Fate/ZERO with シルヴァリオ   作:甲乙兵長

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通算五話目、投稿です。


書き手側になってよくわかる、他人からの感想と評価のありがたみ。

ほんとモチベーションに繋がります。


【Act4/宿命のヨスガ/Dark servant】

 

 

 時が凍った。

 

 

 

 聖杯戦争による、倉庫街の経緯を見守る者らにとって、その事態は誰にも想像だにしなかった結末だった。

 黄金のアーチャー。潜在能力のうかがえぬ尊大で強大無比であろう英霊は、己の胸に空いた孔を、起こった現実を受け入れられぬとばかりの眼で凝視していた。

 隙間風の通り抜ける貫通孔。心臓にあたる部位が、一切の肉片残さず消滅している。鎧ごとぽっかり穿たれた陥穽は、素人目にもどう見分し(あらた)めようと、致命傷に違いはない。たとえそれが英霊だとしても。

 

 

「ば――かな―――この、(オレ)がァ・・・・・・!」

 

 

 立ち直りが早かったのもまたアーチャーだった。口から吐血しながらも彼はすぐさま手のひらに空間の波を発生させ、目的の物体を宝物庫から呼び出す。

 よりも――先に。

 

 

「やらせるかよ。とっとと黄泉へ(くだ)れ」

 

 

 閃く銀の軌跡。

 夜の闇を奔る極細の線は、アーチャーの肉体を幾度も満遍なく執拗に往復。次瞬、美丈夫の身体は肉の結合を断たれ滑落。頭の毛先から足の爪先に至るまでをおよそ150ほどの肉片に解体された。

 それに終わらず、重力落下を遂げる前にぶちまけられた血潮もろとも、闇黒の瘴気が穢し尽くす。

 放たれた無謬(むびゅう)の闇。黒い濃霧のように招来したそれは夜の穏やかで静かなものとは比較にならない邪悪さと冷たさ、悍ましさを孕んでいた。暖かく尊き光の一切を赦さないと、陰々(いんいん)に死毒を滴らせる闇が失せたとき、そこには何も残っていない。

 崩れた肉片も、流れ落ちた血滴のシミひとつすら街灯にも路面にも存在しなかった。もはや実在していたのかすら疑わしくなるほど、徹底的にアーチャーの痕跡はこの世界から消え失せたのだ。

 凝然と、鮮やかな人肉解体から抹消に至る黄金の末路を見届けた観衆は、成り代わるように街灯上へ立つ人影を認めた。

 漆黒に切り抜かれた人影の姿にアーチャーのような神々しさはなく、上下に連なった二対の炯炯とした眼光だけが夜空を背に浮かんでいる。光を通さない人型の影絵。超常を誇る英霊の眼にも、マスターの眼にも、その存在の確かな姿を実像として捉えられなかった。

 

 

「―――」

 

 

 ケラウノスは視線を感じた。

 気のせいではない。先の無慈悲な振る舞いとは打って変わった、透明な思惟をうかがわせる獣の眼。来るか、と柄に手をかけ即座抜刀の構えに移るも、相手は興味を失ったように目視を切った。宿敵のらしくない大人しさに気勢が削がれる。

 四ツ目の影絵は衆人の視線を独占するなか色を失い、姿を消した。魔力による疑似的肉体を持つサーヴァントは己を実体と霊体へ自由に推移させられる。霊体化した闖入者(ちんにゅうしゃ)の気配はやがてどこにも感じられなくなり、緊迫に強張った夜気がようやく元の流れを取り戻した。

 しかし、いまだ事態の変転に思考が追い付いていない者たちは彫像のごとく固まったまま――その好機を逃すケイネスではなかった。

 

 

 

『ランサー! 宝具でセイバーを亡き者にせよ! ()()()()()()()()()!』

「っ!?」

 

 

 

 強権発動により槍兵が躊躇の思考を挟む余地なく疾駆する。

 令呪に秘められた魔力は如何な理不尽をも貫く強制力を有している。ディルムッド個人の感情に関わらず、刻印は彼の肉体を十全以上に動かした。それは令呪の魔力によって彼の性能に一時的なブーストがかけられていたためであり、()しくも、ランサーの槍をケラウノスに届かせうる助勢となった。

