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大輪の花が、一瞬にして夜空を埋め尽くす。
痛いくらいの光は長く、長く尾を引き、散りゆく刹那に白亜の城が浮かび上がる。
浮かんでは薄れ、溶け、消えたと思ったらまた。光にさらされて浮かんで、薄れ・・・一体何度、繰り返しているだろう。
見上げるとすぐそこには、この世界の誰よりも愛しい横顔。いつだって、輝くばかりの笑顔が今日に限って
「ダーリン」
ちらと。ヘビメタコに目を合わせるのみで、それっきり。ダ・サイダーは変わらず、らしくもなく、次々に打ち上げられる花火をぼんやりと眺めている。
アララ城の端、艇泊所にうすくまる黒いクジラ型宇宙船の操舵を背もたれに、日が暮れる前から。もうずいぶん前から、ダ・サイダーは一点を見つめている。
白亜の塔、その最上部。ダ・サイダーの目の先にあるのは『アララ城で一番展望がいいから』と、高飛車な態度はまだ、ほんの数ヶ月前の事。
浮かんで・・・消えて。また浮かぶ。
一瞬。
目もくらむほどの光に再び、照らし出される。見慣れたばかりの城、見慣れたはずの西端な横顔。でも今は、知らない誰かのように思えるくらいに
「シケた面してんじゃなぁい?」
跳ねるように降り仰ぎ、迂闊にも接近を許してしまった相手を警戒する、が。
驚きに見張った目は、口元はすぐにゆるみ、思わず笑いが漏れる。
「んだよ、レスカかよ」
はあい、と掲げる手にはウイスキーのボトル、反対の手にはグラスが三つ。
普段からは想像も付かないくらいに華やかに、清楚にドレスアップしているというのに。それなのにまるで、そんな事どーでもいいの!と言わんばかりに、汚れることも構わずいつも通りに。ダ・サイダーの隣に腰を下ろす。
「手酌だなんて。天下のダ・サイダー様ともあろうお方が、寂しいわねぇ」
「オマエの・・・誕生祝いパーティーだろう?いいのかよ、抜けてきて」
にへへ。とだらしない顔で笑いながら、三つのグラスに注いでゆく。
そう。今日はレスカ、いや。アララ・カフェオレ姫十七歳の誕生日なのだ。
「いいのよ、どーせ。アタシの誕生日なんて、ただの口実。酒飲んで酔っぱらった流れでアララ国に取り入ろうって、魂胆ミエミエ。それよかアンタこそ。親衛隊長が血眼で探し回ってたわよ、勇者殿はどこだ~って」
「言うな、酒が不味くなる。ったく、しつこいオッサンだな。だ~れ~が!次期親衛隊長なんざ!」
「アタシは悪くないと思うけど?」
「冗談!いいか?オレ様はだな、このドキドキスペースのスーパースター!こ~んなチンケな一国で縛れるような器ではないのだ!」
振り上げた拳に合わせるように、ばっと。花が開いて二人の横顔が照らし出される。
そこに居るのはいつもと何ら変わらない、絶好調に何だか色々と踏み外している男と、もはや持病とも言える偏頭痛に悩まされている不機嫌そうな女なのに。
「悪うございました、チンケな国で」
「オマエこそ。本気なのか?姫なんて・・・ププ!」
「はん!アンタどこに目ぇつけてんの。このアタシの美貌と!優秀な頭脳をもってすれば不可能な事なんざ!・・・と。言いたい所なんだけど。ちょっと早まったかもって思ってんのよね」
一転。
ぐっと、勢いを付けてグラスを仰ぐ。
「正直さ、カフェオレって呼ばれる度に思うのよね、誰よそれって。アタシはレスカ!派手な格好してバッチリメイクして、そいでもって悪いことだってやっちゃう、そんな女じゃない?こんな・・・キレイな格好してるとさ、不安になるって言うか、違うでしょって、思うのよね」
「全然似合ってねーからな・・・がはっ」
とっさに手が出て、ダ・サイダーの横っ面に拳がめりこむ。
「さ、早速化けの皮はがれてんじゃねーか、このアバズレ!」
「死にたいの」
「だからさ、行こうぜ?冒険」
もう一発。固められた拳は中途半端な高さで止まったまま、目をまんまるに止まってしまう。
