僕の個性がうるさい   作:黒雪ゆきは

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006 泣いていた女の子。

 僕がまだ小さかった頃。

 斥力をつかって歩幅を大きくしつつランニング、というシスが考えたトレーニングで隣町まで行ったんだ。

 

 そして、僕は一人の女の子と出会った。

 

 左右で色の違う髪をした、左目に痣のある女の子だった。

 その子は公園で一人ぼっちで泣いていたんだ。

 僕はほっとけなくて声をかけた。

 

「大丈夫? なんで泣いているの?」

 

 すると、女の子は大粒の涙に潤んだ目で僕を見た。

 

「……誰?」

 

 今にも消え入りそうな声だった。

 だから僕は助けなきゃと思ったんだ。

 この泣いている女の子を笑顔にしてあげたい。

 こんなとき、オールマイトなら。

 

 そう考えて僕は───

 

「はっはっはっ! もう大丈夫! ぼくがきた!」

 

 笑顔でそんなことを言ったんだ。

 

「ぼくはヒーロー、緑谷出久!」

 

 家で練習していたポーズを決めながら。

 きっとオールマイトならこうすると思ったから。

 

「……ひーろー?」

 

 少しだけ、ほんの少しだけ女の子の悲しみが薄れたような気がして、僕も嬉しかった。

 

「……あんまり強くなさそうだけど」

 

「そ、そんなこと……! う、うぅ……今はまだあんまり強くないかもしれないけど……ぼくはいつか、オールマイトみたいなどんなに困ってる人でも助けるヒーローになるんだ!」

 

「……そうなの?」

 

「うん!」

 

「……なら、私のことも助けてくれる?」

 

「当たり前だよ!」

 

「……嘘つき」

 

「嘘じゃないよ!」

 

「……わたしより小さいのに?」

 

「こ、これから大きくなるよ……!」

 

「……ふふっ」

 

「あ、笑った! よかったー!」

 

 それから僕たちは色々なことを話した。

 好きなヒーローのこと。

 嫌いな食べ物のこと。

 将来はヒーローになりたいってこと。

 それから、その女の子は家を飛び出してきたってことを話してくれた。

 なんで家を飛び出してきたかは教えてくれなかったけど。

 

 友達が1人もいないって言うから僕が友達になるよって言ったら、本当に嬉しそうに笑ってくれた。

 

 2人で喋っているとあっという間に時間は過ぎていき、気づいたら夕方になっていた。

 

 その頃にはすっかり女の子の目に涙はなかった。

 

「……そろそろ帰る」

 

「うん、僕もそろそろ帰らないと」

 

「……また会える?」

 

「きっと会えるよ。だって僕たちはもう友達だから!」

 

「……わたし、頑張ってひーろーになる。だってイズクだけだと心配だから」

 

「だ、大丈夫だよぉ。僕も強くなるんだから」

 

「……ふふっ。またね、イズク」

 

 そう言って女の子は帰っていった。

 結局、この日以来女の子には会うことはなかった。

 でも、僕の大切な思い出だ。

 

 その女の子の名前は───

 

 

 ++++++++++

 

 

「───(とどろき)……凍火(とうか)……ちゃん?」

 

「そう。ずっと会いたかった、出久」

 

 轟さんが僕をより一層強く抱きしめる。

 

 あわわわわわっ! 

 

 お、女の子に抱きしめられれれれ、てるるる。

 

《良い思い出のように記憶を振り返っておりますが、事実はもっと残酷です。あのとき、理由までは分かりませんが轟凍火の精神はこれ以上ないほどに衰弱していました。そこに完璧なタイミングで現れたイズク。イズクの言葉は、轟凍火にとって麻薬のように甘いものだったことでしょう。結果、イズクに強烈に『依存』している現在の轟凍火がいるわけですね。───以上、解析結果です》

 

 な、なんなのそれええええ!? 

 

 えぇぇ、い、依存!? 

 依存って何!? 

 平然と何言ってんの!? 

 どうすればいいの助けてよシス!! 

 

《今のところ対策を講じる必要はないでしょう。イズクにとっての不利益は何一つありません》

 

 あるでしょ!! 

 どう考えてもあるでしょ!! 

 いや、不利益がなくても依存はマズ───

 

 

 ───BOOM!!!! 

 

 

 ……さ、最悪だぁぁぁ。

 

 あまりの出来事にすっかり忘れていた。

 

 この場にはもう1人いることを。

 

「今日は随分モテるなァ……えぇ? 気分いいかよデクッ!!」

 

 恐る恐る振り返る。

 

 分かっていたんだ。

 

 そこにいたのは、案の定どんな凶悪ヴィランも逃げ出しそうな鬼の形相をした僕の幼馴染で。

 

「あわわ、あのかっちゃん、こ、これはなんというか、その───」

 

「……だが、まずはテメェだ」

 

 というか、轟さんがまったく離れないんですけど!? 

 ずっと僕のことを抱きしめてる! 

 え、かっちゃんのこと見えてるよね!? 

 動じなさすぎじゃない!? 

 

「いい加減離れやがれッ!! 絶壁女ッ!!」

 

 ……絶壁? 

 

「……絶壁?」

 

 僕の心の声は、奇しくも轟さんの声と重なった。

 

 え、かっちゃん……? 

 

 かっちゃん、ど、どこを見て絶壁って言ったの……? 

 

 そのとき、轟さんの手がゆっくりと僕から離れていった。

 

 ……ゾクッ。

 

 背筋が凍る、という表現が生ぬるいほどの悪寒を感じた。

 

 ……ひっ。

 

 僕は轟さんの顔を見て、声にならない悲鳴を漏らした。

 かっちゃんとはまるで違う。

 怒りに顔を歪めている訳では無い。

 それどころかまったくの無表情。

 

 ただ……とてつもなく冷たい目をしている。

 

 間違いなくめちゃくちゃ怒ってるよぉ……。

 

 それがたまらなく怖い。

 恐ろしすぎて僕はただただ震えているしかなかった。

 どどどど、どうしようシス……。

 この状況で僕はどうすればいいのか教えてよ……。

 

《帰って休みましょう。イズクの疲労はかなり蓄積されています》

 

 できるか! 

 この状況でいきなり帰れるわけないでしょッ! 

 ……はぁ、シスってこういうとこあるんだよなぁ、もう……。

 空気が読めないんじゃなくて、全く読まないというか……。

 

「……私は絶壁じゃない」

 

「アァンッ!? どう見ても絶壁だろうがッ!!」

 

「……違う。私は絶壁じゃない」

 

「テメェの目は節穴か? クソ絶壁女がッ!!」

 

「…………」

 

 うわぁぁああああッ!! 

 

 ぼ、僕はどうすればいいんだぁぁあああッ!! 

 

《帰りましょう》

 

 オールマイト助けてぇぇえええッ!! 

 

 

 ───僕の心の叫びが届くことはなかった。

 




お読みいただきありがとうございました。

私のイメージ通りのTS爆豪とTS轟の画像を見つけたのですが……勝手に使うのはさすがにまずいですよね。
もし描いてあげてもいいよ?という慈愛に満ちた方がいましたらご連絡の程よろしくお願いします。
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