───この日のことを、俺は多分死ぬまで忘れない。
「やめなよかっちゃん! こ、これ以上は僕が許さないぞ!」
「“没個性”のくせにヒーロー気取りかデク!!」
初めてデクが俺に歯向かってきた。
「確かに、ぼ、僕の個性は弱いけど……か、かっちゃんに……勝つ! もう弱い者いじめはやめてよ!」
待て。
コイツ今なんて言った?
「……あぁ? 今なんて言ったんだクソデクッ!! 俺に勝てるって言ったのか!?」
「ひっ」
───俺は凄い。
何をやっても一番だ。
個性だって誰よりも凄い。
『男』でさえ、俺に勝てるヤツはいないんだ。
それは目の前のコイツだって変わらない。
むしろコイツは誰よりも弱い。
俺とは真逆の奴。
何をやってもダメな出来損ないの“デク”。
コイツの個性は物を引き離すって力だ。
大したことはねェ。
デクの個性は本当に軽い物にしか力を発揮できないんだ。
俺の個性とは比べるまでもない、クソみたいな没個性。
……そのモブでしかない出来損ないのデクが、俺に勝てると言ってきやがった。
しかもその目……本当に俺に勝つ気でいやがる。
目障りで仕方がねェッ!!
「テメェの弱っちい個性でよォ……どうやって俺に勝つんだァ!?」
「かっちゃん、コイツ痛めつけてやろうぜ!」
「デクのくせに生意気なんだよ!」
「うるせェ!! お前らは黙ってろ!!」
「ご、ごめん……かっちゃん」
俺の取り巻きのモブ2人がガヤガヤとうるさい。
デクを見れば、ガクガクと足が震えている。
なのに目だけは……涙を浮かべてるくせにその目だけは俺を真っ直ぐ見据えて離さない。
……どうしようもなくその目が鬱陶しい。
鬱陶しくて仕方がねェんだよッ!!
道端の石ころでしかないテメェが、どうして俺に勝てると思ったのかは知らねェ……。
だがそのくだらない思い上がりを───完膚なきまでに叩きのめしてやらねぇと気がすまねェッ!!
「なら守ってみろよ。その没個性でよ!! ───オラァッ!!」
───BOOM!!
「うわぁ!」
デクに爆破をくらわせてやる。
かろうじて守ったようだが、かなり痛いのかその目には涙を浮かべている。
やっぱりだ。
やっぱり凄いのは俺だ。
コイツはただ強がりを言っただけだったんだ。
「おいおいデク……やっぱお前は出来損ないのデクじゃねェかよ。それで俺に勝つだァ!? 笑わせんじゃねェ!!」
「やっぱかっちゃんの個性スゲェや!!」
「かっちゃんに逆らうとか馬鹿だよなー、デクも」
デクは涙をぬぐう。
その姿を見て俺の心は満たされた。
自分が特別であることを再確認できて。
やっぱり俺が1番だってことがわかって。
───だが、デクはまたあの目を俺に向ける。
……あぁ目障りだ。
目障りで仕方がねェッ!!
「かっちゃん……今の僕じゃ……僕“だけ”じゃ勝てない……。でも───『シス』!! お願い!!」
もう一発爆破をおみまいしてやろうと思い近づくと、デクは訳の分からないことを言い出した。
───そして、デクの目から光が消えた。
ゾクッ。
その瞬間、俺は気色の悪い寒気を感じた。
……コイツはデクじゃねェ。
その無機質な目は、同じ人間とはとても思えねェ……。
なんだ……なんだコイツは!!
初めて俺は……デクに恐怖した。
「───全制御システム起動。かしこまりました、イズク。この調子に乗っているクソガキ共を懲らしめてやります」
そこから俺は───何も出来なかった。
アイツの個性で俺の攻撃は全てずらされ、躱され、そして殴られた。
デクの個性が強くなったわけじゃねェ。
引き離す個性を使って、ほんの少しだけ攻撃をズラされるだけ。
なのにそれが恐ろしく精密だった。
機械みてぇに精密な動きをするデクに、俺は手も足も出なかったんだ。
モブ2人も即効でやられた。
ただただ、一方的に。
それはもう喧嘩ではなかった。
デクに馬乗りになられながら、俺は殴られる。
何度も、何度も、何度も。
何度も、何度も、何度も。
「アナタの戦闘における行動パターンはすでに解析済みです。今までイズクにしてきた分、存分に味わうがいい」
屈辱を感じることもできないほどの、圧倒的な実力差がそこにはあった。
薄れゆく意識のなか、俺は考えた。
俺って───あんま強くなかったのか?
特別じゃ……なかったのか?
……1番じゃ……なかったのかよ……。
またデクが拳を振り上げる。
殴られる。
そう思い俺は思わず目をつぶる。
だが、その拳が振り下ろされることはなかった。
デク自身によって止められていたのだから。
「もうやめてよシスッ!! やりすぎだよ……かっちゃんが……かっちゃんが……」
片目だけで、デクは泣いていた。
「───手を離して下さいイズク。このクソガキはイズクにたくさんヒドいことをしてきました。ワタシはそれが許せない。加えて、解析するまでもなくこのクソガキの自尊心は増長傾向にあります。ここでへし折っといた方が───でもこんなの……ヒーローじゃない!! ……オールマイトは……オールマイトはこんなことしないよ!! ……だからもうやめて……お願い……お願いだから……」
わけがわからなかった。
ただ、わかったこともある。
俺は───デクより弱かったんだ。
その思考を最後に、俺は意識を手放した。
夜、デクが親と一緒に俺ん家に謝りに来た。
だけど俺は、それがどうしようもなく情けなくて、悔しくて、デクの顔を見たくなかったから部屋から出ていかなかった。
───俺は1番じゃない。
───これが、齢4歳にして知った現実だった。
そして、心がざわざわするよくわからない感情。
これがなんなのかも俺には分からなかった。
お読みいただきありがとうございました。