僕の個性がうるさい   作:黒雪ゆきは

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005 2人目の。

 僕の個性は、僕を中心とした約半径5mの範囲内に斥力を発生させるという能力。

 正確には、斥力のような力。

 自分で言うのもなんだけど、応用力のあるいい個性だと思う。

 でも、かっちゃんと違ってセンスなんてものが全くない僕は、この個性をある程度使えるようになるまでに相当の時間がかかってしまった。

 たぶん、シスがいなかったら今も使いこなせていなかったとすら思う。

 

 ───超反発『アクセル』

 

 例えばこの技。

 斥力を応用して高速移動を可能にするもの。

 でも、最初は本当に大変だった。

 言葉にしてしまえば、地面に対して斥力を発生させて移動するってだけなんだけど。

 これだけでも僕にとっては慣れるまで年単位の時間がかかった。

 地面に対して適切な向きや角度、バランスで斥力を発生させなければいけないから。

 

 シスに補助してもらいながら練習して、なんとか感覚を掴んだんだ。

 このくらい僕だけでできなくちゃ、シスの負荷が大きくなってオーバーヒートしちゃうからね。

 意外とシスはエネルギーを使う。

 

《ワタシの能力を考慮すれば、エネルギー効率は良すぎるくらいですよ。───前方の仮想ヴィラン、『ガントレット』で問題ありません》

 

 そうだねごめん、それと了解。

 僕の視界にはもう見慣れてしまった仮想ヴィランが映る。

 

 ───超反発『ガントレット』

 

 高出力の斥力を僕の腕に纏わせる。

 その状態で仮想ヴィランを殴れば、嘘のように吹き飛んでいく。

 

《これで現在66ポイントです。他人に構うことなく仮想ヴィランを倒していれば、後20ポイントは稼げていましたよ》

 

 いいんだよ! 

 困ってる人は助ける! 

 それがヒーローなんだから。

 どんなときだって、困ってる人がいたら僕は助けたいって思っちゃうんだ。

 

《……それでも、ワタシはイズクを最優先に考えます》

 

 うん、ありがとシス。

 シスがいるから僕は安心して人助けをすることができるよ。

 

 最初こそ緊張していたけれど、今までの訓練の甲斐があって僕の身体はちゃんと動いてくれた。

 その事実によって少しだけ心にゆとりが生まれる。

 残り時間はあんまりないだろうけど、最後まで気を抜かず───

 

 ───ズガガンッ!! 

 

 大地を揺らす轟音と共に暴風が吹き荒れる。

 そして次の瞬間、その巨体が姿を現す。

 

「い、いやいや雄英やりすぎじゃない!?」

 

 思わず声が出た。

 他の受験生たちがこちらに向かって逃げてくる。

 

『残り2分をきったぜッ!!』

 

 同時に聴こえてきたプレゼントマイクの声。

 

《イズク、あれが説明にあった0ポイントの巨大仮想ヴィランでしょう。対処する意味はありません》

 

 う、うん、そうだね───

 

「いっち……」

 

 消え入りそうな声が聞こえた。

 同時に視界に映ったのは試験前に僕に声をかけてくれた、まだお礼さえ言えていない女の子。

 

 その時、僕の頭には何も無くて。

 

 ───超反発『フルアクセル』

 

 許容限度を超えた斥力により、僕の身体は圧倒的速度で巨大仮想ヴィランに向かって飛び上がる。

 

 同時に、鋭い痛みが頭に走る。

 

 ……く、いたっ……でも、大丈夫。

 

 巨大仮想ヴィランとの距離が急激に縮まっていく。

 大きすぎる。

 間違いなく『ガントレット』では対応できない。

 

 だから───アレをやるしかない。

 

《分かりました。制御は任せてください》

 

 うん。

 僕だけじゃまだ制御出来ない。

 頼むよシス。

 

 僕は右手に斥力を発生させる。

 そして、斥力というエネルギーをどんどん溜めていく。

 シスがそれを制御し、留める。

 そしてさらに溜める。

 またしても頭に痛みが走る。

 それでも構わず溜めていく。

 

 

 限界まで溜め、そして───

 

 

 ───超反発『スマッシュ』ッ!!!! 