 しかしケラウノスも歴戦の猛者。不意打ち闇討ちなど慣れたもの。いの一番に突出した赤の槍を剣で弾き受け流す。が、ランサーにはもう一方の必殺があった。

 最短最速で心臓を抉りにかかる短槍は、すでに刃圏の内側に入り込んでいる。この距離では刀剣は文字通り無用の長物でしかなく、ケラウノスは迷わず愛刀を手放した。

 

 

「・・・・・・・・・」

「くっ、セイバー・・・・・・!」

 

 

 かくして穂先は肉を穿ち、血潮を冷たい路面へ滴り落とす。

 ケラウノスは痛みに眉を(ひそ)めるでもなく、手のひらを貫通した短槍の切っ先を普段と変わらぬ鉄面皮で見返している。

 むしろ、刺し貫いたランサーのほうが苦渋に美貌を歪めていた。忠臣の意思を無視した卑劣な手管による一太刀。それは敵手よりもディルムッドの戦士としての誇りを深く抉る苦々しい初手傷となってしまった。

 槍兵の心痛とは裏腹に、令呪の縛にいまだ忠実な身体は抵抗を突破しようと黄の槍を強引に押し進める。さらに広がる貫通孔。深まる損傷に足元を染め上げる赤い水たまり。目視するだけで痛みに共感するまともな神経持ちのウェイバーなどは不快感露わに顔面を蒼白させる。

 

 

「セイバー!」

「・・・・・・フン。これが令呪の戒めというやつか。なるほどサーヴァントでは抗いようがない強制力のようだ」

「・・・・・・すまん」

 

 

 双槍の戦士は悔しげに詫びた。こんな形で傷を与えた自らの行いに悔恨尽きぬ内心を吐露したのだ。手中に込められた殺意に微塵の衰えもないままに。

 そんな矛盾背反に苦悩するランサーを(おもんぱか)ったわけでもないだろうが、ケラウノスは言葉を続けた。

 

 

「謝意は不要だ。もとより戦いに小奇麗な美学や理を持ち出すことこそ愚かというもの。闇討ち暗殺、謀殺毒殺、信ずる者からの裏切り・・・・・・いかな手段を用いても、必ず遂げるべき目的のためなら汚わい浴びる覚悟を持つならば、そこに正誤の基準を照らす意味はない」

「・・・・・・・・・」

「だがな―――」

 

 

 ケラウノスは貫かれている手のひらを握り締め、もう片手の刃も手放し朱槍の長柄を凄まじい握力で掴み取る。

 

 

「自らの手を汚しもせず、安全地帯から臣下にのみ負担を強いた上で嘲弄する悪辣さには――どうにも我慢がならん」

 

 

 裁きの雷霆はとある一角を眼光で射抜く。

 的となったケイネスはその圧力に肝が冷えるが、誇り高いロードの気性が不埒者への対抗心に火を着けた。

 

 

『何をしているランサー! さっさとトドメを刺せ! 私に令呪を失わせておきながら功を成せないとは何事だっ!』

 

 

 ランサーは答えない。それは彼に翻意があるからではなく、言うことを利かない穂先に困惑しているからだった。

 いまだ彼の槍は敵手を貫かんと冷徹な殺意に滾っている。にも拘わらず、二振りのどちらもまるで動かせない。がっしり掴まれた破魔の紅薔薇(ゲイ・ジャルグ)は無論のこと、圧潰せんほど握りこまれた手のひらの必滅の黄薔薇(ゲイ・ボウ)に至っても同じであった。信じがたいが、軍装の男は渾身の万力のみで槍の進行を食い止めているとしか考えられない。

 滴る血滴は版図(はんと)を広げ両者の靴底を汚している。もはや多大な出血量。強く握りこめば傷が拡大するのは当然として、流出する血液量も増え続ける。だが、ケラウノスはわずかにも顔色を変えないまま、むしろ敵刃を押し返し始めていた。

 じりじりと崩れていく均衡に、当事者以上の焦燥を滲ませるのはマスターだ。

 彼はこの時点で二画目を切るべきか迷っていた。令呪に充填された莫大な魔力を今一度解放すれば、ランサーは確実にセイバーを貫けるはずだ。しかしそれは同時に、美貌の勇士の矜持をさらに踏みにじり、主従関係に決定的な亀裂を与えかねない。

