僕の個性がうるさい   作:黒雪ゆきは

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003 ヘドロ事件。

 中学3年生になるまでずっと、本当に大変な日々が続いている。

 なぜこんなに大変なのかいうと、僕がオールマイトみたいなヒーローになりたいと『シス』に言ったからだ。

 シスはその願いを叶えるために『超効率個性及び身体強化プログラム』というものを僕に提案してきた。

 

 これは、要はめちゃくちゃキツい特訓……。

 やることは地味だけど本当にキツい。

 こんな過酷な日々がトップヒーローになるまで続くのかと思うと、時々弱音を吐きそうになってしまう。

 でも……僕はオールマイトに憧れた。

 僕も、どんなに困っている人でも笑顔で救える最高のヒーローになりたいんだ。

 だから、絶対に諦めない。

 

《ご心配なくとも大丈夫です、イズク。ワタシの考案したプログラムは、イズクの身体と個性を解析して作り出したもの。身体の成長も加味しているので、まさしく完璧です。加えて、イズクの睡眠時にもワタシが個性を発動し、緻密な操作や制御を“感覚”として身体に記憶させておりますので、常人の何倍もの練度の獲得に成功しております。イズクの個性制御が向上すればワタシの負荷が減り、“オーバーヒート”を防げますからね。他にも個性の訓練の際には───》

 

 ───あああああっ!! 

 

 もうわかったからシスっ!! 

 

《……ごめんなさい、イズク。怒らないで下さい》

 

 うん、僕も感謝してるよ。

 シスがいてくれたから今の僕があるわけだしね。

 最初は弱かったこの個性もおかげで強くなった。

 で、でも少しだけ、もう少しだけ静かにしてよ……。

 それと、朝起きたとき個性で身体が浮いてるの今でも慣れないからね……。

 

「みんな進路希望のアンケート出したか? まあみんな大体ヒーロー科だよね」

 

 と、考えていると担任の先生の声が聴こえ、僕の意識は現実へと戻る。

 その言葉にクラスメイトたちは個性を発動し盛り上がった。

 先生はやんわりと注意する。

 

 そして───

 

「そういえば、爆豪と緑谷は雄英志望だったな」

 

 思い出したようにそう呟いた。

 途端にザワザワと騒ぎ始める。

 

「雄英!? 偏差値79の名門校だぞ!!」

 

「まあでも、あの2人だからなぁー」

 

「確かに。あんま驚きはないわ」

 

 いろんな視線が突き刺さる。

 注目されるのは苦手だから辛い……。

 

 ───僕の幼馴染はそうじゃないんだけど。

 

「ハッ!! そのざわざわがモブたる所以だッ!! 俺とデクはこの学校でたった2人の雄英圏内!! あのオールマイトをも超えて俺たちはトップヒーローとなり!! 必ずや高額納税者ランキングに名を刻むのだッ!! なァ!! そうだろデクッ!!」

 

 クラスメイトに堂々と言い放つかっちゃん。

 そして巻き込まれる僕……。

 

「そ、そうだね……かっちゃん……」

 

「アァッ!? なんでテメェはそうウジウジしてんだァッ!? こんな奴らよりずっと強ェんだから堂々としてりゃあいいんだよッ!!」

 

「……うん」

 

「だからなァッ!!」

 

「爆豪ー、いい加減席つけー」

 

「───チッ」

 

 男勝りにも程があるよかっちゃん。

 その自信満々なところは今でもかっこいいって思うよ。

 何かと僕にはガミガミと怒鳴ってくるんだけど……。

 僕はかっちゃんの方をチラリと見る。

 

《爆豪勝妃の好感度:100/100。カンストおめでとうございます、イズク。あの態度、俗に言う『ツンデレ』というやつですね。ツン要素が極めて強いようですが》

 

 ねぇそれ本当なのっ!?!? 

 今でも信じられないんだけど!! 

 というか、シスにそう言われたせいでかっちゃんと喋るとき妙に意識しちゃうし……。

 た、確かに幼稚園の時の“あの日”以来態度がすごく変わったし……よく絡んでくるようになったけどさ。

 そ、そんな、すすす、す、好き、とかそういうんじゃないと思うんだけど……。

 

《ワタシの解析に間違いはありません。実は、爆豪勝妃程とはいかなくともイズクに好感を持っている女性は割といます。やはり強さに惹かれるのでしょうね。必要ならば好感度の情報と共に視界に表示しますがいかがでしょう?》

 

 いらないよ!! 