 

 

 一気に放出させた。

 その暴力的な一撃は、たやすく巨大仮想ヴィランを粉砕した。

 

 反動で頭がとてつもなく痛い。

 身体の倦怠感も凄い。

 僕は重力に従い落下していく。

 まずい、頭痛が酷すぎて斥力を制御できない。

 着地しないといけないのに。

 

《ワタシがいますので問題ありません、イズク》

 

 シスがいてくれて本当に良かったよ。

 僕は安心して身を任せる。

 オールマイトに憧れて作った技だけど、一発撃っただけで動けなくなっちゃう。

 

 まだまだ使いこなせてな───

 

 ───パチンッ!! 

 

 頬に走った痛み。

 ふわふわとした感覚。

 そして気づいた。

 

 ───また、助けられたんだと。

 

『終了ー!!!』

 

 プレゼントマイクの試験終了を告げる声が聞こえた。

 

 僕は霞んでいく意識のなか、最後にこう言った。

 

「あり……が、と」

 

 お礼を言えたこと。

 試験が終わったこと。

 それらによって緊張の糸が切れた僕の意識は、そこで途切れた。

 

 

 ++++++++++

 

 

 僕は保健室のような場所で目が覚めた。

 どうやらリカバリーガールが手当てをしてくれたようだ。

 しかも僕が目覚めるまでかっちゃんが待ってくれていた。

 僕はリカバリーガールにお礼を言ってから、かっちゃんと2人で雄英を後にした。

 

「なにやってんだよ馬鹿が」

 

「うん……ごめんかっちゃん」

 

 口は相変わらず悪いけど、かっちゃんは僕が目を覚ますまで待ってくれていた。

 文句なんて言えるはずない。

 むしろ感謝しなきゃだ。

 

「かっちゃん、待っててくれてありがとう」

 

「テメェが倒れたって聞かされたから仕方なくだよ」

 

 かっちゃんの表情はいつも通りで、どこまでも自信に満ちている。

 実技試験も上手くいったことが、聞かなくても伝わってきた。

 

「……それで、てめぇどうだったんだよ」

 

「え?」

 

「だからッ!! 試験は上手く言ったのかって聞いてんだよ分かれやッ!!」

 

「───ははっ」

 

「何笑ってやがんだクソデクッ!!」

 

 僕は思わず笑ってしまう。

 何でもできる僕の幼馴染は、僕と喋るときだけ少しだけ不器用になる。

 それがちょっとおかしかったんだ。

 

 でも分かる。

 かっちゃんは、僕のことを心配してくれてるってことが。

 

「大丈夫。やれるだけのことはやったから」

 

「───そうかよ。だが一位になんのは俺だけどな」

 

 そこからは他愛もない会話をしながら歩いた。

 やっと雄英の試験が終わった。

 そのおかげで、心が少しだけ軽くなったように感じる。

 疲れてるはずなのに、あまり足取りも重くなかった。

 

 そんなとき───

 

「───見つけた」

 

 突然、女の子が現れた。

 

 僕はすぐにその子が誰であるのか思い出せなかった。

 

 冷たい瞳。

 

 整った顔立ち。

 

 腰あたりまで伸びた綺麗で長くて───左右で色の違う髪。

 

 そして、左目の痣。

 

 そこでようやく、僕の脳裏に一人の女の子がよぎる。

 

《……驚きました。イズク、2人目です》

 

 その女の子が不意に僕に抱きついたのは、シスの声が聞こえるのと同時のことだった。

 

「ずっと……会いたかった、出久」

 

《2人目の───好感度カンスト者です》

 

 自然の摂理に従い放心してしまった僕を、誰が責められるだろうか。

 

 

 僕の幼馴染が爆発するまで残り───。

 




お読みいただきありがとうございました。

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