「お姫様に騎士様だって?クジラが空飛んだってムリに決まってんだろ。そりゃオマエの方は、ちったぁ義理も通さにゃイカン。けどよ、天下のレスカ様ともあろう女が縛られるなんて。らしくねえだろ」
「そう思う?」
「だから言ってんだろ」
そっか、と言ったきり。
とおく、笑いさざめく声が風に乗って、ここまで聞こえて来る。レスカどこか遠い場所に視線をとどめたまま。それきり貝のように、時々まばたくだけの横顔に…何と、声を掛けたら
「ホントはさ、チョットだけアコガレてたのよね、こういうの。親とか、兄弟とか・・・本っ当めんどくさい!気ぃ使わなきゃなんないし、気い使われても見当違いなことばっかり!でもさ、何か・・・変に、浮かれてるの。そんでさ、アイツらのため、って思うとさ、チョットだけ。もうチョットだけカフェオレ姫、頑張ってやろうかなって、思っちゃうのよね」
「・・・じゃ、仕方ねーな!オレ様はヘビメタコと二人で」
「ね、アタシの事嫌い?」
思わず。
口に含んだばかりのウイスキーでむせてしまう。鼻の奥がしびれて、一気に酔いが回ったのか、覚めたのか。
「ねぇ、ダ・サイダー・・・」
レスカの手がダ・サイダーの首に
「ぐ、ぐええええっっ…」
「レ、レスカ!そんな絞めたら」
「お黙り!何を言うかと思ったら!このアタシを置いて行こうなんざ、どーいうつもりよ、え!?」
首に、手を掛け前へ後ろへ力任せ!ヘビメタコがその手に噛みついて、ようやく放した、と言うか飛び上って、その勢いで一発喰らって・・・散々な目に遭って、目を回しながらも、ようやく気が回った。見ると、一命を取りとめたダ・サイダーはまだ赤くなったり青くなったり、口から白いモヤが出ていたり…。
ともかく。レスカの方は、今にも噛みつきそうな目のままに、次の言葉を待っている。
「い、一瞬、花一面の河原が見えたぜ・・・じゃなくって。オマエは、ココで姫やってくんだろ、だったら」
「本当バカ!」
さすがに頭に来たダ・サイダーが口を開いたよりもわずかに、レスカがふんぞり返る方が早かった。
「そうよ、アタシはココでカフェオレ姫を完璧にやってやるわ、そしてゆくゆくはアララ国女王様になるのよ」
「どー考えても無理じゃねーか!」
ふふん。とあからさまに見下した視線でさらに続ける。
「いい?女王様ってのは、この国で一番エラい人間って意味なのよ?だったら!女王様のアタシが冒険したいって言うなら、誰も文句は言えない!って事でしょ」
「そんなカンタンな事じゃないと思うジャン」
「あーもう!アンタは水差すしか脳がないの?簡単とか困難とか、そー言うんじゃないの。やるか」
「やられるか」
「そうそう・・・って!やられてどーすんのよ」
目が合い、どちらともなく吹き出してしまう。お腹を抱えて・・・ようやくのいつもの調子に、こっちはタメ息が出てしまう。
本当に、世話が焼ける。
「だから、アンタはさしずめアタシの、女王陛下の親衛隊長、決まり!」
「拒否権は・・・無いんだな、やっぱ。本当、強欲な女を相棒に持つと苦労するぜ」
「欲しいモノはこの世の総て。女の性よ」
「はいはい。ま、ココを拠点だって、出来ねぇ事は無いだろ」
「平日はココで仕事、休みの日には冒険して、帰ってくるジャン?」
「帰る場所、ね。オレ様には無縁だな」
「なに言ってんの。アンタの家はココじゃない」
「家族ごっこは、オレぁごめんだぜ」
「だから。ココ、クジラ型宇宙船アルミホエール号が、アタシとアンタの家でしょ?」
目を見張っている。思いもよらなかった考えにしばし、動けなくなっているダ・サイダー。レスカはそれに眉根を寄せて、何でこんな事も気づかないの?と
口元がゆるむ。そうだな、チョットだけ
「ったく。仕方ねぇ、つきあってやるよ」
大輪の花が、一瞬にして夜空を埋め尽くす。
痛いくらいの光は長く、長く尾を引き、散りゆく刹那に、ヘビメタコの目に映ったのは。
それは、いつもと何ら変わらない
「おっと、言い忘れてた。誕生日、おめでとう」
「ウチからも。おめでと!」
「・・・サンキュ」