 もう、静かにしてて!! 

 

《はい……ごめんなさいイズク。怒らないで下さい》

 

 はぁ……。

 むやみやたらに好感度なんて見えたら、ほんと誰とも喋れなくなっちゃうよ……。

 そして僕のことよく思ってくれてる女子なんていたのか……ちょっと嬉しい。

 

「じゃあ週明けには進路希望表提出だからなー、ホームルーム終わりー」

 

 先生がそう言って出ていった。

 妙に疲れた。

 いつものことだけど。

 

「おいデク、帰るぞ」

 

 かっちゃんがやってきた。

 これはいつもの光景で、僕の意見なんて全く聞かない強引なところもいつものこと。

 でも、かっちゃんのそういう自分を一切隠さず自信満々にさらけ出せるところは、密かに憧れちゃったりもする。

 

《───爆豪勝妃の好感度:100/100》

 

 ……シス、僕のことイジってる? 

 

《ごめんなさい、イズク》

 

 

 ++++++++++

 

 

「あぁー!! 将来の為のヒーロー分析ノートを学校に忘れてきちゃった!! ちょっと取ってくるから先に帰っててかっちゃん!!」

 

 突然叫んだと思ったら、デクは俺をおいて学校の方へと走っていく。

 

「おい待てクソデクッ!! そんなの明日でいいだろうがッ!!」

 

「ダメだよ!! あれは大切なものなんだ!! また明日ねかっちゃん!!」

 

 あっという間にデクは見えなくなってしまう。

 鍛えているせいでやたら足が速い。

 

「……チッ。……ノートがそんな大切かよ。……。───って、何テンション下がってんだ俺はッ!!」

 

 どうだっていいだろクソデクなんか!! 

 たまたま、そう、たまたま帰る方向が途中まで一緒ってだけだ。

 だけどクソムカつく。

 俺よりノートを優先したのがクソムカつく。

 明日学校でしめてやる。

 

 ……いや、明日まで待てねェな。

 今日アイツの家に行ってしめてやろう。

 そうじゃなきゃ俺の気が収まらないからな。

 仕方ねェ。

 これは仕方ねェことだ。

 

 …………。

 

 だから俺は誰に言い訳してんだァッ!?!? 

 

 ……クソッ……デクの野郎。

 

 俺はふと、ガキの頃アイツに負けた時のことを思い出した。

 目元を触ると、妙に鮮明に記憶が蘇る。

 アイツに負けたとき俺は、自分が本当は弱ェんじゃねえかと思っちまった。

 

 でも違った。

 

 俺は周りのどんな奴よりも強かった。

 

 ───デク以外、誰にも負けなかった。

 

 そんときからだ。

 

 やけにアイツのことが気になりだして…………。

 

 …………。

 

 …………。

 

「気になっとらんわァァァッ!!!!」

 

 

 ───BOOM!! 

 

 

 思わず爆破と声が出た。

 ふざけんな、なんで俺があんなクソナードをッ!! 

 クソが!! 

 あぁ、ウザってぇッ!! 

 なんでこんなザワザワすんだよ!! 

 

 

 別に俺はデクのことなんてどうでも────

 

 

 ───そう、余計なことを考えていたからだ。

 

 

「……良い“個性”の隠れミノ」

 

 足元から伸びた不定形の触手が足首、そして胴体へ絡んだ時にはすでに爆破は間に合わず、全身が水のような何かに包み込まれるまで大して時間はかからなかった。

 

 

 ++++++++++

 

 

 あんまり人に見られたくない大切なノートとはいえ、かっちゃんには悪いことしちゃったな。

 明日ちゃんと謝らないと。

 

《いつもいつも強引なんですよ彼女は。いくらイズクのことが死ぬほど好きとはいえ》

 

 ……ねぇ、いい加減わざとだよね。

 僕をイジるの楽しんでるよね最近。

 

《…………》

 

 シスを“制御”する訓練もプログラムに加えなきゃね。

 

 そんなことを思っているとき───

 

 

 ───BOOM!! 

 

 

 商店街から爆発音が聞こえた。

 見れば人集りができており、ヒーローたちもたくさんいる。

 よく聞きなれた爆発音。

 僕は嫌な予感がしてならなかった。

 

「───クソがッ!!」

 

 やっぱりかっちゃんだ!! 

