もうすぐ日が暮れる頃、大きな建物についた。壁の外にまともな建物があることに驚く。
「大丈夫?」
「ちょっとしんどいですね。でも、少し休めば大丈夫です。」
実は、はしゃぎすぎたのか、車に酔ってしまったのだ。ただ、なんとか吐くことだけは避けられた。
「ここが、中継地点。いわゆる外にある安全地点みたいなもの。ここは、隣の都市と共同で管理してるから失礼の無いように。」
そう言って、建物の中に連れて行かれる。そのまま部屋に放り込まれた。
「さっき、先に降りたブラウンが部屋をとってくれた。ここで少し休んで。」
「部屋まであるんですね。」
「まあ、ここは外で安全に泊まれるところだから。水飲む?」
「ありがとうございます。もらいますね。」
水を少し飲んでから、ベットに横になる。世界がぐるぐる回っている気がした。
小隊長が胸当てとベルトを緩めてくれる。これで少し楽になった。すると、急激に睡魔が襲い、私は眠りに落ちていった。
起きるともう空はすっかり暗くなっていた。
自分を見下ろすと、シャツとショートパンツだけになっていた。上着や、武器は机に雑に置かれていた。どうやら、小隊長が脱がしてくれたようだ。
その小隊長は机の明かりだけを付けて、仕事をしていた。物音がしたからか、小隊長がこっちに振り向いた。
「起きた?」
「あ、はい。起きました。いま、何時ですか?」
「もう一時。シャワー浴びに行く?」
「あ、浴びたいです。」
「じゃあ、着いてきて。」
そのままシャワー室まで案内される。熱いシャワーで目をさますと、あることに気がついた。着替えがないのだ。寝ぼけていたのもあるが、そもそも服を持ってきていない。
小隊長に声をかけるにしても、彼女もまた、シャワーを浴びている。出てくるまで待つしかないか。
隣の個室から扉を開く音が聞こえたので、声をかける。
「アーシャ、ちょっといい?」
「どうした?」
「服がない?」
「は?」
「着替え持ってきてない。」
「持ってきてないの?」
「はい……」
「えーと、とりあえず私の予備の服を持ってくる。ちょっと待ってて。」
「お願いします。」
そう言うと、扉の前から足音が離れていった。シャワーでも浴びて待っていよう。
小隊長が服を持ってきてくれた。持ってきてくれたが、小さすぎる。まるで痴女みたいだ。更に言えば、下着も付けていない。
「とりあえず、洗濯して乾くの待とうか。」
そういって、隣りにあるコインランドリーに入り、服を放り込む。一時間ぐらいかかるらしい。
服が乾くまでの間、手持ち無沙汰だ。かと言って、この格好で部屋に戻るのは……。シャワー室にでも戻ろうか。
「夜中だから人は来ないだろうし、そもそもここは、女性しか入ってこれないから最悪見られても大丈夫。」
「それでも嫌ですよ……」
「基本、外に出るときは着替えを持ってくるのが基本だし、まさか、持ってきていないとは思わなかった。ちゃんと言っとけばよかった。」
「そうなんですね。」
「その分だと、軽食とかも持ってきてないでしょ。これあげる。この中継地のの名物、美味しいから。」
たまごサンドを差し出される。よく考えれば、朝からお菓子以外を食べていない。それはそれで贅沢なのだが。
「今、説明するけど、外に出るときは軽食と着替えを準備しなくちゃならない。」
「それは、今痛感しています。」
「運が悪ければ、野営もしなくちゃいけないときもあるし、軽食は支給されるレーションだとまずいし、全然足りない。後は息抜きにもなる。着替えに関しては一週間着たきり雀とかあるから、気にしない人が多いけど。偵察任務中とかなかなか帰れないし。」
「そうなんですね。」
「その他は重要なものはない。持っていくとすれば、カフェインの入った飲み物ぐらい。」
「カフェインはなんで?」
