一、鋭い眼光を最初から他所(よそ)へ向けていた軍服の男――ケラウノス。

 苛烈な熱視線を感じ取ったか、あらぬ方角を見つめていた彼は、ようやく正体不明のアーチャーに焦点を当てる。まるで、話を振られたから仕方なく相手をするような億劫さすら滲ませていた。

 慌てるでもなく、怖気(おじけ)るでもなく、なんのけないもののように発される殺意を甘んじて受けている鋼の英雄に、アーチャーのボルテージはさらに上り詰める。

 

「貴様、(オレ)の降臨を気に留める素振りすらなく無きもののように扱うとは……よほど死に急ぎたいらしいな雑種。

 何者もまず天高くそびえるこの(オレ)の偉容を瞳に焼き付けてしかるべきところを、斯様に不遜な振る舞い……万死に(あた)う罪なるぞ」

 

 主命を待っていた二本の宝具の切っ先が、それぞれ礼儀を失する咎人を狙う。

 ひとつはライダー、ひとつはケラウノスへ。

 

「オイオイオイ!?

 ら、ライダーッ! 逃げろっ、今すぐ! 転進ッ!」

「慌てふためくな坊主、見苦しい。王たるならば向かってくる敵刃を真っ向から打ち払う気概を見せんで如何(いかん)とする?」

「悠長なこと言ってる場合かよぉぉ……! ホントにヤバイって!」

 

 狂乱するウェイバーに征服王はなんのその。差し向けられた切っ先に臆することなく腰の剣を抜き放つ。受けて立つという台詞に嘘はないようだ。堂々たる風格はなるほどさすが王の貫禄。無茶に巻き込まれた少年には、ついぞ納得の行かない理屈だが。

 共に、刃を向けられたケラウノスもまた応戦の構え――と、思いきや。

 

「セイバーっ?」

 

 男は動かない。

 ただ堂々と、黄金の英霊を見つめ返すだけ。

 握った両手の双剣に烈斬に必要な(りき)みはなく、それどころか、彼は刀身の光輝を消し、鞘に武器を納めてしまった。

 見守るアイリスフィールもこれには愕然とする。

 

「ほう。殊勝なことだ。自ら(くび)を差しだそうとは潔いではないか」

 

 アーチャーはケラウノスの行動を都合のいいように解釈する。だが、煌めく刃の殺意に微塵の手心なく、依然罪人を補足していた。

 ケラウノスの挙動に誰よりも不信感を募らせたのは切嗣だ。

 傲岸さで言うならばかの英霊とてアーチャーに負けぬほど備えているはず。敵刃を前に頚を差し出しておもねるなど、あの男に限ってあり得るだろうか。

 ケラウノスは不撓不屈な克己心の塊だ。パラメーターやプロフィールを(かんが)みる限り、他者への恭順に浴する可能性は限りなく低い。

 逆に言えば、あくまで低いというだけだ。もしかしたら、万が一の確率で切嗣たちに開示していない何がしかが、深謀として蟠っているがゆえの愚行なのか……。

 もとよりサーヴァントは道具。そう断じていた切嗣は当然、自らの使い魔にも心を許さず、意思の有無や受諾、聖杯に懸ける願望などを聞いた試しはない。

 『使命』――あれは召喚の単なる標語とは別の意図があったのか?

 逡巡の時間はない。判断材料も少なかった。いまにも裁きを与えんとする(やじり)は放たれる寸前。アーチャーのマスターがこちらで確認できない以上、密かに始末することもできない。単独行動というクラススキルも持つアーチャーにとっては、現状マスターの存在など在ってないような些事かもしれないが。

 言うまでもなく、切嗣自身に宝具を止められるような手段は持ちえない。

 だがケラウノスに己の身を守らせる方法はある。

 

(使うか? 令呪を)

 

 英霊に対して召喚者が持つ絶対権限を行使するか、切嗣が手の甲に意識を集中しようとした――そのとき。

 

「まさか……よもやとは思いもしたが。なるほどそういうこともあるか……」

 

 天霆(ケラウノス)からこぼれた独白。

 息の詰まる静寂の湖面に、ささやかな声は一石を投じた。

 

末期(まつご)の戯言か? 良い。殊勝さに免じ許してやる。申してみよ」

「……なに。因果なものだと思ったまでだ。

 どうにもこの(よすが)は、そう易々と断ち切れるものでもないらしい」

「―――?」

「ところで、王を名乗る貴様は心得ているだろうか――」

 

 ケラウノスは感情の乗らない凪いだ声音で、麗しい黄金に忠告した。

 ()()()として。

 

 

 

「この世には、輝く勝者を貶めたくて()まない……亡者の嘆きがあることを」

 

 

 

 直後。

 アーチャーの胸部から、()()()()が穿たれた。

 

 

 





読了感謝!

正体不明のアーチャーには登場早々死亡フラグが立ったわけですが、どうなることやら


決して(オレ)のルビ振りが面倒だとかいうメタい理由(私怨)ではないですよ?

意味深な終わり方に疑問がある方は続投をご期待ください

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