 その声を聞いた瞬間、僕はいてもたってもいられなくなった。

 

「私二車線以上じゃなきゃムリ~~~!!」

 

「爆炎系は我の苦手とするところ…………! 今回は他に譲ってやろう!」

 

「そりゃサンキューッ! 消火で手いっぱいだよっ! 状況どーなってんの!?」

 

「ベトベトで掴めねーし! 良い個性の人質が抵抗してやがる! おかげで地雷原だ、三重で手ェ出し辛え状況!」

 

「ダメだ、これ以上解決できんのは今この場に居ねぇぞ! 誰か有利な奴が来るのを待つしかねぇ!」

 

 ヒーローがかっちゃんを助けてくれない。

 あんなに苦しんでるのに。

 あんなに助けを求めているのに。

 

 

 息ができず、もがき苦しんでいるかっちゃんの顔が見えたとき───

 

 

 ───僕の身体は勝手に動いていた。

 

 

 個性を使い、地面との間に角度をつけて斥力を発生させることで、最大出力で加速する。

 僕は子供のころからずっとシスと訓練しているおかげで、それが歩くことほど当たり前にできた。

 

《───解析完了。見た目通り、身体を流動性の物質に変える異形型個性。他者の身体に侵入することで乗っ取ることも可能》

 

 引き伸ばされた思考の中で僕はどうするべきか考える。

 思いついたのは小麦粉などによる固形化。

 そうすれば物理攻撃が効くと思う。

 でも、ダメだ。

 そんな時間ない。

 

「お、おい君!! 止まりなさい!!」

 

 制止の声が聞こえたけど、僕は止まらない。

 いや、止まれなかった。

 かっちゃんのあの苦しそうな顔を見てしまったから。

 

「うわあああああああ!!」

 

 僕は叫ぶ。

 自分を奮い立たせるために。

 怖い、すごく怖い。

 

 でも、かっちゃんを助けられない方が───何百倍も怖い!! 

 

「かっちゃん!!」

 

「デ……ク、てめぇ今ご……ガボっ」

 

 

 ───ヒーローノート、25ページ!! 

 

 

 僕は背負っていた鞄を投げつける。

 

「ヌ゛っ」

 

 目くらましに成功した。

 その隙に一気に加速して───そのままヴィランの中へと潜った。

 そして、かっちゃんを抱き寄せる。

 

「何がしたいんだ? この馬鹿が!!」

 

 ヴィランの声が聞こえる。

 でもそんなの関係ない。

 できるできないじゃないんだ。

 

 かっちゃんを助けるんだ!!!! 

 

 僕は、全方位に最大出力で斥力を発生させる。

 

 

 ───超反発『フルバースト』ッ!! 

 

 

「な、なにィィィィッ!!」

 

 パシャリという音と共に、ヴィランは弾けた。

 

 

 ++++++++++

 

 

 結局、あのあと散り散りになったヴィランはヒーロー達によって回収された。

 そして案の定僕はこっぴどく怒られ、改めてプロヒーローの世界は厳しいと思わされた。

 

 でも、僕はやっぱりヒーローになりたい。

 

 どんな困っている人も助けられる、そんなヒーローに。

 

「おい聞いてんのかデクッ!!」

 

 かっちゃんの元気な声が聞こえた。

 今、僕はかっちゃんを背負って歩いている。

 声とは裏腹に体力は限界に達しているのか、ぐったりとしている。

 

「俺は……テメェに助けを求めてねぇぞッ!! 1人でやれたんだッ!! その辺の女と俺を一緒にすんじゃねェッ!! 俺はお前に助けられるんじゃなくてなァ!! お前の隣に…………とな、……クソがァァァッ!!」

 

「何に怒ってるのかっちゃん!?」

 

 家に送り届けるまでかっちゃんはガミガミと怒鳴っていたけど、僕にはよく分からなかった。

 

 でも、かっちゃんを助けられて本当によかった。

 

 怒るかっちゃんの顔を見ながら、僕はそんなことを思った。

 

《爆豪勝妃の好感度:100/100。いや、もはや120/100くらいまでいってますねこれは》

 

 ……あぁ、僕の個性がうるさい。

 




お読みいただきありがとうございました。

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