踏み台から串刺し公×凶獣へと変わった彼。 作:めんどくさがりや
あれから数日が経過した。現在刑夜は自宅でテレビを見ている。
正直、あの事件には不満があった。闇の書の防衛プログラムを倒したところまではいい。問題はその後だ。
本来、夜天の魔道書の管制人格改め、リインフォースはあのままでは滅んでしまうところだった。
防御プログラムは停止したが、歪められた基礎構造はそのままだったため、再び防衛プログラムを生み出してしまう。
本人はそれを解消するために消えようとしたのだがーー
「(あの変態野郎・・・」」
そう、またしてもあの水銀の
防衛プログラムをさらに改変し、夜天の魔道書を完全に修復どころか強化していた。おかげでリインフォースが消える必要性は皆無となった。
はやては泣きながら感謝していたのだが、刑夜とベアトリス、戒は何かあるのかと警戒していた。カール・クラフトが無償でこんな事をするなど異常だからだ。
思いきって聞いたところ、『女神に頼まれたから』と言っていた。そんなこったろうと思ったよ。
一応無事解決した事になっているのだが、三人はどうにも納得し難い。
「(何にせよ、一件落着か・・・)」
無理矢理にでもそう納得する事にした。
「(ま、悪りい事ばっかでもねえわけだしな・・・)」
チラリと視線を向けるとテレビを見ているラウラと、本を読んでいる銀髪紅目の少女がいた。そう、ヘルガだ。
最初にラウラと会わせた時は少しばかりいざこざがあり、ナイスボートな展開に入るところだった。ただし、規模がヤヴァイ。
まあ今は双方仲良くしている。
後の問題は一つ。これは、夜刀にとっての最優先事項だ。
「(ハイドリヒ卿に顔を見せる、か)」
言葉に出すだけで魂が震える。夜刀の中の二つの魂が歓喜している。そして刑夜自身もだ。
「(クラフトはいつか迎えに来ると言っていたが流石にそうそうに来るわけが・・・)」
「邪魔するぞ」
「(来ちゃったよ変態がさーーー)」
図ったようなタイミングで来たカール・クラフトを見て思わずげんなりする。
ヘルガとラウラが構えるがそれを手で制する。
「少し早すぎねえか?」
「そうかね?私は事件が解決したら、と言ったのだがね。よもや覚悟が出来ていない、などと言うつもりかな?」
覚悟が出来ていない?馬鹿言え。
「覚悟なんざ、とっくに出来ているさ」
そうだ。あの人に会うための覚悟なんてとっくに出来ている。
「さあ、連れてけよ。俺の、俺たちのヴァルハラに」
「まあ落ち着きたまえ。今すぐ、というわけにはいかないのでね。明日、まずはカインとヴァルキュリアを呼んでくれたまえ」
「・・・分かった」
すべては明日、か。さて、それじゃあ。
「飯にすっか」
「お手伝いします」
「私もいただこう」
「お前ちゃっかし混ざってんのな」
いつの間にか食卓についているカール・クラフトを見てジト目で言う。
追い出せば済むのだが、律儀にもう一人分箸を出している俺はやっぱり甘いのだろう。
□■□
その後、とある場所にて。
「む?カールよ、何処に行っていたのだ?先程から卿の姿が何処にも見えなかったのだが」
「伝えるべき事柄があったので彼の元に行っていたのですよ獣殿。その後、夕餉を共にしましたな」
その言葉に男性が驚いたような表情になる。
「ほう、かの女神ならともかく、卿がわざわざ足を運び、夕食の席を共にするとは珍しいな」
「ええ、彼の魂は見ていて飽きないのでね」
その言葉に男性は笑みを浮かべる。
「ほう、そうか」
「どうか楽しみにしていてくだされ獣殿。彼は必ず貴方のお気に召すだろう」
「卿にそこまで言わせるとはな。その少年に俄然興味が湧いた」
さあ、邂逅の時はすぐだ。
□■□
「うぅ・・・」
ベッドの上で刑夜が呻き声を上げる。相変わらず、太陽の光にはどこか苦手意識を持つ。
ぼんやりと意識が浮上していくが、身体が夜に比べて重く感じる。夜ならばもっと高いコンディションでいられるのだが、この日の光を嫌う体質は相変わらずのようだ。
「はぁ・・・」
軽くため息を吐き、寝返りを打つ。まだ時間はあるだろうからもう少し寝ていようとして瞼を閉じる。
だが次の瞬間、
『シコウノミチヲミセヨ‼︎メガミノイシズエトナレ‼︎』
「っ!?」
突然あの変態の声が聞こえてきたのに驚いてベッドから落ちて頭を強打する。痛みは皆無だが、いまだウザったらしい声が響く方向を見て顔をしかめる。
「・・・んだよ、これ」