「噂だけど、魔力が回復するのが早くなるらしい。後は願掛けとか。最古参がよく紅茶を持っていっているから、生き残るために紅茶を飲む人が結構多い。」
「へー。」
そこまで私は信じないが、ジンクスを大切にする人は一定数いる。彼女もその口なのだろう。
「明日は帰れるし、次の任務まで時間があるからその間に準備、手伝う。」
「あ、ありがとうございます。」
その後はくだらないことをしゃべったりして時間をつぶす。結局、洗濯が終わるまで誰も入ってこなかった。
シャワー室でさっさと着替え、部屋に戻る。もう二時だ。明日の朝は七時起きだ。さっさと寝よう。
「おやすみなさい。」
「っ、ああ、おやすみ。」
目覚ましのけたたましい音で目が覚める。すっかり機能の疲れは取れた。小隊長に目を向けると、まだ寝ている。昨日は夜遅くまで私に付き合わせてしまった。子供には少し、きつかったのだろう。
「アーシャ、起きて。もう起きないと遅れますよ。」
「あー、うん、起きた。」
そうは言うがまだポワポワしていて眠そうだ。まあ、着替え始めたので大丈夫だろう。私も着替えるか。
着替え終わり、まだ眠そうな小隊長を突っついて、食堂に案内してもらう。そこで、簡単な朝食を取る。途中、小隊長がスープに顔を突っ込みそうになったので慌てて止めたことがあったが、それ以外は会話もなく淡々と食事をとった。
それから男二人と合流し、車に向かう。車には昨日から積んであった物資に追加して、ここで補給した物資が積み込まれていた。今日は輸送隊に物資を配達した後、一緒に街まで帰るらしい。
車に乗って、中継地点を出る。輸送隊に合流するまで少し時間があるので、前から聞いてみたかったことを聞いてみることにした。
「お二人って、15年前の世界がこうなったときって覚えてますか?私、三歳だったんで薄っすらとしか覚えてないんですよ。大人に聞いても、濁して答えてくれないし。」
「あんまり良い記憶はないな。最初の隕石騒動で人が結構死んでるし、行方不明が多すぎる。話したがるやつなんて居ないと思うぜ。」
「私は六歳ですし、この街で育ったんで、当時は人の波にのまれて、気づけば軍に保護されてたんで、大したことは何も覚えてないですね。あ、でも、宇宙人が攻めて来たんじゃないかっていう噂はありましたね。」
「ああ、そんな話もあったな。」
「それはどんな噂なんですか?」
「隕石がピンポイントで国の主要施設に落ちて、そこからあいつらが出てきたから、宇宙人だって思われたって話だ。」
「まあ、実際もそんな感じですしね。地球外から来たのは確定みたいですし。」
「政府が死んだから、混乱もやばかったな。軍が動いても兵器が通用しなかったし。結局、旧時代の兵器をひっぱりだして、質量兵器で駆除したらしい。非人道的と言われて封印していたらしいが相手は人じゃないからな。」
「ああ、だから警察が持っている銃は毛色が違ったんですね。」
結局、詳しい話は聞けなかったが、面白い話は聞けた。戻ったら、少し調べてみよう。
そうしていると、輸送隊と合流できた。積み込んでいた物資を渡し、そのまま輸送隊に組み込まれる。
中継地点を過ぎた頃、行きとうって変わって小隊の雰囲気が変わり、ピリピリし始める。そんな変化に私は戸惑う。
「あの、どうしたんですか。」
「空から群れがこっちに向かってきているのが、確認できた。ソフィアはむこうで待っとけ。」
そう言うと、輸送隊に私は移され、三人は車に残る。
「全隊に通達。東南方向にCPの群れが確認された。」
そう聞こえると、ぐんぐん車の速度が上がり、輸送隊の前の方に出た。対象的に輸送車は停車する。
どうやら我が小隊だけで向かっていくようだ。
そのまま、小隊長が車から飛び降りると、彼女の背後に黒い球体が生まれた。と、ここで私にも群れが目視で確認できた。数は十匹ほどか。いくらあの人達が強いと言ってもあの数は無理だろう。私は隣りにいた隊員に話しかけた。
