学ぶ話
休日の午後。
ルブランの店内。
「蓮! 今日は、お前の行動を参考にさせてもらいたい!」
わたし——佐倉双葉は、雨宮蓮に頼み込んだ。
わたしは蓮に、コミュ力アップの訓練に付き合ってもらっている。いずれ高校に通うためだ。
(蓮はコミュ力の権化だ)
怪盗団の面々とはもちろん、担任の先生、怪しげなミリタリーショップの店長、ついには政治家志望のおっさんなど……あらゆる人と交流を深めている。
参考にさせてもらうぞ!
「まずはお前が、知らない人に話しかけるための『度胸』をどう鍛えているか知りたい!」
蓮はうなずき、歩き出した。
ルブランを出て行き、通りを歩いて、着いたのは、
……武見医院?
(度胸を磨くのに、なんでクリニックへ?)
中に入ると、女医さん(パンクファッションの上に白衣を着た人)に診察室に通され、
「はい、今日はこれね」
蓮は紙コップを渡された。
中を覗くと……うぇ。なんだこれ。おぞましい色の、どろっとした液体。匂いもドブみたいで……って。
蓮、飲み干したー!!
しかも一息で!
彼はベッドにぶっ倒れ、ぴくりとも動かない。あ、あわわわ。
テンパる私に、女医さんはカルテに何か書き込みながら、
「大丈夫、いつもの事だから」
蓮、いつもこんな事してんの?
半日ほども経って、蓮はようやく目を覚ました。
心配する私に、漣は言う。
「これで『度胸』が鍛えられたぞ」
いやいや……そうかもしれないけど。荒療治すぎるだろ。
「双葉、次は何が知りたい?」
「じゃあ蓮。どうすれば、人を惹きつけるような『魅力』を高められるかを教えて欲しい」
すると蓮は武見医院を出て、電車に乗った。
着いたのは……新宿。
しかも繁華街。ホストっぽい客引きがいるし……あれ、風俗店の案内所じゃないか!?
すでに夜なので、大人がうろうろしてる。おいおい。ここ高校生が来ていいトコなのか?
小動物のごとく怯える私と裏腹に、漣は迷いない足取りで進んでいく。 着いたのは……
『バー・にゅうカマー』
え、なにこの怪しい店。
名前からすると、もしかしたら……
蓮に続いて店に入ると。
「あら〜〜、いらっしゃ〜〜い蓮く〜〜ん」
でかいオカマさんが出てきたー!
「シフト入ってくれるの? 助かるわぁ〜」
え、蓮、ここでバイトしてるの?
まさか女装して接客……なんてことはなく、皿洗いやオーダー取りなどの雑務だ。酔った女性客の話を聞いたりもしている。あいつ聞き上手だからな。まあ確かにこれは……『魅力』が磨かれるか?
蓮は二時間ほどバイトし、わたしと共に店を出た。
「……お前、すごいな」
わたしは肩を落とす。
度胸、魅力という人間力を高めるために、怪しい薬の治験や、ゲイバーでのアルバイト……
「とてもわたしには、真似ができないよ」
落ちこんでしまう。
「高校に行くなんて、本当にできるのだろうか。わたしみたいな人間が、いろんな人と仲良くできるなんて、無理なのかな」
蓮は首を横に振り、
「双葉にでも可能な、人と仲良くなれる方法がある」
「そ、そんなものが! ぜひ教えてくれ!」
蓮はうなずき、道端を指さす。
そこには……占い師がいた。あどけない顔をした、美人さんだ。
「あの占い師さんに五千円払って『相性占い』すれば、任意の相手と仲を深められる」
「……」
やっぱこいつ、ネジが飛んでるわ。