そこには元々、普通の目覚まし時計が置いてある筈だったのだが、今そこにあるのはデフォルメされたカール・クラフトの形の名状し難い目覚まし時計のようなものだ。今もウザったらしくミチやメガミと喚いている。というよりもなんだコレは。よく見ると下の方に『這い寄る水銀目覚まし』と書いてある。あれか、朝からSAN値を下げるつもりか。クラフトつながりか、笑えねえよこんちくしょう。
「ったく、ただでさえ朝が辛いってのに」
少し強く叩くように目覚まし時計(?)を止める。すると、目覚まし時計(?)がウザったらしい笑みを浮かべる。
『ヨウヤクオキタカ。ネムリヒメのツモリカネ?ショウシ、マルグリットイガイニヒメガツトマルモノk(グシャ‼︎』
とりあえず砕き潰した。朝からテンションがだだ下がりだ。
「飯の用意でもすっか」
とりあえずなかったことにした。
◆
「さて・・・」
朝食を終えてしばらくすると、刑夜は固定電話を操作してとある場所に電話する。数回のコール音の後、向こうの相手が出る。
『はいもしもし、八神ですけど』
聞こえてくる声にちょうど良かった感じる。
「ヴァルキュリアか」
『あれ、刑夜ですか?どうかしました?』
「ああ、お前とカインにちっとばかし用があってな」
『私と戒に?』
おそらく向こうで首を傾げているであろう姿が目に浮かぶ。
「ああ、つーわけで前に行ったとこに来てくれ」
『それは構いませんが、ですが大まかな内容を教えてください。それぐらいは知った方がいいと思うので』
それに刑夜はたった一言う。
「黒円卓」
『っ⁉︎』
その言葉に受話器の向こうで息を飲むのが聞こえる。
『・・・なるほど、わかりました。戒とそちらに向かいます』
「ああ、茶の一杯くらいは奢ってやる」
そう言って電話を切る。
「さて、行くか」
ちなみにラウラは図書館へ行っている。色々と知りたいことがあるらしい。ヘルガは自分の中だ。
歩き出し、玄関まで行ったところで突然刑夜は動きを止める。
「・・・お前マジか?」
突然、誰かに話しかけるように喋り出す。
「いや、別に構わねえんだがよ・・・あーわかったわかった。ただし、人は殺すんじゃねえぞ?」
はたから見れば、独り言をつぶやいているように見えるだろう。実際は違う。断じて違う。私が法だ、黙して従え。
・・・なんか電波が入った。
「んじゃ、早速形成し・・・あ?いらねえだぁ?なら、どうやって・・・はあ⁉︎」
刑夜が驚愕したように声を上げる。それと同時に彼の身体が軋みを上げる。まるで、何かが身体の内側から来ようとしているようだ。
そしてそれに刑夜はある事を確信すると叫ぶ。
「てめええええェェェッ‼︎」
すると、刑夜の身体が糸の切れた人形のように崩れ落ちる。
そして数秒後、むくりと起き上がり、周囲をキョロキョロと見渡した後、笑みを浮かべる。
「ーーアハッ」
◆
町の中を、一人の少年が歩いている。その足取りはとても軽く、まるで踊っているかのようであった。
銀髪を揺らし、口元は楽しげな笑みを浮かべ、碧い瞳は様々な景色を見ていた。
気分がさらに上がったのか少年は澄んだ声で歌い出す。
「Hänschen klein ging allein In die weite Welt hinein.
Stock und Hut steht ihm gut Ist gar wohlgemut.」
異国の言葉で流暢に紡がれるそれは、道ゆく人々の耳に入っていく。
今の彼は、まるで舞台の上で踊る役者のようであった。
ゆえに誰も気づかない。それの本質がどれほど歪んでいるかなど。
今は鎖に繋がれているが、ひとたび解き放たれればそれは凶獣と化す。
「Aber Mutter weinet sehr,
Hat ja nun kein Hänschenーーん?」
ふと、足を止める。何かを見つけたようで別方向に視線を向ける。
そこには二人の少女がいた。
彼はそちらへと歩いて行き、声を掛ける。
「ねえ、そこの君たち。ちょっと聞きたい事があるんだけど」
それに二人が反応する。片方は紫がかった髪の優しげな少女で、もう一人は金髪の強気そうな少女で年は十に満たないだろう。
金髪の少女が怪訝そうな表情で言う。
「あなた誰?」
「僕かい?」
それに彼は笑顔で言う。
「シュライバー。ウォルフガング・シュライバーっていうんだ」
感想欄で主人公の名前が永遠の刹那を連想させるとあったのですが、ややこしいから変えてほしいという人はいますか?いたら遠慮せずにどうぞ。
-PS-
リリなのForceの主人公とかの武器ってエイヴィヒカイトみたいだなーって思いません?