「あれ、大丈夫なんですか。手伝いに行かないと。」
「血塗れ姫の獲物に手を出したら、こっちが殺される。おとなしく抜けてきたやつだけやりゃぁいいんだ。」
こちらを見ないままその隊員はそういった。それから何人かに声を掛けたが、似たような返事だった。
私一人で行っても無駄死にするだけだろうから、誰かの協力を取り付けたかったがそれもきつそうだ。私だって命は惜しい。私にはここから見ていることしかできない。だから、輸送隊にも、助けに行く勇気がもてない私にも、苛ついてしょうがない。
彼女を見ていると、黒い球体に動きがあった。黒い球体から一匹、また一匹とカラスが産み落とされる。
そのまま数十匹というカラスがやつらに向かっていき、まとわりつく。
まとわりつかれたCPは動きを止め、カラスを狙う。そして、その隙を小隊長がどんどん狩っていく。あっという間に二匹を葬った。
私は小隊長の動きに圧倒されていた。動きを目で追えないほど素早く、一番太いところを斧で一刀両断する。ちっとも蔓に当たる気配がない。確かに、これは助けに行っても邪魔になるだけになりそうだ。それはそうとして、ここまで嗤い声が聞こえてくるのは正直言って怖い。これは普段の彼女を知らなかったら、距離を取りたくなる。これは怖がられるのも仕方がない。
男二人に目を向ければ、小隊長のカバーをするように動いている。カラスの群れから抜け出したやつを一匹一匹処理をしていく。それでも処理しきれないやつがこちらに向かってくるが、だいぶ傷を負っていて、簡単に倒される。
速攻で片付いてしまった。私があんなに苦戦していたのが、バカらしくなるぐらい早かった。それにしても、最終的に二十匹ぐらい居たが、三人でその15匹ぐらいを倒してしまった。その中でも彼女は飛び抜けて強かった。
私もあんなのになれるのだろうか。
「やめときな。」
さっき話しかけた人がそう言ってきた。どうやら口からこぼれて落ちていたらしい。でも、憧れを否定された気がしてムッとした。
「なんでなんですか。」
「あれは蠱毒みたいなものだ。多くの命を費やした実験のすえ、生き残った化け物だ。あれになるなら、人であることをやめるしかない。」
なにか、気になることを言ってきた。とても気になるが、迂闊に踏み込めなさそうだ。それに、この人がほらを言っているだけかもしれない。
「ああ、お前は702か。やつに飲み込まれないように気を付けろよ。」
そう言って、私から離れていく。彼は何がしたかったんだろう。
そこで、再び輸送車が動き出す。どうやら、後処理はもう終わったらしい。そんなに話していたつもりはなかったのだが。
車の横を輸送車が通り過ぎようとしたので、輸送車から飛び降りた。小隊長がちょうど車に戻ってきたので、一緒に乗り込む。
小隊長を褒めたかったが、さっき言われたことが引っかかって、何も言えなかった。
そのまま、隊列は第七都市に何事もなく着いた。
今回は運が悪かったらしい。そう言われても、私にはピンと来なかった。
報告書を書き方を教えてもらい、書く。私がウンウン唸っている間に、三人ともさっさと終わらせてしまった。こういうのは慣れらしい。
これで私の仕事は終わり、宿舎に帰る。正隊員になったので、今日から一人部屋だ。実際は一昨日からだったが。いつもはミアが居たので、少し寂しく感じる。
今日はもう寝よう。色々あって、どっと疲れた。
10000字書いて、多すぎるなと思い、二分割にしました。
ちなみに、本編の主人公はアーシャになります。
外観
【挿絵表示】
色々設定を考えているうちに、ソフィアよりアーシャを主人公にしたほうが面白いと思ったので、そうなりました。
prototypeは文字通り試作ですので、設定以外は本編とあまり関係がありません。