 あくまでサーヴァントは使い魔だ。過去どれだけ勇を成した英傑であろうと、それ以上の幻想を持ち込む魔術師(ケイネス)ではない。

 しかし、ここで切り札を早々に消費しては後に差し支える可能性がある。二人のサーヴァントが退場したとはいえ、残り五人の英霊に、同じだけの魔術師。ランサーにのみ頼り切るケイネスではないが、だとしても貴き幻想(ノウブル・ファンタズム)たるサーヴァントと正面切って相争えるとまで、己の力量を過剰評価はしていない。ランサーの力は今後を生き残るためにまだ必要。

 冷静に考えるならば、退却がもっとも上策だ。

 セイバーがランサーの動きを封殺していなければの話だが・・・・・・。

 今になって、彼に問答無用の奇襲を強いたツケが回ったと、ケイネスは歯噛みしかけるも、そんな自戒に浸るわけにもいかず、状況は徐々に悪化の(よう)を呈し始めている。逡巡する暇はなかった。

 ・・・・・・とはいえ、ケイネスの煩悶は死角からの一撃に消し飛ぶ。

 文字通り、横合いから到来した甲高い衝突音がケイネスの鼓膜を至近で叩いたからだ。

 ケイネスを覆った流動する銀の金属膜。それは彼の有する最強の魔術霊装が展開された証に他ならない。自律防御を遂行した霊装は、主たる魔術師の命令なくとも危険を察知し自動展開する仕組みだった。

 銀膜が防いだ堅い衝突物の正体は、魔術の砂礫や氷ではなく、異能に()らない無粋な円筒状の鉛玉である。

 

 

(自律防御型の魔術防護か)

 

 

 舌打ちを押し殺し相手の武装性能を看破した切嗣は、即座に撤退を開始する。初撃で仕留め損じた時点で、彼の暗殺は失敗した。続けて勝負に打って出るのは愚挙でしかない。

 

 

「主よ!?」

 

 

 ケイネスに危機を及ぼした暗殺者の魔の手は、使い魔の意識を逸らした。

 そこを見過ごすケラウノスではなく―――。

 やおら頭を振りかぶって、額を槍兵の端正な横っ面へ叩き込んだ。

 力任せの無遠慮な頭突きである。

 

 

「がっ・・・・・・ぐっ!」

 

 

 (ひる)んだところへ続けざま胴に突きこまれた剛烈な前蹴り(ヤクザキック)に、ランサーは吹き飛ばされコンテナがひずむほど(したた)かに背を打ち付ける。

 

 

『ランサー!? くっ、私に構っていないでセイバーを・・・・・・』

「もう()せ。ランサーのマスターよ」

 

 

 奇襲の忘我より立ち戻ったケイネスを諫めたのは、褐色の覇王。

 征服王のその瞳はディルムッドを労わるような色を湛え、反して、戦の誉れを汚した無粋な魔術師を冷厳と貫く戦士のそれであった。

 

 

「これ以上そやつの騎士道を汚してやるでない。仮にも主君ならば、臣下の心意気を汲んでやれ。・・・・・・それでもなおランサーに恥をかかせるならば、余はセイバーに加勢するぞ? 二人がかりで貴様のサーヴァントを潰しにかかるが、どうする?」

『・・・・・・・・・』

 

 

 意地悪気に首を傾げるライダーに、ケイネスは憤懣(ふんまん)やるかたない沈黙を返したが、果たして。

 

 

『撤退だランサー。今宵は、ここまでとする』

 

 

 二人のサーヴァントを同時に相手取る気概もなく、先の暗殺者も今なお控えている可能性を考慮すれば、退く以外の選択肢はなかった。

 魔術師の気配が遠ざかっていくことを察したディルムッドは、槍柄からようやっと力を抜き、ライダーに向き直る。

 

 

「感謝する。征服王」

「なに、戦の華は愛でる性質でな。貴様らの決着は、貴様らの手で果たされてこそであろうて」

 

 

 剛毅に言い放った覇王にもう一度謝意の礼を返し、セイバーを一瞥(いちべつ)してから霊体化する。視線の交錯が意味するところは、語るまでもない。

 

 

「さて、では我らもお暇させてもらうとしよう。おい坊主、お前さんも気の利いた一言でも・・・・・・失神しとるわ。はぁ、もうちょっとしゃっきりせんかなコイツは」

 

 

 度重なる不測の事態の連続に精神が限界に達したか。御車台でいつの間にか意識を飛ばしていたマスターを見やって、ライダーはケラウノスに別れを告げる。

 

 

「ではなセイバー。色々とごたついたが、お前はまずランサーと雌雄を決するがいい。そしてしかる後、勝ち残ったほうと余は刃を交わそうぞ」

「・・・・・・・・・」

「ふん。最後まで愛想のないヤツめ」

 

 

 苦笑して手綱を打ち、戦車は雷電を散らしながら夜空へ翔けていった。

 名高き英霊たちは去り、騒乱を経たコンテナ置き場は惨憺たる有様だったが、異邦の英雄は緒戦を生き残ることができた。・・・・・・深い手傷と、大きな懸念を抱えながら。

 

 

「セイバー! ひどい怪我・・・・・・すぐに治癒を」

 

 

 駆け寄ったアイリスフィールが治療魔術を行使する。錬金に優れた生粋のアインツベルン派魔術師である彼女は、戦闘こそ不得手だが人体の修復や再生といった能力には長けていた。

 しかし。

 

 

「そんな、どうして? 治癒は確かに効いてるはず・・・・・・」

 

 

 魔導の燐光に慰撫されながらも、ケラウノスの負傷は治らない。出血すらいまだ止まる兆しを見せなかった。

 不可解な現象に、黒衣の男は得心いった具合に目を細めた。

 

 

「やはりか」

「どういうこと?」

「奴の真名がディルムッド・オディナに相違なければ、もう一方の槍もまた宝具であったということだ。一太刀浴びたなら、その傷を決して癒さぬ呪いを帯びた魔槍なのだろう。呪いを解くには、ランサーを倒すか、宝具を破壊するほかにない」

 

 

 幸い、現世(うつしよ)の生命ではないケラウノスに失血死の危惧はない。だが、出血に伴って通常より多くの魔力は流出し続けるだろう。ここにきて、霊体化できない欠陥が真に不利益を晒した。

 が、ケラウノスが思慮を巡らせるのは自らの損傷ではなく、黄金のアーチャーを下した影についてだった。

 奇しくもアイリスフィールも思うところは同じだったらしい。

 

 

「それにしても、あのアーチャーを瞬く間に倒した影・・・・・・サーヴァントには違いないはずだけど、残った二クラスのどちらにも思えなかったわね。所感としてはアサシンが近いけど、例のアーチャーが倒したはずで、姿も違うし・・・・・・」

「・・・・・・・・・確かに暗殺者でもあるだろうが、アレの本質はもっと身近であり触れた、人の業そのものだろう」

「本質?」

「戻るぞアイリスフィール。次の戦いに備える必要がある」

「え、ええ。いまはともかく、ランサーの呪いを解かなきゃね」

 

 

 急ぎ倉庫街を後にしながら、鋼の英雄と呼ばれた魂はあの影に一人の男を重ねていた。

 人狼と呼ばれた処刑人、裁きの女神が(いだ)く刃。

 仲間を裏切り、ただ一人の少女のため敗者に堕することを容認した野良狗(のらイヌ)

 月の乙女に見初められ、運命に琴弾(ことひき)たれと強いられた吟遊詩人。

 そして――闇に落ちた慟哭(さけび)と涙に報いるため、敗亡の淵より蘇った、勝者の栄光を貶めるべく再誕した冥府の王。

 英雄(強者)たちが未来を懸けた聖戦・・・・・・運命の車輪に紛れ込んだ、取るに足らない小さな砂粒。

 ・・・・・・英雄譚(おのれ)がこうしてやってきたように、かの逆襲劇もまた、この戦いに招かれたのか。

 どちらにしても、この先の戦いはより容易ならざることになる。

 確かな激闘の予感を見出し、天霆は決意の焔を新たに宿した。

 

 

 




読了感謝! です。


<狼さんがログインしました>

<AUO様が垢BANされました>


まあ冗談はさておいて、緒戦突破。まだまだ先は長そうです。


ちなみにですが、狼さんの登場には一応伏線が張ってありました。

わからなかった方は、【Act0】の最後らへんをよく見てください。目で追うだけじゃなく、実際に触れてみてください。隠れてますから。

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